この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜

涼月 風

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第ニ章

第28話 施術

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 壬が住むマンションは、タワーマンションの25階分にある3LDKの部屋だ。
 2人きりで住むには広すぎる作りになっている。

「ここ座って」

 リビングのソファーに案内された俺は、夜景が見える最高の席に座らせてもらった。

「ここも、夜景が綺麗だな」

 俺達が住んでる茜さんのマンションも広さと眺望の良さは引けを取らない。
 叔母である茜のマンションには、邪鬼討伐のための色々な荷物が一部屋に詰め込んであった。
 普段は、職場の敷地内に寮もあり、仕事が立て込んでいる時はその寮に泊まっているようだ。
 俺達が引っ越して来るまでは、池フクロウのマンションは、贅沢にも倉庫がわりに使っていたようだ。

「ここ、綺麗」

 横にあるソファーに座り夜景に視線を固定させている壬は、どこか儚げだった。

「壬は、何でここに来たんだ」

「旦那様のお嫁さんになる為」

 迷いのない言葉で返された。

「会ったこともない俺の嫁さんになろうとしたのか? 」

「そう。お祖母様の命令だから」

 そのお祖母様と呼ばれる人物が元凶のようだ。

「そこに、壬の気持ちはあるのか? 」

「わからない。でも、嫌じゃない」

 そこに、清崎さんがお茶を運んできた。
 お茶菓子も付いている。

「壬家では、現当主龍子様の意見は絶対なのです。静葉様は幼少の頃から厳しく育てられました。勿論、龍子様の指導によってです。ですが、十家のどの家も神霊術の低下に悩まされていました。その中でも静葉様の威力は大きかったのです。その分期待も大きいのですが……」

「そうでしたか、俺も壬と同じで修行に明け暮れた日々を送って育ちました。先程の壬家の神霊術は見事という以外の言葉はありません。壬家はそれ以上の力を欲しているのですか? 」

「そういう事になります。ですから、霞様、静葉様の気持ちに応えてはくれませんか? 」

 言いたい事はわかる。だが、俺は『霞の者』だ。

「俺は『霞の者』です。邪鬼討伐に明け暮れて、いずれは野の屍となる身です。家庭を築き良き夫になれる自信がありません」

「それでも、構いません。静葉様にそのお情けを頂ければ、子を成して育てるのは我々が致しますゆえ……」

 今の時代では、可笑しくて笑ってしまう価値観だが、代々命に代えても受け継ぐものがある家には、重要な話なのだ。

「今は、返事は出来ません。でも、友人としてなら仲良くなりたいと思っています。家は違えど、俺と壬は、今まで研鑽し積み重ねてきたものに大差はないですから」

 そう答えると、壬は、俺に向かって

「壬、違う。静葉と呼んで欲しい」

「わかった。静葉、これでいいか? 」

「はい、旦那様」

 嬉しそうに答える静葉を見ていると、可哀想になってくる。
 時が来たら、壬現当主壬 龍子と会わねければならない。
 元凶はそいつなのだから……





 静葉のところで話し込んでいると、瑠奈から連絡が入った。
 内容はチラ見したが、ヤバそうなのですぐ帰る事にする。

「また、学校でな。それと、悪いが学校では目立ちたくないんだ。そこのところ理解してくれると助かる」

「わかった。そうする」

 俺は、静葉の家を出て、最終電車に駆け込み家に向かう。
 気配を消し、身体強化を使って走って帰ってもよかったのだが、瑠奈の監視がわかりやすい方が良いと判断しただけだ。

 つまり、やましい事は何もないアピールだ。

 池フクロウの駅に着くと、売店がまだ開いていた。
 俺は、お土産に甘栗を買って帰る。

 この時間まで、店が空いてるのは綺麗なお姉さんのいる店で酒を飲んだサラリーマン達が、家族にお土産を買う事で怒りを和らげる効果があるのかも知れない。

 俺、まだ16歳なんだけど……

 家に着くと陽奈達は既に帰っていた。
 駅で買った甘栗を渡すと反応は様々だ。

「私、ポップコーンが良かったな~~」By  陽奈
「甘栗、美味しいのはわかりますが、後で話があります」By  瑠奈
「甘栗買って帰る人、初めて見たわ」 By  麗華

 まぁ、何も無いよりは良しと判断しよう。

 で、甘栗を食べながら陽奈の話を聞いた。

「お兄、今日はねぇ~~出たんだよ。中級のリザードマンが。ボリボリ」

 甘栗って、そんな豪快な音出たっけ?

