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十日伊予

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1566 蜜月

傷心

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 都から少し外れた広い土地に、一座は拠点を作る。日差しが柔らかくぽかぽかとした天気が続き、緑の萌えるこの土地では、旅団員たちも明るい雰囲気だ。
 もうすぐ、今回の都の滞在での初公演だ。芸人たちは「稼ぎ時だ!」と嬉しげに稽古をしている。目の肥えた都の者たちに自分の芸であっと言わせてやる、と意気込んでいる者も多い。下働きたちは、都の連中はチップをくれるぞ、仕事の合間に都のどこそこに遊びに行こう、なんてことを楽しげに話している。一座は活気に満ちていて、ダイモンでさえいつもよりずっと機嫌が良い。
 そんな朗らかな空気の流れる野営地を、アルバは背中を丸めて歩いていた。その足取りはゆっくりで、青白くなった顔色や暗い表情と相まって、まるで死人が歩いているようだ。自分の馬車からトイレまでの道中、彼はのろのろと歩き、そしてふと振り返ってみる。そこには思いがけなくツィオがいて、人懐っこい猫目を細めて笑っている気がする。しかしそれはアルバの願望に過ぎず、何度振り返ろうと彼はいない。それでも、アルバは少し歩いてはまた振り返る。それを繰り返していると、今度はフランマが「何やってんだよ」とからかってくるような気がしてくる。だがそれも願望以上の形を取ってはくれない。フランマのことなんてどうでもいいはずなのに、彼さえいてくれない現実が、自分が本当に一人になったことを突きつけてきてたまらなく悲しくなる。
 アルバはツィオの最後の言葉を頭の中で反芻した。ぼくは誰にも愛されない。何度もそんなことを思い浮かべ、その度に泣き出しそうになる。が、毎日夜通し泣き明かしている彼は唇までからからに乾いていて、涙を流す余裕はない。一度振り返り、誰もいないことに傷つくとまた前を向いて歩き出す。
「スース、あんた、付き人でしょ。面倒見なくていいの?」
 近くにいた女芸人たちの一人が、時間をかけて進むアルバを眺めて尋ねる。彼女に化粧を施していた女性、スースは色っぽく微笑んだ。
「私の元々の仕事はこれですからねえ」
 そう言い、手にしていた化粧筆をふりふりと振って見せる。「だからって……」と呆れる女芸人に彼女が小首をかしげると、長くさらさらした髪の毛が柔らかく揺れた。
 スースは、ツィオの後釜としてアルバの付き人に据えられた下働きだ。その美しい容姿から、他の下働きはもちろん芸人からも人気があるが、いつものらりくらりとかわしている。
「まあ嫌だよね。あんな幽霊みたいなのにずっと付き合ってちゃ、こっちも気が滅入るよ」
 他の女芸人が、声を落としてそんなことを言う。スースは何も答えず、ただ目を細めて微笑むだけだ。
「そういえば、空中ブランコの連中、すっごくピリピリしてない? 私、あれも気が滅入ってやなんだよね」
「わかる! リッカなんて、前の港町くらいから誰も話しかけられないくらいになってるよ!」
「あんたらね、空中ブランコはうちの大目玉よ? 都はいちばんの大舞台なんだから、そこで下手な芸見せるなんて稼ぎ頭のプライドが許さないわよ。あれくらいの緊張感がないと、稼ぎ頭は務まらないの」
 女芸人たちはもう別の話題に移り、アルバは眼中になくなっている。スースは一度アルバに視線をやって、彼が相変わらずふらふらしているのを見ると、興味なさげに化粧道具に目を戻した。
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