【更新終了】Bro.

十日伊予

文字の大きさ
132 / 271
1566 蜜月

苦言

しおりを挟む



 アルバの不安は、形を変えて口から出ていく。
「ラスとえっちしてきた」
 無断外泊をしたアルバにご立腹を隠しきれないダイモンに、アルバはわざと大きな声でそう言った。ダイモンがアルバとラスを見つけて声をかけたのは昼前のホテルのロビーで、周囲には旅団員も観光客も、従業員もいる。アルバの隣で、ラスが耳まで真っ赤になった。
「アルバ、そういうことは御子息さまに失礼だから人前で言うものじゃない」
 ダイモンは呆れかえり、髪が乱れるのも構わずに頭をぼりぼりとかく。疲れきって年齢以上にしょぼくれた彼の容貌は、指にはめた指輪の宝石たちが不釣り合いなほどだ。彼はアルバの失言についてラスに深く頭を下げると、すぐ直属の下働きに呼ばれてそちらに飛んでいく。
「ちょっと、話がある」
 ラスとのことを見せびらかせて満足げなアルバに、ラスが消え入りそうな声をかける。彼の顔はまだ赤いままだ。アルバが「何」と尋ねると、ラスは彼をひとけのない場所に連れていく。
「あのね、昨日のことに限らず、二人だけの時にするようなことを人に聞かせるのはやめてほしいんだ」
 誰にも聞かれていないことを確認し、ラスは口を開いた。
「ぼくとのこと、人に知られたくないの?」
 アルバは悲しげに眉をひそめる。自分の唇や体に触れたことをひた隠そうとしたツィオを思い出す。ラスがため息をついた。
「そうだよ。君との大切なことを、むやみに晒したくないよ。君とああいうことをするのは、私にとってはとてもプライベートなことだ」
 彼の話に、アルバはばつが悪そうにうつむく。ラスは続けた。
「こういう考え方が違うのはしょうがないと思う。他のことなら、極力、君を尊重したいよ。でも、これについては君に私を尊重してほしい」
 そう言い、アルバの目を覗き込む。
「いいね?」
 強い口調のラスに気圧され、アルバは小さく頷く。ラスはふう、と息を吐くと、気持ちを切り替えてアルバの腕に抱きついた。
「じゃあ、今日は何をしようか」
 ラスは明るい調子になるが、アルバは膨れ上がる不安を抑えられない。
「あの、えっちしよう」
 朝、ラスを抱きしめたのとは違う気持ちで、アルバがねだる。触れたら触れるほど喜んでくれた昨晩のラスの表情に、それが彼を振り向かせる方法だと思い込んでしまう。アルバは体でもなんでも使ってラスを引き留めておきたい。
 ラスはアルバの要望に面食らったが、すぐに朝に相手をしてやらなかったことを思い出す。アルバも「男」なのだと思うと、彼の必死じみた表情も可愛らしく思えてぷっと笑ってしまう。
「じゃあ、今日はずっと私の家にいる?」
 ラスは不安げなアルバの耳元に顔を寄せて、そっとささやいた。たちまち、アルバの顔が明るくなる。それは安堵で、欲ではない。気づかないまま、ラスは彼の手を引いた。口にしない不安を推し量るには、彼はまだ大人になりきれていない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...