魔王討伐戦で亡国の女帝をナンパしたら、めちゃくちゃ重たく愛されている勇者の俺

蒼山りと

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魔鏡の真相と迫りくる帝国との戦争

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朝の光が窓から差し込んで、俺の目を覚ました。ベッドの中であくびをしながら伸びをすると、昨日の出来事が鮮明に蘇ってくる。勇者レンとしての記憶が戻り、詐欺師レンを倒し、レンの村を救った……そして今、複数の女性に愛されるという複雑な立場にいる俺。

「なんだか頭がくらくらするぜ」

俺は起き上がって窓を開けた。朝の空気が肌に心地よい。村は静かで、人々はいつも通りの生活を始めている。遠くに見える果樹園には、アルジェリンの木々が朝日を浴びて輝いていた。

扉がノックされ、イリスの声が聞こえた。

「レン、起きた? 朝ごはんできてるよ」

「ああ、今行く」

食堂に入ると、イリスが朝食の準備をしていた。テーブルには焼きたてのパンと果物が並んでいる。彼女は俺を見つけると、微笑んだ。

「おはよう、レン」

イリスがエルからイリスと自分を呼ぶようになったのは、まだ慣れない。

「イリス、俺のことはアルでもいいんだぞ」

「ううん、レンって呼びたい。だって……」

イリスは手を止めて、真剣な目で俺を見つめた。

「昨日は混乱してたけど、私も少しずつ記憶が戻ってきてるの。聖女イリスとしての記憶……あなたと過ごした日々の記憶」

「そうか……」

「ねえ、覚えてる? 私たちが転生する前、300年後の世界で会おうって約束したこと」

イリスが俺の手を取った。彼女の目には懐かしさと新しい決意が混ざり合っていた。

「ええ。おぼろげながら……記憶にある」

「だから300年経ったら、私を娶るって約束したのよ。そのために私たちは転生を選んだんでしょう?」

俺は頷いた。かつての勇者レンと聖女イリスが交わした約束。300年の時を超えて、再び出会うための約束。

「俺たち、兄妹として育ったけどな」

「はじめから血のつながりはなかったわ。あの約束を果たすために、私たちは同じ場所で転生したのよ」

イリスの言葉に、俺の記憶の断片が繋がっていく。魔王シュベリートとの停戦……イリスとの結婚……そして転生の選択。全ては300年後にまた出会うための計画だったのだ。

朝食を食べていると、エリルが部屋に入ってきた。彼女は昨夜、村の宿に泊まっていた。

「おはようございます、レンさん」

「エリル、おはよう。朝食食べるか?」

彼女は丁寧に頭を下げて、テーブルに座った。

「実は報告があります。王国への連絡を取る必要があるのですが、何か良い方法はありませんか? 詐欺師レンを討伐したことを報告しなければ……」

「ああ、それならちょうどいいものがある」

俺はポケットから魔鏡を取り出した。王国から託されたレプリカのはずだが、勇者レンとして記憶が戻った今、俺にはその真実が分かる。

「これ、本物だな」

エリルが驚いたように目を見開いた。

「え? レプリカではなく?」

「ああ。完全な本物の魔鏡だ。王国はわざとレプリカだと言っていたんだろう」

俺は魔鏡を手に取り、その表面をそっと撫でた。鏡の中から、かすかな光が揺らめいている。

「シュベリートとつながる魔鏡……300年前、彼が俺に渡したものだ」

その時、庭から騒がしい声が聞こえてきた。ナギが走ってきて、扉を開けた。

「レン、リンがいないんだが」

「え?」

「朝起きたら姿が見えなくて、探してるんだが……」

外に出ると、リンが村の広場に立っているのを見つけた。彼女の周りには何人かの村人が集まっていた。近づくと、リンの表情が変わっているのに気づいた。あの女帝エリルの霊が現れている。

