孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第六十九話 螺旋は一つとなりて

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 いざ勝負と意気込んだのはいいが、エクレアの放った魔法は魔法因子の加えられた威力の高い魔法だった。
 まずはこの難局を突破しなければならない。

 《スピン》の魔法因子の加えられた初級斬撃魔法。
 通常は弧を描いた一mほどの長さの鋭い刃が飛んでくるだけだが、回転が加えられたことで刃自体の形状が変化している。

 中心はそのままに両端がカーブを描いた形状。
 それが回転しながら襲ってくる。
 巻き込まれればただの裂傷ではすまないだろう。

 だが、三発の魔法は横に広がり逃げ道を塞いでおり、躱すのは難しい。
 迎撃するにはこれしかない。
 闘気強化を施した矢で魔法の中心部を……射る。

「――――っ」

「……恐ろしいことをするわね。今のは何? 魔法を砕いたの? いくら私のエクレアのお兄様とはいえ常識外れのことをするのね」

 刃に固められた青いバラの魔法が、砕けて花びらとして散っていく様を見ながら、エクレアの天成器ハーマートが驚く。

「回転して迫ってくる刃の中心、魔法を展開する際の元は始点だった部分を射抜く。そんなことができるの?」

「どうだ、ハーマート。私のクライはすごいだろう」

「……確かに今のはこちらの予想を超える対処の仕方だったわ。でも私のエクレアが簡単に負けるとは思わないで。この娘は強いわ。ずっと努力してきたんですもの」

「……余計なことはいわなくていい」

 初対面から永遠の姉と自称するミストレア並に自己主張の激しい天成器ハーマート。
 彼女を携えたエクレアがフェイントを織り交ぜながら再び接近してくる。

 エクレアが再び接近してくる前に足を止める!

「……ふっ」

 今度は先程とは違う。
 当てるつもりで射った矢。

「……【ブルームシールド・スピン】」

 闘気で強化した弓矢をいとも容易く弾く青バラの盾。
 どうやら《スピン》の魔法因子が加わったことで、盾表面に回転が発生し、それが矢を弾いたようだ。
 強固になった代わりに守れる範囲は狭くなっている様子だが、エクレアはピンポイントで盾を展開することで次々に矢を防いでいる。

(妹様相手に接近戦は分が悪すぎる。こちらも動くしかないぞ)

 トゲのついた一刃の盾は、イクスムさんの配慮のお陰か、持ち運びしやすいように腰ベルトに取り付けられるようになっている。
 多少重いが身体強化さえすれば移動の際も邪魔にはならない。

 慣れない動作で盾をベルトに取り付けると、身体強化を再度かけ直して走りだす。
 牽制の矢はエクレアの足元に。
 接近してくる移動ルートを潰すように射る。

(矢を射がけながら走ると狙いが甘くなるが仕方ない。近づけさせないことを意識するんだ)

 ミストレアの助言通り複数の牽制の矢でなんとかエクレアとの距離を一定に保つ。

 だが、そんな消極的な考えはエクレアとハーマート相手には通じなかった。

「……ハーマート、【変形:魔力盾双銃】」

 俺を追って駆けるエクレアの手元で天成器ハーマートが変形する。

 二対の剣の剣身は中央で二つに別れ、その内に存在した銃身が姿を現す。
 直線を描いていた柄は直角に折れ、エクレアの細い指先が引き金と思われるパーツにかかる。

 彼女は両手に二丁の銃を構え、俺に狙いを定める。
 二対一組の銃が出現していた。

「銃だとっ!?」

「ぐぅ……」

 足を止めざるえなかった。
 両手の銃から弾丸が雨あられのように降り注ぐ。

 一刃の盾の背後でひたすら耐える。

(私を盾に使え!)

「【変形:突杭重手甲】」

 あまりの銃弾の嵐に、本来攻撃に使うミストレアの変形形態も防御に使わざるえなかった。
 それでも完全に防げはしない。
 銃弾が掠めるだけで熱をもったように傷口が痛む。

 銃も連続で放てる銃弾の数が限られているはず、耐えきれば……。
 そんな淡い希望をエクレアは見せてはくれない。
 
「……矢弾錬成」

(弾が尽きない! 銃弾が速すぎて防ぎきれもしない! このままならなにもできないまま負けるぞ!!)

 矢の矢弾錬成とは違う。
 弾を込める動作もなく、一瞬で次弾が装填されている。

「ぐぅ……身体強化!」

 突進だ!
 イクスムさんから譲り受けたこの刃の生えた盾なら、防御しながら攻撃に即座に転換できる。
 多少の被弾には目を瞑ってエクレアに近づくしかない。

(妹様はいつでも双剣に変形し直すことが可能だ。勝負は一瞬だぞ!)

