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ふだん
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宮野悠太は6年3組の教室を出た。
その隣には斎藤翔吾と藍川莉緒、井上紗希がいる。
今はやっているアニメの話で持ちきりだが、悠太にはさっぱりわからない。
「なんなの?そのなんとかっていうアニメ」
「お前知らんの、今めちゃくちゃ流行ってんだぞ」
「めちゃくちゃってほどじゃないでしょ」
スラスラと会話が続く。どんどん話についていけなくなる。
他の3人はそのアニメが好きらしく、盛り上がっている。
ここで話題を変えるわけにもいかないので僕は何もしゃべらず歩いていた。
「寒っ、これなら外出ない方がよかったな」
「でも外出ないと市田がうるせえじゃん」
市田というのはクラスの担任で、めちゃくちゃ評判が悪い。
僕も例外でなく、嫌いな教師と言われたら真っ先にあがる。
「市田いつもうるさいよね」
話題を変えるチャンスだと思った。
「確かにな、授業もつまんないし」
「まあ授業なんてどれもつまんないわ」
「それは言えてる」
そんなことを話している間、どこか上の空だった。
これはいつものことだ。
なんか自分じゃない自分が喋っているような感じ。
授業の話し合いとかではここまでスラスラと言葉が出てこない——まず言葉を発しようとしないからかもしれないが——どうでもいいことを喋っていると口が勝手に動いている。
だらだらとどうでもいいことを話しているとチャイムが鳴ったので教室に戻る。
「えー、ね、えー、はい、うんとね、教科書の、170ページ開いてください」
無駄な言葉が多い市田の声が教室に響く。
ため息を一つつき、ノートをとる。
円周がどうしたこうしたと言っている。
僕は成績はいいと自分でも思う。
だけど、——だから、なのかもしれないが——授業がつまらない。
教科はなんでもそうだが、特に算数は教科書を一度読めばわかることを何時間も何時間もかけて回りくどくやるのが鬱陶しい。
でもノートは最後に集めるから(これも市田だけだが)適当に書いておかなければならない。
「えーっとね、じゃあ、あー、これについてみんなで考えて、えー、くだーさい」
市田は変に間延びした声で叫ぶほどの大きさで言った。うるさい。
こんなもん、二十秒で書いてやるよ。
ザザザザ、と書き終わると教室内をぐるぐる回っている市田が僕のところで止まったと思うとすこしかがんだ。
「宮野君、終わっちゃったか、えーっとじゃあ、他のやり方ないか考えてて」
必要以上の大きさの声でそう言い終わると、立ち上がり、さらに大きな声で言った。
「みんなも、終わっちゃった人は、他のやり方ないか考えるように。いいね」
はあい、という返事が聞こえる。
それにしても、なぜ他のやり方なんて考えなければならないんだ。
円の面積なんて答えは一つなんだから、やり方も一つでいいじゃないか。そんなことを考えながら、外の風景に目をやった。
高い建物が立ち並び、自動車が通る街並みを見渡す。
2階だから見上げるような建物もあるが、同じくらいの高さのものもある。
奥の道路で、トラックが走って行った。軽自動車、乗用車、原付バイクと続く。
そうやって道路を見ていると、時間はすぐ進む。
たまに信号で止まっていて走る車をずっと見ていて進もうとしたら赤が終わるということがたまにある。
全く関係ない人にもう青になったよと声をかけられたこともある。
とにかく没頭してしまうのだ。
でも、誰かに引き戻されてしまう。
もし誰にも邪魔されずに道路を見ていられたら、どんな風になるのだろう。
それはなんだか、してはいけないことのような気がした。
そんなことを考えていると、意見を発表する声がした。
どうやら随分ボーッとしていたらしく、時計を見ると授業終了10分前だった。
少し進んでいた分のノートを取り、また窓の外に視線を移した。
すると観光バスが通った。黄色い車体に社名がプリントされている。
そのまま少し窓の景色を見ていると、市田がノート持ってきてくださいと声をかけた。
面倒臭いなあ、と思いつつノートを手に立ち上がる。
