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第四章(フォネスト視点)
25.五年前のあの日
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フォネストはターネルに足早に近づいた。
「……ターネルさん。少しお時間、いただけますか?」
「ん?君は、マリシュの……?」
「はい。フォネスト・ダーニスです。……マリシュのことでお聞きしたいことがあって」
「それは構わないけど、マリシュは……?今日はお一人で?」
フォネストは目を見開いた。
(もしかしたら、知らないのか……?)
「あの……マリシュは……」
フォネストは伝えるにも言葉がうまく出てこなかった。その様子を見たターネルは「こっち……」と人目のない場所へと移動した。
「ごめん、何か話しづらそうだったから、周りに人がいないほうがいいと思って」
「……すみません、ありがとうございます」
「それで、聞きたいことって?」
「……マリシュの行方が分からないこと、知っていますか?」
「は?マリシュが?いつから?」
「五年前からです。ターネルさんが、何か知っていることがあるかなと思いまして……」
ターネルは言葉に詰まらせ、何かを思い出している様子だった。
「……マリシュと最後に会った日。……様子がおかしかった気がする」
「え?詳しく教えてください!」
フォネストは身を乗り出した。
「……確か、今の領地に引っ越す直前で、ちょうど五年くらい前だったと思う……そうだ!急に訪ねてきて、文献がほしいって!」
「……文献?」
「あれだよ!『祝福の森』の文献!俺は『祝福の森』の文献集めが趣味なんだ!」
『祝福の森』の話は、マリシュから聞いたことがあった。マリシュの故郷・カルネス領に古くから伝わる伝説だと。
「……どうしてマリシュが」
「俺も聞こうとしたんだけど、あまりにも焦った様子だったから聞くに聞けなかったんだよ」
「焦っていたんですか?」
「普段だったら人にあげたりしないけど、あまりにも慌てているから思わずあげちゃったんだよな。しかも俺に金貨をたくさん渡そうとしてきてさ」
「……金貨をですか?」
「そう、お礼にだって。……もちろん断ったけど」
金貨を渡してまで欲しかった情報って何だろう。
「……俺、今ここから遠い領地に住んでいるんだ。帰ってきたのも結構久しぶりで。言い訳になるけど、マリシュの失踪のこと本当に知らなかったんだ。俺がこのこともっと早く話していれば……フォネスト君、本当にすまない」
ターネルは深々と頭を下げた。
「そんな、頭をあげて下さい。……俺、ずっと手掛かりを探していたんです。今日、初めて一歩近づけた気がします。お礼を言わせて下さい」
「お礼なんていらないからさ、今度俺の家に遊びに来てよ。マリシュと二人でさ。喜んで歓迎するよ」
ターネルはそう優しく微笑んだ。
◇
フリルにも礼を告げ、フォネストは会場をあとにした。
そして、ダリスにも事情を話し相談すると、第三騎士団の騎士たちに相談するのがいいという。
「第三騎士団に所属している騎士は、カルネス領の出身者も多いんだ。拠点がカルネス領と近いからな。だから『祝福の森』について詳しい者が多いと思うぞ」
「……そうなのか。……うん、聞いてみる」
「よかったら俺が仲介役するぞ。フォネストは、第三騎士団の所属になってからまだ日が浅いし」
「……助かる」
そこから、ダリスと共に情報収集を始めた。
ダリスの助けもあり、カルネス領出身の同僚であるファルゴに話を聞くことができた。
「『祝福の森』?そりゃもちろん知ってるぜ。カルネス領の常識ってもんよ!なんでそんなこと調べてるんだ?」
「……俺の番の行方が分からなくて。手がかりがそれしかないんだ」
「そうだったのか……それなら話すより早い方法があるぜ」
「……早い方法?」
「第三騎士団の文献保管庫って、知ってるか?」
ファルゴは、二人を『文献保管庫』へと案内してくれた。
「文献保管庫ってのは、第三騎士団が管理する保管庫なんだ。この地域の文献が多く集まってて、騎士だけじゃなくて一般の領民でも出入りできるんだ。もちろん、騎士と比べて制限とかはあるけどね」
そう言って、ファルゴは閲覧記録をパラパラと捲った。
「領主とかお偉いさんが使うとか聞いたことあるけどな。あ、ほら。これ、俺の故郷の領主の息子の名前だよ」
ファルゴがそう言ってある一つの名前を指さす。
そこには──
『マリシュ・ダーニス』
と書いてあった。
「……ターネルさん。少しお時間、いただけますか?」
「ん?君は、マリシュの……?」
「はい。フォネスト・ダーニスです。……マリシュのことでお聞きしたいことがあって」
「それは構わないけど、マリシュは……?今日はお一人で?」
フォネストは目を見開いた。
(もしかしたら、知らないのか……?)
