この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜

涼月 風

文字の大きさ
16 / 71
第一章

第15話 倉庫での戦闘(2)

しおりを挟む



 庚  絵里香の前には、額に一本の大きな角が生えた真っ黒な身体の鬼がいた。

『うおおおおおお! 』

 その真っ黒な鬼は、倉庫が震えるほどの雄叫びをあげた。

「はははは、何という禍々しさ、何という力強さ。これだよ、これ。俺が求めて力は、わははは。我ら『紅の者』の蔵に眠っていた古文書を解読できたおかげだ。こいつは俺の物だ。見ていろ。今までバカにしてきた連中に一泡吹かせてやる。わはははは」

 おっさんは、その鬼を見て、嬉しそうな表情で語る。

「何という事だ……」

 これが鬼、今まで討伐してきたものとは全く違う……

「ほら、薬だ。たっぷりとくれてやる。俺の言うことを聞いてさえいればなぁ」

 おっさんは、鬼に向かって嬉しそうに話しかける。
 鬼も理解したのか、大人しくしていた。

「兄貴、凄いですねぇ。ちゃんと兄貴の言うこと聞いてますぜ」

 倉庫にいたおっさんの手下が、震えながら話しかけた。

「わははは。当たり前だ。この為に何人も犠牲にしてこいつに喰わせてやったんだからなぁ」

「何だって……狂ってる。この者達は狂っている」

「剣士の嬢ちゃん。何か言ったか? 今、俺は機嫌がいい。そうだ。嬢ちゃんに最後のチャンスをあげよう。俺は優しいからな」

「最後のチャンス? 」

「おい、剣を持ってきてやれ」

「へい」

 おっさんは、そこにいた部下に命じた。
 その部下は、奥から庚の剣を持ってきた。

 おっさんは、それを受け取り、庚の前に投げる。

「嬢ちゃんに選ばせてやろう。嬢ちゃんが勝てば自由にしてやる。負ければ、嬢ちゃんは、俺達の玩具だ。さあ、どうする? 」

 その場にいたおっさん達は、ニヤニヤとイヤらしく笑みを浮かべている。

「勿論、戦う。私は十家の庚家の長女だ。邪鬼を目の前にして黙っているわけにはいかない」

「そうこなくちゃなぁ。わははは。おい、拘束を外してやれ! 無駄な抵抗はするんじゃねぇぞ。逃げようとすればこいつがお前を狙ってるからな」

 命令された部下は、庚の拘束を解いた。
 手には拳銃が握られている。

「さあ、出番だ。あの女を殺さない程度にのしてやれ。褒美は、たくさんくれてやる」

 すると、鬼は、更に大きな雄叫びをあげて繋がれた鎖を引き千切った。

 庚は、剣を拾い上げ、鞘から刀身を引き出した。

「さあ、第1ランドと行こうか? 何分持つかな? わははは」

 おっさんの笑い声が倉庫に響き渡った。
 それが合図かのように鬼は先程引き千切った鎖を庚に叩きつけた。

『ガッシャッーーン』

 大きな音と共に粉塵が舞い上がる。
 庚は、剣を構えながらその攻撃を後ろに下がって避けた。

「おーースゲーー!!」

 おっさん達は鬼の力強さに歓声を上げた。

 庚は、この大きな鬼と対峙して分かった。
 鬼から発せられる穢れた妖気が大きくなっていくことを。

「このままでは、こいつは手が付けられなくなる……例え十家でも、敵う相手ではない……」

 目の前で対峙してるからこそ理解できる。

 庚は、無理とは分かっても襲いかかってくる鬼の両手から繰り出される鎖を避けながら、剣で捌き自分の間合いに入る。

 そして、庚流神霊術『無双剣』

 庚家に伝わる神霊術の1つ『無双剣』を発動した。
 この技は、1振りの剣で数本もの斬撃を浴びせられる剣技だ。
 庚家が全盛期の頃、1度の剣の振りで17連撃が可能だったと聞いている。
 だが、現在では、庚家当主でも5連撃が最高で、絵里香の場合は、調子が良い時に3連撃しか打ち出せなくなっていた。

