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第65話 調査(1)
しおりを挟む私はミスラ教に籍を置く司祭のフォルト。
昨日の貧民街で立ち昇った浄化による光の球の原因を調べる為に、ジュライト王が派遣してくれた護衛兵を伴い、貧民街に来ていた。
この地域は道なき道を進まねばならず、足取りもおのずと慎重になる。
「確か、このあたりに開拓時代の教会があったはず……」
古文書によれば、王都が発展し、貧民街にあった教会が老朽化したころ、王城近くに新たな教会が建てられ、ご神像もそこへ移されたとある。
「フォルト司祭様、足元に瓦礫がありますので、お気をつけください」
私のすぐ前の女性兵士がそう伝えてきた。
派遣された兵士は、4名。
第一兵団、五番分隊長のジョナサン。
同じく五番隊のデニーズ。
同じく五番隊のガスト。
同じく五番隊で紅一点のゼリア。
第一兵団の五番隊は、このような調査任務に特化しているらしく、歩きにくい貧民街の中でも、私を実に手際よく導いてくれた。
「ええ、前に調査に来た時は、確かにこのあたりに使われていない教会がありました」
兵士のゼリアは、そう私の問いに答えた。
「王国の兵士たちは、定期的にこのあたりを見回りしているのでしょうか?」
「いえ、それは街の衛兵の役目です。こちらに来る前に確認しましたが、どうやら貧民街は巡回の対象外だそうで。事件でも起きない限り、衛兵が足を運ぶことはないようです」
「なるほど……」
貧民街とはいえ、先ほどから人影をまったく見かけない。
どうやら、このあたりに建ち並ぶ建物は、すでに空き家になっているようだ。
「止まれ!」
「何があった?」
「穴です。大きな穴が空いています」
先頭を進んでいた兵士デニーズが、背後にいた分隊長ジョナサンの問いに答えた。
少し開けた空間に出ると、かつて大きな建物が建っていたらしい更地が広がっていた。
そのほぼ中央に、ぽっかりと大きな穴が口を開けていた。
兵士デニーズが先に進み、その穴の様子をうかがった。
やがて彼は手で合図を送り、私たちを呼び寄せた。
「穴はかなり深いようです。向かい側から、ロープが中へと垂れ下がっています。
誰かが降りたのか、それとも登ったあとなのかもしれません」
兵士デニーズの報告を受け、私たちは穴に歩み寄り、中を覗き込んだ。
そこは陽光すら届かぬほどの深さで、底の気配さえ見えなかった。
「分隊長、穴から人の声が聞こえます」
兵士ガストは、その体格に似合わず繊細で用心深く、さらに五感にも優れていると、最初に会ったとき紹介を受けた。
そして今、その優れた聴覚で、穴の奥からかすかな声を聞き取ったのだろう。
「そうか……私たちはロープを持ち合わせていない。しばらくは、この穴を中心に周囲の調査を行う」
「分隊長、穴に降りなくてよろしいのですか?」
「誰が仕掛けたかもわからぬロープを使うのは危険だ。穴の調査は、万全の準備を整えてからにする」
そうして、しばらく周辺の調査をしていると穴から誰かが這い出てきた。
「貴様、何者だあ!」
兵士たちは、剣を抜き構えた。
女性兵士のデニスは、私を庇うように前に立った。
「待ってくれ! 俺は銀級冒険者のホストだ。今、パーティーメンバーも上がってくる。ロープを押さえさせてほしい」
冒険者カードを見せながら、男は周りの兵士たちに告げた。
安全確保のため、身軽な彼が先に穴から上がってきたようだ。
「わかった。だが、警戒はさせてもらう」
分隊長がそう告げると、私の前に立つゼリア以外は剣を収めた。
そして、最後の一人が上がってきたところで事情を聞くことになった。
……
話を聞くと、穴から上がってきた人たちは「ビッグボーイ」という銀級冒険者パーティーらしい。
冒険者ギルドの依頼で、この場所の調査に来ていたのだという。
彼らはここで穴を見つけ、中へ潜って探索したそうだ。
中は広大な空洞になっており、暗闇のせいで調査に時間を取られたらしい。
しかし、めぼしい成果は得られず、結局こうして地上に戻ってきたのだ
「それでは、君たちはギルドの指名依頼で来たわけだな?」
「ああ、そうだ。貧民街で異常がないか調べてくれと言われた。あと、白い髪の男がいたらギルドに連れて来てほしいと言っていた」