「レン、来てくれたのね」

女帝エリルの声だった。周囲の村人たちは不思議そうな顔で見ている。

「みんな下がってくれ。ちょっと話があるんだ」

俺の言葉に、村人たちはゆっくりと広場から離れていった。リンの体を借りた女帝エリルは、静かに俺に向き直った。

「それは何? 青く光るものを持っているわね」

俺は手に持っていた魔鏡を見た。女帝エリルはそれについて知らないのだ。彼女の死後、魔王シュベリートから受け取ったものだから当然だ。

「これは魔鏡。シュベリートから受け取ったものだ。彼との約束の証でもある」

「シュベリート? 魔王と?」

女帝エリルの表情に驚きが浮かぶ。彼女は俺の手に持つ魔鏡を不思議そうに見つめた。

「あの魔王と約束を? どういうこと?」

「お前の死後、俺はシュベリートと和平を結んだんだ。300年の停戦を約束し、彼はこの魔鏡を俺に渡した」

女帝エリルは理解に苦しむように目を細めた。

「魔王と和平……そんなことが可能だったの?」

「ああ。彼も人間を理解しようとしていたんだ」

俺は魔鏡を掲げ、かつて勇者レンとして覚えていた言葉を唱えた。

「世界の扉よ、開け。シュベリート、応えてくれ」

魔鏡の表面が揺らめき、まるで水の表面のように波紋が広がった。そして、向こう側に人影が現れた。

「レン……」

かつての魔王、そして、今は帝国の親善大使のシュベリートの姿だった。

「シュベリート、久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな、レン。やっと君は覚醒してくれたんだね」

