転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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2話 知の女神は微笑まない

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「私は君に使役されるゾンビなのか?」

 ニコラ・テスラと名乗る変態ドM執事に、『お前が私をゾンビとして復活させたのか』と問い掛ける。


「とんでもございません。我が君は、私めの唯一無二の主君であらせられます」

 主君って……どうも話が噛み合っていない……。
 この上なく怪しい青年の発言を信じるならば、私はゾンビではないそうだ。そういえばゾンビになってしまったら細かい思考ができなくなる、本能のままに赴く生物になると生物学者の友人ギースから聞いた事がある……正常に思考できているあたり、今の私の状態はゾンビというケースが当てはまらない。

 であるならば……信じがたい事だけれど。


「まさか、【死者蘇生そせい】の魔法を行使したのか?」

 そんな思考に至る理由は、私が横たわっていた場所が棺桶だという点からだ。
 いや、しかし死者蘇生は魂の行き先を管理する【死神リーパー種】の友、デスサイズ君の反魂の儀ですら実現できなかったはず。特定の魂を死界から呼び戻すまでは成功しても、物質として実体化できず肉体に定着する事も叶わなかった。時間経過に伴い、自我が薄れ魂そのものを消滅させてしまうに終わった研究分野だ。そんな魔法を目の前の変態マゾヒストが発動できるなんて、考えたくもない。

 ……いや、待って。もし仮に私の死体を【絶対零度アイス・ラスト魔法】か、あるいは【恒久仮死リネデス魔法】で腐らないように保存し……私が死去したアストラ歴3024年から時がずいぶん経っていれば、魔法研究も進み……あるいは死者蘇生魔法が可能になっていてもおかしくない。

 そう、あれから数十年、数百年の時が流れ、あの魔導超大国であった『魔導制アストラ合衆国』ならばあるいは……転生者の脅威を跳ね除け、実現可能かもしれない。

 しかしながら、そんな高等魔法をわざわざ私にかける必要性が理解できない。
 お世辞にも私よりも死が悼まれる優秀な人材が、合衆国にはごまんといたはずだ。

 だけれど【死者蘇生】魔法、この推察こそが今の私が導き出せる尤もらしい結論でもある。
 故に、何がおかしくてニコニコしているのかわからないエセ執事に問う。


「今はアストラ歴何年?」

 
 私の予測ではおよそ、50年から100年は経っているだろう。
 そうなるとアストラ歴3070年以降は確実だ。


「アストラ歴1019年でございます、我が君」

「なっ……え……過去?」


 2000年も過去にいる?
 そんな、バカな。
 どうして、なぜ?

「……」

 信じられない事実に呆然としていた私だが、サッと距離を縮めて来たニコラ・テスラの気配を察知して、どこかへ飛翔しそうになった意識を引き締める。

「…………我が君。さしでがましい事を申すようですが、蒼薔薇の花がおぐしにかかっておりますので、お取りしま「いい。自分でやる」

 彼の提案を最後まで聞かずに遮る。

 変態ドMに触れられる筋合いはない。出会いがしらに私の手に口付けした変態なのだ。あまつさえ少女趣味全開のスカートまで着せた人物に……これは、なんだろうか、髪の毛が長い? 私の髪の毛が……って色がおかしい。
 やはり復活の弊害で、色覚障害を患っているのか?
 私の髪が、天上の色ガラスより降り注ぐ月光に反射して、眩い銀に輝いているなんて!?

「ぎ、銀髪……!?」

 自分の髪の毛を手に取って良く観察する。
 やはり私の目の調子がおかしいのか? 
 いや、この清水が流れるが如くサラサラとした見事な感触は、天然物では出せまい。ならば答えは一つ、目の前の男がおかしいのだ。
 きっとコレは……人工毛髪であり、つまりはカツラ!

「我が君、手鏡をどうぞ」

 どこから取りだしたのか不明だが、髪についた花弁を取るのに役立つアイテムをそっと手渡される。
 手鏡一つをとっても現世の物とは思えない程に精巧で美しい茨の装飾が施されいる、なんて感動している場合でもない。非常に身の危険を感じる状況なのだ。
 

 死んだと思って、目覚めれば。見知らぬ男にキスされ、いつの間にか少女服を着せられていたのだ。おまけに人工の毛髪を頭に被せられているなんて……その男が今は2000年前だとうそぶき、何食わぬ顔でやけに豪奢な手鏡を渡してくる。ドMが権力者だと匂わすには十分すぎる物ばかり……。

 そんな人物に次は何をされるかわかったものではないと、ビクビクしてしまう。
 どうにか現状を正確に把握し、切りぬけないといけない。

 拉致監禁の類である可能性も否めないし。そういえば……【死霊術ネクロマンス種】の中には、死んでしまったお気に入りの素体をゾンビ化させ、異常なまでの愛を注ぎこんでは、完全支配の元で長い間監禁するような人物が多いとか。

 これには理由がある。
 例えば愛した存在の命が、何らかの原因で長くない場合だ。病に侵されているケースや種族差による寿命の格差。理由は様々だが、死んでからゾンビ化させるより、生きているうちに仮死化してゾンビ化させた方が、知能が高いまま記憶が定着しやすいという研究結果が出ている。

 ゆえに【死霊術ネクロマンス種】の間では求婚プロポーズの言葉が『殺してもなお、君を愛そう』でありコレに応える側は『死んでも貴方と一緒よ』が通例で、もちろん即日にどちらかが殺される事もあるそうだ。友人の死霊学者であるニーニャがそうであったように。

 だけど、このニコラ・テスラの場合はそのケースが当てはまらない。
 なぜなら、私は歴史研究に没頭するあまり恋人はいなかったし、そもそもこんな人物と恋仲になった覚えはないし……ゾンビ化してロリ服を着せられ、愛でられる理由もないのだ。つまりは一方的に歪んだ愛の押し付け。
 そもそも、私はゾンビではないはず。
 落ち着くのだ、私。

 なんとか自分が持ち得る知識を総動員して、冷静さを取り戻そう……としても、ダメなものはダメだった。
 とにかく、怖すぎる。
 目の前の男は危険人物だ。

 私の警戒心を、この変態ドMエセ執事に悟られてはならない。
 内心に募る恐怖心を押し殺し、何事もなさげに手鏡を見る。

 そこに映るは、えた自分の顔であるはずなのに――


「女神か!」

 もう辛抱できなかった。
 誰ですか、この美少女は!

「なんで、私が、女神になってる!?」

 私の顔は地味めな部類だったはず。
 それが何故か、鏡には銀髪紅眼の少女が映っていた。
 目鼻顔立ちは少し幼いがくっきりとしており、もはや造形美の頂点を超えたと表現しても過言ではない美しさを誇っている。純白な肌に際立つ桜色の唇はほのかな色気をはらみ、同時にやわく無垢な潤いがある。何より、夕日のような切なさを帯びた深紅の双眸は、目の合った者の世界を朱に染めてしまう程に強烈な魅力を放っていた。
 ほんと女神ですか……?


「お言葉ですが我が君。【女神】は我が君より三位界、格下・・の存在でございます」


 はい?
 女神が私より格下だって?


「謙遜にしましても、それはあまりにも誤った見識なので嫌味と捉われかねない言動でございます。ですので、どうかご自分の品位を落としかねるお言葉はおつつしみください」

 隣で何やら諫言してくる変態の声が煩わしい。
 一体、この変態は私に何をしでかしたというのだ。

 もう何が何だか……事態は私の理解の範疇をとうに超えていた。


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