閃光少女 荒野のヴァルチャー

天涯クゼイ

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第12話 群体

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二台の獣が、砂塵を裂き、轟音を残して同時に飛び出した。
レナは荷電粒子砲を構え、閃光を放つ。
弾は敵車両をかすめ、直撃はしなかった。しかし――。

「っ……!」

地面が爆ぜ、砂と岩盤を削り取った衝撃で敵車両の足回りがぐらりと揺れる。
その上に仁王立ちするクロエが、薄く笑みを浮かべて声を放った。

「すごい威力ね……だが、まだ甘い!」

すかさず銃弾の雨を浴びせる。

その瞬間、ヴァルチャーを包む電磁誘導ディフレクターが即座に反応した。
弾丸が次々と接触の瞬間に軌道を歪められ、装甲に触れるより先に弾かれていく。火花が散り、弾道の全てが虚空へと逸らされる様は、まるで見えない盾に守られているかのようだった。
それは、かつてボリスがアレクセイからお守り的に持たされていた粗削りな試作版とは別物だった。
以前のものは過負荷に弱く、一瞬の持続で機能を焼き切る危うい代物。だが今は違う。
何度もの改良を経て、磁場の発生効率と干渉制御は飛躍的に向上し、粒子銃弾から徹甲弾に至るまで広範囲の弾種に対応できるようになっていた。
クロエは眉をひそめ、舌打ち混じりに吐き捨てた。

「チッ……厄介なオモチャを持ってるじゃない。ライル、もっと踏み込んで!懐に入り込んで潰す!」

その声に応じ、敵車両がタイヤを軋ませ急加速。
砂塵を巻き上げながら蛇のように鋭く切り込み、ヴァルチャーとの距離を一気に詰めていった。

「ドローン射出――喰らいつけ!」

ボリスの合図で、ヴァルチャーのハッチが重々しい音を立てて開き、二機のドローンが勢いよく飛び出した。
鋭い軌道を描きながら敵車両へ襲い掛かる。ライルは即座に車両を跳ねさせて衝突を回避させたが――ドローンは離れない。

アクセルを踏み込み、蛇行で揺さぶる。砂を巻き上げ、タイヤを悲鳴のように鳴らしながら進路を乱す。
だが追尾の速度はそれ以上で機械仕掛けの執念のごとく、間合いを縮めていった。
レナが狙いを定め、粒子砲を再び発射。青白い閃光が走り、敵車両の足元の地面を抉る。車体は再び傾き、かろうじてハンドルを切るライルの腕力だけで持ちこたえた。

「チッ…追尾型か……フレアで撒くぞ」

ライルがレバーを叩き込み、車両の側面からフレアが散布される。
閃光と熱源が空に弾け飛び、陽炎のような残像が敵車両の上空を覆った。
しかし、ドローンは一瞬も揺らがない。幻惑を完全に無視し、真正面から車体を追い続ける。

「……動体感知でも、熱源感知でもない……!?」

ライルの目が見開かれた。通常のセンサーなら確実に欺瞞されるはずの手が通用しない。
ボリスの唇が吊り上がり、声を漏らした。低く、しかし誇らしげな響きを帯びて。

「ふん……こいつらは俺の“ゴーグルが補足している敵”を追う。――視線を外さない限り、逃げ場はねえ」

次の瞬間、クロエの銃口から閃光が走り、ドローンの一台に命中した。
炸裂音と共にドローンは空中で弾け飛び、破片と火花を撒き散らしながら砂塵の中へ消えていった。
だが、まだ終わらない。
もう一台のドローンは怯むことなく、執念の塊のように敵車両へ迫り、一直線に突っ込む。
ライルがハンドルを切り、必死に回避を試みる。だが無駄だった。
瞬間、鋭い衝突音が響き、ドローンの機首が敵車両の前輪に突き刺さった。次いで、爆ぜるような衝撃。

「ぐっ……!」

タイヤが粉々に吹き飛び、車体全体が制御を失う。金属が悲鳴を上げ、巨大な鉄の塊は横滑りしながら道路を抉り取った。
バランスを失ったまま、敵車両は蛇行し、砂煙を撒き散らしつつ必死に加速を維持しようとする。
だが――そこに影のように現れる人馬一体の車両。
砂煙を切り裂き、エンジンの咆哮と共に、ヴァルチャーがドリフトで背後に回り込んだ。
その機体は重戦車のような質量を誇りながらも、獣の俊敏さで獲物の死角へと滑り込んでいく。

「今だ、レナ!」

カイの声が、戦場に響き渡った。
呼応するように、レナは迷いなく粒子砲を構える。
その瞳はただ一点、敵車両を射抜いていた。
青白い光が砲口に集束し、轟音を伴って放たれる。
閃光が戦場を貫いた。
直撃――。
耳を裂く爆音と共に、敵車両は粉砕された。
厚い装甲は瞬時に焼き切られ、内部から爆発が連鎖し、炎と破片が青空に舞い上がる。
轟音は雷鳴のように響き渡り、爆炎の中で残骸がゆっくりと崩れ落ちていく。
その光景は、まるで巨獣が断末魔の咆哮を上げて倒れるようだった。



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黒煙が渦を巻き、燃え残る金属が赤く脈打ちながら軋む。
 その光景を前に、ヴァルチャーの車内は沈黙に包まれていた。

「……やったか!?」

 ボリスが低く呟く。
だが次の瞬間――残骸の中から、異様なざわめきが響いた。
グチュ……ズチュ……。

炎を舐めるようにして、黒い粒子の奔流が這い出してくる。
 一つひとつは砂粒にも満たない微細な機械。だが、それらが集まり、うねり、形を成していく。無数のナノマシンが意思を持ったかのように蠢き、車両を包み込むように対流を起こしていた。

「なっ……!?」

ボリスの目が見開かれる。
弾け飛んだ装甲の表面にも群れがまとわりつき、焼け焦げた金属を次々と覆っていく。まるで無数の蟻が獲物を食い尽くすかのように。
溶けた鉄と泥が混ざり合ったような粘性の群体が、残骸から這い出し、ドロドロと地を這う。

「……っ、動いてる……生き物みたいに……」

レナの声が震えた。
黒い粘流はまるで祟り神の触手のように地面を滑り、崩壊したはずの車両のシルエットを引きずりながら前進する。
金属片や瓦礫を巻き込み、表面からは時折、鋭い突起や触腕が突き出しては消えていく。
それはもはや車両ではなく、戦場そのものを喰らい尽くす異形の“塊”だった。

「……冗談だろ。あれ、もう兵器の範疇じゃねぇ……」

カイが呻き、ハンドルを強く握る。
砂塵の中で、黒い群体は咆哮するかのように広がり、ヴァルヘッドを狙って触手を伸ばしてきた。

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