孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第五十一話 乱気流

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「――――おい、そこの『外れ野郎』」

 あまりに乱暴で粗野な言葉。
 言の葉には僅かな敵意とまるで全方位に噛みつくような闘争の気配が滲んでいる。

 それを言われたとき、初めは誰に対して投げかけた台詞なのかまったくわからなかった。
 だが、彼の灰色の瞳は雄弁に語っている――――お前だと。

 俺を……見ていた。
 
 ベネテッドがあまりの険悪な雰囲気に慌てて仲裁に入る。
 彼もこのままではマズいと思ったのだろう。
 狼狽しながらも身体を使って両者の間に立つ。

「ウ、ウルフリック君、急に何を言い出すんだ。いきなりグループに割って入るなんて失礼じゃないか。四人で仲良く授業に臨んでいる所にすまなかったね。僕たちはこれで――――」

 だが、最早関係なかった。
 ウルフリックはベネテッドを手で押し退けると意に介さず続ける。
 その瞳には隠しようのない敵意。

「……お前だ。そこの編入生」

「……なんの用だ。いまは授業中だぞ」

 返事をする声が自分でも想像以上に硬く、厳しいものだったことに驚く。

「編入初日に自己紹介していたな。……クライ・ペンテシア、そこの無表情女の兄貴。――――お前が弓使いだろ」

「……それがなんだって言うんだ?」

 そもそも学園は制服で通うため普段のようにずっとミストレアを携帯しているわけにはいかなかった。
 そのため、自己紹介でもミストレアは格納していた。
 いままで学園でミストレアを取りだしたのは編入試験のときだけだ。
 一体いつ俺が弓の天成器を所持しているとわかった?

「やっぱりな」

「……それより、さっきの台詞は何だったんだ? …………変なことを口走っていたよな」

 聞かずにはいられなかった。
 聞き流しては行けないと心の奥底の気持ちが叫んでいた。

「ああ『外れ野郎』と言った」

「それは……もしかして私のことを言っているのか? 私が弓の天成器だから」

「ああ、だから『外れ』だろ」

 ミストレアの恐る恐る返した疑問に、ウルフリックは乱暴に返す。
 このとき俺はイクスムさんの忠告を思い出していた。
 学園では弓を使うことで不当な扱いを受けるかもしれない、と。
 
「銃の天成器って知ってるか? ただの弓より圧倒的に優れた天成器の形態の一つ。帝国じゃあようやく人の手で魔導具による
再現ができてきたらしいが、重要なのはそこじゃねぇ。弾速、威力、装填数。どれをとっても弓は銃に勝てない」

「……」

「頼みの綱の《矢弾錬成》で作り出す属性錬成矢も、銃の天成器ならまったく同じ効果のものが作り出せる」

「……」

「だから『外れ』。授かる天成器を間違った『外れ野郎』だ」

「お前っ!!」

 この感情をなんと表していいかわからない。
 ミストレアの抗議の叫びすら遠く感じる。
 激情だ。
 感情のうねりが胸の内に激流となって暴れまわっている。

 いま、コイツはなんと言った。
 ――――俺の家族を馬鹿にしたのか?

「……」

「いや~、プリエルザを宥めるのに苦戦していたら、オモシロいことになってるじゃないか」

 グループを見て回るといっていたレリウス先生が、口元に笑みを湛えつつも近づいてくる。
 この笑みはあのときと同じだ。
 自己紹介のときにエクレアの兄として呼び名を提案し、不気味な噂のある研究棟に向かわせようとしたときと同じ。
 どれも悪意とまではいかないが、他人にちょっとした悪戯をするのが、我慢できないという隠しきれない笑み。

「せっかくの実技の授業だ。二人で模擬戦でもしたらどうだ。それなら互いの不満も少しは解消できるだろう。今なら俺が立ち会い人を務めてやる」

「ハッ、オレは構わねぇぜ。『外れ野郎』にオレが負ける訳がねぇ」

「クライ、お前はどうする」

「……」

「でも、レリウス先生。二人が傷つけ合ったらカルマが……」

「互いの同意があれば大丈夫だ。それに厳格にルールを決めればいい。あ~、そうだな。授業内容に沿って使えるのは初級魔法と模擬戦用の殺傷能力を抑えた武器のみ、当然天成器は使用不可だ。それと、たとえ魔法因子を使えるとしてそれも禁止だ」

「そのルールでいい。早くやろうぜ」

「レ、レリウス先生、模擬戦とはいえ幾ら何でも危険すぎます。それにお兄さんは魔法は……」

「何だ、そういやぁ列に並んでいなかったな。初級魔法も使えねぇなら勝負にならねぇじゃねぇか」

 突然の出来事に混乱しているだろうに、マルヴィラとセロがまるで自分のことのように心配そうな目で見ている。

 エクレアは普段となにも変わらない。
 いや、少しだけ口元をへの字に結んでいるように見えるのは気のせいか。
 ……もしかして俺とミストレアのために怒ってくれているのか?
 
