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第24話 傾いた天秤
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「ラビ!」
カイが叫ぶ。
「ちょい来い、耳貸せ!」
包囲が狭まる中、エリスは急いでヴァルヘッドの運転席そばへ身を寄せた。カイは素早く囁く。ラビはわずかに目を見開き、次いで乾いた笑いを漏らす。
「……お前ってやつはさ。悪知恵の鬼だな、ほんと。」
カイは口元だけで笑い返す。
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
──同時刻、グラウンド・グリムの内部。
青白いパネルの明滅がギデオンの横顔に影を落とす。リタはコンソールに視線を滑らせていた。
ギデオンは舌打ちを混じらせて言う。
「このまま攻めてもね……またエリスに邪魔されるかもしれない。先に潰すべきはヴァルヘッドじゃなく“あいつ”だと思わない?乗ってるスナイパーも豆鉄砲みたいなもんだし」
リタはつまらなさそうに頷いた。
「…そうだね。」
「じゃ、決まりだね。」
ギデオンが指を弾く。グラウンド・グリムの回転中心が、ゆっくりとエリスへ向け直される。
──その瞬間。
ヴァルヘッドの屋根にラビがよじ登り、叫んだ。
「いくぞぉぉ!」
「準備完了っ! シールド展開!」
ボリスの声。エリスはヴァルヘッド搭載の電磁フィールドを全開にした勢いに乗り、屋根から飛び出した。身体が光を纏い、まっすぐ上空へ駆け上がり、急降下した。
「エリス必殺っ……かかと落としッッ!!」
ギデオンの口元が歪む。グラウンド・グリムは頭部ユニットを最大限に伸ばし、口腔ユニットを大きく開いた。エリスを丸呑みにする軌道だ。
だが、エリスの脚が巨大な顎へ突き刺さる。まるで“つっかえ棒”のように、上顎と下顎を固く止めた。ギデオンは勝ち誇って言葉を放つ。
「そのまま噛み砕いてあげるよ、さよな──」
言いかけて、彼の笑みは凍りついた。助手席にいるのはミラではない。金髪を揺らして立ち上がるその影に、ギデオンは言葉を失う。
「……レナ!? いつ入れ替わった!?」
屋根に飛び乗ったエリスのわずかな死角で、ミラとレナの位置はすり替わっていたのだ。レナが顎を上げる。粒子砲の銃口が、開いたまま動けないグラウンド・グリムの口腔内に正確に向けられる。
「くらいな。」
轟光。
荷電粒子砲が口腔へ乱射され、内部構造が蒸発するように崩壊した。逃げ場のないエネルギーは節の連結を内側から破壊し、装甲を裏側から溶かす。
金属の悲鳴にも似た音が鳴り、節と節の間で火花が竜巻のように散った。連結ケーブルが千切れ、推進ローターは逆回転して火花を散らす。内部回路が焼け落ちるたびに、蛇の胴体が一節ずつ“死んでいく”。
最初の爆光から、わずか十数秒。だがその十数秒は、グラウンド・グリムにとって永遠の死刑宣告だった。
やがて──巨体は内部支柱を失った建造物のように崩れ落ちる。節装甲は花のようにしなだれ、中心のコアが露出して青白い煙を吐いた。熱風が吹き荒れ、瓦礫が蒸気の柱に包まれる。最後に一度だけ、胴体が痙攣した。――そして、完全な沈黙。
エリスが着地する。煙の中、ラビとレナが大きく手を上げ、ハイタッチを交わす。
「イエーーーーイ!」
ボリスは天を仰ぎ、笑った。
「うっそだろ……あんな化け物、倒したのかよ!」
カイは笑いながらアクセルを踏み込む。
「悪知恵も、使いどころ次第ってことさ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
グラウンド・グリムの残骸がまだ赤く燻る。瓦礫の山の向こうで、丸い透明の球体がゆっくり浮上した。巨大なシャボン玉に羽根が生えたような脱出ポッド、その中にギデオンとリタが収まっている。ギデオンは肩をすくめて言った。
「いやぁ……今回はやられたよ。偵察用の“小型”じゃ、荷が重かったね。」
ポッドの背面で、昆虫の羽のようなブレードが回転し、ふわりと高度を上げる。ギデオンはのほほんと続けた。
「次は“本来の大型”で遊びに来るから、楽しみにしててよ。」
カイが前へ出る。
「一つ訊く。お前の組織はなんで俺たちを狙う?」
ギデオンは少し真顔になり、答える価値を値踏みするように間を置いた。
「……がんばったご褒美に、少しだけ教えてあげるよ。君たちは戦場において強大すぎるんだ。バランスが壊れる。“戦争が長く続いてほしい人たち”がいる。僕らのパトロンだ。」
「時には強者を挫き、時には弱者に加勢して、戦場の均衡を調整する。それが僕らの任務だ。“傾いた天秤”は困る人たちがいるんだよ。」
ポッドはさらに上昇を始める。ギデオンが両手を振ると、リタも無表情のまま軽く手を振った。その小さな姿は戦場に似つかわしくなかった。
レナは眉を寄せ、腕を組む。
「……何あれ。あんな小さい子まで連れ回して、何考えてんの?」
ミラが静かに続けた。
「“子ども”だからこそ、利用価値がある……そう判断する組織もあります。」
ボリスが舌打ちする。
「胸糞悪いな。」
エリスがヴァルヘッドの影に駆け寄る。ラビが低く呟く。
「……次こそ、逃がさねえ。絶対に。」
