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第18話 歓声
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「……なにこれ、でっか。」
スタジアムに足を踏み入れた瞬間、レナが思わず声を漏らした。
視界いっぱいに広がるコースは、まるでビル群の谷間を思わせるほど巨大だった。
観客席は波打つように何層にも積み重なり、金属と光の海がうねっている。
エンジン音と歓声が、地面の振動とともに空気を震わせている。
頭上には、いくつもの巨大な電光掲示板が宙に浮かぶように設置されていた。
各モニターには、レースのコースマップや出走チームのデータ、そして過去の爆発シーンまでもがリプレイされている。
ホログラム技術で作られた立体広告が空間を漂い、エネルギードリンクやビールのロゴが観客席の上に投影されていた。
「これが“アイアン・スラスト・レース場”か……」カイが呟く。
ボリスが笑う。
「めちゃくちゃ有名だぜ。重火器使用OK、追突も破壊も全部ルール内。死人も出るが賞金は億単位だとか。」
レナは腕を組み、コースの方を見つめる。
「……面白そうじゃない。出場するからには優勝狙いたいわね。」
数日前ーーー
整備ドックの奥、モニタールーム。
アレクセイとカイが大型モニターを前にしていた。
画面にはレースコース上の車両が、炎に包まれて停止している映像が映し出されている。
「これが、三日前の“アイアン・スラスト・国王杯”のレース映像だ。」
彼は静かに言った。
「出走していた車両が、レース中に行方不明になり、次にコース上に現れた時には制御不能状態でその後、大爆発。運転手たちは即死だった。」
カイが腕を組む。
「事故じゃないのか?」
「これが問題なんだ。」
アレクセイが映像を拡大する。
「車体に付着していた残骸を解析したら、未知のナノマシンの残骸が出たそうだ。――しかも、以前みんなが対峙した“あの型”と酷似している。」
空気が一瞬、凍りついた。
カイが小さく息を吐く。
「つまり、レース出場者にライルやクロエに関係してる奴が紛れているってことか?」
アレクセイは無言で頷いた。
「あと、このレース、“主催者”の名前が伏せられている。絶対に裏がある。」
カイはしばらくモニターを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「なら――出るしかないな。あいつらの痕跡が、本当にここにあるのか確かめる為には。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
轟音と光の渦の中、スタジアム全体が一斉に暗転した。
一拍の静寂――そして、爆音のような歓声が沸き起こる。
“LADIES AND GENTLEMEN――ッ!”
声が空気を震わせた。
司会の男がステージ中央に立ち、銀色のマイクを高く掲げる。
派手なスーツ、金属質のヘッドセット、背後には無数のドローンカメラ。
「ようこそ! 第72回《アイアン・スラスト・グランプリ》へ!
命知らずの挑戦者たちが、鋼と炎の栄光を賭けて集結した!」
歓声が再び爆発する。
観客席の一部では紙吹雪が舞い、ホログラムの火花が空に弾けた。
司会はその勢いのまま続ける。
「本日のコースは全長――140キロメートル!
スタジアムを飛び出し、市街地を抜け、荒野をぐるりと一周して、再びここへ帰ってくる周回コースだ!」
大画面にはコース全体のホログラム地図が浮かび上がる。
曲がりくねる高架、崩れた廃工場地帯、砂嵐の荒野――すべてが照明の下で光を放っている。
「そしていつものルールのおさらいだ!」
司会が指を鳴らすと、コース上に浮かぶ小型ホログラムアイテムの映像が映し出された。
「コースの各所にランダムで出現する“ホログラム・アイテム”を通過すると――
一定確率で“当たり”が出る!」
「“当たり”を引いたマシンは――10秒間だけ、他車への重火器での攻撃が許可される!
ただし!それ以外の重火器の使用は即・失格!ルールを破れば賞金も名誉も、一瞬で吹き飛ぶ!」
スタジアムの照明が一段と明るくなり、司会がマイクを掲げた。
「――それでは皆さまお待ちかね!
本日の出走台数は20台ッ!だがここから紹介するのは、この《アイアン・スラスト・グランプリ》を象徴する上位ランカーたちだぁ!」
観客席から爆音のような歓声。
ドラムロールとともに、ステージ奥のシャッターが順に開いていく。
「まずはこのチーム!秩序と法の番人にして、暴走を取り締まる――
パトカー《ジャスティス・ブレーカー》!」
青と赤のサイレンが閃き、車体のスピーカーが叫ぶ。
『俺たちが正義だ! 違反者は、即・検挙!』
警官服の男女ペアが立ち上がり、観客に敬礼。
女の方は手錠をくるくる回し、男はショットガンを構える。
「続いては、灼熱のヒーローコンビ!火を消すのではなく、燃やし尽くす業火の鬼ッ!
