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第四十九話 実技授業と初級魔法
しおりを挟む三人を引き連れて学園の第一訓練場まで移動する。
第一と名がついているように訓練場はその環境を変えて複数存在する。
草原と荒野の広いフィールドの第一、障害物の混在した複雑な地形の第二、学園内に存在する林を利用した第三、それぞれが複数のクラスでも利用できる広さなのだから本当に学園は巨大だ。
これから実技の授業に向かうわけだが、実は今日初めて参加することになる。
それというのも、編入してからは座学ばかりで訓練場を利用したことはなかったからだ。
エクレアの話では一学年のときは座学を中心に学んでいくらしく、入学してからは実技の授業も体力作りや瞑想のやり方を教える基礎訓練ばかりだったそうだ。
そして、前回の実技授業の終わりにレリウス先生からは事前に次の授業から少し本格的に学んでいくことになると伝えられていたらしい。
……俺には特に連絡なかったけど。
平坦でだだっ広い広場だが、視界の端に見知った顔を見つけた。
訓練場の境に入らない百mぐらい先に、戦闘用? メイド服に身を包んだイクスムさんが軽くこちらに手を振っている。
(授業で少し会えなかっただけなのに……イクスムのヤツ、エクレアを発見した途端に元気なものだな)
(このクラスもほとんどが貴族の子弟だから、従者の人たちが結構見学しているな)
学園では申請することで従者や使用人を伴って通学することが可能だ。
生徒の大半を占める貴族の子弟たちの身の回りの世話や護衛のため学園内まで同行している。
もちろん好き勝手に動けるわけではない。
教室での授業には基本的に見学や参加はできないので、実技授業で屋外に出たときだけだ。
それも、授業の妨害にならないために、助言や手助けすることは禁じられている。
訓練場にはすでに疎らにクラスメイトたちが集まっていた。
各々がすでに仲のいい相手と話しながら集まっている。
そこに大柄な三十代くらいの男性、レリウス先生が颯爽と歩いてきた。
「お~し、全員揃ったかぁ。これから実技の授業を始める。お前たち、そろそろ瞑想や体力作りにも飽きてきた頃だろう。今日は攻撃魔法を中心に授業を行う。各自何人かでグループを作れ。あ~、必ず魔法の使える奴を一人はグループに入れるんだぞ」
クラスの皆のお兄さん呼びの原因でもあるレリウス先生は、訓練場に散らばるクラスメイトたち全員に届く大声で指示をだす。
それにしても……人間に獣人、エルフ、魔人。
あの規格外の体格をもつ、制服がはち切れそうなほどの筋肉はドワーフの種族特徴だろうか。
多種多様な種族がこの場に集まっている。
やはりある程度グループは決まっているからか、皆あまり動かずとも固定のグループに別れた。
「ね、先に組んでいて良かったでしょ」
後ろから小声でマルヴィラが囁く。
確かに、こんなにあっさりグループ分けが決まってしまうなら、マルヴィラに誘って貰ったのは運が良かったと思う。
エクレアも普段はマルヴィラに誘って貰うことも多いようなので本当に助かる。
「ウルフリック、また一人なのか? いい加減友達くらい作れ。見ろ、グループ分けの授業を初めて受けるクライもすでにグループに入ってる。一人なのはお前だけだぞ」
見渡せば一人佇むのはウルフリックと呼ばれた少年だけで、人数の違いはあれどすでにグループ分けが済んでいた。
同じクラスの生徒で年齢が違うのはエクレアだけのはずなので彼も同い年だろう。
黒髪を後ろに流した髪型は、周囲を苛立ち混じりに睨む眼つきも相まって彼の野性味を際立たせる。
そんな彼の灰色の瞳が一瞬こちらに向いた気がした。
「……ちっ」
「レリウス先生。僕がウルフリック君とグループを組みます」
「委員長、組んでやってくれるか?」
「勿論です。ウルフリック君、お手柔らかに頼むよ」
「……ふう」
「そんな大きな溜め息をつかないでくれ。同じクラス同士仲良くしよう」
眼鏡を掛けた背の高い少年。
自己紹介では確か……ベネテッドと言っていた気がする。
