異世界労働者貴族

たくまろ

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外が少しづつ夕焼け色に赤くなっていく。

男は聞けるだけ聞こうと思っていたが、
女の子の名前と国の名前を教えてもらったところで、階下から「アリス」と呼びつける声がしたのだった。

この国の名はメンベル王国。

王国ということで、多分王様がいる。

王様がいるということは騎士や国を運営する幹部がいて、国を下支えする小さな町や村があり、そこには既得権益を貪る領主がいたり、先住民族がいたり。文明がどの程度であろうと王国という響きが野蛮な展開を想像させる。

夕方にアリスはずんぐりしたフランスパンと葡萄酒の瓶を持って来てくれた。
急いでいる様で、すぐに部屋から出ていった。

パンをかじり、パサつく喉を葡萄酒で潤した。

残った葡萄酒を少しづつ飲みながら、窓の外を見る。

星空を見上げる。

これから起こるかもしれない不安でうまく寝付けないでいた。



「帰りたい・・」




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いつのまにか眠っていた。



夢をみた。
痩せこけた女性の手を握る。
どこかアリスに似ているような———。




どうしようもない無力感と悲しみが込み上げてきて涙が溢れていた。
枕に染みこんだ涙の温度が無くなっていく。
肌に吸い付く湿った布が不快で枕を裏返した。




階段の軋む音がする。
ゆっくりと近づいてくる。
静かに扉が開く。


男は息を呑んで、身を固めるしかなかった。
誰かがくる。恐怖と不安が全身を包む。
過去の自分が誰かに狙われていたとか
ここの主人が目障りに感じて始末しにくるとか、不吉が男の頭の中を埋め尽くした。


ゆっくりと目を開けるとそこには、白いワンピース姿のアリスだった。
手にはランタンを持っている。
うす暗い青白い光がぼんやりと床を照らす。

ことり、とサイドテーブルにランタンを置く。
極小の星がさらさらと舞い落ちているような光。
寒さを感じてしまうほどに透き通る、薄い青の光。ゆっくりと光量を落としてゆく。

男は息を止めていたことに気がついて出来るだけ音が鳴らないように、苦しく呼吸した。

アリスはゆっくりと隣に入ってくる。
微かに甘い香りがする。

アリスは仰向けの男を包み込むように
腕を回す。ランタンの光が音もなく床に落ちては消えてゆく。

男は微かな緑の光りを、閉じた瞼に感じていた。

暖かな肌の温もり。

シルクの様になめらかな肌。


男の目尻から涙が流れた。


全身が緑の光に包まれている。

あたたかい。

男は涙を流しながら眠った。

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