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第六十話 意地の戦い
しおりを挟む「野郎ども、ご要望通りに相手してやれ!!」
「へい、お頭!」「はい」「おう!」
グレゴールさんの号令に配下たちの動きは機敏だった。
こちらが最初に相談していた相手同士で相対するように一斉に動きだす。
ウルフリックの前にはグレゴールさんが。
フリントさんの前には、杖使いのロットさんと大槌使いのタズさんが。
そして、俺の前には……。
「あっしの相手は先程の弓使いの坊っちゃんですね……どうかお手柔らかにお願いしやすね」
「ここでも坊っちゃん呼びか、流行ってるのか?」
そんなことはない……と思いたい。
短剣使いであり、ミリアからネックレスを奪った相手。
道具を使った戦いを得意とし、行動は素早く、気配を消すのが抜群に上手い。
路地での妨害には本当に手を焼かされた。
一射だけ腕を掠めて矢を当てられたが、今度はそう簡単にはいかないだろう。
「あっしは真正面から戦うのは得意じゃありやせんので、絡め手を使わせていただきやすが、どうか勘弁してくだせえ」
ニクラさんは俺とミストレアに済まなそうに謝る。
だが、その瞳は戦いを望んでいた。
懐に手を入れ瞬時に地面に取り出したものを投げつける。
瞬く間に広がる視界を埋め尽くすほどの白い煙。
まだ煙幕を持っていたのか!?
「っ、煙幕だ! 私が反応を探知する!」
「くっ」
「投げナイフだ! 避けろ!」
視界の効かない中なのに早いし、正確だ。
音や気配で位置を察知しているのか?
それともミストレアのように生命感知の範囲が広いのかも知れない。
煙の中のはずなのに、動きの先を読んで攻撃してくる。
「見事に躱しやすね。これでもナイフの扱いには自信があったんでやすが……」
盾がないのがこれほど心細いなんて……。
煙の中からニクラさんの感心した声だけが聞こえる。
「あっしはこんな戦い方しかできませんので、じわじわ削らせていただきやす」
煙幕の領域外にでるのは難しいだろう。
ニクラさんはなんとしてでもここから出さないように動くはず。
なら――――。
「ミストレア!」
「ああ!」
「「【変形:突杭重手甲】! 発射っ!!」」
「なぁ!?」
煙を晴らすのに全力を尽くすのみだ!
真下の地面目掛けて放った白銀の杭が、衝撃と風を生み出し煙を吹き飛ばす。
驚き硬直するニクラさんに、ミストレアを弓に変形させ、反撃の矢を射る。
速度重視の単発矢。
「うっ」
捉えた。
左足を掠めるように傷つける。
「痛ぅ~、足をやられるとはついてないでやすね」
いまだ、畳み掛ける!
「っ、クライ、危ない!」
く……また投げナイフか。
しかも今度は天成器を一時格納して両手で投げてくる。
何本かは矢で撃ち落としたが、攻めきれない。
仕切り直しだ。
「いやいや、危ない危ない。弓の第二階梯がそんな恐ろしい武器とは思いやせんでしたぜ」
ミストレアの杭の威力に驚いたのかニクラさんの額には冷や汗が見える。
だが、それもすぐに真剣な表情に戻った。
なにかやる気か。
「ムル……いきやすよ【変形:怪音三叉剣拳】」
白銀の短剣が姿を変える。
柄はそのままに短剣の刃だけがスライドして握った拳の先端まで移動する。
すると刃が三つに別れ、等間隔に配置された。
これまで見たことのない拳武器の天成器。
三叉の刃を備えたまるで暗器のような打撃に斬撃を足した武器。
(警戒しろ。慎重そうな奴が自信をもって変形させた。なにか裏があるはず)
天成器の第二階梯ならイクスムさんの魔法分解やミストレアの杭と同じような特殊な能力や機構が備わっているはずだ。
「さあ、いきやすよ」
投げナイフ!
「……っ」
「いや~、そんな簡単に撃ち落とさないで欲しいでやす、ねっ!」
ナイフの投擲から接近して天成器を握った拳で殴りつけてくる。
先端の刃は鋭く範囲も広い、リーチは短くとも当たれば怪我程度ではすまない。
「たぁっ!」
「おっと!?」
咄嗟に、腰の鉈を振るったことで距離はとれたけど、剣技には自信がない。
次は容易に対処されてしまうな。
「鉈を振り回してくるとは予想外でさぁ。でもいいんですかい。……刃が逆でやすよ。それじゃあよくて骨折程度だ」
「……俺も貴方たちを殺したいわけじゃないですから」
「へへっ……やっぱりあっしらが戦いたいのはそういう御仁でやすね」
「おいおい、クライ、やる気を出させてどうするんだ」
ミストレアの呆れた声が聞こえる。
でも仕方ない。
俺も正々堂々と戦いたい。
だが、拳武器との接近戦は弓では分が悪い。
普段なら近寄られたら盾でいなせばいいがそうもいかない。
ミストレアの手甲も素早い相手に当てるなら密着する必要があるが、至近距離での戦いは相手の土俵で戦うようなものだ。
接近させる前に倒すしかない。
「身体強化……ふっ」
動きを予測し、相手の逃げる方に連続して矢を射る。
同時に高めた身体能力で一定の距離を保つ。
これで相手は迂闊に近づけない。
「おっと、このくらい」
「矢弾錬成」
足りない矢はその都度矢弾錬成でも作り出す。
体勢によっては矢筒から取り出すより矢を直接作った方が早い場面もある。
ニクラさんは足の負傷もある。
これなら……。
「――――あっしも普段からリーチの短い天成器を使っていやすからね。対抗策くらい用意してやすよっと」
「はっ!?」
危ない。
咄嗟に避けたが……なんだコレ……投げナイフにワイヤーが繋がっている!?
