転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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24話 戦争の生贄

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「あのロザリオという人物が率いる傭兵団が、機を見計らって討って出たいと申しているそうです」

「馬鹿なっ……ただでさえ兵力差があるのに、城壁から討って出るだと? いたずらに兵力を損耗するだけだ!」
「装備や練度は相当なものであるのはわかるが……たかが3000人で何ができるというのだ!」

「やはり、所詮は野をさすらう傭兵団ですな」

 明日に決戦を控えた軍議室では、夜がとっぷりとふけてもなお会議は繰り広げられていた。


「無償で参戦などと言っておいて、何か裏があるのではないか!?」
「裏切り……出撃などとたばかって、内側から城門を開ける……?」
「大いにありえるのでは!?」

【北の黒玉こくぎょく都市】の政務官が集う夜の軍議室に、不満を露わにした発言が鳴り響く。
 
「モースン閣下! あのような下賤げせんな者を城壁の中央部分に配置するなど! 信のおけぬ者に要所を任せ過ぎです!」


 部下に諫言されたモースン黒宝こくほうきょうは、綺麗に揃えた自身の顎髭をザラリとなでる。この恰幅の良い中年が治める【北の黒玉都市】は、現在2万の大軍を前に危機的状況に陥っている。
 都市を守る城壁があるとはいえ、黒宝の兵力は1万3000弱。うち3000はロザリオ傭兵団。対するアインシュタイン新総統が率いる白輝軍は、援軍も含めると4万にものぼる。

【ケネディア黒宝都市群シュバルツ】にある7大都市中、4都市を瞬く間に攻め落としたアインシュタイン新総統の手腕を考えると、数に劣る黒宝勢力が負けるのは必須といえる。
 
 敵はすでに布陣を整え、都市攻めの準備をしている。
 明日の朝には攻めてくるだろうと誰が見てもそれは予想できる。だからこその軍議を開いているものの、政務官の誰もが不安と恐怖に押され……そのストレスのはけ口として、唯一の特異点でもあるロザリオ傭兵団に不満をぶつけているのだった。


「みな、落ち着くように」

 モースン黒宝卿だけが、ロザリオ傭兵団に対し信頼を置いていた。
 他にも数名ほどはロザリオ派であったものの、軍議室の流れは完全に反ロザリオ派であった。

「しかしっ!」
「トマス殿、貴殿の不安もわかる」

「わっ、わたしは不安を抱いているのではなく! あくまでこの都市を危険にさらすような存在を、あえて戦いが集中する場所に配置しなくとも、と申しておりまして!」

 トマス、と黒宝卿に呼ばれた男は政務官の中では圧倒的に若かった。彼は武器商人としての成り上がりで、個人的な武装集団も所持している。この【北の黒玉都市】では一、ニを争うほどの豪商にして武人でもある。
 政務官の面々らにおいて、彼への信頼は厚い。
 その信頼が賄賂や根回し、今後の商売ルートの融通や市場の斡旋など、事前の裏取引で勝ち取ったものでも、それはこの場で確かな支持力となっていた。


「トマス殿。激戦区となりえる場所に傭兵団を置く。これは見方を変えれば、初日でこの都市の兵を多く失わない、という捉え方もあります。一番の被害が出るのはロザリオ傭兵団、ということです」

 激昂しかねないトマスを静めたのは、古参の政務官の一人だ。しかし、彼もトマスに自分が経営権を握る商店を、最も一通りの多い場所に出店させてもらえるのを条件にトマスに従っている腰巾着の一人にすぎない。

