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特別な夜
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「……ルーフスさんと一緒にいられる日々を僕もずっと願っていました。ルーフスさんのことが好きです。これからは恋人として一緒にいてください」
「っ! 賢者様……」
魔法の光で照らされたルーフスさんの顔に驚きが広がり、次に喜び、切なさが浮かぶ。僕も同じような顔をしているのだろうなと思った。
焦がれる想いを抑えきれず、僕はルーフスさんの手を取る。籠手の感触は硬く冷たいけど、素手で握りあいたいわけじゃない。ルーフスさんの手を取れることが嬉しかった。
幸せを携え見つめあっていると、ルーフスさんが何かに反応する。顔を向けた先を見ると人の気配がした。
「ルーフス、ここにいたのか……ヒロナ? そなたも一緒だったとは」
「殿下。祭を陛下とお楽しみになっていらっしゃるのでは……」
バルコニーにやって来たのはロズア王子だった。
確か今夜は空中庭園から陛下と祭を楽しむ予定だったはず。「少し時間ができたのだ」と口にしながら王子は近づいてきた。
しかしすぐに、こちらへ歩いていた足が止まる。重なる僕らの手に目が向けられた。
「っ、そなたら、ついに……!」
目を見開いた王子の顔に満面の笑みが広がる。王子にこの気持ちを気づかれているだろうとは思っていたが、想像以上の喜びようだった。
祝福されるのは嬉しくもあり、照れで気恥ずかしくもある。
「そうかそうか……じれったさに気を揉んでいたが、思いが通じ合うのは嬉しいものだな」
「殿下のご配意のおかげでございます」
「いいや、私ができたのは些細なことだ。そなたらが己と互いに向き合ったからこそのもの。今宵は任は気にせず楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
何か用事があったわけではないのか気を使ってか、王子はすぐにバルコニーを後にした。再び僕とルーフスさんだけになるが、どこかくすぐったい空気が残っている。
「殿下もお喜びくださり嬉しいですが、なんだか照れますね」
「ええ……そうですね」
二人きりの静かな夜に戻り、僕たちは微笑み合う。大きな幸福に浸っていると、重ねたままだった手が握られた。
「お慕いしております、賢者様」
喉が熱くなる。紫色の瞳が真っ直ぐ僕に向けられている。
自然と僕たちは体を寄せた。背の高いルーフスさんは屈み、僕は踵を浮かす。
息が触れ、もう少しで唇も触れるところで、ルーフスさんの迷いを感じた。
「賢者様、もしお嫌でしたら……」
「僕はしたいです」
「っ」
空気が揺れる。今までルーフスさんが歳下であることを意識したことはほとんどなかったが、どこまでも誠実な彼を愛おしく思った。
いつも堂々と静かな強さを滲ませている彼のギャップに胸がときめく。
僕の言葉を聞いたルーフスさんは意を決したようにまた体を動かした。ついに唇が触れ合う。
「ん……」
ルーフスさんとキスをしている。好きな人と結ばれた。言葉にできない喜びや恋しさが唇からすべて伝われば良いのにと思う。
僕がこの世界に来たのは賢者として活躍するためではなく、この人と愛し合うためだったのではないかと思うほどに浮かれていた。
それほどまでに愛しい気持ちがどんどん溢れてくる。
ただ触れ合わせるだけだった唇がゆっくり離れた。
「……幸せすぎてすべてが夢なのではと思ってしまいます」
「僕もさっき全部が魔法なんじゃないかと考えました」
照れ笑いする僕たちの上からひらひら花びらが降ってくる。少しだけ魔力を巡らせ微かな風を発生させると、花びらは落ちることなく宙に浮いた。
「こちらの花弁は祭の演出ですか? 賢者様の魔法ですか?」
「どちらもです」
無数の花びらと光に囲まれた僕たちはまた顔を近づかせる。
好きな人との夜をさらに特別にできるなら、魔法の腕を磨いておいて良かったと心から思った。
「っ! 賢者様……」
魔法の光で照らされたルーフスさんの顔に驚きが広がり、次に喜び、切なさが浮かぶ。僕も同じような顔をしているのだろうなと思った。
焦がれる想いを抑えきれず、僕はルーフスさんの手を取る。籠手の感触は硬く冷たいけど、素手で握りあいたいわけじゃない。ルーフスさんの手を取れることが嬉しかった。
幸せを携え見つめあっていると、ルーフスさんが何かに反応する。顔を向けた先を見ると人の気配がした。
「ルーフス、ここにいたのか……ヒロナ? そなたも一緒だったとは」
「殿下。祭を陛下とお楽しみになっていらっしゃるのでは……」
バルコニーにやって来たのはロズア王子だった。
確か今夜は空中庭園から陛下と祭を楽しむ予定だったはず。「少し時間ができたのだ」と口にしながら王子は近づいてきた。
しかしすぐに、こちらへ歩いていた足が止まる。重なる僕らの手に目が向けられた。
「っ、そなたら、ついに……!」
目を見開いた王子の顔に満面の笑みが広がる。王子にこの気持ちを気づかれているだろうとは思っていたが、想像以上の喜びようだった。
祝福されるのは嬉しくもあり、照れで気恥ずかしくもある。
「そうかそうか……じれったさに気を揉んでいたが、思いが通じ合うのは嬉しいものだな」
「殿下のご配意のおかげでございます」
「いいや、私ができたのは些細なことだ。そなたらが己と互いに向き合ったからこそのもの。今宵は任は気にせず楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
何か用事があったわけではないのか気を使ってか、王子はすぐにバルコニーを後にした。再び僕とルーフスさんだけになるが、どこかくすぐったい空気が残っている。
「殿下もお喜びくださり嬉しいですが、なんだか照れますね」
「ええ……そうですね」
二人きりの静かな夜に戻り、僕たちは微笑み合う。大きな幸福に浸っていると、重ねたままだった手が握られた。
「お慕いしております、賢者様」
喉が熱くなる。紫色の瞳が真っ直ぐ僕に向けられている。
自然と僕たちは体を寄せた。背の高いルーフスさんは屈み、僕は踵を浮かす。
息が触れ、もう少しで唇も触れるところで、ルーフスさんの迷いを感じた。
「賢者様、もしお嫌でしたら……」
「僕はしたいです」
「っ」
空気が揺れる。今までルーフスさんが歳下であることを意識したことはほとんどなかったが、どこまでも誠実な彼を愛おしく思った。
いつも堂々と静かな強さを滲ませている彼のギャップに胸がときめく。
僕の言葉を聞いたルーフスさんは意を決したようにまた体を動かした。ついに唇が触れ合う。
「ん……」
ルーフスさんとキスをしている。好きな人と結ばれた。言葉にできない喜びや恋しさが唇からすべて伝われば良いのにと思う。
僕がこの世界に来たのは賢者として活躍するためではなく、この人と愛し合うためだったのではないかと思うほどに浮かれていた。
それほどまでに愛しい気持ちがどんどん溢れてくる。
ただ触れ合わせるだけだった唇がゆっくり離れた。
「……幸せすぎてすべてが夢なのではと思ってしまいます」
「僕もさっき全部が魔法なんじゃないかと考えました」
照れ笑いする僕たちの上からひらひら花びらが降ってくる。少しだけ魔力を巡らせ微かな風を発生させると、花びらは落ちることなく宙に浮いた。
「こちらの花弁は祭の演出ですか? 賢者様の魔法ですか?」
「どちらもです」
無数の花びらと光に囲まれた僕たちはまた顔を近づかせる。
好きな人との夜をさらに特別にできるなら、魔法の腕を磨いておいて良かったと心から思った。
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