この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜

涼月 風

文字の大きさ
38 / 71
第ニ章

第37話 飯塚 早苗

しおりを挟む


 結城 莉愛夢からメッセージが届いた。
 内容は、飯塚 早苗が話したい事があるから病院に来てくれという内容だった。

 部活が終わり、市ヶヤの病院に行く。

 正直言って、関わりたくない。
 これ以上の面倒事はたくさんだ。
 だが、これが最後という思いで足は飯塚 早苗が入院している病室に向かう。

『トントン』

 軽めにノックすると、中から結城が現れた。
 その時、何か手土産を持参すべきだったかと思ったが、もう、遅い。
 何も持って来なかった俺は、少し入りずらい気持ちになる。

「霞君、来てくれたんだ。私、何か飲み物買ってくるから、早苗とお話ししてあげて」

 結城は、俺と入れ替わりに部屋を出て行った。

 その病室は、個人部屋だった。
 それもかなり豪勢な作りだ。

「いい部屋だな」

 俺の第一声がそれだ。

「こっちに来なよ。霞」

 何故だが、呼び捨てにされる俺は、そんな小さな事は気にしていない。

「俺に話って何だ? 」

 飯塚は、まだ、顔色が悪いが、前よりだいぶ良くなったと思う。
 そんな飯塚が俺を見つめて

「私を助けてくれたんだって? 」

「たまたまだよ」

 その時、飯塚は抑えてた感情をあらわにした。

「何で助けたのさ! 」

 その声は震えており、大きな声は病室に響き渡った。

「死にたかったのか……そうか、悪い事をしたな」

「そうだよ。私は死にたかったんだ。何で邪魔した。何で私を助けた!! 」

 薬のせいでこうなっているとは思えない。
 これは、飯塚の心の叫びだ。

「理由はない。ただ、目の前で死なれるのが面倒だっただけだ」

「霞! お前がいなければ、私は楽になれたんだ。楽に……」

 死んで楽になりたかったようだ。

「飯塚、お前が死んで悲しむ人がいるだろう? 何で死にたかったんだ? 」

「私が死んでも誰も悲しまない。そんな奴は一人もいないよ」

「爺さんと婆さんと一緒に暮らしていると聞いたが? 」

「あの人達は、こんな私を厄介者のように見ていた。私が死んだら清々するだろうさ」

 どの家にもどの人にも事情がそれなりにある。
 俺は、それについて何か言うつもりはない。

「で、俺をここに呼び出したのは文句を言う為か? 」

「そうだよ。霞に一言言わなければ腹の虫が治らなかったんでね」

 随分、自分勝手な奴だ。
 本当、大概にしてほしい。

「そうか、じゃあ用事はもう済んだんだな」

 俺は、帰ろうとすると飯塚が声を上げた。

「おい、霞。お前は知ってたのか? 」

「何をだ? 」

「私が、赤ん坊を下ろした事だよ」

「知ってたよ。でも、結城から聞いたわけではない。俺には優秀な情報網がある。たまたま、そいつから聞いただけだ」

「薬の事もか? 」

「ああ、そうだ。で、俺がそれを知ってたとして何か問題でもあるのか? 」

「いや、問題はないさ。全部、自分のしでかした事だ」

「そうか、じゃあ、用事はもう済んだんだな。俺は行く」

 飯塚は何か悔しそうに口を閉ざした。
 そして、おもむろに語り出してしまった。

「私は、好きでもない男と何度も寝た。薬は怖かったから最低限に抑えた。でも、売り上げが少ないと何度も殴られ脅された。だから、私は体を売って金の足しにしたんだ。私は汚い女だ。穢れているんだよ。だから、死にたかったんだ。それなのに、霞。お前が……」

 随分好き勝手な事を言ってくれてるな……

「飯塚、お前は随分、狭い世界で生きてんだな」

「どう言う事だ。狭い世界って何だよ! 」

「お前の考えは、学校、家、そして塾やその他。この近辺だけしか世界がない。お前が、抜け出そうとしたら、どうなった? 身内を人質にでもされていたのか? お前が、もし海外にでも行っていれば、追いかけてきたのか? 何故、警察や色々な人に相談しなかった。飯塚、お前は、自分で自分の世界を狭めていたんだよ。つまり、ガキなんだよ。考えも行動も全てがな」

「煩い! 煩い! 煩い! 黙れよ、霞。そう言うお前はどうなんだ。そんなに偉そうな事が言えるのかよ」

「少なくとも飯塚よりは広い世界を持っている。だが、説教を垂れる程とは言えないがな」

 睨んでいる飯塚の目は、少し赤くなっていた。

「何だ。お前も同じなのか……つまり、霞もガキって事さ」

「そうだな。まだ16歳だ。ガキはガキらしく生きて行くさ。飯塚みたいに大人の真似して生きていくには、俺には、まだ、背負い込む覚悟がないからな」

「私だけじゃない。大人ぶっているのは沢山いる」

「そうだろうな。興味を持つ事は悪い事じゃない。だが、それを実行するには覚悟が必要となる。飯塚のそれがいい例だろう? もし、飯塚が学生ではなくきちんと働いていて、好きな人の赤ちゃんを授かったのなら下ろさずに済んだかもしれない。興味や好奇心だけでは、今の俺達にはその代償は荷が重すぎるんだよ。まあ、一方的な強制によるものなら、そんな綺麗事言ってられないがね」

「お前は、何なんだよ。学習準備室で誘惑しても乗ってこない。私のパンツを見てもときめかない。お前はロボットか何かなのか? 」

「感情ほど危険なものはない。だが、感情ほど素敵なものもない。もし、俺がそうなっても良いと思える時が来たらそれが俺の童貞を捨てる時期だよ。一時の感情でグラつくぐらいなら、それは本物ではないからな。俺は、そういう本物が欲しいんだ」

「一生、童貞でいろっ! そして魔法使いにでもなるんだな! 」

「それは、素敵な事だ。俺は魔法を使ってみたい」

「何だそれ、霞、お前は変だぞ」

「ああ、そうかもな。だが、一つだけ気になったので言っておく。飯塚、お前の身体は、汚れが着くと落ちない特殊体質の持ち主なのか? 」

「はあ!? 何言ってるんだ? 」

「さっき、汚いと言っただろう。だから、汚れがついたら落ちない、そう言う体質なのかと思ってな。聞いてみた」

「そんな訳あるわけないじゃん!」

「じゃあ、その穢れは身体の事じゃない。心が穢れたと思ってるんだな」

「…………そうかもね」

「心の穢れは直ぐには落ちない。だが、考え方次第で直ぐにでもなくなるものだ。それは、飯塚本人しかわからない事だ。直ぐには落ちないのか、それとも直ぐに落とせるのかは、だ」

「…………」

「さっき、死にたいと言ったが、急がなくとも自然とその時期が来る。それは、明日かもしれないし、80年後かもしれない。俺達の未来は1秒先もわからない。だから、今が大事なんだよ。俺は、この間、初めて美味いラーメンを食った。何度でも食いたいと思ったよ。だから、俺はその為に今を生きる。死んだら食えないからな」

「霞、お前、変だよ。お前が入院した方がいいよ」

「確かに、そうかもな。でも、美味いラーメン食っただけで人はそう思えるんだよ。誰もがと言うわけではないが、考え方で変わるんだ」

「ああ、そうかもな。霞と話してると何だか全ての事がバカらしくなってくるよ」

「退院したら、そのラーメンを奢ってやろう。俺が朝刊配達したバイトの金でな。美味いぞ! 」

「ラーメンか……美味いラーメン食ってみたいかも……」

「そうか、期待しておくんだな。またな」

「ああ……」

 俺は病室を出て行く。
 ドアの外には、結城がいた。
 目に涙を溜めている。

「心配するな。あいつは大丈夫だ」

「……うん」

 俺は、そのまま病院を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...