なんでもクラス委員長を務めていて、クラスを纏めようと率先して行動しているらしかった。
「他にあぶれている奴はいないか? 準備が出来たなら少し移動するぞ」
無事にグループ分けも終わり、クラス全員がレリウス先生を先頭に移動する。
そこは訓練場の端にある無数の的の前。
「これから授業を始める訳だが……まずは以前座学でやった授業の復習からだ。基礎魔法は除くとして、委員長、最も基本的な攻撃魔法はどれだ」
「はい! 形成魔法の《ボール》です!」
レリウス先生の問いにハキハキした動作でベネテッドが答える。
「そうだ、初級形成魔法、《ボール》は魔法を習い始めた者なら、最も初めに試すことになる初歩の攻撃魔法だ」
そういってレリウス先生は訓練場に設置された的へと右手をかざす。
「まずは先生が見本を見せる【アースボール】」
掲げた掌の前に魔力で作りだした土が球体に集まっていく。
一拍のときを置いて的目掛けて一直線に飛ぶ《アースボール》。
バンッと鈍い音をたてて、的のど真ん中に命中した。
どうやら的はかなり丈夫な素材でできているようだ。
掌大の土の塊が直撃してもビクともしていない。
「この学園に入学してきたお前たちの中にはすでに《ボール》の魔法を使える者もいるだろうがあえて説明する。この魔法は魔力で作りだした物質を球状に形成し打ち出す魔法だ。弾速もなかなかに速く、使いやすいから習得を目指す奴も多い」
レリウス先生は的から振り返ると視線を集まったクラスメイトたちに向ける。
「フィーネ、六代属性魔法を答えてみろ。さっき俺の使った土属性魔法以外には何がある?」
答えたのは翡翠髪のエルフの少女だった。
ゆったりと上品な口調で返事をする。
「はい、レリウス先生。火、水、土、風、光、闇の六つの属性です」
「そうだ。それぞれ《ファイア》《ウォーター》《アース》《ウィンド》《ライト》《ダーク》が対応する基礎魔法だ。属性には得意不得意があるから必ずどれかを習得できる訳ではないことは肝に命じておけ」
六代属性には派生属性も存在する。
例えば火属性なら、溶属性、煤属性、灰属性など複数の形態に派生する。
さらには、系統外魔法として、雷属性、植物属性、星属性などもあり、滅多に習得しようとする者のいない毒属性もある。
この辺りは編入試験のために勉強した内容なのでよく覚えている。
「マルヴィラ。あ~、初級の武器魔法は属性ごとに違うからな……その他の全ての初級魔法を言ってみろ」
隣で指名されたマルヴィラは慌てながらも両手の指を一つずつ折りながら答えていく。
「は、はい、え~と武器魔法を除くだから……《ボール》、《スプレッド》、《アロー》、《カッター》、《ニードル》、《ツイスター》、《レーザー》と《シールド》、え~とあとは……そうだっ。《バインド》の計九つです」
「そうだ、よく勉強してるな」
「えへへへ」
「今回は除外したが、今マルヴィラの答えた九つに加えてそれぞれの属性の初級武器魔法も存在する」
イクスムさんがアラクネウィッチに使った《ライトダガー》がそれに該当するだろう。
魔力で作りだした光で精密な短剣の形状を象っていた。
「これらは属性以上に得意不得意が激しい。初級魔法といえど全てを習得するのは難しいだろう。だが、一度見て理解しているのと、全く初見の魔法では、その後の対応力や仲間の連携力に差がでる。いまは魔法を使えずともよく観察するようにしろ」
クラスメイトたちを見渡していた視線が一点で止まる。
レリウス先生は俺に向けてなんでもないように呼びかけた。
「クライは編入して間もないからな、わからない所があったらすぐに聞けよ」
「……はい」
(こういうところは気に掛けてくれるんだよな)
(研究棟を訪ねるように頼まれたときみたいな不意打ちがなければな……)
「では各自、攻撃魔法の使える者は的の前に整列しろ。これから攻撃魔法を放って貰う。今日は初級魔法の授業だからな。もし使えても他の魔法は使うなよ」
ガヤガヤと騒ぎ立てるクラスメイトたち。
あの……俺全然魔法を使えないんだけどどうすればいいんだ?
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