閃光少女 荒野のヴァルチャー

天涯クゼイ

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第10話 決意

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二か月後。



白い陽光が真上から降り注ぎ、補給基地のコンクリートを白々と照らしていた。
格納庫には兵器群が並び、徹底的に整備された車両や砲塔が無骨な光沢を放っている。油の匂いと鉄のきしみが空気を重くし、作業兵たちの動きには一切の無駄がなかった。

兵士たちの顔は険しく、誰もが黙々と準備を進めている。クロエとライルが近隣の基地を次々と壊滅させているという報せはすでに広まり、「次はここだ」との噂が兵士たちの胸を締めつけていた。サイレンはまだ鳴っていない――だが、鳴るのは時間の問題だと誰もが知っていた。

その張り詰めた空気の中、ひときわ目を引いたのは、筋肉を刻むように鍛え上げられた二人の姿だった。

カイの顔つきは、以前よりも引き締まり、鋭利な線を刻んでいた。かつてのへらへらとした雰囲気は消え、今のカイは一振りの刃のように無駄のない鋭さをまとっていた。削ぎ落とされた頬の陰影と、射抜くような視線が、彼の変化を物語っていた。

そして横に立つボリスは、別人のように痩せ、厚みを残したまま背筋が伸び、身長まで高く見えるほどだった。


ラビは両手を腰に当てて、しげしげと二人を眺める。


「……ほんとさ、最近毎日一緒にいるから気づきにくかったけど――あんたら、変わったよねぇ」

彼女の声には、からかい半分、感心半分が混じっていた。

そこへ作業着姿のアレクセイが現れ、額の汗を拭いながら工具箱を床に置いた。


「おまたせ、兄ちゃん、カイさん、ラビさん。完成したヴァルヘッド、今から出すね」

彼は深く息を整えると、格納庫の奥へ消えた。やがて低く唸る重いエンジン音が鳴り響き、鉄と油の匂いが辺りに充満する。
緊張した面持ちでハンドルを操るアレクセイが、巨大な車体を慎重に格納庫から滑り出させてきた。太いタイヤがコンクリートを噛み、響き渡る振動が床板を伝って三人の足元を揺らす。

やがて陽光の下に姿を現した瞬間、アレクセイは軽くアクセルを煽り、腹の底に響くような重低音を誇示するように轟かせてから停止させた。
ドアを開けて降りてきた彼は、工具箱を拾い上げ、荒い息を吐きながら告げた。

「……本当に、地獄の毎日だったよ。正直、何度投げ出そうと思ったかわからない……でも、やりきった。やっと完成したんだ」

その背後にそびえるのは、二代目ヴァルチャー――《ヴァルヘッド》。
農耕馬を思わせる無骨なフレームの後部荷台には重機関銃が鎮座し、追加装甲、通信アンテナ、数々の電子機器が無骨に取り付けられている。機能と力強さをそのまま形にしたような存在感は、まさに「戦場を駆ける獣」の再来だった。

ラビがぱっと目を輝かせ、軽やかに荷台へ飛び乗った。
据え付けられた重機関銃の銃身をバンバンと叩き、満面の笑みを浮かべる。

「やっべぇ!これ、戦争映画でよく見るやつだ!これなら敵の車列なんか、一瞬で蜂の巣だな!……ってか、私これ専属で撃たせてもらっていい!?」


「おい、そこは……俺の席だ」

見上げるボリスの表情は、からかいながらも、しかしどこか譲れないものを秘めていた。

ラビは「えーっ!? ちょっとくらい触らせてよー!」と唇を尖らせるが、仕方なく銃座から降りる。その様子にアレクセイが思わず笑いを漏らした。

ボリスは重々しい足取りで荷台へと上がり、据え付けられた重機関銃のグリップに手を添える。大柄な体がそこに収まった瞬間、まるで機体の一部が本来の場所に戻ったかのようにしっくりと馴染んだ。

その光景を少し離れた場所から見ていたカイは、静かに頷き、口元にわずかな笑みを浮かべた。

「……いいな」

満足そうに呟いたその声は、仲間と共に新しい“牙”を手に入れた実感を噛みしめるようだった。


その瞬間だった。

――ウゥゥゥウウウッッッ!

警告灯が赤く点滅し、鋭いアラートが基地に鳴り響く。
モニターに接近する敵の車両が映し出された。

ボリスが目を見開き叫ぶ。

「敵襲だ! 黒い突撃車……! あいつらだ!」

整備員や兵士たちが慌ただしく走り回る中、カイは迷わず運転席に飛び込みエンジンをスタートさせた。


「レナが帰ってきてねぇ……だが仕方ない。出るぞ!」

カイがアクセルを踏み込もうとした――その時だった。

一機の友軍ヘリが着陸のため高度を下げながら旋回して近づいてきた。


そこから黒い影が飛び降りる。風を裂き、流星のように落ちるその姿。

やがて轟音と共に、ヴァルヘッドのボンネットに着地した。


「――レナ!!」


その場にいた全員が、驚愕に目を見開いた。

彼女は二か月前の面影を残しながらも、まるで別人のように変わっていた。

腕は太く力強くなり、胸や肩の厚みも増し、サイズアップされた全身が服越しに迫力を放っている。纏う軍服はその変貌に追いつけず、生地が張り詰め、縫い目がきしむほど膨れ上がった肉体を必死に覆っていた。

彼女の持つ荷電粒子砲も以前のものより二回りは大きく、重量感を増していた。

レナはボンネットの上に静かに立ち、風に髪をなびかせながら、短く、しかし力強く言葉を放った。

 「……選択をしたわ。一度は射撃の精密性を磨こうとしたけど、違った。私に必要なのは膂力(りょりょく)だったの。撃ち抜くための力よ」

そして、わずかに頬を赤らめながら後ろを向いた。


「あと……私のビジュアルについては触れないで」

その瞬間、突風に煽られてスカートが翻った。
ちらりと覗いた布地は、以前よりもずっと小さく、鋭利な形をしており、まるで彼女自身が迷いを断ち切り、覚悟を形にしたかのような潔さを帯びていた。

――色々な意味で、彼女は帰ってきた。
そして仲間と共に、再び戦場を駆け抜ける覚悟を決めたのだ。

誰も口には出さなかった。だが、その光景こそが彼女の「けつい」を何より雄弁に物語っていた。


「…………っ!」


一拍遅れて、アレクセイが顔を真っ赤にし、鼻を押さえた。

ラビは腹を抱えて爆笑し、ボリスは目を逸らして頭を掻く。
カイだけは苦笑しつつも、レナに助手席に乗り込むように親指でジェスチャーをした。

その視線を受けて、レナは耳まで真っ赤に染め上げ、両手でスカートの裾を押さえながら、そさくさとヴァルヘッドに乗り込んだ。

「~~っ……もう……忘れて。見なかったことにして……!」


「――全員、準備はいいな。行くぞ」

カイの声に、仲間たちはそれぞれ息を整える。

新たな戦場の幕が、ここに開こうとしていた。

    
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