Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

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Regret

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 私は鬼頭きとうくんから採取した血液を媒体に新たな薬剤のサンプルを精製した。

 その成果は私のイメージを超え、鬼頭くん本人の努力もあるが新たなサンプルは高い適合性を示してくれた。

 しかし、今の彼の状態は私のイメージとはまるで違う、アレではまるで異形ではないか。

 そしてそのような変容を遂げた鬼頭くんと戦っているのは息子である千晶ちあきだ、十年前はあんなに小さかった息子が、今では立派になったものだと私は感慨深い思いに駆られた。

 息子は『妻が十年前経った今でも私を待っている。』と言った、それを聞いたとき私の胸に込み上げた感情、アレがおそらく"後悔"というものなのだろう。

 次の瞬間、私は声を張り上げ、息子の名前を叫んでいた。

─────
───


「千晶!」

 突然、すすむが千晶の名前を叫んだ、千晶は鬼頭の猛攻に応戦しながら自分を呼んだ父親の方を見る。

「今の彼は増幅した魔力が暴走している状態だ、今の彼にダメージを与えてもすぐに修復してしまう!」

「そんなこと───」

 千晶は言葉の途中で鬼頭からの攻撃を杖で防いだ。

「見りゃわかるよ、理性とかもう無さそうだしな。」

「だが、その魔力にも限りはある。ダメージを与え続けろ!」

 進の言葉を聞いた千晶は訝しげな表情を浮かべた、そもそも鬼頭があの状態になったのも進の発明した新たなサンプルが原因なのだ。

「そんなこと俺に教えてどういうつもりだよ、まさか俺に鬼頭アイツを止めろとでも?」

「・・・あぁ、その通りだ。頼む、千晶。彼が本当の"化け物"になる前に、止めてやって欲しい。」

 そう言って進が千晶に深々と頭を下げた次の瞬間、千晶は左手を鬼頭に向けてかざした、すると足下から大量の砂が湧き出し鬼頭を八方から囲い込む。

 そして砂はドーム状となって鬼頭を閉じ込めた、千晶は悠々と歩き出すと砂のドームの横を素通りし、進の前で立ち止まった。

「ひとつ、条件がある。」

「・・・なんだ?」

 砂のドームからは鬼頭が中から出ようと暴れ回っているのがわかるほどの轟音が聞こえる、いつ鬼頭が出てきてもおかしくない状況であった。

 そんなものが背後にあるというのに千晶は悠然とした態度を崩さずにいる、進は思わず息子に対して畏怖の念を抱いた。

「この戦いが終わったら、開賀家に・・・家に帰ってこい。」

 千晶が提示してきた条件はいたってシンプルだった、それに対して進はとても複雑な心境を抱き少し考えた。

 そして─────

「・・・わかった、この戦いが終わったら私は家に帰ろう。そして、母さんに謝るよ。」

 進がコクンと頷き、家族が待つ家に帰ることを約束すると千晶はひとつため息をついた。

「・・・"約束"、したからな。」

 そう言って千晶は後ろを振り返ると歩き出し、砂のドームの前で立ち止まった。

「さて、久しぶりに本気を出すとするか。」

 そう言って千晶が右手に持っていた杖で地面を突くと足下が黄金色に光りだし、その光は血管のような模様を描きながら大地に広がっていく。

璧立千刃へきりつせんじん

 そして千晶がなにかをつぶやいた次の瞬間、砂のドームの中から鬼頭が飛び出し、右腕の爪を千晶に向けて振るう。



キィィンッ!



 爪の一振りを千晶が杖で受け止めると金属質な音が辺りに鳴り響く、右手に持っていた岩の杖は鋼の剣へと変わっていた。千晶の両眼は金色に輝き、背後には宝石を思わせるような煌びやかな石が無数に漂っている。

 石は次第に周囲にも漂いはじめ、それらは刀剣や槍、斧へと姿を変えていく、既に無数の武器が周りを囲んでおり鬼頭は咄嗟に後方へ飛び退くと防御の体勢をとった。

 鬼頭の様子を見た千晶は『ふっ』と口角を上げて笑った。

「安心しろ。この無数の刃が一斉にお前を襲う、なんてことはしない。俺の大事なメイドに飛びでもしたら大変だからな。」

 そう言って千晶が剣を構えるとその場から姿を消した、次の瞬間には鬼頭の目の前にまで迫っており千晶は剣を振るった。

 そして鬼頭の右腕の爪を形成している黒い闘気を斬り落とすと、爪の形を成した黒い影の塊が地面に落ちるが鬼頭の右腕にはすぐに新しい爪が形成された。

(なるほど、親父の言った通り、ダメージを負った部分は魔力を使って修復するのか・・・)

 その様子を観察していた千晶は剣を鬼頭に向けて思いきりぶん投げると同時に大地を蹴った。

 飛来する剣を鬼頭は爪で弾くがその背後へ千晶が瞬時に移動すると空中に漂っている武器の中から槍を手に取り鬼頭に向けて薙いだ、すると鬼頭の左肩から生えた長い腕が槍の柄の部分を掴みそのまま槍をぶん回して地面へと叩きつけた、しかしそこに千晶の姿は無く槍だけが勢いよく地面に叩きつけられた。

 既に千晶は槍を手放しており鬼頭の正面へと回り込むといつの間にやら手に持っていた剣で鬼頭の身体を斬り裂いた。

 鎧のように纏っていた黒い闘気ごと身体を裂かれ、傷口からはドス黒い血が流れた。しかし傷は浅く鬼頭は苦悶の表情を浮かべることもなくニヤリと笑みを浮かべた、そして傷口は黒い影によって塞がり黒い闘気の鎧は強風を吹き散らしながら更なる膨張を始めた。

 もはやその姿に人間の原型など無く、進は狼狽えながら膝から崩れ落ちた。



 桐江はそっと壁から顔を覗かせ、千晶の様子を見るとホッと胸を撫で下ろす。

(どうやら、御心配は無用のようでございますね。)


 桐江の思っている通り、今の状態の鬼頭を目の前にして千晶の表情から"余裕"が消えることはなく、豪華な装飾が施された一本の剣を手に取った。
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