Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

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Bae

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 関東にいるあいだ千晶ちあき桐江きりえが宿泊しているホテル、その一室で千晶が緊張した面持ちで広縁の椅子に座っているとメイド服姿の桐江が部屋に入ってくる。

 そして桐江はスカートの裾を持って千晶に向けてぺこりと一礼するとポットから紅茶を氷の入ったグラスに注ぎ朝食のパンケーキと一緒に千晶の前のテーブルに並べた、そして自分の分もテーブルに並べると千晶の向かいの椅子に座り二人は手を合わせて挨拶をすると食べ始める。

「桐江、明日のことなんだけど・・・」

「はい、明日は朝から2人で外出なので手軽に持ち歩けるスコーンを朝食にと思っております。」

 しばらくして千晶はパンケーキを食べるためのナイフとフォークを一旦皿の上に置き静かに食べている桐江に話しかけると、桐江も同じようにナイフとフォークを皿の上に置き口元をハンカチで拭くと千晶の目をじっと見つめて話す。

「そうじゃないんだ、桐江。御前に明日から少しのあいだ休暇をあげようと思っててな。」

「・・・は?」

 千晶からの提案に桐江が喜ぶことはなくただただ怪訝そうな表情を浮かべて千晶の顔を見つめている、というより半分"睨んでいる"に近い目つきであった。

「その提案については承諾できません。この前も私に黙って1人で外出なされたようですが、それとなにかご関係が?納得のいく説明を要求します。」

「・・・そうだよな。」

 星霊たちと初めて対峙したあの日、千晶は桐江を連れずに1人であの公園にやってきていた。桐江を巻き込まないようにとった行動だったが、部屋に帰ると桐江からこっぴどく怒られた。

 あの公園で父親に再会したことは話さずただただ謝ってその時は許してもらえたが、いま突然休暇を言い渡された桐江にまた怒られそうだと、千晶は桐江に理由を話しはじめた。

「その日に俺は敵側に協力している親父と会ったんだ。そして俺は明日親父と戦うことになった、正しくは親父の科学で強化された人間だけどな。しんどい戦いになると思う、もし桐江が巻き込まれたら俺は・・・」

「坊ちゃん・・・」

 千晶の思いを聞き桐江も声と表情から怒気が引いた、そして両手を膝の上で組むと千晶にお辞儀をした。

「申し訳ございません、坊ちゃんのお考えも聞かずに。」

「いや、気にしないでくれ。突然のことで戸惑うのも無理はない、それで・・・どうだ?明日から休暇を取ってどこか遊びにでも行ってくるといい。」

 あらためて千晶が桐江に提案するが、桐江はそれに首を横に振る。

「坊ちゃんのお考えは理解しました、しかしやはり承諾はできません。私は坊ちゃんの使用人、主が戦いに出向いている時に休む使用人など論外です。」

「そ、そんなの気にする必要はない。俺は君を巻き込みたくなくて・・・」


 次の瞬間、桐江の腕が千晶の服の胸ぐらを掴んだ。


「心配してるんは自分だけや思うとんの?あの日もアンタがおらへんでウチがどれだけ心配したかわかる?アンタも男やったら、『御前のことは俺が守る。』くらい言うてや!」

「・・・ごめん。」

 桐江にこれほど心配をかけていたとは思わず、千晶は申し訳なくなりただ素直に謝った。桐江は我に返りすぐさま千晶の服から手を離すと深々とお辞儀をした、そして頭を下げたまま謝罪の言葉を口にする。

「申し訳ございません、坊ちゃん。出過ぎた言葉を口にしてしまいました。」

「いや、頭を上げてくれ桐江、君の言う通りだ。」

 千晶の言葉に桐江は頭を上げると口を紡いだ、そして少しの沈黙のあと千晶が桐江の目をまっすぐ見つめて口を開いた。

「俺の傍にいてくれれば、君のことは俺が守る。一緒についてきてくれるか?」

「っ!・・・はい、もちろんでございます。坊ちゃん。」

 桐江は嬉しそうに微笑むと一礼し、千晶もふっきれた表情で桐江が作ってくれた朝食を再び食べはじめた。

ーーーーー
ーーー


 星霊たちとの戦いの日になりその日の朝早くから千悟ちさとはバイクを走らせとある一軒家の前に止まっていた。

 門の表札には『櫛田』と書かれている、千歳の妹たちの入学式の日に皆でファミレスへ行ったあと二人で行った喫茶店からの帰りに澪を家まで送った際にはじめて訪れていた。

 千悟はスマホのメッセージアプリである『RAILレール』を起動し澪とのチャットグループを開く。

『おはよう、朝早くにごめん。話があるんだけど会えないかな?』

 家を出る前にメッセージを送ったのだが返信がなく既読もついていなかった。

(まぁ、こんな朝早くにだもんな・・・)


 そう思い千悟がバイクのエンジンをかけようとすると家の玄関の鍵が開く音が鳴り扉が開くとそこから部屋着姿の澪が姿を現した。そして千悟の姿を見つけた澪は家の門を開いて千悟の前に歩み寄る。

「おはよう狭間くん、ごめんなさいメッセージに気づけなくて。なんか今日は早起きしちゃったから本を読んでたら集中しちゃって・・・」

 申し訳なさそうにする澪に千悟はニコッと微笑みかける。

「謝らないでよ櫛田さん、俺だってこんな朝早くからメッセージ送っちゃったし。来てくれてありがとう。」

 千悟が礼を言うと澪が微笑みを浮かべ二人は少しの間見つめ合い、千悟が緊張した面持ちで口を開く。

「それで、話っていうのが・・・えぇと。」

 自分の思いを澪に伝えようとするが本人を目の前にして千悟は言葉が詰まった、そんな千悟の様子を澪が心配そうに見つめている。

「俺・・・俺は、櫛田さんが好きだ。俺と付き合ってほしい。」


 千悟の口から出たのはなんの飾り気もないド直球な好意を伝える言葉だった、千悟からの告白の言葉に澪は頬を赤らめて両手で口を抑え目に涙を浮かべている。

「・・・返事は今じゃなくてもいい、次会った時に櫛田さんの気持ちを聞かせてほしい。」

 そう言って千悟はバイクに跨りゴーグルを着けるとエンジンをかける。

「狭間くん!なんで、なんで・・・私を?」

 バイクを走らせようとする千悟を澪が呼び止め告白の理由を問う、千悟はゴーグルを外して真剣な眼差しで澪の眼をじっと見つめながら答えた。

「櫛田さんの笑顔が・・・好きだから。」

 そして再びゴーグルを着けると千悟はその場から走り去っていった、澪は千悟の後ろ姿を見えなくなるまでじっと見守っていた。

「いってらっしゃい、。帰ってきたら、私の気持ちも聞いてね?」

 目の涙を指で拭い、千悟が『好きだ』と言ってくれた優しげな笑顔を浮かべ、澪はぽつりと呟いた。
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