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第83話 解呪薬作製
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………
剣聖爺さんを迎えに、人民国の西安市にあるゲートへと移動した。
「爺さん、何やってんの?」
「おう、ここの冒険者たちは妙な武器を使う者がおるでな。ちょいと腕試しをしておる最中じゃ。若、邪魔するでないぞ」
(いや、ここでは“冒険者”じゃなくて“探索者”だからっ!)
「この国は四千年の歴史がある国なんだ。いろんな意味で変わったモノがあるんだよ」
「ほう、まだまだ若い国じゃのう」
(爺さんから見たら、どこの国も若いわ!)
「でさ、魔物は全部倒したみたいだけど、悪魔は出てこなかった?」
「はて?そこそこ手強い豚顔で羽根の生えたやつは出てきたが、弱かったぞい」
(それ悪魔だよっ!あと“ぞい”って語尾つけるのマジやめて!)
そう言いながらも爺さんは、探索者たちと次々に打ち合っている。
戦い終えた探索者たちは、なぜか敗北を喜ぶように爺さんへ頭を下げた。
「ありがとうございましたーっ!」
『ふむ、あと三千年も稽古すれば一端の使い手になるじゃろう。精進せい』
言葉は通じていないが、相手は満面の笑み。
(……いや、意味わからんて)
千里眼で見ていた八王子ゲートの様子がヤバそうだ。
「あっ!ヤバい、ヒカリが悪魔にやられた!今すぐ行くよ!」
「なにっ、ヒカリが!? こうしちゃおれん、厠によってくるから、しばし待たれい!」
(時間ないんだって!オムツでもしてろよっ!)
それから、言葉の通じる俺がトイレの場所を聞いて、小用を済ませて爺さんと共に八王子ゲートに向かった。
……
「遅くなってすまない」
取りあえず、ユリアとヒカリに頭を下げて謝罪した。
千里眼で状況は見ていたが――正直、マジでヤバかった。
何度も剣聖爺さんを置いていこうかと思ったくらいだ。
「私、頑張りました。あとで頭、なでなでしてください」
「若さま、私の剣が通じませんでした。じいじは頭を落としたのに……悔しいです。それと、私も頭なでなでしてほしいです」
「ユリアもヒカリも、よく頑張った。褒美はあとで、な」
それから周囲を見回し、近くに立つ二人の探索者へ視線を向けた。
「……そちらの方々は?」
(あれ……? 航平さんだよな?)
「こちらの冒険者の方々が助けてくれたんです。おかげで助かりました」
「私は怪我してたけど、ポーションを飲ませてもらいました」
二人が彼らに救われたようだ。
たしか、航平さんの母親は病気だったはず――。
「君たち、二人を助けてくれてありがとう。これはエリクサー。どんな怪我でも病でも治せる薬だ。数は少ないけど、一人一本ずつ受け取ってくれ。
だが、条件がある。エリクサーのことは、誰にも言わないでほしい」
「エリクサーって……幻の秘薬だろ!? 本当に存在してたのか!」
「ありがとう。大したことはしてないけど……いざという時に使わせてもらうわ」
航平さんと、見知らぬ女性がそれぞれストレージから出したエリクサーを受け取った。
「ケンさま、あの方の刀が……」
ユリアが指さす先には、刀身の消えた女性の刀。
「うん、わかった。【リペア】」
修復魔法をかけると、刀身が瞬く間に元の姿を取り戻した。
「あっ……わたしのムーちゃんが! よかったぁぁぁ!」
彼女が泣き笑いしながら刀を抱きしめる姿に、航平さんがぽつりと呟く。
「……なあ、あんたら、何者なんだ?」
当然の疑問だ。
だが、それに答えるつもりはなかった。
俺は無言で、ヒカリを抱きかかえた剣聖爺さんとユリアを連れ、影の中へと沈んでいった。
◆
自宅からゲートを潜り、亜空間を抜けて俺たちは、湖畔の教会へ戻ってきた。
ここは、静かで落ち着く場所だ。
……だが、今は休んでいる暇はない。
俺はこれから、ユメカの眠りを解くための【解呪薬】を作らなければならない。
作り方は、師匠が調合しているところを見ていた。
手順も、すべて頭に入っている。
俺はストレージから素材を取り出した。
使用素材
・高濃度の魔力水
・世界樹の実
・七連草の花
錬金鍋を取り出し、作業を始める。
七連草は花びらを一枚ずつ順に入れないと、効力が失われる。
俺は順番を間違えぬよう、時折【鑑定】をかけて確認した。
その間――