カイは拳を固く握りしめ、遠ざかるポッドを見上げた。
「……ああ。次に会うとき、必ず終わらせる。」
ーーー 第一部 完 ーーー
カイが叫ぶ。
「ちょい来い、耳貸せ!」
包囲が狭まる中、エリスは急いでヴァルヘッドの運転席そばへ身を寄せた。カイは素早く囁く。ラビはわずかに目を見開き、次いで乾いた笑いを漏らす。
「……お前ってやつはさ。悪知恵の鬼だな、ほんと。」
カイは口元だけで笑い返す。
「褒め言葉として受け取っとくわ。」
──同時刻、グラウンド・グリムの内部。
青白いパネルの明滅がギデオンの横顔に影を落とす。リタはコンソールに視線を滑らせていた。
ギデオンは舌打ちを混じらせて言う。
「このまま攻めてもね……またエリスに邪魔されるかもしれない。先に潰すべきはヴァルヘッドじゃなく“あいつ”だと思わない?乗ってるスナイパーも豆鉄砲みたいなもんだし」
リタはつまらなさそうに頷いた。
「…そうだね。」
「じゃ、決まりだね。」
ギデオンが指を弾く。グラウンド・グリムの回転中心が、ゆっくりとエリスへ向け直される。
──その瞬間。
ヴァルヘッドの屋根にラビがよじ登り、叫んだ。
「いくぞぉぉ!」
「準備完了っ! シールド展開!」
ボリスの声。エリスはヴァルヘッド搭載の電磁フィールドを全開にした勢いに乗り、屋根から飛び出した。身体が光を纏い、まっすぐ上空へ駆け上がり、急降下した。
「エリス必殺っ……かかと落としッッ!!」
ギデオンの口元が歪む。グラウンド・グリムは頭部ユニットを最大限に伸ばし、口腔ユニットを大きく開いた。エリスを丸呑みにする軌道だ。
だが、エリスの脚が巨大な顎へ突き刺さる。まるで“つっかえ棒”のように、上顎と下顎を固く止めた。ギデオンは勝ち誇って言葉を放つ。
「そのまま噛み砕いてあげるよ、さよな──」
言いかけて、彼の笑みは凍りついた。助手席にいるのはミラではない。金髪を揺らして立ち上がるその影に、ギデオンは言葉を失う。
「……レナ!? いつ入れ替わった!?」
屋根に飛び乗ったエリスのわずかな死角で、ミラとレナの位置はすり替わっていたのだ。レナが顎を上げる。粒子砲の銃口が、開いたまま動けないグラウンド・グリムの口腔内に正確に向けられる。
「くらいな。」
轟光。
荷電粒子砲が口腔へ乱射され、内部構造が蒸発するように崩壊した。逃げ場のないエネルギーは節の連結を内側から破壊し、装甲を裏側から溶かす。
金属の悲鳴にも似た音が鳴り、節と節の間で火花が竜巻のように散った。連結ケーブルが千切れ、推進ローターは逆回転して火花を散らす。内部回路が焼け落ちるたびに、蛇の胴体が一節ずつ“死んでいく”。
最初の爆光から、わずか十数秒。だがその十数秒は、グラウンド・グリムにとって永遠の死刑宣告だった。
やがて──巨体は内部支柱を失った建造物のように崩れ落ちる。節装甲は花のようにしなだれ、中心のコアが露出して青白い煙を吐いた。熱風が吹き荒れ、瓦礫が蒸気の柱に包まれる。最後に一度だけ、胴体が痙攣した。――そして、完全な沈黙。
エリスが着地する。煙の中、ラビとレナが大きく手を上げ、ハイタッチを交わす。
「イエーーーーイ!」
ボリスは天を仰ぎ、笑った。
「うっそだろ……あんな化け物、倒したのかよ!」
カイは笑いながらアクセルを踏み込む。
「悪知恵も、使いどころ次第ってことさ。」
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グラウンド・グリムの残骸がまだ赤く燻る。瓦礫の山の向こうで、丸い透明の球体がゆっくり浮上した。巨大なシャボン玉に羽根が生えたような脱出ポッド、その中にギデオンとリタが収まっている。ギデオンは肩をすくめて言った。
「いやぁ……今回はやられたよ。偵察用の“小型”じゃ、荷が重かったね。」
ポッドの背面で、昆虫の羽のようなブレードが回転し、ふわりと高度を上げる。ギデオンはのほほんと続けた。
「次は“本来の大型”で遊びに来るから、楽しみにしててよ。」
カイが前へ出る。
「一つ訊く。お前の組織はなんで俺たちを狙う?」
ギデオンは少し真顔になり、答える価値を値踏みするように間を置いた。
「……がんばったご褒美に、少しだけ教えてあげるよ。君たちは戦場において強大すぎるんだ。バランスが壊れる。“戦争が長く続いてほしい人たち”がいる。僕らのパトロンだ。」
「時には強者を挫き、時には弱者に加勢して、戦場の均衡を調整する。それが僕らの任務だ。“傾いた天秤”は困る人たちがいるんだよ。」
ポッドはさらに上昇を始める。ギデオンが両手を振ると、リタも無表情のまま軽く手を振った。その小さな姿は戦場に似つかわしくなかった。
レナは眉を寄せ、腕を組む。
「……何あれ。あんな小さい子まで連れ回して、何考えてんの?」
ミラが静かに続けた。
「“子ども”だからこそ、利用価値がある……そう判断する組織もあります。」
ボリスが舌打ちする。
「胸糞悪いな。」
エリスがヴァルヘッドの影に駆け寄る。ラビが低く呟く。
「……次こそ、逃がさねえ。絶対に。」
カイは拳を固く握りしめ、遠ざかるポッドを見上げた。
「……ああ。次に会うとき、必ず終わらせる。」
ーーー 第一部 完 ーーー
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