「たあぁぁぁーーっ!!」

 我武者羅な突進でその魔法を躱せたのは、果たして奇跡だったのか。
 それともエクレアにこんな安直な行動で勝てると思っても見なかったからか……。

 真相はともかく俺はその魔法を間一髪で避けられた。
 
 その螺旋の魔法を。

「……【ブルームニードル・ヘリックス】」

 迫る青バラの棘。

「ぐぅ……あぁ……」

 一刃の盾が欠けた。

 突如エクレアの眼前から伸びた二つの突撃魔法が、一つに束ねられ伸び盾を穿ったからだ。

「あっ……」

 遠くでイクスムさんの呆けた声が聞こえた気がした。





 これはこの勝負のあとでイクスムさんから聞いたことだ。

 複合魔法因子、《ヘリックス》。

 魔法因子は一つの魔法の軌道や範囲、威力を増減させるものだ。
 複数同時に展開したとしてもすべて同じ動きをして同じ影響範囲、威力になる。

 しかし、複合魔法因子は複数の同じ魔法を一つにする魔法因子だ。
 魔力消費が増大する代わりにその変化は顕著で、どの複合魔法因子も強力で複雑な特性をもつ。

 《ヘリックス》の複合魔法因子は、二つの同じ魔法を螺旋を描きながら一つに縒り合わせる。
 本来直線のみに伸びる《ニードル》は螺旋を描きながら、真横に展開された同じく螺旋を描く《ニードル》と撚り合わさり、一つの捻じれた《ニードル》を作り出す。
 貫通力と射程に特化し、威力にも優れた魔法因子。

 イクスムさんいわく、学園にこの複合魔法因子を使える者はエクレアただ一人しか存在しない。





「ぐぅっ」

「クライ! 大丈夫か!」

 未知の魔法を奇跡的に躱した。
 体勢が崩れ身体を地面に強かに打ちつけたが、なんとか立て直しエクレアから距離をとる。

 しかし、ほんの僅かに掠っただけなのに、盾が……欠けた。
 
「い、今のはなんだ!」

「複合魔法因子、《ヘリックス》。使い手は今の所私のエクレア以外は確認していないわね」

「……複合?」

「その辺りの説明は後でイクスムにでも聞いてちょうだい。まあ、簡単に言えば二つの魔法を一つの魔法に束ねる魔法因子ってところかしら」

「……ハーマート」

「ごめんなさい。少し喋りすぎたわね」

 手数の多い流麗な双剣を使った剣技に、弾丸の尽きる様子のない二丁の銃。
 要所要所で適切な魔法を展開し、さらには高威力の魔法因子まで使いこなす。

 こんな相手に俺は……本当に勝て……。

「クライ! しっかりしろ! エクレアと、妹と向き合うんじゃないのか! お前が勝負を諦めてどうする!!」

 ミストレアの叱咤にハッとする。
 いま俺はなにを考えていた。

 真っ直ぐな瞳で正面からこちらを見据え、双剣を構え警戒するエクレアに対してなにを考えていた。

 これは対等な勝負だ。
 
 互いに有利な点も不利な点もない。

 ただ己のすべてを見せる戦い。

(ごめん、ミストレア)

(それはいい。問題はこれからだ。どう戦う?)

(攻める。全身全霊で攻め続けるしか勝ち目はない)

「ははっ、なら見せてやれ! エクレアにお前のすべてを!!」





「【ブルームアロー・ヘリックス】」

 二つの青バラの矢が一つに縒り合わさった捻れた矢の魔法を、闘気強化を施した一刃の盾で弾く。
 それでも表面には凹んだような傷跡が刻まれるがそれを気にしている時間はない。

「たあぁぁぁっ!!」

 アレクシアさんの盾術を信じてエクレア目掛けて突っ込む。
 
「【ブルームカッター・ヘリックス】」

 急激に距離を詰めた俺に対してエクレアの返礼は、太い槍の穂先のように撚り合わさった斬撃魔法。
 盾で受け止めながら、闘気強化を施したミストレアの杭を至近距離からぶち当てる。

「「発射ッ!!!」」

 砕け散る青いバラの花びらを尻目に、即座に弓に変形、矢を射る。

「……盾」

 エクレアの天成器ハーマートの恐らくは第三階梯の能力。
 銃の真横に現れた白く半透明な光の盾が矢を防ぐ。

「いけ! クライ!」

 片手の銃の盾に身を隠しながら、もう片手の銃で銃弾を撃つエクレア目掛けて再度突進。

「……【ブルームニードル4】」

 迎撃の青バラの棘を寸前で躱し、半透明な盾に闘気強化した一刃の盾をぶつける。

「――――っ」

 半透明な盾に強度はそれほどない。
 盾の刃で無理矢理砕くがすぐに距離を離され、銃弾が放たれる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「……ふぅ……」

 一進一退の攻防。

 だが、俺は傷だらけでエクレアは無傷に近い。
 唯一勝機があるとすれば、エクレアの魔力残量が少なくなってきたことだろう。
 だんだんと魔法を放つ頻度が減っている。

 《ヘリックス》は魔力消費が激しいうえに、集中して魔法を展開する必要があるように思う。
 足を止めた状態でないと放てない、戦っている中でなんとなくそう感じた。

(クライ、次で最後だ。もうお前の体力も私の魔力もない)

