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第2章
第19話 御曹司の買い食い
今日は水曜日。
ルナのせいで、朝から大変な思いをしたが、中学の頃より学校に行くのが苦ではなくなっている。
鞄を持って下に降りていくと、和樹君がテレビを見ていた。
「和樹君、おはよう」
「あ、光彦兄ちゃん、おはよう」
テレビを消そうとして慌ててリモコンを探している。
「テレビ見てていいんだよ」
「本当?お姉ちゃんなら「朝からテレビ見てんじゃない」って言われて消されてたから」
「何か面白い番組でもあるの?」
「まだやってないけど、もう直ぐ歌のお姉さんが出るんだあ~~」
そんな番組があるのか……
「学校に遅れなければ見ててもいいよ」
「うん、ありがとう」
満面の笑みを浮かべる和樹君。
ほんま、ええ子やわ~~
「光彦様、来週和樹君のお母様と美幸様が退院されてきます。その前に荷物を運んでもよろしいですか?」
楓さんが玄関でそう話しかけてきた。
「構わないよ。少しでも楓さんの仕事が減れば俺も嬉しいからね」
「そんなお気遣い頂かなくても~~」
クネクネしてる楓さんを見てはいけない。
「う、うん。行ってくるね」
「はい、お気をつけて」
楓さんに見送られて玄関を出ると、涼華と木葉が何やらコソコソと話している。
この2人が仲良さげに話すのは珍しい。
「何話してたの?」
「な、何でもないわよ!」
涼華さんや、いきなり怒らなくても……
「なあ、木葉、何の話?」
「内緒」
あれ‥‥もしかして俺、ハブられてる?
◇
学校に着くと、ところどころ絆創膏や包帯を巻いた井の頭君が、俺と目が合うと速攻で逸らされた。
何かをしたのは涼華であって俺は何もしてないのだが……
理不尽な思いを抱きながらも、自席につく。
周囲を見渡すと、涼華のところで吉祥寺君が何やら話しかけていた。
吉祥寺君は復活したのか……
俺はスマホを取り出し、ニュースでも読もうとしていると、隣の隣の席の男子、名前は忘れたが話かけられた。
「あの水瀬君、ちょっといいかな?」
「何かよう?」
「水瀬君はラノベとか読むんだよね?」
「ああ、まだ日は浅いけど家でラノベが解禁になったんだ。今は本を揃えているところかな」
「そうなんだあ、あのね、実は面白い本があるんだよ」
この男子は、共通の趣味を見つけた同士のように俺に接してきた。
「そうなんだ、どれかな?」
「え~~っとこれとか、これなんかいいよ。それに……」
延々と続くラノベトーク。
うん、わかるよ。
自分で面白いって思った作品を他の人に読んでもらいたい気持ち、ものすごくわかるよ。
この男子は、俺にネット小説を教えてくれた、植木職人の源ジイの弟子の三郎さんに似ている。
俺の知らない情報が、ラノベ好き男子から聞かされて思わずその情報に食いついた。
「本当にか!!」
俺は知らずに大声を出してたようだ。
クラスメイトがこちらを見ている。
「水瀬君、声が大きいよ」
「すまん、そういえば君の名前知らなかったよ」
「嘘、酷い……」
その男子は、山川 拓海君といい山とか川とか海とか自然が盛り沢山の名前だった。
先程、山川君から聞いた情報によれば『ニート転生~異世界行ったらマジやるっきゃない~』の作者のサイン会があるらしい。
この作品は最初に読んだ作品でもあり、この間ラノベ全巻を揃えたばかりだ。
「サイン欲しい」
だが、サイン会があるのは土曜日の午後から。
愛莉姉のパーティーと予定が重なる。
「僕も欲しいよ。この作者は普通サイン会は開かないから、これが表に出るのは初なんだ」
山川君は行く気満々だ。
「だが、予定が……」
「そうなんだ。残念だね」
山川君、残念という言葉は後悔の言葉。
死ぬかもしれない今の俺に後悔なんてしてられない。
「わかった。俺も行く。行ってサインを絶対もらう!」
「じゃあ、サイン会で会おうね」
山川君はそう言って自席に戻って行った。
そのあと重なった予定をどうこなそうかと脳みそを働かせたのであった。
◇
放課後、俺は珍しく菅原さん(ルナ)と一緒に下校している。
涼華と木葉は、買い物があると言って一緒に帰った。
「ルナ、今朝は参ったぞ、危うく楓さんに殺されそうになったしな」
「主人、面目ない。この不始末、主人の妾となり責任をとりますので」
正妻じゃなくて妾なんだ。
いや、そうじゃない!
「ルナ、責任の取り方違うと思う」
「では、正妻に」
「だから、何で嫁さんになる事限定なの?そうじゃなくてアイス奢ってくれるとか、そういうのがいいんだけど」
「まだ、肌寒い日があるという4月にアイスでありますか?私は好きなので構いませんが、結構冷えますよ」
学校帰りに買い食いなんてした事なかったから……アイスはラノベでは定番アイテムのはず。これで間違いない。
「主人がそう言うのであれば、奢るのは藪坂ではありませんが、女性は冷えると赤子が出来にくくなるとババが申してましたので、拙者はクレープの方が良いです」
おお、クレープも定番アイテムだ。
「俺もクレープで構わないぞ」
そして、俺とルナはクレープ屋さんに……
「なんで、ルナと牛丼食ってんだ、俺は?」
「主人、美味いですよ」
確かに美味いが、問題はそこじゃない。
あれから、クレープ屋さんを探したのだが、都合よく見つかるわけもなく、目の前にあった牛丼屋さんの前でルナのお腹が『ギュル~』と、鳴ったのでここに入ることになった。
「初の買い食いが牛丼なんて……」
俺が落ち込みながら食べてると、ルナが大盛りの紅生姜をつかんで俺の丼の中に入れた。
「拙者の気持ちです……」
訳がわからん!