「激戦区への犠牲に投入する兵力、それが傭兵団か。ふむ」

 トマスはさも納得したかのように唸る。

「もちろん要所であることに変わりないので、傭兵団などに任せてそこから敵によって切り崩されでもしたら、我が軍の被害は連鎖的に大きなものとなりましょうな」

「そうだ。その危険性を私は先程から、モースン閣下に申し上げているのです!」

「では、ロザリオ傭兵団の代わりに、ご自分の部隊を中央の壁に配置してほしいと?」

「いかにも」

 トマスがしたり顔で頷けば、ここぞとばかりに彼の息がかかった腰巾着たちは声を上げる。

「さすがトマス殿だ」
「トマス殿はまさに英雄的な勇気がありますな」
「この【北の黒玉都市】の守護者ですな!」

 そんな気運を妨げたのは、またもや古参の政務官である。

「確かにトマス殿の部隊は【北の黒玉都市】随一の精強を誇ります。特にトマス殿には強力な『見えぬ悪魔』を使用できますからね。しかし――」

「なにか?」

「しかし、今回は相手もその『見えぬ悪魔』を使います。しかもこちらより扱える者の数が圧倒的に多いだとか」
「……そうでありましたな」

 神妙な顔つきでトマスは古参の政務官を見つめる。

「そこでトマス殿はロザリオ傭兵団の後方に控えていればよいのでは? 万が一、ロザリオ傭兵団の失態で城壁の防衛が危うくなったのであれば、即座にトマス殿が対応できます」

「なるほど……」

 この場で人の心が読める悪魔がいればこう語ったに違いない。
 彼ら2人の心情はニヤリとほくそ笑んでいたと。


 最初からこの2人は一芝居うっていたのである。激戦区であればあるほど、戦場では手柄を取りやすい。善戦すれば一番の戦功者として讃えられる栄誉と、その後の発言力が増す。
 しかし、その分最も危険な場所でもあるのは言うまでもない。だからこそ、この持ち場に誰がつくのかは慎重に選ばなければならない。そこで大いに利用できるのがロザリオ傭兵団だ。
 所詮は金で雇った、今回に限り約定で雇った外部戦力。

 敵が最も攻撃を仕掛けてくるであろう箇所にロザリオ傭兵団を配置。彼らには思う存分に踏ん張ってもらい、疲弊してもらう。
 そうして勢いが衰えた時、彼の後方に待機するトマス一派が率いる部隊が活躍し、美味しいところをいただくといった流れを狙っているのだ。これをトマス本人が言い出したのであれば政務官らの心象は良くないものとなるだろう。しかし、古参の政務官がトマスの意思を尊重し、妥協案として合理的な理由もつけて発案したものであるならば、全てがスムーズにいく。


 ここまでの会話から、この軍議でも最も発言力のあるモースン黒宝卿は彼らの狙いを理解していた。
 だが、それを否定しようという考えはない。

 モースン黒宝卿は思う。
 ロザリオという人物は若くして、傑物としての何かをまとっている。どんな理由があるかは知れないが、心から【ケネディア黒宝都市群シュバルツ】の未来を見据え、勇敢なる英断をしてくれた事には感謝している。

 しかし、この都市を治める者として……一時的にしかここにいない傭兵団より、ずっと傍で統治を支えてくれる部下たちを大事にするのは当たり前だ。仮にもロザリオ傭兵団から討って出たい、などと要望しているのだから、出撃しやすいように中央の城門上に配置するという考えに異論はない。
 例えそこが一番の被害が予測される場所であっても。


「トマス殿が望むのであれば、ロザリオ傭兵団の後方は貴殿に任せようと思う」

「このトマス! 必ずや【黒玉都市】をお守りすると宣言いたします!」


 モースン黒宝卿の発言に、トマスは満面の笑みで応える。


「うむ。貴殿が使う、『見えぬ悪魔』の活躍も期待しているぞ」
「はっ! 存分に働き、必ずやモースン閣下の御意向に沿う所存であります!」

「他にも数名、『見えぬ悪魔』を扱える人物がいる部隊があったな」
「はっ!」

「その者らを要所に配置せよ」
「かしこまりました!」

「では西と東の城壁に3000ずつ配備し、後方にあたる北に1000、問題の城門前となる南壁にはロザリオ傭兵団3000を、その後方部隊としてトマス殿が率いる2000の計5000で問題ないか?」


 こうして【北の黒玉都市】に関する守りの軍議は進められていった。


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