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1566 蜜月
苦言
しおりを挟むアルバの不安は、形を変えて口から出ていく。
「ラスとえっちしてきた」
無断外泊をしたアルバにご立腹を隠しきれないダイモンに、アルバはわざと大きな声でそう言った。ダイモンがアルバとラスを見つけて声をかけたのは昼前のホテルのロビーで、周囲には旅団員も観光客も、従業員もいる。アルバの隣で、ラスが耳まで真っ赤になった。
「アルバ、そういうことは御子息さまに失礼だから人前で言うものじゃない」
ダイモンは呆れかえり、髪が乱れるのも構わずに頭をぼりぼりとかく。疲れきって年齢以上にしょぼくれた彼の容貌は、指にはめた指輪の宝石たちが不釣り合いなほどだ。彼はアルバの失言についてラスに深く頭を下げると、すぐ直属の下働きに呼ばれてそちらに飛んでいく。
「ちょっと、話がある」
ラスとのことを見せびらかせて満足げなアルバに、ラスが消え入りそうな声をかける。彼の顔はまだ赤いままだ。アルバが「何」と尋ねると、ラスは彼をひとけのない場所に連れていく。
「あのね、昨日のことに限らず、二人だけの時にするようなことを人に聞かせるのはやめてほしいんだ」
誰にも聞かれていないことを確認し、ラスは口を開いた。
「ぼくとのこと、人に知られたくないの?」
アルバは悲しげに眉をひそめる。自分の唇や体に触れたことをひた隠そうとしたツィオを思い出す。ラスがため息をついた。
「そうだよ。君との大切なことを、むやみに晒したくないよ。君とああいうことをするのは、私にとってはとてもプライベートなことだ」
彼の話に、アルバはばつが悪そうにうつむく。ラスは続けた。
「こういう考え方が違うのはしょうがないと思う。他のことなら、極力、君を尊重したいよ。でも、これについては君に私を尊重してほしい」
そう言い、アルバの目を覗き込む。
「いいね?」
強い口調のラスに気圧され、アルバは小さく頷く。ラスはふう、と息を吐くと、気持ちを切り替えてアルバの腕に抱きついた。
「じゃあ、今日は何をしようか」
ラスは明るい調子になるが、アルバは膨れ上がる不安を抑えられない。
「あの、えっちしよう」
朝、ラスを抱きしめたのとは違う気持ちで、アルバがねだる。触れたら触れるほど喜んでくれた昨晩のラスの表情に、それが彼を振り向かせる方法だと思い込んでしまう。アルバは体でもなんでも使ってラスを引き留めておきたい。
ラスはアルバの要望に面食らったが、すぐに朝に相手をしてやらなかったことを思い出す。アルバも「男」なのだと思うと、彼の必死じみた表情も可愛らしく思えてぷっと笑ってしまう。
「じゃあ、今日はずっと私の家にいる?」
ラスは不安げなアルバの耳元に顔を寄せて、そっとささやいた。たちまち、アルバの顔が明るくなる。それは安堵で、欲ではない。気づかないまま、ラスは彼の手を引いた。口にしない不安を推し量るには、彼はまだ大人になりきれていない。
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