異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)

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十二日目―指名依頼

 困惑する俺の目線は、思わず耳を確認しちゃうよな。あのエルフ特有の耳を。

「ふふっ…やっぱりエルフと聞けば、耳が気になりますか?」
「まぁ、一応…」

 ギルマスの反応に、俺は恐縮しながら答える。

「おや?いつものルイ君らしからぬ遠慮がありますね」
「まぁ、話題が話題ですから」
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。ハーフエルフと言っても、250年~300年の寿命がありますからね。君たちより、よっぽど長生きですよ」
「へぇ、そうなんですか」

 にこっと微笑むギルマスに、俺は曖昧に答え微笑む。
 ギルマスに聞きたい!けど、聞けない問題勃発。「今、なん歳ですか?」と。

「それで水力草ハイドロパワーグラスですが、朝露が必要なんですよね?」
「はい」

 どこかに飛んでいったバレンはさておき、俺はギルマスの問に頷く。

「実は、ルイ君が最初に納品してくれた薬草だけどね。あれは、マルタブルク共和国の大学府の薬草関連の部署へ、転移陣で転送したんだよ」
「は?」
「…え''?」

 お?帰ってきたか、バレン。
 それより転送ということは、この冒険者ギルドに、転移陣部屋があるのか?

「転送って、転移陣があるんですか?」
「えぇ。緊急時や会議で遠出する場合にも、使用するよ」
「会議……」

 それなら、少し理解出来るな。
 失礼な考えだが、ここは未開地に面した辺境の街だ。

 俺の村があるのは、未開地に接する辺境の端だ。未開地故に、自然の恵みが豊富にあり、それを目当てに冒険者もやってくる。
 その訪問に備えた宿屋と雑貨屋もある。行商人が、二カ月に一度は訪れる中規模の村。

 ギルドが大陸中にあれば、会議の場所も様々だろうからな。殆どは、王都か本部だろうけど。

「珍しい薬草というわけではありませんが、鮮度と品質が抜群な薬草は、そうありませんからね。それで、私の伝手で転送したまでは良いんですが……」

 微妙な顔をしたギルマスに、俺は首を傾げた。

「どうしたんですか?薬草に、なにか不都合がありましたか?」
「いえ!?それは全く!逆に、ウザい輩に気に入られてしまったんですよ」

 私の後輩なんですがね…と溜め息を吐くギルマスは、疲れた表情をしている。

「あれ以来、暇を見つけては、魔法具で連絡を寄越すんですよね……『あの薬草を納品した冒険者を紹介しろ!』……と」
「うわぁ……」

 引き気味なバレンよ。お前も、人のことは言えないからな?お前も大概だからな……自覚がないって怖ろしい。

「ギルマスの立場では、そのような依怙贔屓は推奨されていなかったはず」
「そうなんだよ。私は、大学府に転送したが、あいつ目当てに送ったわけではないからね。それをあいつは、なにを騒いでいるのやら」
「……」

 肩を竦めたギルマスに、俺は暖かい視線を送ってしまう。
 そういう体で送っただけですよね?
 ギルマスが依怙贔屓して、納品物を個人に転送なんてすれば、私物扱いしているのと同義。職権乱用問題になる。

「はぁ……。それで、ルイ君が水力草の朝露が欲しいということで思いついたんだけど」
「なんでしょう?」
「あいつに、指名依頼を出さないかい?」
「指名依頼を?」
「あぁ……っと、報酬を気にしているなら、なにも貨幣でなくても構わないんだ。相手が納得する物なら、どんなものでも」
「納得するもの……なにか、心当たりがあるんですね?」

 そうやって先導するということは、彼に考えがあるんだろう。

「あぁ。ルイ君、アリーシャにやったように、彼にも魔法文字の一語を引き受けてやってくれないかい?」
「またですか……」 
「何度も済まない。だが、奴の欲しがる魔法文字は、予想がついているんだよ」
「なんですか?」
「多分だよ?多分だけど、鮮度維持フレッシュキープにご執心だから、それを選ぶと思うよ?」
「それは構いませんが、違う文字を選ばれたらどうしますか?教えられる文字にも、限度がありますし」

 危険なものはお断りだし、そもそも、魔法文字は俺だけのものではない。俺の特技ではあるが、易易と報酬に据えるのも違うと思う。

「そうだな。条件をつけよう」
「条件?」
「あぁ。私の承認付き……というのはどうだい?」
「では、その方が望んだ文字をギルマスが承認すれば、俺が報酬を払うということですね?……先に、希望の魔法文字を聞いてもらえます?後で、何度も交渉するのも手間ですし」
「分かった、直ぐに取り計らおう。朝露は、どれぐらい欲しい?」
「それなら、小指ぐらいの小瓶一つでかまいませんよ」
「了解した……それにしても、太古なる遺物か。付与が出来る木印なんて、ロマンチックだね」
「……そうですかね?」
「私の知らない魔法文字に、どんな効果があるのか、想像するだけで胸が躍るじゃないか」
「お師匠様に連絡さえ取れれば、確認のしようがあるんですけど……」
「それなら、私が奴に転送する手紙に、君のお師匠様の手紙を添えたらいい。奴に届けるよう、言いつけておくよ」
「え?…そんなっ!?申し訳ないですよ!それに、大学府ではなくて、お師匠様がいるのは、魔法具協会ですから!」

 アワアワと腕を盛大に振り、断りを入れるバレン。

「奴は薬草の為なら、それぐらいお安い御用だ。それに、誰にも邪魔出来ないぐらいの権力は持ってるからね。きっと大丈夫さ。今、文と筆を用意しよう」
「…っ!ありがとうございます」

(良かったな、バレン)

 俺は胸中で慰めの言葉をかけながら、バレンの背中を軽く叩く。こちらを振り向いた彼は、眉尻が下がっていたが、どこかホッとした表情だった。
 きっと、お師匠様への連絡の目処が立ち、安心しているんだな。

「ギルマスが言っていた【始まりの丘】は、隣国マルタブルク共和国にあるんですか?」 
「そうだよ」

 何故、バレンのお師匠様と馬鹿貴族のいざこざを、ギルマスが知っているのか? 

 憶測でしかないが、大学府は、マルタブルクの魔法都市にある。ギルマスが言っていたアリーシャさんという専門家も、大学府の研究者だろう。

 恐らく、転移陣を使ってマルタブルクへ行ったギルマスは、バレンのお師匠様と馬鹿貴族の噂でも聞いたのではないだろうか?
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