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4話 私の正体
しおりを挟む「我が君のお目覚めを忠実なる臣下にして、戦友たる者たちにお披露目をしなければなりません」
ずっと一人でいるのも怪しまれるので、私は再び玉座へと着き、ニコラ・テスラとの会話から情報収集をしていた。
ちなみにこの執事は私がテラスから戻って来ると、ひっそりと玉座の横に控えていた。私が戻るタイミングをどう把握しているのか不気味だ。それとも玉座の間から出たフリをして、すぐにとんぼ返りしてきたのか?
「臣下たち……そうか」
私はロザリアとしての記憶が一切ないという事実を、ニコラ・テスラへ正直に打ち明けるのは危険だと判断した。なので君主らしい態度でドM執事に接する方針にしたのだが……。
一介の歴史学者ごときが統治者たる君主の真似ごとを、どれほど演じ切れるかはかなりの不安がある。しかしどんなにプレッシャーがあろうとも、偶然にも手にした力を、権力をフル活用して、愛しい者たち者たちを守るためにやり抜くと決めたのだ……。
「約30年ぶりにお目覚めになったのです。ひとまずは【録神王】へ、我が君への拝謁のご許可を」
30年……!?
どうして30年もロザリアという人物は眠りにつくハメに? そんな疑問をぶつけていいのかダメなのか、迷いどころだ。さきほど、このドM執事は勝手に私が『寝ボケている』と勘違いし、色々と説明してくれたが……なるほど、30年も眠りについていれば、記憶や意識がはっきりと覚醒するまで時間がかかると考えるのも不思議ではない。
それにしても臣下に神や王の名がつくとは驚きだ。いったい、どんな凄い存在がくるのか怖すぎる。
そんな動揺の一切を表情に出さないように努めながら、ドM執事へと視線だけを向ける。
「お披露目の件はニコラ・テスラ、お前に一任する。それよりも先程お前が言ったように、余の力を十全に把握したい。目覚めたばかりで、感覚がどうにもあいまいなのだ」
なるべく威厳たっぷりに、君主らしい口ぶりでドM執事に要望を伝える。それから私は再び、このロザリアという人物について考える。
このような広大な玉座の間でありながら、臣下と呼べる者は人っ子一人いない。つまり、ロザリアは求心力が低かったのかもしれない。普通の臣下だったら、君主が目覚めれば駆け足で馳せ参じるだろうに……現状、傍にいるのは変態執事1人のみだ。
この分析から察するに、やはり自分の力だけで乗り切る場面が多くなるだろうと予測できる。
臣下と言いながら、私の首を狙う輩だっているかもしれない。なにせ神なんて名称が付くぐらいの存在なのだから、警戒をするに超した事はないはず。
「では我が君の復活祭の前に、【次元の間】でご自身のお力をご存分にお試しください。あそこでしたら、いかなる攻撃も、現象も幻想に帰しますので……」
どんな現象も幻想って、意味が分からない。
「それは……すごい場所だな……」
「何を仰っているのですか。我が君が作った場ではないですか」
言われてから自身が持つ権能の一端へ触れるように、意識を伸ばせば……たしかに【幻想神宮・オメガ式】という権能があることに気付く。
「……そう、だったな」
今後はあまり、余計な事を口走らない方がいい、か……。
「【次元の間】をお使いになるようでしたら、他の【録神王】に先んじて、【戦神王レオニダス】に拝謁を許すことになりますが、我が君の意向であれば他の【録神王】たちも納得しますでしょう」
【次元の間】とやらには【戦神王レオニダス】とやらがいるのか。またも聞いた事のない名だ。歴史上、そのような王や神などはいなかったはず……できれば一人で自分の力を確認したかったが、多少のリクスは仕方ない、か。
あぁ、不安で仕方ない。
けれど私は鷹揚に頷くしかできない。
「構わない。他に何かあるか?」
「それと、宝物殿のご確認もお願い致します。我が君に必要な物があるかもしれませんので」
宝物殿?
