2 / 177
第二話 生成の儀式
しおりを挟む僕たち今年十歳になった子供たちとその家族は教会の中庭に集められた。
教会の隣には孤児院も建てられていて、走り回れるくらい広い中庭には普段見かけない人がたくさんいる。
見渡すと子どもたちはキョロキョロとして落ち着かない様子だ。
「ねえ、昨日は眠れた? わたしぜんぜん眠れなかった」
眠そうにあくびをしていたアニスが口元を抑えながら話し掛けてくる。
周りに大勢の人がいるせいか耳元にひそひそと話す。
「僕もあんまり」
教会の中庭では青い祭服を着た司祭様とシスターさんがこれから儀式の説明をしてくれるようだった。
「皆さん、こんにちは。本日、天成器生成の儀式に立ち会わせて頂くウェスと申します。皆さんとはあまり会う機会がないため初めて会う子たちも多いですね。儀式では今日持ってきてもらった皆さんの大切なものを使い天成器を生み出します。天成器は神様が授けてくださった私たちと共に生き、共に戦う大切な武器です。必ず皆さんの人生の助けになってくれるでしょう。事前に決めた順番通りにご案内しますが、お待ちになる方には控え室にてあらためてシスターアンネから儀式について説明をさせて頂きます」
「先程ウェス司祭から紹介頂きました、アンネです。みなさんの中には教会での勉強会に来てくれている子もいますね。今日はみなさんにとってとても大切な儀式の日です。控え室にはお菓子も用意しているので、落ち着いて儀式の順番を待ってくださいね」
柔らかい笑顔をしたアンネさんは僕たちを控え室に向かって案内する。
アンネさんとは教会の勉強会にアニスと一緒に参加した時に出会った。
勉強会は街の子どもたちのほとんどが参加していて数の数え方、文字の書き方など色んなことを教えてくれる。
アンネさんの丁寧な教え方は子供たちに好評だ。
控え室に集まった子供たちとその家族が入っていく。
今日は僕たちの番だが時間や日付を調整して何回か儀式のために集まるらしい。
知らない子の方が多いが、近所に住んでいる守備隊員の息子のミックがいた。
こちらを見て驚いた顔をしている。
控室の椅子に座ったアニスは早速テーブルのお菓子を食べようと手を伸ばしている。
大きなお皿に盛られたクッキーはいろんな形に型どられていて見ているだけで楽しい。
「待っている間に今日の生成の儀式について説明しますね」
アンネさんはお皿に山盛りに置いてあるクッキーを食べるよう促しながら、自分でもぱくぱくと摘まみ始めた。
すごい勢いでクッキーが減っていく。
「はじめに天成器の歴史についてご説明したいと思います。人類が魔物の脅威に脅かされ、魔物の王と呼ばれる強大な存在が現れた時、世界各地に神の石版と呼ばれるものが現れました。星神様、その御方が人類に新たな戦う力を授けて下さった偉大なる御方なのです。私たち教会の者が信仰しているのも星神様ですね。この場では簡潔に説明しますが、神の石版にはこの後に儀式に使う水晶玉の作り方が記され、生物を襲う瘴気獣が現れた時、天成器のことについても記されました」
見たことのないシスターさんがお水を持ってきてみんなに配ってくれる。
アンネさんはお水を飲み、のどを潤すと青い瞳を大きく開くと早口に説明を続ける。
「強大な魔物や瘴気獣を討つ意思宿す武器。人類に授けられたそれは一人一人違う形、力に変わっていきます。宿った意思は個性があり一つとして同じ天成器はありません。神様の実在が証明されて以来、私たちは偉大なる神の御業に触れているのです」
部屋にいるみんなは熱狂した様子で神様について語るアンネさんに少し引いているようだ。
入ってくる時は騒がしかった部屋全体が静まり返ってしまった。
そんな静寂をやぶるように、お水を持ってきたシスターさんがアンネさんに落ち着くよう声を掛けている。
「少し興奮してしまいましたね」
明るい栗色の髪を撫でつけながら照れたように笑うアンネさんは、またもやクッキーを口に運んだ。
あれだけ大盛りだったお皿のクッキーはもうほとんどない。
お水のシスターさんが呆れた顔をしつつも追加のクッキーを持ってきてくれた。
きっとすぐ無くなるんだろうな。
「星神様は戦う力以外にも授けて下さいました。有名な事柄は言語の統一ですね。世界各地に神の石版が現れた時、言語の統一がなされ、いままで言葉の通じなかった国や種族同士が一体となって強大な魔物の王と戦うことができたのです。それが新暦の始まりですね」
アンネさんの話を聞くとたしかに星神様はすごいと思う。
言葉が通じないなんてウソみたいだ。
「では、お入りください」
お水のシスターさんに案内され部屋に入ると、部屋の中央にはウェス司祭が待っていた。
綺麗に掃除されている空間は、どことなく神聖な空気が漂っている気がして少し緊張する。
「改めてこんにちは。早速ですが儀式に使う貴方の大切なものは持ってきていますか? 持っていれば水晶玉の前の台の上に置いて下さい」
青い水晶玉の前に父さんから貰ったナイフを置く。
このナイフはいままでずっと使ってきた宝物だけど、だからこそこれからずっと一緒にいる天成器には必要だろう。
アニスはお気に入りの子豚の人形を使うそうだ。
嫌そうな顔をしていたがコーラルさんに説得されて、控え室でもギュッと抱きしめていた。
「儀式は簡単です。水晶玉に両手をかざして、天成器錬成と言葉に出すだけです。気持ちを落ち着けて自分の調子が整ったらでいいですからね。いままで失敗したという人は聞いたことはありません。気を楽にして下さい」
司祭様は落ち着かせるようにゆっくりとした口調で、僕に話し掛けてくれる。
息を吸って深呼吸するがなんだかまだ緊張する。
思わず後ろを振り返り父さんを見ると、真剣な目で僕を見ていた。
「これからずっと一緒にいる家族ができる日だ。緊張しているだろうが心配いらない。父さんもお前の母さんも一生の友に出会えた、気負わずありのままの自然体で臨むんだ」
母さんの話なんて初めて聞いた……。
前は聞いてもまだ早いって教えてくれなかったのに。
ありのまま…。
僕はナイフの前に立ち、両手を水晶玉にかざす。
青い水晶玉は透き通った色をしている。
不思議と心には心配も高揚もなく、無心だった。
「…………天成器錬成!!」
僕が叫んだのと同時、目も眩む閃光が部屋中に広がっていく。
光はだんだんと台に置いたナイフを覆う形に変わっていった。
「はじめまして君が私の所有者かな? 私はあなたの契約者。教えてほしいこれから共に生きる君の名前を」
「……僕はクライ。狩人の息子。これから君の家族になるクライだ」
眩い閃光が収まった先には白銀色に輝く弓が現れた。
普段狩りに使う弓より一回り大きい。
明るく澄んだ白銀色は見るものを穏やかな気持ちにさせる不思議な魅力があった。
「無事成功したようですね、おめでとうございます」
「短弓か。基本の3つではなかなか珍しい。大半は小刀になる。しかし、お前にはピッタリな天成器だな」
2人が祝福してくれる。
天成器は持ち上げると重いと思ったが、予想外に軽い。
まるで僕のために作られたみたいに手に吸い付くようだ。
いや、言葉通り僕のために生まれて来てくれた。
そのことに気付くと無性に嬉しくなる。
「あとは名前を付けるだけだな。名前は相応しい名が思い付いた時でいい。さあ、外でアニスが終わるのを待とう」
「うん、司祭様ありがとうございました」
僕達は教会を出て中庭に向かう。
足取りは軽く、希望に満ちていた。
3
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる