インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

文字の大きさ
16 / 89

第16話 始まりの花火

しおりを挟む



お屋敷を出て歩いて駅まで向かう。
何時もは雫姉や聡美姉が駅まで送ると言って聞かないのだが、今日は歩きたい気分だったので丁重に断った。

昨夜は散々な日だった。
結局、リリカは屋敷に泊まることになった。
リリカの部屋の女子大生が亡くなった部屋の上に住むのは怖いらしい。

犯人の山本総司は、その女子大生の部屋に置き去りにされた。
そして、警察に連絡して殺人事件の犯人として逮捕されたようだ。
置き去りにした時に、精神に障害が残るような薬を打ち込んだみたいで、意味不明な話を繰り返す事しかできなかったそうだ。

念の為に聡美姉が藤宮本家に連絡を入れて俺達やリリカ達に影響が及ばないように警察やマスコミに手配してもらったようだ。

ホテルから屋敷に帰ると珠美はもう寝ていた。
一緒に留守番してたはずの樫藤穂乃果という女性は、一度も姿を見せなかった。
ただ、屋敷には気配があったので、居たことは事実なのだが……

それと『FG5』の件だが、事件が解決したので用済みのはずだったが、反響が大きくて逆にチャンスと思ったらしく事務所の社長が謎のサブマネージャーとして手伝って欲しいと、蓼科さんから言われた。

他の人に頼めばいいのに、と思ったが聡美姉が勝手に引き受けてしまった。
でも、いつもというわけではなく、忙しくて手が回らない時だけ、という条件を取り付けたようだが。

そんな昨日を過ごして、みんな疲れていたようなので、気を利かして駅まで歩いているのだ。

駅がもう直ぐというところで背後から声をかけられた。

「カズキ、待ってよ~~」

「リリカ、お前何してんだ?タクシーで行くと言ってただろう?」

リリカも学校の制服を着ている。
大きな眼鏡をかけてマスクをし、それと髪の毛は三つ編みにしている。

「タクシーで来たわよ。カズキが見えたから降りたの。何か問題ある?」

「問題あるだろう?見つかったらどうするつもりなんだ?」

「だって、この格好でバレた事無いもの。カズキも私だとわからないでしょう?」

昨夜の一件以来、リリカは俺の事をカズキと呼び捨てにするようになり、俺に対する当たりも柔らかくなった。
というか、少し距離が近い。

「そうだな」

確かに一眼見ただけではリリカとわからない。
でも、それが俺と一緒にいる理由にはならない。

「今日の放課後から夏の武道館ライブの本格的なレッスンが始まるんだ。カズキも学校終わったら来るでしょう?」

「今日は行かない。俺がいたらみんなの稽古の邪魔になるだろうしな」

「え~~っ、サブのくせに良いわけ?」

「昨日の今日では不味いだろう?リリカの会社の前でもきっとマスコミが張ってるぞ。サブマネージャーの正体は誰か、ってな」

「私は平気よ。他のメンバーも気にしてないわ」

「俺が気にするんだよ。それに今日は会社のレッスン室でレッスンだけだろう?俺がいても邪魔にしかならないよ」

「カズキって変わってるよね。普通ならあのストーカーお兄さんほどではないけど、私達と一緒にいる方を選ぶと思うけど」

「選ばないよ。そんなリスクのある選択なんか」

「だからカズキは変わってるのよ。私はその方が良いけど……」

「何か言ったか?」

「べ、別に何でもないわよ!ふん」

俺達は歩きながらそんな話をして改札を抜ける。
この前より早い時間なので沙希に会う事はないだろう。

ホームに降りて電車に乗り込むと、ターミナル駅に到着した。

リリカは人混みの中で立ち止まり、俺に話しかけてきた。

「私はこっちだから。それと、美柑の事なんだけど……メンバー全員で美柑のお墓参りに行くことにしたの。夏の武道館が終わるまで行けないけど、みんなで話し合ったんだ……だからね、その‥‥ありがとう」

「そうか、みんなに話せたのか。良かったな、リリカ」

「う、うん、じゃあね」

「ああ」

リリカは別の路線の電車に乗って行った。

良い笑顔、するじゃないか……

顔は隠れているけど、リリカの笑顔は俺にもわかった。
そうか、墓参りに行くのか……

俺は俺を庇って亡くなったお祖父さんとお祖母さん、そして賢ちゃんの事を思い出していた。





俺も何時もの電車に乗り込もうとしたら、背後に視線を感じた。

付けられてる?