全員のノートをチェックし終わると、チャイムが鳴った。
ノートと教科書を机の中に仕舞い、日直が号令をかけた。
ありがとうございました、という声に続きありがとうございましたと大きいとは到底言えない声がする。
僕は声を出すのが面倒で礼だけあわせた。
顔を上げると、みんなグループに固まる。
グループの中心人物の席かメンバーが多いあたりに誰からともなく集まり、話を始める。集まる場所は日によって違うこともあるし、同じ時もある。
僕は斎藤の席へ向かった。そこには藍川もいた。井上はどこかに行ったらしい。
そういえば、このクラス結構異性同士仲良いよな。
なんか男子で固まる感じじゃなく。
でも固まってるといえば固まってるのかな、と端の方にいる男子を見て思う。
人にもよるんだろう。
斎藤と藍川と適当になんか喋った。
でもその内容は話題が終わった瞬間に頭から離れる。
どうでもいい話だからなのか、学校で話した話を家で思い出そうとすると結構苦労する。
だから親に今日どんなことがあったのと言われても事実しか言えないし、誰とどんなこと喋ってるのと聞かれても答えに困る。
5分って、不思議だと思う。
喋っている時は一瞬なのに、テストの待ち時間とか暇な時は長い。
チャイムがなったので、二人には手を振って別れた。
その後も、同じことの繰り返しだった。
つまらない授業のノートを取りながら、窓の景色を眺める。
そしてチャイムが鳴り、今度は井上も加わってどうでもいいことを話す。
それを何回か繰り返し、美味くない給食を流し込み、また喋る。
授業。休み時間。授業。
6時間目のチャイムが鳴り、みんなの「ありがとうございました」にあわせて無言で礼をし終わると、もう帰れる、と思う。
別に学校が楽しくないわけじゃない。
学校にずっと来ないと来たくなることもある。
斎藤や藍川や井上と喋ってるのは楽しい。
でも、学校にいると早く帰りたくなる。
別に家ですることもない。まあ勉強しろ勉強しろとは言われるけど。
それなのに、無性に帰りたくなる。
疲れているわけじゃないけど、やっとだ、と思う。
明日も一日色々あるんだろうな。
1日って長いなあ、とつくづく思う。
その隣には斎藤翔吾と藍川莉緒、井上紗希がいる。
今はやっているアニメの話で持ちきりだが、悠太にはさっぱりわからない。
「なんなの?そのなんとかっていうアニメ」
「お前知らんの、今めちゃくちゃ流行ってんだぞ」
「めちゃくちゃってほどじゃないでしょ」
スラスラと会話が続く。どんどん話についていけなくなる。
他の3人はそのアニメが好きらしく、盛り上がっている。
ここで話題を変えるわけにもいかないので僕は何もしゃべらず歩いていた。
「寒っ、これなら外出ない方がよかったな」
「でも外出ないと市田がうるせえじゃん」
市田というのはクラスの担任で、めちゃくちゃ評判が悪い。
僕も例外でなく、嫌いな教師と言われたら真っ先にあがる。
「市田いつもうるさいよね」
話題を変えるチャンスだと思った。
「確かにな、授業もつまんないし」
「まあ授業なんてどれもつまんないわ」
「それは言えてる」
そんなことを話している間、どこか上の空だった。
これはいつものことだ。
なんか自分じゃない自分が喋っているような感じ。
授業の話し合いとかではここまでスラスラと言葉が出てこない——まず言葉を発しようとしないからかもしれないが——どうでもいいことを喋っていると口が勝手に動いている。
だらだらとどうでもいいことを話しているとチャイムが鳴ったので教室に戻る。
「えー、ね、えー、はい、うんとね、教科書の、170ページ開いてください」
無駄な言葉が多い市田の声が教室に響く。
ため息を一つつき、ノートをとる。
円周がどうしたこうしたと言っている。
僕は成績はいいと自分でも思う。
だけど、——だから、なのかもしれないが——授業がつまらない。
教科はなんでもそうだが、特に算数は教科書を一度読めばわかることを何時間も何時間もかけて回りくどくやるのが鬱陶しい。
でもノートは最後に集めるから(これも市田だけだが)適当に書いておかなければならない。
「えーっとね、じゃあ、あー、これについてみんなで考えて、えー、くだーさい」