そんなのがあるのか……あって当たり前か。
これほど立派な玉座の間がある城なのだから、ないと逆に不自然だ。
「後に案内せよ」
「かしこまりました」
ドM執事が『自分の方からは、もう特に確認事項はない』とすまし顔になったところで、私は一つ勝負に出る事にする。
「お前から他に何もないなら、余から一つ尋ねたい事がある」
「なんなりと、我が君」
これは一種の賭けだ。
なるべく余計な事を口にしないと決めたばかりの私だが、これだけは確認しなければいけない。
ロザリアという子女になってから――
この身体の主として目覚めてから、どうにも気になる匂いが鼻につくのだ。なぜかその不快な匂いは、私の家族が、仲間たちが無惨な姿になった時の風景を強く連想させる。端的に言えば、抗いがたい大きな憎しみを感じるのだ。これに関しては、記憶がない事がばれるというリスクを多少は犯しても明確にするべき事案だ。
「遥か、南の方角より……多くの不快な……いや、かすかにお前からも……いや、お前からは違う?」
「不快な匂いが、ただよっているのですね?」
またニコラ・テスラは……私の内心を先読みしてきた。
「……そうだ。この匂いの正体は何だ?」
「地球からの転生者、転移者の匂いでしょう」
その単語を耳にした瞬間、胸の内が煮えくりかえる思いでいっぱいになる。
まるで真っ赤な血と怒りで杯を満たし、心が決壊するようにして、こぼれ出すような喪失感にこの身が震える。
同時に『ビキリ』と何かがひび割れる音が響いたが、私は構わずに問う。
「今、なんて言ったか?」
「我が君が滅ぼすべき存在、転生者の匂い、と申しました」
なんだと?
私が倒すべき存在?
願っても無い言葉に自然と笑みが浮かぶ。
「私――余が、滅ぼすべき存在、とな?」
「はい」
執事の肯定に、私の笑みはますます深まった。
だが、変態執事が『おおおおぅぅぅ……なんと、なんと、なんとお美しい笑顔! 可憐過ぎる我が君ッ! ガッデム!』と極小さな声で呟いていたので、私の顔はすぐにひきつった。
全身をかすかに震わし、両拳をグッと握って感動している様はいくら外見が良くても気色の悪い光景だった。
それから数秒後、執事の気持ち悪い発作がおさまったかと思えば、『我が君、玉座の肘掛にひび走っておられますので、どうかその手に込められた力を緩めてくださいませ』と諫言された。
しまった。
転生者への憎しみのあまり、無意識のうちにわずかな力がこもっていたようだ。
「あぁ……絶対に傷つけられないと言われる『金剛灰石晶』を、いとも容易くお砕きになるそのお力、やはり至高のお美しさは永遠不滅ですな」
『金剛灰石晶』? 聞いたことのない鉱石だ……って、力と美しさは関係ないだろうに……コメントがいちいちどん引きだ。
「もちろん玉座が傷付いたままでは、我が君の威光に響きますので、すぐに修繕させていただきます」
それは……その、手間をかけるような、悪い事をしてしまった。
「はぁ……」
どうにも私はこの変態執事が苦手だ。
気持ち悪いやら、すまない思いになるやら、心がひどく忙しくなるのだから。
◇
「この時代にもいたか、転生者……」
ひとまずは転生者への押し寄せる怒りの波を君主らしく抑えるため、ニコラ・テスラがくれる美味な飲み物を何度も飲んでは気分を落ち着かせる。
酒はあいにくと飲めなかった私だが。
これは高級ワインのようなものではなかろうか。
「フェニシア……」
ふと憎悪を和らげるためなのか、学友の名を呟いてしまう。
同じ『第二級アストラ歴史学者』にして、若くして私の同僚となった才ある学友、フェニシア。
泥酔した彼女に『無力化魔法』実験成功の祝杯会で『酒も飲めないの? ユーリってつまんないわね!』と悪態をつかれた時を思い出す。戦地にいながら彼女は常に豪快というか、呑気というか、どうにでもなれ、といった奔放な本音が透けて見えていた。私はそこが常に気に入らなかった。
彼女も彼女で私の隣が退屈なら、席を移動すればいいものの……結局最後まで私に文句を言いながら、自分だけは楽しそうに悪絡みを私に続けていた。
そんな学友との思い出を彷彿とさせる、このワインをひどく気に入ってしまったようだ。
この酸味、そして喉を流れる澄み切った甘み、美味すぎる。
不思議と活力もみなぎる。このような飲み物は生前、口にしたことはない。
「ニコラ・テスラ。この飲み物はなに?」
だから思わずドM執事に尋ねてしまった。
色からして美しい朱玉の紅。上物の赤ワインだろうか?
でもワインにしてはアルコールの苦みがない。
「人間の血でございます」
ふぁっ!?
「ブフォッッ!」
君主にあるまじき下品な振舞い、恭しく答えるニコラ・テスラの顔面に真っ赤な液体を口からぶちまけてしまう。
「ひま、ふぁんて?」
私の動揺に執事は呆れるかと思えば、とても恍惚とした笑みで私を見つめていた。
「我が君の口から、血を吹きかけて頂けるなんて……このニコラ・テスラ、歓喜の極みにございます」
やっぱりこの人は、ぶれずに気持ち悪かった。
外見が綺麗なだけに、それはひどく残念に思えた。
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