女帝エリルは息を呑んで、魔鏡に映るシュベリートの姿を見つめた。彼女にとって、魔王と対話するなど想像もしていなかったことだろう。

「お前の目的は何だ? いまだに帝国はイリス王国との戦争をのぞんでいるようだが」

シュベリートの表情が曇った。

「私は和平を望んでいる。だが、帝国の高官たちは違う。彼らは王国を併合し、かつての帝国の栄光を取り戻したいと考えている」

「なるほど。だから親善大使として人間界に現れたのか」

「そうだ。私は人間と魔族の共存を信じている。だが、帝国の高官たちを説得するのは難しい。彼らは力と支配を求めている」

俺は考え込んだ。戦争が始まれば、多くの犠牲者が出る。そして詐欺師レンの計画は失敗したが、死者の魂を利用しようと企む者はまだいるかもしれない。

「何か方法はないのか?」

シュベリートは静かに答えた。

「あるとすれば、象徴的な存在を復活させることだ」

「象徴的な存在?」

「かつての女帝アリストラスト17世……エリルだ」

女帝エリルの霊がリンの体を通して震えた。

「私が? でも私はもう……」

「君の霊はリンの体に宿っている。そして、かつての帝国臣民は今も君を敬愛している。あの黄金像を見たはずだ」

俺は昨日の戦場で見た黄金像を思い出した。絢爛豪華なアリストラスト17世の像……それは今も帝国の象徴として崇められているのだ。

「帝国はすでに滅びているのに、なぜ臣民は女帝を敬うのだ?」

「帝国は形を変え、今も存続している。女帝の伝説は、300年経った今も人々の希望なのだ」

シュベリートは少し言葉を切ると、真剣な表情で続けた。

「あの黄金像だが、実は女帝エリルの本物の体を元にして作られたものなのだ」

「なに?」

俺とリンの体を借りた女帝エリルが同時に声を上げた。

「そういうことか……だから帝国臣民にとって特別な意味を持つのか」

「その通りだ。女帝の遺体を黄金で覆い、永遠に保存したのだ。だから……」

シュベリートはためらいがちに言葉を選んだ。

「もし彼女の魂が現存し、肉体が残っているならば、強力な癒しの魔法があれば……復活も不可能ではないかもしれない」

「復活……」

女帝エリルの霊がかすかに震えた。彼女の目に、微かな希望の光が宿る。

「あなたの伴侶だった聖女イリスの癒しの力は伝説的だった。今、彼女が転生した姿であるなら、その力は眠っているかもしれないが……」

シュベリートの言葉に、リンの体を借りた女帝エリルの目が輝いた。彼女は俺を見つめ、切なげに微笑んだ。

「もし私が……本当に戻れるなら……」

その声には喜びと期待、そして恐れが混ざっていた。300年の時を経て、もう一度生きる可能性。それは彼女にとって、あまりにも大きな希望だった。

「私がもし生きていれば、あなたと結婚できたのに……幽霊ではなく、本当の人間として」

その言葉に、俺の胸が痛んだ。彼女の目には300年の孤独と、新たな希望が浮かんでいた。

シュベリートはさらに深刻な表情になり、声を低めた。

「レン、伝えておかなければならないことがある。帝国は既にイリス王国への侵攻を計画している」

「何だって?」

「高官たちは停戦を破り、三日後には国境を越える予定だ。彼らは詐欺師レンの失敗を知り、すぐに行動に移した」

俺は魔鏡を握りしめた。

「三日後か……時間がない」

「そうだ。だから君はすぐに動かなければならない。リファイア王女に警告し、王国の防衛を固めるべきだ」

「分かった。すぐに王国へ向かう」

俺たちが話している間に、エリルとイリス、そしてナギも広場に集まってきていた。エリルが一歩前に出て、魔鏡の中のシュベリートに向かって頭を下げた。

「大使様……もしよろしければ、リファイア王女様にもご挨拶いただけませんか? 私たちも王国への報告が必要なのです」

「それは良い提案だ」

俺は魔鏡を調整し、王宮へと意識を向けた。しばらくすると、リファイア王女の姿が現れた。

「勇者レン、そしてエリル」

王女は二人を見て、静かに微笑んだ。

「詐欺師レンの討伐、見事でした。王国の平和を守っていただき、感謝します」

「あなたこそ、罠と思わせてくれていたのに本物の魔鏡を渡してくれたのですね」エリルが言った。

王女は小さく頷いた。

「時が来れば必要になると感じていました。そして……」

彼女はエリルを見つめた。

「エリル、いえ、アリア。あなたの罪は完全に赦されました。これからは密偵としてではなく、普通の女性として生きることを許可します」

エリルの目に涙が浮かんだ。

「ありがとうございます、王女様」

「この村で幸せに暮らしなさい。勇者レンが守る村なら、安全でしょう」

エリルは喜びに満ちた表情で頷いた。

「はい、これからはアリアとして生きていきます。密偵の仕事は終わりにします」

俺は緊急の話題に移った。

「王女様、危険が迫っています。シュベリートによれば、帝国は三日後に王国への侵攻を計画しているとのことです」

王女の表情が凛々しく変わった。

「それは確かな情報ですか?」

「魔王シュベリート本人から直接聞きました。彼は和平を望んでいますが、帝国の高官たちは戦争を選んだようです」

「そうですか……すぐに準備を始めなければなりません」

シュベリートが割り込んだ。

「王女様、私からの提案があります。レンと共に、魔鏡の扉を使ってイリスフィアの王宮に来られては? 直接会って、対策を練ることができます」

王女は少し考え、頷いた。

「それが最善でしょう。レン、あなたとあなたの仲間たちは魔鏡でここに来てください。軍議を開きます」

「分かりました。すぐに参ります」

会話が終わると、魔鏡の光が消え、シュベリートと王女の姿も消えた。村の広場に静けさが戻ってきた。

女帝エリルの霊はリンの体から離れ、リンは自分自身に戻った。彼女は少し疲れた様子で俺を見上げた。

「どうするの?」

「今すぐイリスフィアへ向かう。戦争の準備をしなければならない」

イリスが俺の隣に立ち、手を握ってきた。

「私も行くわ。私の癒しの力が必要かもしれない」

アリアも頷いた。

「私も力になります。密偵としての知識は役立つはずです」

ナギは冷静な表情で言った。

「私はここに残る。村の人々の安全を確保する必要がある」

「村を守ってくれるか? 頼りにしてるぞ」

ナギは静かに頷いた。

「任せろ。私の戦巫女としての力で、村は安全だ」

リンが一歩前に出た。

「私も魔鏡へ行くわ。女帝エリルの存在が役立つかもしれない」

準備を整え、俺たちは魔鏡の前に集まった。アリア、イリス、リン、そして俺。四人は決意の表情で互いを見つめた。

「みんな、準備はいいか?」

全員が頷いた。俺は魔鏡を高く掲げ、かつて勇者レンとして覚えた言葉を唱えた。

「世界の扉よ、開け。イリスフィアの王宮へ導け」

魔鏡の表面が水のように波打ち、大きく広がり始めた。青い光が部屋を満たし、その中に遠く王宮の姿が見えてきた。

「行こう」

俺は一歩前に踏み出した。勇者レンとしての義務が、再び俺を戦いへと導いていく。

その瞬間、青い光が四人を包み込み、村の広場から姿が消えた。

ナギはその場に一人、残された魔鏡を見つめて呟いた。

「無事に戻ってこいよ」

夕暮れの村に、風が吹き抜けていった。
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