消防車《ブレイズ・エンジェルス》!」
真紅の車体が滑り出し、伸縮梯子を上空に展開。
次の瞬間――消化ホースの先から炎が轟音とともに吹き上がる。
火炎の中、耐熱スーツの男女がポーズを決め、観客席を熱狂させた。
「さらに続くは、人命救助から命懸けの走りへ――救急車《メディック・クライシス》!」
白赤の車体のドアが開き、白衣の男が登場。
背後から二人の看護師が現れ、医療バッグを抱えて微笑む。
スピーカーからは冷ややかな声。
『ライバルは全員、緊急搬送だ。生きてゴールできたら奇跡だな。』
「そして最後のランカーは……闇を駆ける静寂の使者!死と祈りを運ぶ――霊柩車《デス・キャレッジ》!」
漆黒の車体に金無垢の装飾が施された霊柩車が静かに現れる。
屋根の上に立つのは、シスター服の女と巫女装束の女。
二人が同時に十字を切り、囁くように言った。
『土葬、火葬、鳥葬、なんでもお任せあれ。』
スタジアムが一瞬静まり返り――
次の瞬間、爆発的な歓声と拍手が渦を巻いた。
ライトが明滅する中、レナは腕を組み、淡々と答えた。
「全員キャラが濃すぎて……胸焼けしそう。」
カイがヴァルヘッドの計器を確認しながらつぶやく。
「この中に、ライル達に関係する奴が紛れてるかもしれないな。」
ボリスが肩をすくめ、鼻で笑った。
「どいつもこいつも怪しすぎて、むしろ全員関係者に見えるけどな。」
司会は最後にマイクを振り上げ、満面の笑みを浮かべた。
「――これが、《アイアン・スラスト・グランプリ》だ!エンジンを鳴らせ、命を賭けろ!観客の皆さん!まもなく出走だが、準備はいいかぁあああッ!」
スタジアム全体が揺れた。
光、音、熱気――すべてが戦いの幕開けを告げていた。
スタジアムに足を踏み入れた瞬間、レナが思わず声を漏らした。
視界いっぱいに広がるコースは、まるでビル群の谷間を思わせるほど巨大だった。
観客席は波打つように何層にも積み重なり、金属と光の海がうねっている。
エンジン音と歓声が、地面の振動とともに空気を震わせている。
頭上には、いくつもの巨大な電光掲示板が宙に浮かぶように設置されていた。
各モニターには、レースのコースマップや出走チームのデータ、そして過去の爆発シーンまでもがリプレイされている。
ホログラム技術で作られた立体広告が空間を漂い、エネルギードリンクやビールのロゴが観客席の上に投影されていた。
「これが“アイアン・スラスト・レース場”か……」カイが呟く。
ボリスが笑う。
「めちゃくちゃ有名だぜ。重火器使用OK、追突も破壊も全部ルール内。死人も出るが賞金は億単位だとか。」
レナは腕を組み、コースの方を見つめる。
「……面白そうじゃない。出場するからには優勝狙いたいわね。」
数日前ーーー
整備ドックの奥、モニタールーム。
アレクセイとカイが大型モニターを前にしていた。
画面にはレースコース上の車両が、炎に包まれて停止している映像が映し出されている。
「これが、三日前の“アイアン・スラスト・国王杯”のレース映像だ。」
彼は静かに言った。
「出走していた車両が、レース中に行方不明になり、次にコース上に現れた時には制御不能状態でその後、大爆発。運転手たちは即死だった。」
カイが腕を組む。
「事故じゃないのか?」
「これが問題なんだ。」
アレクセイが映像を拡大する。
「車体に付着していた残骸を解析したら、未知のナノマシンの残骸が出たそうだ。――しかも、以前みんなが対峙した“あの型”と酷似している。」
空気が一瞬、凍りついた。
カイが小さく息を吐く。
「つまり、レース出場者にライルやクロエに関係してる奴が紛れているってことか?」
アレクセイは無言で頷いた。
「あと、このレース、“主催者”の名前が伏せられている。絶対に裏がある。」
カイはしばらくモニターを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「なら――出るしかないな。あいつらの痕跡が、本当にここにあるのか確かめる為には。」
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轟音と光の渦の中、スタジアム全体が一斉に暗転した。
一拍の静寂――そして、爆音のような歓声が沸き起こる。
“LADIES AND GENTLEMEN――ッ!”
