とあるヒーローの開発計画

久保田

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とあるヒーローの開発計画

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 私に自我が目覚めたのは、今から何千年前の話なのか。
 私は信仰によって生まれた存在だと自覚している。 大地への、恵みの雨への感謝で私は生まれた。
 私は善なる存在たれ、と望まれて存在している。
 紙切り用の鋏が紙を切る用途で使われるように、私は人のためにと望まれた。
 雨が降らなければ、力を使って雨を降らせた。 土が痩せれば豊かにした。
 しかし、ここ最近はどうか。

 人間は土が痩せれば科学肥料を、雨が降らなければ人口降雨装置を使い、私の出番はない。
 ならば人間は自然への感謝を忘れてしまうのか、と言えばそういうわけでもないらしい。
 科学とは世界の摂理は超えられない。 世界に出来る事を筋道立てて形にした物が科学である。
 つまり、自然への信仰が科学への信仰と名前を変えただけで、人々の祈りは私という存在に流れ込んでいるのだ。
 正直、中世の方が辛かった。 宗教に信仰が移り、私には祈りが回ってこなかった。 あの時は危うく消えてしまうかと思った。
 宗教への祈りは力のベクトルが拡散しているせいで、私と同類の存在は生まれなかった。 それが残念でならない。

 それはともかく科学信仰の力が流入したせいなのか、最近の私は妙に理屈っぽくなってしまった。 考える必要が無かった頃の方が楽だったと思う。 なにせ私は他者との交流は難しい。
 存在としての次元が違うせいで、コミュニケーションを取ろうとしても妙な形にしか受け取られない。
 人間の王に「私にもコントロール出来ない災害が起きるから、気をつけてはどうだろう?」と伝えたら、何故か生贄の心臓をえぐり出す儀式が始まった時は肝が冷えた。 私に肝はないが。
 人間は私の手を離れた。 私が手を出さずともいきなり絶滅するような事はないし、戦争で自滅するような事があっても私は何かをする気はない。
 困った事があれば、それに手を貸すのはいい。 しかし、人間の選択に介入する気はないのだ。

 と、いう事で私は暇である。 思考するだけの知性を獲得したが、議論を交わす相手もいない。
 最先端の技術開発について、NASAの科学者達に教えててやれるだけのの知識と知性があると自負しているが、使い道もない。
 最近では日曜朝八時にテレビで、ハイパーヒーロータイムを見るのが楽しみになったくらい暇である。 何故、この国はこういうサブカルチャーの分野には全力を発揮するのだろうか。
 人間が猿と大して変わらなかった頃から考えれば、どういう進化をしたのだと思わなくもない。 何があったんだ、人類。

 ふと気付いた。
 ヒーローを作るのはどうだろうか?
 長らく続く政治不信、そして先の見えない未来に若者達の希望が失われつつある。 ……とニュースではよく言っている。
 ピラミッドを作っていた大昔から、最近の若い者は……と愚痴っているのは変わらない。 そうそう人間の本質は変わっていないのだから、今も何とかなるのではないかと私は思うのだが。
 話が逸れてしまった。
 ヒーローを実在させれば、幼き頃にヒーローに憧れた彼らは、その熱き心を取り戻し、活気ある国を復活させるのではないか、という大義名分が出来る。
 海の向こうの大国も似たような文化があるが、奴らは下手な敵を用意してしまうと銃で反撃してくるだろう。 ヒーローの必要性がなくなる。
 一般人が武装していない。 ヒーローの文化が浸透している。 この二点の条件をクリアしているのは、ここだけだろう。
 理想的なテストモデルだ。 私は人類のため、ヒーローを作るとしよう。



 この国の人間は頭がおかしいのではないだろうか。
 テストモデルとして、英雄願望を持つ中学二年生に力を与えてみた。
 これは本人の深層心理にある『ぼくのかんがえたかっこいいヒーロー』を一定の制限付きで具現化する物だった。
 さすがにエターナルフォースブリザード、相手は死ぬをされては困る。
 力を与えた中学生の前に、悪の秘密結社グランドサザンクロスの怪人(無論、人間を死なせるような事はない。 怪人も私が作ったメカである。 建物などに被害はあるが、所有者に宝くじが当たるなど保障は完璧だ)を出してみた。
 派手な立ち回りと、誰もやれとは言っていない名乗り上げ。 ご丁寧に仮面のヒーローを自称してくれた彼は、この国を大いに盛り上げてくれた。
 そこまではいい。 そこまではいいのだ。