「あの……マリシュは……」
フォネストは伝えるにも言葉がうまく出てこなかった。その様子を見たターネルは「こっち……」と人目のない場所へと移動した。
「ごめん、何か話しづらそうだったから、周りに人がいないほうがいいと思って」
「……すみません、ありがとうございます」
「それで、聞きたいことって?」
「……マリシュの行方が分からないこと、知っていますか?」
「は?マリシュが?いつから?」
「五年前からです。ターネルさんが、何か知っていることがあるかなと思いまして……」
ターネルは言葉に詰まらせ、何かを思い出している様子だった。
「……マリシュと最後に会った日。……様子がおかしかった気がする」
「え?詳しく教えてください!」
フォネストは身を乗り出した。
「……確か、今の領地に引っ越す直前で、ちょうど五年くらい前だったと思う……そうだ!急に訪ねてきて、文献がほしいって!」
「……文献?」
「あれだよ!『祝福の森』の文献!俺は『祝福の森』の文献集めが趣味なんだ!」
『祝福の森』の話は、マリシュから聞いたことがあった。マリシュの故郷・カルネス領に古くから伝わる伝説だと。
「……どうしてマリシュが」
「俺も聞こうとしたんだけど、あまりにも焦った様子だったから聞くに聞けなかったんだよ」
「焦っていたんですか?」
「普段だったら人にあげたりしないけど、あまりにも慌てているから思わずあげちゃったんだよな。しかも俺に金貨をたくさん渡そうとしてきてさ」
「……金貨をですか?」
「そう、お礼にだって。……もちろん断ったけど」
金貨を渡してまで欲しかった情報って何だろう。
「……俺、今ここから遠い領地に住んでいるんだ。帰ってきたのも結構久しぶりで。言い訳になるけど、マリシュの失踪のこと本当に知らなかったんだ。俺がこのこともっと早く話していれば……フォネスト君、本当にすまない」
ターネルは深々と頭を下げた。
「そんな、頭をあげて下さい。……俺、ずっと手掛かりを探していたんです。今日、初めて一歩近づけた気がします。お礼を言わせて下さい」
「お礼なんていらないからさ、今度俺の家に遊びに来てよ。マリシュと二人でさ。喜んで歓迎するよ」
ターネルはそう優しく微笑んだ。
◇
フリルにも礼を告げ、フォネストは会場をあとにした。
そして、ダリスにも事情を話し相談すると、第三騎士団の騎士たちに相談するのがいいという。
「第三騎士団に所属している騎士は、カルネス領の出身者も多いんだ。拠点がカルネス領と近いからな。だから『祝福の森』について詳しい者が多いと思うぞ」
「……そうなのか。……うん、聞いてみる」
「よかったら俺が仲介役するぞ。フォネストは、第三騎士団の所属になってからまだ日が浅いし」
「……助かる」
そこから、ダリスと共に情報収集を始めた。
ダリスの助けもあり、カルネス領出身の同僚であるファルゴに話を聞くことができた。
「『祝福の森』?そりゃもちろん知ってるぜ。カルネス領の常識ってもんよ!なんでそんなこと調べてるんだ?」
「……俺の番の行方が分からなくて。手がかりがそれしかないんだ」
「そうだったのか……それなら話すより早い方法があるぜ」
「……早い方法?」
「第三騎士団の文献保管庫って、知ってるか?」
ファルゴは、二人を『文献保管庫』へと案内してくれた。
「文献保管庫ってのは、第三騎士団が管理する保管庫なんだ。この地域の文献が多く集まってて、騎士だけじゃなくて一般の領民でも出入りできるんだ。もちろん、騎士と比べて制限とかはあるけどね」
そう言って、ファルゴは閲覧記録をパラパラと捲った。
「領主とかお偉いさんが使うとか聞いたことあるけどな。あ、ほら。これ、俺の故郷の領主の息子の名前だよ」
ファルゴがそう言ってある一つの名前を指さす。
そこには──
『マリシュ・ダーニス』
と書いてあった。
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