現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第77話 大賢者(仮仮)VS 悪魔たち

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少し前のこと
………

イギリスのニューベリーに現れたアンデットを、俺はひたすら【浄化】して回った。
街に蔓延していたそれらを片付け終え、ようやくゲート前にたどり着く。

深夜ということもあり、駆けつけた探索者や兵士の数は多くない。
その顔ぶれを見れば、もともとこのゲートを警備していた者たちなのだろうと察せられる。

ここに湧いていたのは、足の遅いグールやスケルトンが大半だった。
探索者たちは長槍で応戦し、兵士たちは機銃を構えて撃ち続けている。

もっとも、魔物は魔力を帯びているため、剣術や機銃の弾丸では決定打にならない。
それでも、ロケットランチャーや榴弾のような高威力の兵器なら、肉片ごと吹き飛ばすことができる。

そんな激しい戦いの最中、俺はゲートを中心に【浄化魔法】を放った。
光が広がり、アンデットたちは断末魔も上げず、次々と塵となって消えていった。

「なんだ……何が起きた!?」

探索者のひとりが叫び、兵士たちも銃口を左右に振りながら慌てふためく。

つい先ほどまで押し寄せていたアンデットの群れが、跡形もなく消え去っていたのだから当然だ。
崩れ落ちた骨も、焼け焦げた肉片も残っていない。
ただ澄みきった夜の空気と、静寂だけが広がっていた。

俺は深く息を吐き、呟く。

「……【浄化】だ」

偉そうに言葉を発するのは、本来の俺の性格からすれば苦手だ。
けれど、この全身白の格好をしている時だけは別だ。
身バレを防ぐため、そう割り切って、普段とは違う“キャラ”を演じている。

「浄化だと! あなたは神官なのですか?」

近くにいた探索者が驚きに目を見開いて問いかけてきた。

だが、その問いに答える暇はない。
ゲートの奥、闇の向こうから、ぞわりと肌を刺すような魔力が滲み出してくる。

次の瞬間、それはゲートの闇から姿を現した。

黒いローブの裾が地面を這い、覗いた顔は肉のない骸骨。
眼窩の奥で青白い光が怪しく揺れ、ぞっとするような冷気を周囲に撒き散らしている。

その身長はゆうに二メートルを超え、見上げる者すべてを小さく感じさせた。
圧迫感に探索者たちが息を呑む中、そいつは低く響く声で名乗りを上げる。

「――我が名は不死王(ノーライフ・キング)。我が配下を倒したのは……お主か?」

アニメや漫画を見ていて、いつも思っていた。
敵なら、余計なやり取りなんかせず、さっさと倒せばいいじゃないかと。

だから、会話する気は最初からなかった。

「【神聖結界】」

周囲の探索者や兵士が息を呑むよりも早く、白い光が迸り、不死王を結界に閉じ込める。

「【プュリフィケーション】」

次の瞬間、結界の内側に聖なる炎のような浄化の光が降り注いだ。
骸骨の巨体を容赦なく焼き削り、俺はただ、何度も、何度も唱え続けた。

「ぐわーーっ!」

不死王は、浄化の光を浴びるたびに、骨の軋む音を響かせて悶えた。
結界の中で逃げ場はなく、光は無慈悲に降り注ぎ続ける。

「【プュリフィケーション!】【プュリフィケーション!】……」

俺は止まらない。
これはいわば、結界と浄化によるはめ殺し作戦。
卑怯だと誰が言おうが構うものか。勝った方が正義だ。

七度、八度、十度……不死王はそのたびに呻き声をあげ、崩れ落ちても再び立ち上がる。
だが十四度目、光に包まれたその巨体はついに形を保てなくなり、骸骨の王は結界の中で跡形もなく掻き消えた。

不死王を完全に倒せたのかどうか、正直わからない。
だが、少なくとも今はこの場から消え去った――それだけは確かだった。

戦場に残されたのは、呻き声をあげる負傷者と、呆然と立ち尽くす者たち。
俺はストレージからポーションを取り出し、傷ついた探索者や兵士たちに次々と手渡していった。

そのときだ。
頭の奥に直接響く声――ペロからの念話が届いたのは……





ペロに声をかけられて、慌てて影渡りて移動してこの場に駆けつけた。
そこには、地面に横たわるユメカの姿があった。

「ユメカっ!大丈夫か!」

抱き起こしてみると、どこか様子がおかしい。
身体には傷一つなく、血がにじむ跡もない。
それどころか、まるで幸せな夢を見ているかのように、安らかな表情を浮かべていた。

「ユメカ! ユメカ!」

必死に名を呼ぶが、その瞼は閉じたまま、微動だにしない。

「ペロ!何があった?」

《知らないわよ。私は住民を守るために結界を張ってたの。獣っ娘は街中の魔物を退治しに行ったきり戻ってこないから、探しに来たら、獣っ娘が倒れていたのよ》

ペロは見知らぬ外国人女性の肩に乗っていた。
その女性が口を開く。

「多分ですが、あの角を生やした悪魔の仕業だと思います。
それと……昔、文献で見たことがあります。あの悪魔は、おそらく“夢魔”。サキュバスだと思います」

言語翻訳の効果で、その女性の言葉は理解できた。

「サキュバス……じゃあ、ユメカは眠っているだけなのか?」

「いいえ。サキュバスの眠りは目覚めることがありません。やがて衰弱し、最後には命を落とすのです」

なら、あの悪魔を倒すだけだ!