背後を注意深く確認するも視線の主は見つからない。

プロか……しかも相当な腕の持ち主だ。

学校最寄りの駅に到着しても、その視線は消えていない。
駅から歩いて並木道を歩いてる時もふと気がつくと視線を感じる。

俺はおよその見当が付いてたので、この件はそのまま放置した。
学校に到着しても視線が消えなかったので、予想は確信に変わった。

珠美と留守番してくれてた樫藤穂乃果だと……

しかし、凄い腕だ。
プロでも気付くのはそんなにいないのではないか、というくらい隠密に長けている。

俺は、結局姿を視認する事ができず、その視線の持ち主が2年A組にいる事だけは確認できた。

早い時間に登校した為、来てる学生は数人だ。
俺はいつものように席について本を読み出した。

徐々に増えていくクラスメイト達。
そんなクラスメイトが話す事は『FG5』のサブマネージャーの事だ。
ネットでは、何人かが写真付きで特定されている。
勿論、俺では無い。

「この男子が有力だよな。スポンサーの息子で長嶋優也。あの長嶋製薬の社長の息子だもんな。イケメンだしメンバーも既に喰われているかもな~~」

朝からそんな下衆な話をするとは……

「衣装の着替えとか、好き放題見れるんじゃねえ?いいなあ、せめてミミカ様が食べる時に使った割り箸とか、もらえねぇかなぁ」

はあ、そんなものもらって何に使うんだ?
それに着替え中に覗きはできない。
着替え中は部屋から追い出されてジュースの買い出ししてるんだよ。

周囲の話が俺に直結してるので、本の内容は頭に入ってこない。

「東藤君、おはよう」
「ああ、おはよう」

挨拶してきたのは鴨志田結衣。
俺と同じ美化委員だ。

「東藤君、今日は委員会がある日だよ。覚えてる?」
「そうだった。放課後集合すればいいんだろう?」
「そう、集合場所は何時ものところだからね」

今日は美化委員の清掃活動がある日だった。
すっかり、頭から抜けていた。

校舎周囲のゴミ拾いという地味な活動だが、短時間で結構なゴミの量になる。
綺麗に見えて意外とゴミは落ちてるものだ。

改めて考えると、このクラスで俺に話しかけてくるのはこの子だけだな。
殺そうとして、聡美姉に笑われたっけ……

俺は再び本を読み始めた。
周りが煩くなってきたが集中してると、スマホのバイブが鳴っている。
俺はスマホを取り出して内容を確認する。
聡美姉からだ。

~~~~~

「放課後悪いんだけどタマちゃんの幼稚園にお迎えに行ってくれる?私も雫姉も都合がつかなくてさ。お願い」

「いいよ。でも美化委員の活動があるから少し遅れるかも、放課後だいたい1時間ぐらいで終わる」

「わかった。少し遅くなるって連絡しとくね。場所はここだよ」

~~~~~

メッセージにURLが貼り付けてあった。
クリックすると珠美の通ってる幼稚園のホームページが出てきた。
アクセスを確認してスマホをしまう。

「おはよーー」

大きな声で挨拶をして教室に入って来たのは鈴谷羅維華。
その後に続くように立花光希も教室に入って来た。

「光希、鈴谷さんと一緒に登校か?お熱いなぁ」

そう話しかけたのは新井真吾。

「登校が一緒の時間になっただけだ。羅維華とはそんな関係じゃない」

そんな光希の声が聞こえた。
この2人はクラスの中心的な存在なのだろう。
教室が一際騒がしくなる。

俺と同じように1人で席に座っているのは6人程。
2人は女子で後は男子だ。
みんなスマホを操作している。

こんな風に教室を確認するのは編入して来た時以来だ。
俺はふと窓の外を見る。
視線を感じたからだ。
だけど、樫藤穂乃果の感じじゃない。
もっと、ドロドロした感じの……俺がテロ組織にいた時のような……

その時、校舎から見えるグランド脇にある用具を入れてある小屋が爆発した。

突風が窓ガラスを揺らす。
小屋があった場所から黒煙が立ち上る。

「キャーーッツ」

「何だ?何が起きたんだ?」

「おい、グランドの用具置き場が吹き飛んでるぞ」

みんなが窓際に集まり、外の様子を見始める。
俺は、みんなとは逆に廊下に出た。

もし、俺が狙いなら直接ここにくるだろうから……

生徒はスマホを片手に窓際に集まっている。
廊下に出ているのは俺だけだ。

階段を上がって2年生のフロアーにやってくる者がいる。
その者は、廊下で俺の視界に入った。

俺とそいつは学校の廊下で対峙してしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...