「白い髪の男だと?なんでギルドはその男を探している?」
「詳しい話しは聞いてないが、貧民街にいた大量のアンデットをそいつが浄化したらしい。大量の魔石をギルドに持ち込んだって、他の冒険者がそう言っていた」
「なにー!ギルドは、その男を探しているんだな?」
「ああ、もういいか?薄暗い穴の中にいたせいか疲れちまった。もう、酒飲んで寝たい気分なんだ」
「構わない。あとはギルドマスターに尋ねるとする」
分隊長がそう言うと、疲れた様子の冒険者たちは、さっさと片付けてこの場を去って行った。
「フォルト司祭、お聞きのとおり、私たちも冒険者ギルドに向かうつもりです。
穴の調査は装備を整えてから再開しますので、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、それで構いません」
「では、周辺の警戒を怠らず、冒険者ギルドに向かうぞ」
分隊長の掛け声とともに、私たちは冒険者ギルドへと向かった。
………
冒険者ギルドに着くと、私たちは受付の女性に声をかけ、ギルドマスターを呼んでもらった。
ギルド内では、王国の兵士を連れた私たちの姿に、一瞬静まり返ったが、すぐにまた騒がしくなった。
すると、私に声をかけてくる若者がいた。
「フォルト司祭さま、お久しぶりです」
まだあどけなさの残る少年の姿だったが、その面差しには見覚えがあった。
「ジョリーじゃないか。元気にしていたか?」
「はい。まだ鉄級ですが、今度の依頼が成功したら銅級に上がる予定です」
「そうか。頑張っているようで何よりだ」
彼は教会の孤児院で育った少年だ。
昔はやんちゃ坊主だったが、どうやら落ち着いたようだ。
「司祭さまこそ、何の用でこちらに?」
「ああ、貧民街で起きたことについて調べたいるんだ。何でも白い髪の少年が関わっているらしい」
「そいつなら知ってます。いつもひとりでふらっと入ってきて、壁際にじっと立ってるんです」
「ああ、そいつはケンだ。解体場のオッサンがそう言ってた。何でも、大量の魔物をアイテムボックスから出したらしい」
そこへ別の冒険者が話に加わってきた。
「あたい、あの時ここにいたんだ。魔石を買い取ってほしいって言って、別室に連れてかれてね。しばらくすると凄い衝撃が襲ってきて、腰を抜かしちまったよ」
さらに別の女性冒険者も口を開いた。
「衝撃波? 本当かい?」
「あたいは嘘はつかないよ。あとで誰かが“別の冒険者が魔力を解放したんだ”って言ってたけど、あたいは魔法はよくわからないから、そうなんだって思っただけさ」
「白い髪のやつなら、猪熊亭で働いてるのを見たことがあるって仲間が言ってたぜ」
「ああ、それな。小さな女の子を連れてたって話も聞いたことがある」
「大量の魔石を持ち帰ったらしいぞ。きっと商業ギルドで買い取ってもらったんだろう」
聞いてもいないのに、白い髪の少年の噂が次から次へと湧き上がってきた。
そこへ、受付の女性が来て
「ギルドマスターがお会いになるそうです。マスター室までご足労願えますか?」
そう伝えに来た。
それを聞いた分隊長は、
「そうか。呼び出したのはこちらだが……ここまで足を運ぶのも億劫らしいな」
「分隊長、ギルドマスターをご存じなんですか?」
兵士のひとりが尋ねた。
「ああ、騎士学校の先輩だ。とにかく世渡りの上手な男で、上には媚びへつらい、下は見下すようなやつだった。
昔から人を手足のように使って、自分では動かない。そんな男が冒険者ギルドのマスターになれたんだからな……おそらく、お偉方に金と媚を売ったんだろう」
どうやら分隊長は、このギルドマスターとかなり因縁があるらしい。
「わあー! 私、そういうタイプは苦手です」
女性兵士のゼリアがそう言った。
「俺もダメっす。立場関係なしに殴っちまいそうです」
兵士のデニーズが少し興奮したように言葉を放った。
「まあまあ、話を聞いてみないと。今日は国とミスラ教会の依頼で来ているのですから、分隊長もわきまえてくださいね」
兵士のガストがそう言って、皆を落ち着かせようとした。
そして、私たちはマスター室に到着したのだった。
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