声が空気を震わせた。
司会の男がステージ中央に立ち、銀色のマイクを高く掲げる。
派手なスーツ、金属質のヘッドセット、背後には無数のドローンカメラ。
「ようこそ! 第72回《アイアン・スラスト・グランプリ》へ!
命知らずの挑戦者たちが、鋼と炎の栄光を賭けて集結した!」
歓声が再び爆発する。
観客席の一部では紙吹雪が舞い、ホログラムの火花が空に弾けた。
司会はその勢いのまま続ける。
「本日のコースは全長――140キロメートル!
スタジアムを飛び出し、市街地を抜け、荒野をぐるりと一周して、再びここへ帰ってくる周回コースだ!」
大画面にはコース全体のホログラム地図が浮かび上がる。
曲がりくねる高架、崩れた廃工場地帯、砂嵐の荒野――すべてが照明の下で光を放っている。
「そしていつものルールのおさらいだ!」
司会が指を鳴らすと、コース上に浮かぶ小型ホログラムアイテムの映像が映し出された。
「コースの各所にランダムで出現する“ホログラム・アイテム”を通過すると――
一定確率で“当たり”が出る!」
「“当たり”を引いたマシンは――10秒間だけ、他車への重火器での攻撃が許可される!
ただし!それ以外の重火器の使用は即・失格!ルールを破れば賞金も名誉も、一瞬で吹き飛ぶ!」
スタジアムの照明が一段と明るくなり、司会がマイクを掲げた。
「――それでは皆さまお待ちかね!
本日の出走台数は20台ッ!だがここから紹介するのは、この《アイアン・スラスト・グランプリ》を象徴する上位ランカーたちだぁ!」
観客席から爆音のような歓声。
ドラムロールとともに、ステージ奥のシャッターが順に開いていく。
「まずはこのチーム!秩序と法の番人にして、暴走を取り締まる――
パトカー《ジャスティス・ブレーカー》!」
青と赤のサイレンが閃き、車体のスピーカーが叫ぶ。
『俺たちが正義だ! 違反者は、即・検挙!』
警官服の男女ペアが立ち上がり、観客に敬礼。
女の方は手錠をくるくる回し、男はショットガンを構える。
「続いては、灼熱のヒーローコンビ!火を消すのではなく、燃やし尽くす業火の鬼ッ!
消防車《ブレイズ・エンジェルス》!」
真紅の車体が滑り出し、伸縮梯子を上空に展開。
次の瞬間――消化ホースの先から炎が轟音とともに吹き上がる。
火炎の中、耐熱スーツの男女がポーズを決め、観客席を熱狂させた。
「さらに続くは、人命救助から命懸けの走りへ――救急車《メディック・クライシス》!」
白赤の車体のドアが開き、白衣の男が登場。
背後から二人の看護師が現れ、医療バッグを抱えて微笑む。
スピーカーからは冷ややかな声。
『ライバルは全員、緊急搬送だ。生きてゴールできたら奇跡だな。』
「そして最後のランカーは……闇を駆ける静寂の使者!死と祈りを運ぶ――霊柩車《デス・キャレッジ》!」
漆黒の車体に金無垢の装飾が施された霊柩車が静かに現れる。
屋根の上に立つのは、シスター服の女と巫女装束の女。
二人が同時に十字を切り、囁くように言った。
『土葬、火葬、鳥葬、なんでもお任せあれ。』
スタジアムが一瞬静まり返り――
次の瞬間、爆発的な歓声と拍手が渦を巻いた。
ライトが明滅する中、レナは腕を組み、淡々と答えた。
「全員キャラが濃すぎて……胸焼けしそう。」
カイがヴァルヘッドの計器を確認しながらつぶやく。
「この中に、ライル達に関係する奴が紛れてるかもしれないな。」
ボリスが肩をすくめ、鼻で笑った。
「どいつもこいつも怪しすぎて、むしろ全員関係者に見えるけどな。」
司会は最後にマイクを振り上げ、満面の笑みを浮かべた。
「――これが、《アイアン・スラスト・グランプリ》だ!エンジンを鳴らせ、命を賭けろ!観客の皆さん!まもなく出走だが、準備はいいかぁあああッ!」
スタジアム全体が揺れた。
光、音、熱気――すべてが戦いの幕開けを告げていた。
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