3 / 52
第二話 恩恵
しおりを挟む恩恵。
それは、魔力を用いて特定の物体を作り出す力。
一人に一つ与えられ、人は十五歳の誕生日に自らに授かった恩恵のことを突然に理解し、使用することができる。
冒険者になる奴は、大抵戦闘向きの恩恵を持った奴ばかりだ。
なぜなら、『ブロードソード』の恩恵なら幅広い剣を。
『アイアンシールド』の恩恵なら鉄製の盾を。
自らの魔力を編み作り出すことができるからだ。
それらは自らの魔力を宿した強力な武器、防具であり、大いに戦闘の役にたつ。
しかし、恩恵は必ずしも戦闘向きのものばかりではない。
『ペン』の恩恵は文字を書くことしかできず、『割り箸』の恩恵は木製の箸を作ることしかできない。
それでも生活の役には立つだろう。
戦いの場から遠ざかり、普通の暮らしを送る分にはあって困らないだろう。
だが、恩恵にはその用途や正体のわからないものも存在する。
そんな戦闘にも生活にも役立たない恩恵をもった冒険者がいるとしたら?
正体不明の恩恵の持ち主はこう呼ばれるだろう……何の役にも立たない“ゴミ恩恵”と。
「いた」
ランクルの街の西に位置する森の中。
数十メートル先に討伐対象である二足歩行で歩くゴブリンの姿が見える。
緑の肌、醜悪な顔、毛のない頭部、尖った牙と爪。
冒険者ギルドの定めた討伐難度はDランク。
だだし、それは単体での話。
ゴブリンは大抵集団で行動する。
数体から数十体。
時にはコロニーを作り繁殖を繰り返して大集団となり、都市を襲うこともあるという。
まあ、いまは関係ないか。
森の浅い所で彷徨っているゴブリンは単体が多い。
運のいいことに歩いているゴブリンに仲間はいなそうだ。
……あいつ相手ならオレ一人でも勝てるか?
こっそりと近づいて背後を取る。
ゴブリンは嗅覚が鋭いらしいがまだ気づかれてはいない。
ここで俺は恩恵を使う。
「『消毒液』」
剣を握る右手とは反対の、左の掌に魔力で作り出された消毒液が薄く広がる。
そう、たったこれだけ、これだけがオレに与えられた恩恵の力。
「喰らえっ!」
振り返るゴブリンの顔面目掛けて消毒液を投げつける。
ビシャリと音を立て醜悪なゴブリンの顔を濡らす。
「ギャギャッ!?」
「どうだ、染みるだろっ!」
隙の出来た瞬間に剣を振るう。
それでも、錆びた剣を振るうゴブリンと鍔迫り合いになった。
「クソっ! コイツなかなか力強いな!!」
それでもフワダマ相手に多少は鍛えてある。
「このっ! いい加減死ねっ!」
鍔迫り合いを制して胸に一突き。
それだけで運良く心臓を突き刺したのかゴブリンは事切れた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ゴブリン一匹にこの体たらく、か」
随分苦戦した。
やはり恩恵の差は大きいと改めて思う。
普通の冒険者なら恩恵を利用して、ゴブリン程度なら一撃で倒すだろう。
だが、オレの恩恵は『消毒液』。
文字通り消毒液を魔力によって作り出す力しかない。
それも、ほとんど水と変わりない僅かに独特の変な匂いのする液体を作り出すだけしかできない恩恵。
その量は、編み込む魔力の量に左右され、オレの魔力では掌いっぱいの消毒液を作り出すのは日に三度が限界。
しかも、それ以上は魔力が尽きる。
そもそも消毒液ってなんだよ!?
何に使う恩恵だ?
飲み水にすらならないくせにすぐ乾く。
傷口にはやたらと染みる。
匂いを嗅げば変な刺激臭がする。
こんな恩恵でどうやって戦うって言うんだ!!
自らの恩恵の貧弱さに嘆いていると不意に何処からか音が聞こえる。
なにかの走る音?
「ヒヒンッ」
馬の嘶きが聞こえる。
次いで森全体に響くかの如く轟音。
「な、なんだ!?」
意外と近い。
何故かオレの足は音の聞こえた方向に向かっていた。
魔物同士の争いなら即刻逃げるべきなのに。
「ひ、姫様! ご無事ですか!?」
草陰から目に入ったのは、横転した馬車と青い騎士甲冑に身を包んだ目つきの鋭い凛とした女。
その彼女が慌てた様子で倒れた馬車を覗き込み叫ぶ。
「姫様! どちらにおいでですか! 姫様!!」
「レ、レオパルラ、わたしはここです」
馬車の影から小柄な影が躍り出る。
それは数多の装飾の施された翡翠のドレスを纏った一人の女の子。
一目で高貴と分かるその女の子は足を怪我しているのか動きが鈍い。
「ガアァァァアァァァーーー!!!」
絶叫が辺りに響く。
オーガだ。
赤黒い肌の体長三メートル近い人型魔物。
こんな街に近い森にはまず生息していない強力で残忍な魔物。
「クソっ、コイツがここまで追って来なければ、姫様を危険な目に合わせなくて済んだものを……。姫様! 私が時間を稼ぎます! どうかその間にお逃げ下さい!!」
「レオパルラ、そんな……」
「時間がありません! 姫様、お早く!!」
選択を迫られていた。
このまま彼女たちを見捨てて逃げるか。
それとも無謀だとわかっていながらも助力を申し出るのか。
時間はさして残されていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる