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第35話 ペロの昔話(創作)
しおりを挟む昔、あるところに一匹の小さな白蛇が住んでおりました。
その白蛇が住んでいた場所は、山の麓にある綺麗な泉でした。
その泉は、白蛇の能力のおかげで枯れることもなく、常に綺麗な水が湧き出ていました。
ある時、雨が降る時期に全くと言って良いほど雨が降らなくなりました。
何日も何日も日照りが続き、農作物は枯れていき、人々が飲む水も少量しか井戸から湧き出てこなくてなりました。
井戸周りに集まった村民達は今の状況を話し合っていました。
「なあ、田吾作さんよ。このままじゃわしら飢えて死ぬことになっちまう」
「ああ、次郎太のところもかくらん(熱中症)おこして寝たきりじゃ。このままじゃ村はお終いじゃ」
「村長に頼んで雨乞いの儀式してもらわなきゃいけん」
「おお、そうだ。雨乞いをしてもらおうぞ」
そして村民たは、村長の家におしかけたのでした。
「村長はおるか?」
村長は、玄関から出てきて驚いた様子で村民達を見渡しました。
「皆そろってどうしたのじゃ」
「雨乞いじゃ。雨乞いの儀式をしておくれ」
村長は、皆んなの要望は痛いほどわかっていました。
しかし、雨乞いの儀式は年端もいかぬ無垢な少年か少女を山の神の供物として捧げることで、神様に願いを叶えてもらう方法です。
過去にも雨乞いの儀式を行なって子供を犠牲にしてその代償として雨が降らせたことがありましたが、供物とされる子供は、二度と山から帰ってくることはありませんでした。
それを伝え聞いてる村長は、雨乞いの儀式をすることを躊躇っていたのでした。
「皆の気持ちはよーくわかってるつもりじゃ。だが、雨乞いの儀式は子供を供物として山の神に供えなければならぬ」
「それなら甚平のところの娘はどうじゃ」
「あれはいかん。吉次郎の小倅とできちょる。もうおぼこではないじゃろう」
「では太郎吉の娘はどうじゃ?」
「うちの娘は、まだ3つじゃ。幼すぎる」
村民達は、供物となりそうな子供達を次々と選んで、あれこれと会話に夢中になっていました。
昔は子供を大人の代用品としてみており、亡くなったらまた作れば良いというような扱いでした。
勿論、全ての大人達がそう思っていたのではありません。
そして、話に夢中になっていたそのうちの一人の村民が村長に向かって声をあげたのでした。
「村長のところの早苗はどうじゃろう。歳も10歳とちょうど良かろう」
「「「そうだ、早苗がおった」」」
村長は早苗の名がでることを恐れていたのでした。
やっと授かった孫娘、可愛くないわけがないのです。
「村長、お願いじゃ。早苗を神様の供物として雨乞いをしてくれんか?」
村人達の期待する眼差しを受けて、村長はしぶしぶ頷くのでした。
その時、物陰に隠れて盗み聞きをしていた少年が村人達の前に颯爽と現れてこう告げたのでした。
「俺が早苗の代わりに供物になる」
少年の名前は正太と言い、両親を早く亡くして村の外れでたくましく生きていた少年でした。
たまに盗みを働くので村の大人達からは腫れ物扱いされており、子供達からは石を投げられ虐められていた少年でした。
「正太、供物になるとはどういう意味なのかわかっておるのか?」
「わかってるさ。山の神に食べられちゃうんだろう?昔、おっかーがそう言ってた」
「そうか……本当に良いのじゃな?」
「ああ、男に二言はねえ」
村長はどこか安堵した表情で、
「明日の早朝、雨乞いの儀式を執り行う」
そう村人達の前で宣言したのでした。
正太が早苗の代わりに供物になる決心をしたのは、早苗だけが正太に対して優しく接してくれたからです。