 体力は底を尽きかけ、傷も増え動くだけで痛い。
 ミストレアの杭ももう何発も放った。
 
 それでもエクレアまで届かない。

「……エクレア!」

「……っ」

 俺の叫びに彼女が頷いたように見えた。

「……盾、【ブルームアロー4】」

 半透明の盾を構え、青バラの矢で牽制してくる。

「だあっ!」

 こちらは接近するしかない。
 ボロボロになってしまった一刃の盾で魔法の矢を弾きつつ走る。

「……っ、【ブルームカッター・ヘリックス】」

 エクレアにも疲れが見える。
 真っ直ぐに飛んできた青バラの螺旋刃の真下に潜り込み、盾ごとかち上げた。

 もう盾はない。
 急所だけは守りつつ銃弾の雨を浴びながらエクレアに密着する。

 俺とエクレアの間に分かつように存在する半透明の盾。

 ミストレアの杭を前面に押し込むように突進する。

(クライ、エクレアが跳んだぞ)

 そうだ。
 この至近距離ならエクレアは一度距離をとろうとするはず。

「ミストレア!」

 跳躍したエクレアの着地点まで一気に駆ける。

「「発射ッ!!!」」

「!?」

 エクレアが混乱しているのが見える。
 着地する足元を地面ごと粉砕したからだ。

「決めろっ!」

 バランスを崩し地面に転ぶエクレアに最接近する。

「そこまでっ!!!」

 イクスムさんの静止の合図で両者が動きを止めた。

 仰向けに地面に寝転んだエクレアの上で俺は矢を番えた弓を構え、見上げるエクレアの双銃の銃口は俺の頭に向けられている。

 決着は同時だった。

 引き分けだった。





 殺し合い一歩手前の勝負を終え、互いにイクスムさんの渡してくれた大回復のポーションで傷を癒やす。
 やはりその効果は凄まじく、瞬く間に傷口も傷跡も消えていく。
 幸いエクレアにつけてしまった傷も跡形もなく消えていった。
 それにしても、エクレアは想像していたよりずっと強かった。

「……互いに全力を尽くした良い戦いでした」

 イクスムさんの言葉に頷く。

 全力をだし、打てる手はすべて打った。
 それでも引き分けにしかできなかった。

 いや、きっとエクレアは……。

「エクレア、大丈夫だったか……その……今回の勝負は……」
 
 俺はなにもわかっていなかった。
 少なくともハーマートに糾弾されるまでエクレアを見ていなかった。

「なぜ、なぜ貴方はわからないの!!」

「……やめて、ハーマート」

 ハーマートを止めるエクレアはなぜだか泣き出しそうだった。

「なぜエクレアがこの戦いを始めたのか。なぜわからないの?」

「……やめて」

「やめないわ、私はエクレア、貴方の姉だもの。たとえ貴方に嫌われても私は貴方のためを想う。エクレアの兄クライ・ペンテシア。貴方は……エクレアの気持ちを考えたことがあるの?」

「エクレアの……?」

 そのまま消えてしまいそうなほど儚いエクレアをみて心が苦しくなる。
 エクレアの気持ち……。

「盗賊が現れた時、貴方はエクレアを連れて行かなかった」

「それは……」

「肖像画の前で取り乱し立ち尽くす貴方を心配するエクレアに、貴方は何も言わなかった。言葉を掛けることすらしなかった」

「……」

「学園の授業が終わった放課後、貴方がなにをしているのかエクレアが知らないとでも思った? 気に掛けないとでも思った? 不審な行動をとる貴方を可笑しく思うのは当然でしょう? それでもエクレアは貴方の秘密を暴こうとはしなかった」

 エクレアには、いや他の人にはケイゼ先生に会いにいっていることは伝えていない。
 検証のことも、特別授業のことも、《リーディング》のことも。
 誰にも伝えていない。
 それを説明する勇気がなかった。
 心配をかけるのではないかと不安だった。
 いや……言い訳だな。

「エクレアは戦える。貴方の隣に立って戦えるのよ。だから……この娘に向き合ってあげて」

 ハーマートの心からの叫びはエクレアの気持ちを代弁しているかのようだった。
 いや、事実そうなのだろう。
 俺はなにもわかっていなかった。
 考えていなかった。
 手の届く距離にいながらなにも知らされない者の気持ちを。

「……兄さんの秘密は兄さんのものだから……だから無理に話さなくていい」

 弱弱しく微笑むエクレアに俺は……。

「その……聞いて欲しいんだ。遅くなってしまったけど……エクレアさえ良ければ……俺の話を」

 俺はエクレアにこれまでのすべてを話した。

 アルレインの街で狩人になるため父さんと二人暮らしてきたこと。
 禁忌の森で失色の器を見つけアレクシアさんたちの過去を垣間見たこと。
 偶然にも手に入れたスキルで瘴気獣と戦い、家族の存在を知って王都を目指したこと。

 一つの旅の出会いと別れの話、魔物との戦いと一つのパーティーの話、贖罪を求める盗賊の話、見つかるとは思っていなかった肖像画の話。
 たくさんの話をした。

 勿論、《リーディング》のことも。

 そして、謝った。

 これまでエクレアと向き合っていなかったことを。
 ないがしろにしてしまっていたことを。
 
 彼女はいつもと同じ無表情だった。

 それでも一歩距離が縮まった気がした。
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