足止めにも使っていた金属製のワイヤーか!
「こいつは一応特別製でやす。天成器でもない武器じゃあ切れませんぜ」
その場から動かずとも移動を制限してくる線の攻撃。
矢を番えるタイミングを狙って動きを阻害してくる。
(投げナイフを投げたあとに、繋がった手元のワイヤーで軌道を操るとは……想像以上にうっとおしいな)
見慣れない攻撃に戸惑い、避けるほうを優先せざるえない状況のせいで、絶え間なく射っていた矢の斉射が滞ってしまう。
「あっしも少しくらいなら闘気を扱えるんでやすよ。……身体強化」
(足を怪我しているくせに強引に突っ込んでくるつもりだ、気をつけろ!)
「ムル! お願いしやす!!」
なんだ?
急に……変な音が……。
「うぅぅ……ぐぅ……」
頭が……。
「クライ!」
ニクラさんが一歩近づくごとに音が強くなる。
それに比例して頭痛が増す。
マズい。
避けないと……。
ニクラさんもこの機を逃さないつもりだ。
気合とともに突っ込んでくる。
「はあっ!」
「ぐぅぅっ」
頭痛に苛まれながらもかろうじて距離をとれた。
「……あれを避けるんでやすかい」
完璧には避けてはいない。
左足を負傷した。
小さい傷なのに割と血が止まらない。
なんだったんだいまのは。
「あっしはこの音を特に何とも思わないんでやすが、どうやらムルの第二階梯の能力は、音を聞かせた相手に頭痛と目眩を起こさせる力があるようでしてね」
「ごめんなさい……」
「おっと、ムル、お前さんを責めてる訳じゃないんだ」
頭痛と目眩……道理で急に足元が覚束なくなったのか。
しかも痛みで身体が硬直した。
避けられたのは相手も負傷していたからだろう。
途中で動きが不自然に遅くなったから助かっただけだ。
だが、わかったこともある。
それはニクラさん、正確にはムルさんとの相対距離によって効果量が変わるということ。
近づかれたときは、強烈な頭痛に襲われたけど、離れた距離にいるいまは痛みの残滓が残っているだけだ。
また、これが第二階梯の能力である以上、常時発動するわけではないようだ。
現にいまも不快な音は聞こえていない。
あれもおそらく天成器自身のEPを消費するから、連続使用は消耗が激しいはずだ。
「お互い、傷も増えてきやしたね」
ニクラさんが自分の左手と左足の傷を見ながら苦笑する。
だが、お互いに戦いを止めようとは提案しない。
それは双方がこの戦いを望んでいると理解しているからだ。
「そろそろケリをつけないといけやせんね。あっちも忙しいみたいでやすし」
周りを見渡せば戦いは激化していた。
ウルフリックはグレゴールさん相手に槍を振り回して大立ち回りを演じている。
フリントさんはタズさんとロットさんの二人を相手しているが、優勢のようだ。
蒸気魔法を連発しつつも接近戦を仕掛けて戦いの流れを掴んでいる。
「命までは取りやせんが、お覚悟を!! せやあぁぁっーー」
(来るぞ!)
怪我をした足でも身体強化で無理矢理な移動をしてくる。
右手に天成器……左手にワイヤー付きの投げナイフ。
「ふっ!」
一直線に飛んでくるワイヤー付きのナイフを矢で撃ち落とす。
「……」
円を描きながらも走って近づいてくるニクラさん。
その動きを予測して牽制の矢。
「うぅ……」
しかし、距離が近づくにつれ頭痛も増える。
「苦しいでしょうがこれで終わりでやす!!」
きた!
矢を射る。
「どこに向かって……」
その矢の行き先はニクラさんではない。
狙ったのは投げナイフの柄とそこに繋がったワイヤーの中心の二点。
「な!?」
ニクラさんは投げナイフを回収するためにワイヤーを手放さない。
腕に巻きつけるように持っていたのを確認している。
そして、今回は短期決戦のためかまだワイヤーを伸ばしたまま放置していた。
「くっ、前に進めない!?」
投げナイフを矢で固定し、ワイヤーの中ほどを矢でさらに抑えれば、逆にワイヤーに引っ張られてこちら側には進めない。
(牽制の矢で誘導したかいがあったな)
円で移動してくるように仕向けたかいがあった。
ニクラさんは急いでワイヤーを外そうとするがもう遅い。
身体強化を解く。
闘気の使い道は他にある。
闘気強化。
その対象は杭だけじゃない!!
「はぁっ」
「やれ、クライ!!」
「うぐあぁっ!!」
ニクラさんの足に深く刺さった闘気強化を施した白銀の矢。
身体強化で多少防御力が上がっていてもこれなら貫通できる。
ここに一つの決着がついた。
ニクラさんは激痛に脂汗を浮かべながらも満足そうにこちらを仰ぎ見る。
自分の仕出かしてしまったことだけど、止め処なく流血する姿に心が痛んだ。
それでも。
この戦いは必要だったと思う。
全てを出し切り、口元に笑みを浮かべながら気絶するニクラさんを見てそう思った。
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