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1564 旅路
興味
しおりを挟む脱衣所のベンチに仰向けに寝転がり、アルバは休んでいる。もうだいぶ休んで、大浴場でのパニックは落ち着いてきた。アルバの長身ではベンチは小さく、普通に寝ても足はかなりはみ出す。それなのにツィオもアルバの頭の隣を陣取って腰掛け、そのせいでアルバは太ももから下をベンチの外に持て余していた。ツィオは服を着ているが、アルバはパニックでそれどころではなく、裸のままだ。
「ひどいよ、兄貴」
アルバはぼやく。顔に手の甲を載せ、天窓から注ぐ光の眩しさから目を守っている。ツィオはばつが悪そうに顔をかいた。
「だって、あそこまで怖がるって知らなかったんだからよ」
謝らない彼に、アルバは責めることはせず、起き上がって抱きついた。ツィオの肩に顔をうずめ、泣いてはいないようだが体は震えている。しょうがないな、とツィオがアルバの背中をとんとんと叩いてやる。
「風呂嫌い……」
「でも、芸人は綺麗にしておかないと」
ツィオの言葉に、アルバがイヤ、イヤと首を横に振る。しょうがないと、ツィオは「しばらくは体を拭くだけにしような」と気休めを言って慰めた。そうは言っても、ダイモンは許してくれないだろう。アルバが暴れようが泣き喚こうが、清潔にさせるに決まっている。
ツィオの気休めに安心し、アルバは体を離す。しかし完全には離れず、腕はツィオにくっつけたままだ。ツィオは彼自身距離感が近い性格で、アルバにべったりされるのも慣れているので、彼を剥がそうとはしない。
芸人たちはもうほとんど風呂を出て、下働きたちが脱衣所にぞろぞろと入ってきている。アルバは、脱衣所に女性が一人もいないことに気がついた。疑問に思い、ちょうど長風呂から出てきたフランマに声をかける。
「そういえば、男ばっかりだね。女はいないんだ」
彼の質問に、フランマはきょとんとする。
「そりゃそうだろ。田舎じゃないんだからさ。女は先に入ったよ」
「なんで都会だと男と女が別なの?」
純粋に何もわかっていないアルバに、ツィオがため息をつく。
「……わかるだろ。女の裸なんて見たら、男はばかなことするんだよ」
気まずそうに口をもごもごさせ、小さく答えた。「ばかなこと?」とアルバが聞き返すと、フランマが代わりに返事をする。
「子作りだよ」
その答えに、アルバは顔をしかめた。不貞で出ていった母親の影響か、人とまともに接さずに生きてきたせいか、アルバはそういったことには潔癖だ。
「そういうのは愛し合ってなきゃ、しちゃだめだろ」
そう言い、ツィオに同意を求める。ツィオが口ごもっていると、フランマが失笑した。
「偉そうなこと言うなあ。そんなこと言っても、アルバだって興奮するだろ」
「しない」
フランマがからかうのを、アルバはキッパリと否定する。
「女見て興奮したことない」
彼の言葉に、フランマもツィオも目を丸くした。
「お前すごいな。え、童貞か?」
「うん、したことないよ。興味ないし、相手もいない」
「嘘だろ? そんな立派なもの持ってるのに? 俺がお前くらいの時には、もう五人は抱いてたぞ」
フランマはひどく驚いたようで、首を傾げてアルバの股間をじろじろと見る。アルバが嫌そうな顔をしたので、ツィオは持っていたタオルを彼に貸し、股間を隠させた。
「まあ、焦ることはないぞ」
しばらくはびっくりしていたフランマだが、やがて憐れむような顔をする。
「お前はツラもそう悪くないし、しっかり稼げるようになったら下働きでも見習いでも抱き放題だ。でも芸人と客に手を出すのはやめておけよ。後が面倒臭い」
先輩ヅラでアドバイスするフランマに、アルバは「はあ?」と答える。構わず、フランマはツィオの方を見た。
「お前は? 童貞?」
「え、ああ、まあ。抱いたことはある」
はっきりしない口調でツィオは答える。あまりツィオに興味はないようで、フランマはそれ以上聞かなかった。アルバに好みのタイプはあるか、見繕ってやろうか、などと言い始める。アルバはそういった話に関心を持てず、大きなあくびを一つした。
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