市田は変に間延びした声で叫ぶほどの大きさで言った。うるさい。
こんなもん、二十秒で書いてやるよ。
ザザザザ、と書き終わると教室内をぐるぐる回っている市田が僕のところで止まったと思うとすこしかがんだ。
「宮野君、終わっちゃったか、えーっとじゃあ、他のやり方ないか考えてて」
必要以上の大きさの声でそう言い終わると、立ち上がり、さらに大きな声で言った。
「みんなも、終わっちゃった人は、他のやり方ないか考えるように。いいね」
はあい、という返事が聞こえる。
それにしても、なぜ他のやり方なんて考えなければならないんだ。
円の面積なんて答えは一つなんだから、やり方も一つでいいじゃないか。そんなことを考えながら、外の風景に目をやった。
高い建物が立ち並び、自動車が通る街並みを見渡す。
2階だから見上げるような建物もあるが、同じくらいの高さのものもある。
奥の道路で、トラックが走って行った。軽自動車、乗用車、原付バイクと続く。
そうやって道路を見ていると、時間はすぐ進む。
たまに信号で止まっていて走る車をずっと見ていて進もうとしたら赤が終わるということがたまにある。
全く関係ない人にもう青になったよと声をかけられたこともある。
とにかく没頭してしまうのだ。
でも、誰かに引き戻されてしまう。
もし誰にも邪魔されずに道路を見ていられたら、どんな風になるのだろう。
それはなんだか、してはいけないことのような気がした。
そんなことを考えていると、意見を発表する声がした。
どうやら随分ボーッとしていたらしく、時計を見ると授業終了10分前だった。
少し進んでいた分のノートを取り、また窓の外に視線を移した。
すると観光バスが通った。黄色い車体に社名がプリントされている。
そのまま少し窓の景色を見ていると、市田がノート持ってきてくださいと声をかけた。
面倒臭いなあ、と思いつつノートを手に立ち上がる。
全員のノートをチェックし終わると、チャイムが鳴った。
ノートと教科書を机の中に仕舞い、日直が号令をかけた。
ありがとうございました、という声に続きありがとうございましたと大きいとは到底言えない声がする。
僕は声を出すのが面倒で礼だけあわせた。
顔を上げると、みんなグループに固まる。
グループの中心人物の席かメンバーが多いあたりに誰からともなく集まり、話を始める。集まる場所は日によって違うこともあるし、同じ時もある。
僕は斎藤の席へ向かった。そこには藍川もいた。井上はどこかに行ったらしい。
そういえば、このクラス結構異性同士仲良いよな。
なんか男子で固まる感じじゃなく。
でも固まってるといえば固まってるのかな、と端の方にいる男子を見て思う。
人にもよるんだろう。
斎藤と藍川と適当になんか喋った。
でもその内容は話題が終わった瞬間に頭から離れる。
どうでもいい話だからなのか、学校で話した話を家で思い出そうとすると結構苦労する。
だから親に今日どんなことがあったのと言われても事実しか言えないし、誰とどんなこと喋ってるのと聞かれても答えに困る。
5分って、不思議だと思う。
喋っている時は一瞬なのに、テストの待ち時間とか暇な時は長い。
チャイムがなったので、二人には手を振って別れた。
その後も、同じことの繰り返しだった。
つまらない授業のノートを取りながら、窓の景色を眺める。
そしてチャイムが鳴り、今度は井上も加わってどうでもいいことを話す。
それを何回か繰り返し、美味くない給食を流し込み、また喋る。
授業。休み時間。授業。
6時間目のチャイムが鳴り、みんなの「ありがとうございました」にあわせて無言で礼をし終わると、もう帰れる、と思う。
別に学校が楽しくないわけじゃない。
学校にずっと来ないと来たくなることもある。
斎藤や藍川や井上と喋ってるのは楽しい。
でも、学校にいると早く帰りたくなる。
別に家ですることもない。まあ勉強しろ勉強しろとは言われるけど。
それなのに、無性に帰りたくなる。
疲れているわけじゃないけど、やっとだ、と思う。
明日も一日色々あるんだろうな。
1日って長いなあ、とつくづく思う。
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