【更新終了】Bro.

十日伊予

文字の大きさ
96 / 271
1566 蜜月

アトリエ

しおりを挟む


「見て、ここ」
 今度は、地図の上、海岸沿いの観光地を指差して見せる。海岸線は、ツィオと生き別れたあの街の国際港から続き、都では大きな港を玄関口とした一大観光地になっている。その繁華街から少し離れ、大小さまざまな宿が海沿いに立ち並ぶ地区にラスのアトリエがあった。
「あそこが私のアトリエ。去年建てたんだ。絵の仕事をしている時はこっちで寝泊まりしているから、私の家みたいなものだよ」
 地図から顔を上げ、ラスが観光地の方角を見やる。アルバも見やったが、都の向こうに小さく海と、船が点々と見えるだけで他はよくわからない。
「そういえば、お前、幾つだったっけ」
 アルバが尋ねる。ラスが「今は十八。建てた時は十七だね」と答え、アルバは目を丸くした。
「大人になりたてでもう家を持ったのか。金持ちの子はすごいな」
 感心して、そんな言葉が口から溢れる。アルバの故郷では、十八歳や十七歳の男は成人こそしていても家庭を持ち始めたばかりの年齢で、そのほとんどは親兄弟と同じ家に住んでいる。そもそも、家を一から建てられるのはよっぽど甲斐性のある者くらいだ。
「私のお金だけで建てたよ」
 ムッとした顔でラスが言う。
「これでも、絵の仕事はたくさんもらえてたんだから」
 彼の言葉にアルバは首を傾げる。てっきり、ラスは親の金で暮らしており仕事はしていないものだと思っていた。この頃、何ヶ月もアルバの元に通っている間、彼は日がな一日遊んでばかりで仕事の気配などない。
「ここずっと、ぼくと遊んでばかりだけど、仕事は忙しくなくなったの?」
「今は仕事の絵は描いてない。父さんの七光りで売れるのは、何だか疲れちゃった」
 アルバの質問に、ラスは少し悲しそうな顔になった。しかし、それをアルバが察する間もなく、彼は明るい調子になって話題を変える。
「アトリエの寝室には、好きなものをたくさん飾ってるんだ」
 そう言い、指折り数えながら飾ってあるものをアルバに紹介していく。昔飼っていた犬に似た陶製の人形、海岸で自分で拾ったはかない色味の貝殻たち、何度も読んで表紙がぼろぼろになった本、家族で旅行した先で買い集めた雑貨たち……。そして最後に「アルバにもいつか見てほしいな」と小さくつぶやく。
「いいんじゃない? いつかじゃなくて、明日にでも連れてってよ」
 アルバが間髪入れずに返事をして、ラスはハッとした。気が緩んでつい言ってしまったが、「寝室に入れたい」と遠回しにでも伝えるなんて、ラスにとってはひどくはしたないことだ。まだ付き合ってそう日も経っていないのに。アルバは気が付いていないようで、頬をうち赤くしたラスにきょとんとする。
「最近は座長も口うるさくないし、外に出てもいいと思う」
 そう言うアルバはのんきな調子だ。彼が寝室のくだりを気にしていないとわかり、ラスは胸を撫で下ろした。「そうだね」と返事をし、そっとアルバの目を覗き込む。
「じゃあ、明日は一緒に街に行こうよ。アトリエはまた今度にしよう」
 そうして、愛おしげに目を細める。ちゃんと順序を踏んで、彼を大切にして、思い出を増やしていきたい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...