ユリアとヒカリは、眠ったままのユメカの傍から離れようとしなかった。
二人とも、何かを祈るような表情をしている。
カナドは気を利かせて、食事の準備に取りかかったようだ。
「腹が減っては戦も錬金もできん」と言いながら、亜空間のログハウスへ向かった。
そして剣聖爺さんはというと……
「おかずを調達してくる」と言って釣竿を担ぎ、湖へ出かけていった。
(たぶん、また大物を釣ってくるつもりだろう)
静かな湖畔に、錬金鍋のかすかな音だけが響く。
素材を混ぜ、魔力を注ぎ、ゆっくりと攪拌する。
……不思議なものだ。
戦っている時より、こうして錬金術をしている方がずっと楽しい。
だが、あまり悠長にしているわけにもいかない。
今回は、時間の固定をしていない。
だから、こちらの世界に長く留まることはできないのだ。
それに、これからあっちの世界は、大変なことになるだろう。
地上に魔物が現れたのだから。
政治家は責任の所在を探し、マスコミは視聴率を稼ぐために騒ぎ立てる。
そして、人々は恐怖と混乱の中で右往左往する。
容易に想像できる未来だ。
「さて、そろそろいいだろう……」
そう呟いて、完成した薬に鑑定をかける。
結果は、高品質だった。
「師匠のは“最高品質”だったのに、何が違うんだ?」
『それは、長年の経験と……単に腕の違いですね』
「おっ……! エイシス!」
思わず声が漏れる。
おーっ! エイシスが復活した!
(もういいのか?)
『はい。マスターたちが頑張ったおかげで、世界は破滅の道に進まずに済みました。上出来です』
「いや、俺が言ったのは、そういう意味じゃない。もう、気配を遮断……いや、違うな。自分を封印しなくてもいいのか、ってことだ」
『……わかっていましたか。悪魔族に、マスターや私の存在が知られるのを防ぐため、私は自らを封印していたのです』
「そりゃあ、わかるよ。お前と俺は一心同体なんだからな。
エイシスが出てきたってことは、とりあえず危険は去ったって解釈でいいのか?」
『ええ、しばらくは大丈夫でしょう』
「それと、ワイバーンは出てこなかったぞ」
『それはマスターたちの活躍のおかげで、ある拠点にいた悪魔が侵攻をやめたためです。おそらく、他の悪魔たちの様子を伺っていたのでしょう。』
「……なるほど。ずいぶんズル賢い奴もいるもんだな」
「ところで、悪魔が使ったあの魔法だ。あの黒炎はいったいなんなんだ? 左腕が……消えたんだけど」
『あれは、悪魔族の最大威力の魔法です。黒炎に触れたものを消し去るものですね。あれは神力でしか防ぐことはできません』
「となると、もしまた戦うことがあるならば、ユリアたちには難しいだろうな……」
『マスターが神力を付与した武器や防具を造れば防げますよ。あ、まだ付与魔法は修得してませんでしたね』
わかってて、言ってるからタチが悪い……
『今のマスターなら付与魔法を修得できますよ』
「それは、あとでいいよ。今はまだやることがあるから」
『そうでしたね。まずはサキュバスの眠りを解かないといけませんね』
「あ、そういえば、あのサキュバス、俺たちのことに気づいてたっぽいぞ」
『あれは精神に干渉する悪魔ですから、気づかれても仕方ありません。
ですが、マスターが倒したのなら、しばらくは復活しないでしょう』
「ちょっと待て。悪魔って、復活するのか?」
『ええ。もともと冥府から完全に出てきているわけではありません。
地上で目にする姿は、ダンジョンで命を落とした探索者たちの生命力を変換して作られた――わかりやすく言えば“アバター”のようなものです。
そのアバターを倒せば、しばらくの間は冥府で休眠状態に入るでしょう。
長ければ数百年、短ければ数ヶ月ほどですが』
「はは……ってことは、永遠にこの戦いが繰り返されるってことか?」
『いいえ。神力をもって本体を討てば、復活することはありません。
もっとも、マスターがそれを成し遂げられるようになるのは、まだまだ先の話ですが』
「いずれ戦うことになるのかよ……! 勘弁してくれ!」
『そんなことより、早く解呪薬を飲ませなくて良いのですか? 小娘たちが待ってますよ』
先のことは、未来の俺に任せるしかないか……
そして、出来上がった解呪薬を手に、ユメカのもとへと向かったのだった。
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