まあ、美味いけど……
「良く大盛りを食べれるな?」
「お昼の時に油断しておりましたら、木葉殿におかずを大半食べられてしまいまして~~、その、お腹が減ってたであります」
自分の重箱の弁当では足りずに、ルナのおかずまで平らげるとは、木葉恐るべし……
「そういえば、数日内に霧峰の人が来るんだよね?」
「そう聞いております」
「どんな人かな、話しかけやすい人なら良いんだけど」
「霧峰の者は一風変わっておりますので、主人、あまり期待はしない方が身のためですぞ」
そういうルナも変わってるけど……
「確か霧峰の娘さんは、美鈴ちゃんと一緒にいるよね?」
「ええ、美里は桜宮家に配属されておりますので、護衛を兼ねて行動を一緒にしていると思います」
霧峰美里さんとは、中学生の時、学園で何度も話をしたことがある。
生徒会の会計でもあったしね。
「あの子は美鈴ちゃんにべったりだったよなあ~~」
俺が美鈴ちゃんと仲良く話をしていると睨まれた記憶がある。
「霧峰の者はその~性癖も変わっておりますので」
「ああ、そういうことなんだ。納得」
他人の恋路を邪魔するほど愚かなことはない。
それがどういう形であってもだ。
「わ、私は至ってノーマルですので」
何を言ってるのかな?
ここ、牛丼屋さんだよ。
他にもお客さんとか普通にいるから……
「そういうことは、二人だけの時にしような」
「ふ、二人きり……」
おい、箸が止まってるぞ!
牛丼を食べ終わる頃、突然、電話が鳴った。
スマホを見てみると涼華からだ。
『もしもし、どうした?』
『光彦君、大変なの!木葉が拐われた』
『えっ!?』
◆
俺は近藤直輝。
近藤商事グループのCEOが俺の祖父だ。
いずれ俺も近藤商事を引き継ぐ予定だったのだが、うちの海外の子会社が取引していた相手に粗悪品の物品を掴まされてしまい、投資した多額の資金回収がほぼ出来ない状態になった。その関系で株価が暴落し一気に経営が悪化してしまった。
その時に資金援助と称してうちに資金援助をしながら、陰でうちの株を買い占め、発言権も強大になったのが三橋恭也の父親だ。
そんな三橋恭也からある難題を吹っ掛けられていた。
それは、桜宮美鈴、三条智恵、この二人をいつもの遊びに加えることだ。
「はあ~~無理言うなよ」
ひとりで渋谷を歩きながら、近藤は大きなため息を吐く。
桜宮美鈴は、桜宮コンツェルンの総裁の娘だ。
それに三条智恵は、総理大臣を輩出したこともある家系で政界や官僚に大きな力を持っている。
「とてもじゃないけど、俺には手に余る」
何度も三橋君にはそう伝えた。
だが、彼は諦めるどころか「僕に相応しい」とか言ってくる。
頭がおかしいのではないかと真剣に考えてしまう。
妹の祐美は、今中学生。
同じ学園に通っている。
三橋君は脅すように俺の妹も遊びを加える、と言ってきている。
そんな妹が貴城院愛莉様のパーティーに呼ばれて喜んでいたのがこの間のことだ。
そんな妹を三橋君の毒牙にかけるわけにはいかない。
「俺はどうすれば……」
そうは言っても、三橋君と遊びと称して女子達を食い物にしてきた。
性欲を満たすために、自分も楽しんだのである。
この間のモデルの子は、薬が効きすぎて危うく死んでしまうところだった。口止め料として多額のお金を渡したが、このことがバレたら家から勘当されてしまう。
そのことで身の危険を感じて三橋君と距離を取ろうと思ったのだが、既に遅かった。
証拠の写真や動画はたくさんあるし、それに三橋君の父親に言われたらうちの会社も危ない。
「どこで間違えたんだ、くそっ!」
いくら嘆いても、時はすでに遅し。
もう、後には引けない状況だ。
「お兄さん、何かあった?」
ふと、考え事をやめて周囲を見渡すと、いつのまにか路地裏に入り込んだらしい。目の前にはフランス人形のような少女が立っていた。
「君、こんなところにいたら危ないよ」
「日本は、治安がいいから大丈夫」
流暢な日本語でその少女は答えた。
「そうは言うけど、危ないことはあるんだ。早く親御さんのところに戻った方がいい」
「ふ~~ん、お兄さんって親切なんだあ」
「それに君の抱いてるそのお人形はとても魅力的だし、誰かに攫われでもしたら大変だろう?」
「ミミ、私このお兄さん気に入っちゃった。ミミのこと魅力的だって言ってくれたし。そうだ、いいこと思いついちゃった」
流暢な日本語で話す少女は、悪戯っ子のように屈託のない笑顔を浮かべた。
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