 それでも、先祖から受け繋いだ剣技である。
 その威力は、普通の邪鬼なら相手にならない。

 だが……

「な、何故だ……」

 1振りで3連撃が打ち放たれた。
 庚 絵里香の全力だった。
 鬼に直接斬り裂いた感触がある。

 だが、その鬼は、無傷だった。





 ~少し前の事~

 倉庫を見渡せる土手の上で、倉庫から大きな雄叫びと振動を感じた。

「お兄、これって……」

「久々の上級みたいだな」

「私やりたい。お兄、代わってよ~~」

「今回は、庚 絵里香の邪鬼討伐を諦めさせるという目的もある。変更はナシだ」

「そんなぁ~~つまんない。つまんないーー! 」

 上級邪鬼でも陽奈なら問題なく単独で討伐できるだろう。
 俺が心配してるのは陽奈がやり過ぎて周辺を破壊尽くしてしまうのではないかという事だけだ。

「陽奈、今度の休みに高級レストランで食事を奢ってあげよう。お肉なんかものすごーーく柔らかくて口の中で溶けちゃう程だ。美味しいぞーー」

「うん、分かった。私、見張りをやっつけるね」

 即答だった。

 これは決して餌付けではない。
 教育だ……そう、絶対……多分……

「じゃあ、行きますか」

 陽奈の締まらない出陣の合図で、俺達は動き出した。





 一般人相手なら神霊術を使わなくとも気配を消すだけで相手に近寄れる。俺は、裏口を見張っていた2人に近づき気絶させた。

 気絶した2人の服を脱がしてパンツ一丁にして、拘束する。

 服の中にナイフや拘束を解く可能性がある金属を取り除く為と服の上から縛ると服の厚みで拘束が緩む可能性があるからだ。
 肌の直接食い込むように縛りあげれば抜け出す事は出来ない。

 服の中から拳銃2丁と弾薬が見つかった。
 ポケットと足の脛脇部分にナイフも仕込んであった。
 スマホの電源は落としておく。

 さて、陽奈はどうしたかな? 

~~~

 陽奈は、散歩する中学生を演じていた。

(お兄のように気配消して速攻で気絶させてもつまんないしね~~)

 逃げ出した猫を探している、か弱い? 女子中学生の設定だ。

「猫いないなぁ~~ニイニイ、ニイニイどこ行ったの? 」

 そう倉庫の前で声をあげてると、見張りの1人がニタニタしながら近づいてきた。

「何、ガキがこんなとこ彷徨いてんだあ? はあ? 」

「飼ってる猫が居なくなっちゃったの? お兄さん、見かけなかった? 」

 甘えるような顔で見張りの男性を下から覗き込む陽奈に、見張り役の20代前後の男は『ゴクリッ』と唾を飲み込んだ。

「そうか、猫を探してたのか、そう言えば倉庫の方で見かけたなあ。ニャーとかヒューとか鳴いてたぞ」

 見張りの男は、陽奈の可愛らしさに負けたようだ。
 あわよくば、手篭めにしようと思ったのだろう。

「それ、きっとニイニイだあ。お兄さん、案内して。お願い」

 ウルウルした瞳を輝かせて甘えるようにそう言うと、案の定、見張りの男は食い付いてきた。

「構わねーが、タダって訳にはいかねぇなぁ。俺も仕事があるしなあ」

「お金、そんなに持ってないよ~~」

「お金じゃなくっても、お前ならいろいろ支払う事が出来るぜ。何なら俺が教えてやろうか? 」

「本当? ありがとう。お兄さん」

「じゃあ、こっち来な」

 その見張りの後をトボトボと付いていく陽奈は、猫を探すフリをしながら見張りの様子を伺っていた。

 すると、少し年上の見張り役が、

「ヤス、何ガキ連れ込んでんだよ。今は、ダメだぞ」

「ああ、分かってますって。もうすぐ終わり見てぇだから、その後でちょっとつまむだけですよ」

 男の返事で年上の男は陽奈の容姿を確認した。

「ほぉ~~あとで俺にも回せよ」

「分かってますって……おい、こっちだ。こっちで猫の鳴き声がしたんだ」

 倉庫の裏手に回る建物の影に、その見張りは手を振りながら陽奈に合図していた。

 見張りの数は、5人。
 今は、全て陽奈の間合いだ。

(男って本当バカだよね~~こんな夜遅く普通の女子中学生が人気の無い場所に来るわけないのにね~~)

「あ~~あ、飽きちゃった。こんな簡単なのつまんない」

 そう言うや否や、陽奈は、直ぐ近くにいた男の首に蹴りを入れる。

「1人……」

 速攻でもう1人の男に回転して手刀を喉に撃ち込む。

「2人……」

 ダッシュで移動してジャンプし蹴りを顎にクリーンヒットさせる。

「3人……」

 ここで見張りがやっと陽奈の様子に気付く。
 胸に手を入れる間際に陽奈の拳がボディに食い込んだ。

「4人……」

 残りは、さっきの若い男だ。
 青い顔をしいる。
 一瞬の出来事で理解が追いつかないようだ。
 慌てた様子で拳銃を取り出そうとした時、陽奈は既にその男の懐に入っていた。
 見上げるようにその男に

「ねぇ、何を教えてくれようとしたの? 」

「お、お、お前は、何だ? 」

 陽奈にイタズラしようとしていた、先程の余裕は微塵も感じられない。

「はい、時間切れ~~」

 陽奈の拳がその男の顎を砕いた。

「1人づつ拘束するなんて面倒だなぁ~~そうだ! 」

 そこには、パンツ一丁になった5人の男が肌と肌を密着してまとまって縛り上げられていた。

「こうやって男同士で遊んでればいいんだよ。うぇ~~気持ち悪そう~~」

 その後で、陽奈は、倉庫の扉をそっと開けた。
 建物の中が何だか騒がしい。

「あっつ! 猫さんのお面被らなきゃ~~」

 そう陽奈は呟いた。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...