ゲート前で、悔しそうにしている悪魔に目を向ける。

「あ、それと悪魔がサキュバスなら、眼を見ないでください。確か、相手を眠らせるには眼を合わせる必要があるはずです」

ペロを肩に乗せた女性は、その手の知識に詳しいようだった。

「わかった。だが、俺にはどんな状態異常も効かない。教えてくれて感謝する」

そう言い放ち、俺はとうとうユメカを眠りに落とした悪魔と相対した。

………

「ユメカをこんな風にしたのはお前か?」

「……あら。あなたからは神の匂いがする。嫌な匂いね……ぞわぞわするわ」

ユメカの眠りを解がなければならないので、不死王の時はのようにはめ殺し作戦を使えない。

「くだらん戯言はいい! 今すぐ眠りを解け!」

「まあまあ、そんなに急かさないで。せっかちな男は嫌われるのよ。
それにしても、獣人の娘、あの蛇……そしてあなた。おもしろいイレギュラーが揃ったわね。
ふふ、わかっただけで収穫よ。この世界に、そういう存在が確かにいると」

妖艶な笑みを浮かべながら言葉を投げかけるサキュバス。その瞳が、赤く妖しく輝いた。

「……あなた、どうして? なぜ私の能力が効かないの?」

今のがサキュバスの攻撃か……
身体が一瞬、寒気に似た感覚が走ったけど、状態異常無効が効いてるみたいだ。

「そう……やっぱり、あなたなのね。あはははは!」

サキュバスは赤い瞳を細め、妖艶な笑みを浮かべて高らかに笑った。

このサキュバスは『賢者の石』のことを勘付いたのかもしれない。

「そんなことはどうでもいい! 仲間の眠りを解け!」

「ああ、それね。でも無理なのよ。一度眠りについたら、私ですら解くことはできないの」

「はあ!? 術者が干渉できないはずはないだろう!」

「本当よ。私が干渉できるのは、眠り続けることで衰弱していく生命力を“いただく”ことだけ。
でも今回は……あの白蛇に感謝することね。神力による結界の中では、私のパスは通らない。
だから、早ければ2、3日で、あの娘は目を覚ますはずよ」

意味はよく分からない。だが、それが本当なら……ユメカは目を覚ますはずだ。

本当ならばな……

「もういいかしら? そろそろ、あなたの腕を見せてもらいたいわ

サキュバスは妖艶に笑いながら、どこからともなく一本の鞭を取り出した。
空気が一変する。肌を刺すような悪寒に、思わずその場から身を引く。

直後――バシィッ!

俺が立っていた場所に、鞭が叩きつけられ、土埃が一気に舞い上がった。

……危ねぇ。避けなければ直撃していた。
空気を裂く音と、地面を抉る衝撃。あれにまともに食らったら、冗談抜きでヤバかった。

それにしても――その妖艶な衣装に、しなやかに振るう鞭。似合いすぎだろう!

……って、俺にそんなハードな趣味はねぇ!

「ほら、ほら、踊りなさいな」

高速で繰り出される鞭は、軌道を自在に変えて容赦なく俺に襲いかかる。
それを避ける様は、確かに踊っているように見えるのかもしれない。

だが――この程度の速さ。
あの剣聖爺さんの剣に比べれば、まだ鈍い。
あの人の一閃は、避けようと思った時にはすでに首が飛んでいるレベルだ。

……あの死にそうになった修行も、こうして役に立ってるんだな。

そう思えるくらいには、今の俺に余裕がある。

目の前で妖艶に笑いながら鞭を振るうサキュバスとは裏腹に、心は不思議と静かだった。

そして、一瞬の隙を突いて【影渡】。
サキュバスの背後に回り込み、剣をその背に深々と突き立てた。

「ぐわっ!」

妖艶な笑みが苦痛に歪み、赤い瞳が揺らぐ。

俺はさらに力を込め、耳元で怒鳴った。

「本当のことを言え! 眠りを覚ますにはどうすればいい!?」

「あはは……私は本当のことしか言ってないわ。今は干渉できない。いずれ目は覚めるわよ――けれど、それは『死んでから』ね」

悪魔は嗤い、言葉を刃のように突きつける。信じるつもりはない。
俺はぴくりとも動かない彼女の肩に剣を深く突き立て、全身の力を込めてそのまま振り下ろした。

――バサリ、と刃が乾いた音を立てる。

血さえ流れぬ冷たい静寂の中、サキュバスの笑みがほんの少し歪み次第に身体ごと消えていった。
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