 一ヶ月後、国会にある計画が提出された。

『マスクドヒーロー計画』

 しかも、一カ所からではない。 私が力を与えたヒーローを解析したと豪語し、計画を提出してきた大学は四十、ロボット研究所から十八、企業が九、更に高校から四。
 どうなっているんだ、一体。 彼らの頭の中でカンブリア大爆発でも起きたのだろうか。
 計画が提出された三日後、国会では異例のスピード採決がなされ、国家プロジェクトとしてマスクドヒーロー計画が始まった。
 なお、さすがに著作権的に不味いという事で、元ネタの制作会社とスタジオに挨拶に行った所、著作権の話をする前に担当者はデザイン案を千枚以上、渡されて帰ってきていた。

 更に一ヶ月後、マスクドヒーローを個人で開発した者すら現れた。 この国最高の開発チームを差し置いて、だ。
 開発チームの失敗は、ただ一つ。
 デザイン案を貰い過ぎて、その決定に時間がかかっていたせいだ。 すでに素体だけは完成していた。
 ある大国ではのろのろと動くだけのパワードスーツがやっとだというのに、この国では映像と遜色ない動き、いや、それ以上にアクロバティックな動きも可能なマスクドヒーローが完成されようとしていた。
 頭の回線が妙な所に繋がった科学者達の頭脳は、百年先の技術を得ていると自負していた私にも、すでに理解出来なくなっている。

 一年も過ぎた頃になって、私はやっと不味い事になっていると気付いた。
 技術格差が他国と比べ、恐ろしい事になっているのだ。
 小銃弾程度なら弾き返す装甲、戦車砲なら照準を付ける前に避ける機動性。 戦車の正面装甲も殴れば穴が開くパワーアシスト機能。 戦力比ヒーロー一・主力戦車五十。
 各県にヒーローを作れるほどの量産性。 これについては量産型を一切作らない彼らのこだわりにより、大した意味を持たなかったが。
 もし、この技術を使えば世界征服すら……と思ったが、彼らは一切、そんな事はしなかった。
 先制攻撃をしない、武器を輸出しない、という長年の理念とヒーローを人殺しの道具にしないという科学者達の想いが戦争の道を選ばせなかったのだ。
 それどころか国連での演説で、『ヒーローは人を守るために存在している!』と、この国の総理大臣が言ったほどだ。 一年前なら気が狂ったとしか思えない発言だが、この国では誰もが総理大臣を称えた。
 その代わりグランドサザンクロスを倒した後、各地にご当地悪の組織が誕生していった。
 頭のいい個人は頭がおかしくなるらしい。 彼らも人を傷付ける事なく、悪役をこなしていた。



 ヒーローへの信仰は私の力へと変換され続けた。
 これまで地球のみだった私の力の範囲が、月まで届くようになったほどだ。 しかし、私は月に力を使う事を恐れている。
 何故ならば、

『次は巨大ロボットが出てこないかな』

という希望がひしひしと伝わって来るのだ。
 月に手を伸ばしたら、そこを悪の秘密基地にしてロボットを作るという誘惑に勝てる自信が、私にはない。
 しかし、私は人に望まれた存在だ。 人の純粋な望みを叶えずにはいられないだろう。

 ……今まで味わった祈りより、どれよりも純粋に悪のロボットを望むのはどうなのだろうか。
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みんなの感想(1件)

からから
2017.04.01 からから

これは面白いね(((*≧艸≦)ププッ

2017.04.06 久保田

ありがとうございますー。
ちなみにこっちは前に間違えてアカウント消した時保存庫として使っていたので、普段は小説家になろうでうろうろしています。
http://mypage.syosetu.com/676289/
というダイレクトマーケティング。

解除

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