「そ、そうか良かったな」

「それでね。麗華さんが施術して欲しいんだって」

「施術!? もしかして、目か? 」

「そうなの。陽奈ちゃんから聞いたんだけど、見えるようになるの? ポリポリ」

 甘栗、そんな乾いた音したっけ!? 

「素質にもよりますが、十家の血を受け継いでいる麗華さんなら見れるようになると思いますが、一度で見えるようになったら元には戻せませよ」

「それで構わないわ。だって、みんなの役に立ちたいんだもの。ポリポリ」

 面白半分ではなさそうだ。だが……

「見えるようになると、邪鬼だけでなく霊も見えてしまいますよ。良いのですか? 」

「霊って幽霊の事よね? 」

「ええ、慣れないうちは、幽霊と現実の人間の区別が判断しづらいです。経験を積めば、慣れてわかるようになるのですけど……」

「問題ないわ」

「後一つ注意があります。邪鬼や霊は見える人間に近寄ってきます。邪鬼は、その魂を啜る為、霊は現在の状態から脱したい為、つまり、助けて欲しい、浄化されたいというわけです」

「うん、覚悟はできてる」

「わかりました。それなら壬に護符を作ってもらいましょう。それを持ってれば、無闇に近寄ってこないでしょうから」

「護符って、お守りみたいなもの? 」

「そうです。ただ、普通のお守りでしたらそんな力はありません。神霊術が扱えて、代々神職の家庭で育った壬なら効果のある護符を作成できるでしょう」

「みんなは持ってるの? その護符とか」

「『霞の者』の俺達には必要ありません。近寄ってきた時点で討伐してしまいますから」

 すると、陽奈が、

「麗華さん、小さい頃から拳法を習ってるんだって。なら、あの武器が使えるんじゃないかな? 」

「そうだな」

 俺は麗華さんの頼みで、目の施術を行った。
 横になって仰向けに寝る麗華さんの顔の目の部分に手を当て俺の神霊術を発動する。
 目が金色に光り、その俺の体に未知のエネルギーが湧き出す。
 俺は、それを麗華さんの目を覆っている手の部分に集中させると、麗華さんが薄い金色の膜が覆う。

 ほんの数秒の事、その膜は消えて無くなり施術は終わった。

「麗華さん、終わりました。目を開けて下さい」

 麗華はそっと目を開ける。
 特に変わった様子はない。

「ねぇ、これでお終い? 何も変わらないみたいだけど」

「いいえ。流石、十家の血筋です。軽い神霊術も使えそうですよ」

 確かに麗華には素質があった。
 それもかなり特別な素質だ。

 この施術は、俺の神霊術を相手の身体に流し込む作業だ。
 直接、目に手を当てたのは、目の発現を高くする為だった。
 他の神霊術は、その本人の素質による。
 俺は体内で眠っていた神霊術の素を活性化させたに過ぎない。

 だが、それはあえて言わない。
 訓練なしで使える程、神霊術は甘くない。

「良かったねぇ。麗華姉さん」

 陽奈は嬉しそうに話す。
 瑠奈も戦力が増える事に、安心した様子だ。

「俺も手伝うけど、陽奈、麗華さんにあの武器が使えるように指導してあげてくれる? 」

「いいよ」

 陽奈がそう言って持ってきたのは、手にはめる鉄鋼鉤と言われるものだ。
 両手に着ける事によって、甲の部分にある4本の短い剣で相手を突き刺したり、手刀のように振るえば斬ることも出来る使い勝手の良い武器だ。

『霞の者』の武器には特殊な加工が施してある。
 それは、邪鬼相手でも通用する秘術だ。

「これ着けるの? 」

 麗華さんは、それを手に着けて具合を確かめていた。

「足の部分に着ける奴もあるからね」

 陽奈は嬉しそうにそう言う。

「ええ、わかったわ。陽奈ちゃん後で教えてね」

 麗華さんは、何故か嬉しそうな顔をしていた。

 それは、陽奈の地獄の訓練が始まるまでだったが……



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