そうです。幼いながらも正太は早苗に恋心を抱いていたのでした。
◇◇◇
翌日の早朝、村外れの山が見える場所で雨乞いの儀式は始まりました。
貴重な水で拭き清められた正太は、白い着物で身を包まれていました。
「これから雨乞いの儀式を始める」
沢山の村人達の前で村長は祝詞を唱えはじめました。
正太は、村人達の中から早苗を見つけました。
お互いの眼が合い、早苗が気まずそうな顔をしていたのを見て、正太はニカっと笑顔で返しました。
正太には、もう未練はありませんでした。
祝詞が終わり、正太は空樽の中に押し込まれて大人達によって、山の麓まで運ばれて行きました。
正太が運ばれた山には人喰い熊が住み着く危険な場所でもありました。
正太は、樽から出て山に向かって歩きだしました。
もう、二度と村に帰ることは許されません。
それから、一晩中正太は山を歩き続けました。
夜の山は、獣の鳴き声が響いていました。
飲まず食わずで山を歩いた正太は、とうとう力尽き倒れてしまいました。
「ああ、山の神様、どうか村に雨を……水をください……」
薄れる意識の中で、幼い少女の声が聞こえてきました。
《水が欲しいの?》
「………みず……くださ……い」
すると正太の前に水の玉が浮かび上がりました。
正太は、無意識にその水玉を手に掴みました。
すると水玉は、割れて正太の顔にかかりました。
「冷たい……水、水だ!」
正太の前に現れた水玉はひとつではありませんでした。正太は、力を振り絞って起き上がりその水玉を口に含んだのでした。
◇◇◇
正太が眼を覚ました場所は、清浄な空気に包まれた綺麗な泉の辺りでした。
「水だ、水が沢山ある」
そう叫んだ正太は、一目散に泉に駆け寄り泉の水をごくごくと飲んだのでした。
《そんなに慌てなくても水は逃げないわよ》
その愛らしい少女の声は、正太が気を失う前に聞いた声と同じでした。
「誰、誰かいるの?」
《いるわよ、あんたの眼の前に》
そこには泉の中から顔を出している小さな白蛇が正太を見つめていました。
「わーーっ!へ、へ、へびの神様!」
昔から白蛇は神の使いとして信仰されていました。
正太も亡くなった母親からそう聞かされていたのです。
《そんな驚かなくてもいいじゃない。あなたをここまで運ぶのに苦労したんだから》
どうやら、この小さな白蛇が気絶した正太をここまで運んだようです。
「しゃべったーー!」
《あんた、驚きすぎ。それにしゃべっているわけじゃないわ。あなたの中に言葉を直接送りこんでるのよ》
「やっぱ神様だ。なんまいだー、なんまいだー」
《私生きてるし、お経を唱えなくてもいいわよ。それにしても、何であんなとこにいたの?この場所は平気だけど、他の場所なら獣に襲われてたわよ》
「実は俺は………」
正太は、蛇の神様に事情を話しました。
《そうなの。雨が降らなくて困っているのね。う~~ん、私では雨を降らすことは出来ないけど、水ならこの泉みたいにいっぱいにさせることはできるわ》
「なら、村の窪地に水を出して下さい。神様、どうかお願いします。俺の命なら供物として差し上げますから。村を救って下さい。村には大切な人がいるんです」
《あんたなんか食べないわよ。不味そうだし。そうねーーわかったわ。これも何かの縁ね。そこに案内して》
こうして白蛇と正太は、山を降り村に向かうのでした。
◇◇◇
「あそこが俺の村だ」
正太は肩に乗っている蛇の神様に話かけました。
《人里に降りるのは久しぶりだわ》
そう話混んでいると畑仕事をしていた村人が正太を見つけました。
「正太、お前帰って来たのか?こりゃあ大変じゃ」
村人は一目散に走り出し、村の中に消えて行きました。
《何処に水を出せばいいの?》
「あそこです。あの柵から少し行ったところに窪地があるんです。雨が降ると水が溜まるところなんですが、今は全く……」
《わかってるわよ。そこに水を出せばいいんでしょう?》
だが、走り去っていたさっきの村人が沢山の人を連れて村の門の前に立ち塞がった。
「正太、なぜ戻ってきた?お前を村に入れるわけにはいかん」
そう言ったのは村人達の前に出てきた村長だった。
「俺は村を助けに来たんだ。村には入らん。用があるのはそこの窪地だ」
そう言っても村人達は、正太に「早く山に帰れ!」と言い放つのでした。
《ねえ、あいつら何なの?噛んでもいい?》
「待って下さい。誤解してるだけなんです。水があれば神様のことも理解できます」
《じゃあ、さっさと終わりにしましょう》
正太は、村人達からの心無い言葉を浴びながらも窪地に向かったのでした。
「ここです」
《じゃあ降ろしてちょうだい》
村人達も正太の後を追って窪地に集まってきました。
その中には、正太が恋心を抱いている早苗もおりました。
「おい、あれは白蛇じゃないか?」
「正太が連れて来たのか?」
「綺麗な蛇ね」
「白蛇って神様なんじゃないか?」
村人達は、白蛇を見てさきほど正太に向けていた悪い感情がだんだんとなくなっていきました。
《じゃあ、やるわよ》
白蛇が窪地の中央に辿り着きそう言いました。
すると奇跡がおきたのです。
何も無かった窪地に水が溜まりだしました。
そして、ついに窪地は澄んだ水で溢れ返り泉へと変化したのでした。
「水だ!」
「窪地が泉になったぞ」
「神様じゃ。あの白蛇は水神様じゃ」
村人達は驚きの声をあげたと同時に皆が跪き両手を合わせて一心に拝みだしました。
《あーー疲れた》
そんな中で正太だけが、立ち尽くし白蛇の気の抜けた声を聞いたのでした。
◇◇◇
それから村は、水不足に悩むことはありませんでした。
村は正太が連れて来た白蛇に救われたのです。
村人達は、感謝の気持ちで泉の脇に社を建て白蛇を水神様として祀りました。
社の中には桐箱に納められた白蛇の抜け殻が仕舞われているそうです。
なぜなら、
《私の抜け殻を渡しとくから泉の近くにおいといてよ。目印があれば山の麓からここにすぐ来れるしね。来た時水を補充しといてあげるから感謝しなさい》
白蛇は正太にそう伝えたのでした。
そして正太は、水神様の社を守る護人となり、その傍には村長の孫娘である早苗がいつもそばにいるのでした。
◇◇◇
あれから、時が経ち信仰が薄れていった現在では、白蛇の棲家だった山の麓の泉は、ゴルフ場となり、村脇にある泉は公園へと変わっていきました。
かつては、山ほど供えられた供物も供えられなくなり、白蛇の信仰は忘れ去られていくのでした。
そして、ひとりぼっちになった白蛇は、いつもお腹を空かしているのでした。
お終い……
………
《うわっーー!》
話が終わるとペロが大きな声をあげて、泣き出した。
《ひとりぼっちはイヤーっ!わぁーー》
《ひもじいのもイヤーっ!》
ペロの眼から大粒の涙が溢れだした。
「確保っ!」
そう叫ぶと空きポーションの瓶を片手にみんなが一斉ペロに襲いかかった。
《イヤー、イヤー!もうひとりはいやなの》
《正太も早苗もすぐ死んじゃったし、山のお家も無くなっちゃったのーー》
《美味しいもの食べたいの!ひもじい生活はもうイヤなのよー。わーーっ!》
泣き続けるペロを抑えて涙を回収する。
そして、みんなの空きポーション瓶がペロの涙で一杯になった。
「涙ゲットだぜ」
『マスター……こう言っては何なのですけど、マスターって鬼畜ですね』
エイシスからそう言われたのだった。
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