「エクレアちゃんのお兄さん、こんな勝負受けることないよ」

「そ、そうです」

「あんな……人のことを馬鹿にするような無神経な人の言うこと、聞いちゃ駄目だよ。レリウス先生はああいったけど戦う必要なんてない!」

「模擬戦でも取り返しのつかない怪我を負うこともあります。まして……僕と同じでお兄さんは魔法が使えないんですよね。この勝負、公平じゃない。不利なだけです」

 二人はミストレアが弓の天成器と知っても態度を変えなかった。
 それどころか、俺たちのために怒ってさえくれている。
 だが……ここで引くわけにいかなかった。

「ごめん二人共、俺は戦うよ」

「でも……」

「そんな……」

 二人の忠告を聞くことはできなかった。
 この胸に渦巻いた激情がそれを許さなかった。

「……兄さん、勝って」

 エクレアの勝利を願う言葉すら耳にはいってこなかった。





 模擬戦の舞台は変わらず平坦な草原が広がる第一訓練場。
 両者の距離は授業で使った的までの位置と同じ約三十m。

 レリウス先生の指示でベネテッドの持ってきてくれた模擬戦用の武器を見繕う。
 使用する武器がわからなかったからか、結構な種類が乱雑に置かれていた。
 運良く見つけた弓と盾、矢じりの取り除かれた矢を拾い上げる。

「弓はまだしも……盾だと!? 同時に操れるとでも思っているのか! オレを舐めてるのか!!」

 そういって騒ぐウルフリックはニm前後の長さの槍を手にしていた。
 
「……別に舐めてなんていないさ。これで問題ない」

 ミストレアより軽い弓。
 少し触ってみればしなり自体は悪くない。

 盾はむしろ重いか。
 さすがに同じ総金属製でも比重の軽いミスリルとは違い、なかなかの重量がある。
 だが、取り回しに問題はない。

「……ところで、なんで俺に突っかかってくるんだ」

「……お前には関係ねぇ」

「何言ってるんだアイツ、関係あるだろ」

 ミストレアが理解できないものを目撃したように呟く。
 いきなり絡んで来た割に理由は話そうとしなかった。

 両者が位置につく。

 レリウス先生が間に入り交互に目配せをした。
 
「最後の確認だ。この場に立つなら模擬戦に同意したと見なす。意義があるなら今すぐ言え」

「ありません」

「ねぇよ」

「そうか……両者が同意したとはいえ、相手に致命傷を負わせるような攻撃をしたらそこで模擬戦は終了だ。この勝負をもって互いに遺恨は残さないように。それでは! はじめっ!!」

「先手はオレが貰う! 【タービュランスアロー】!」

 警戒していたとはいえ、なかなかに魔法の展開が速い。
 機動力を削ぐためか足に直撃するコースを半歩横に動いて躱す。

 勢いのまま身体の横を通り過ぎ、地面にぶつかった魔法は、その場所を深く抉った。

 風魔法派生、乱気流魔法。
 威力に優れ、接触すれば相手を削りとる上下左右に渦巻く風。
 まともに受ければ……いや、たとえかすっただけでも大きなダメージを負うことになるだろう。

「あれを最小限の動きで躱すとは、少しはやるようだな。【タービュランスシクル】」

 飛来するは風の鎌。
 おそらくは風属性の初級武器魔法。
 乱気流で作り出された精密な片手鎌が、回転し空気を引き裂き、笛のような風切り音を奏でながら迫る。

「……っ」

「ハッ、矢の一本を当てたところでなんにもならねぇよ!」

 模擬戦用の矢は脆い。
 それを差し引いても魔法の威力が高い。
 放った矢が命中した途端にバラバラに姿を変えた。

「こっからは手数を増していくぞ! ついて来れるかっ! 【タービュランスアロー3】!!」

 暴乱の嵐がすぐそこに迫っていた。
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