呪われた少女の恋が報われるまで

ゆきち

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※5話(途中医者視点)

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 コニーは思い悩んでいた。
 ハンスと出会ってからは、ハンスと喧嘩して留守番させられたり、ハンスに突然家出されて村に置き去りにされたり、そういったハンス絡みの相当な出来事がない限りネガティブになることはなかった。
 基本的に何かがあっても、過去の経験上「あの時よりはずっとマシ」という思考になりやすかったのである。
 今回も例に漏れず、ハンス絡みでの悩みだった。

「今月も……ダメでした……」

 がっくりと項垂れたコニーを、ハンスがヨシヨシと慰める。結婚してからというもの、毎月のお決まりの光景になりつつあった。

 結婚後のコニーは、行為をすればすぐに子どもができると思っていた。
 初潮自体は、呪いが解けた後すぐに迎えていたのでそこは問題ないはず。
 タイミングも村のお姉さんたちに教えてもらい意識はしてる。そもそも、初夜の日がそこにくるように調整してあったのだ。

 ハンスはコニーが思いつめてしまうくらいならいっそ子どもは望まないのだが、コニーの強い希望があるので毎月本気だ。というより、愛する妻が誘おうとも誘わずとも、寝所を共にしている以上、いつだって我慢できるはずもないのだった。

 ハンスもコニーも、呪いにかかっていた時ならばいざ知らず、今は身体的には何の瑕疵もない。
 色々と可能性を潰した結果、行き着いたのが魔力回路についてだった。

 この世界の人間は、大小強弱の差はあれど誰でも魔法を使うことができる。ある程度の水準以上に操ろうとするならば、学園に通うなり誰かに師事するなり、本格的に学ぶ必要があるが、日常生活に困らないレベルであれば感覚さえ掴めば難しくはない。
 また一般的には、魔力があるもの同士であれば子を成すことができる。その魔力量に明確な差があると多少確率は下がると云われるが、それ自体は可能なのである。
 ただしそれは、両者の魔力の受け皿である魔力回路が正常である場合に限る。
 魔力回路に異常があると、魔力を上手くコントロールすることができず魔法が発動しないし、お互いの魔力の受け渡しができず子を成すことができない。

 コニーは魔力自体は微量ながらあるものの、子どもでも使えるようなごく簡単な魔法すら扱うことができない。
 ハンスが視て確認した限りでは、どうやら魔力回路が破綻しているようだった。生まれつきか、呪いによる影響か、はたまた別の要因があるのか、全く不明であるが、ただ一つはっきりしているのは、いくら子作りに励んだとしても、このままでは望みがない、ということである。

 ハンスは魔法の扱いに長けているが、理論や、ましては回路それ自体の回復方法については全くの門外漢だ。
 ただ、詳しくない代わりに、魔力や回路に詳しい医者の知り合いがいるという。
 ならば善は急げと、直接聞きに行くことになった。
 その人物は村から何日か離れたところの大きな街にいるらしい。甲冑を購入した街とはまた別の街である。

 馬車に揺られて辿り着いた街は賑やかで華やかで、状況が状況でなければ二人して浮かれてデートでもしていたかもしれない。
 目的の人物の診療所はその街でもそれなりに有名らしく、さしたる苦労もなく辿り着くことができた。戦地に向かうかのような真剣な表情で、ゆっくりと扉を開けた。


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 久しぶりに知り合いが訪ねてきたと思ったら、美人な奥さん——何故か甲冑を着てる——を連れていた。
 それだけでも驚きなのに、二人して悲壮感を漂わせているもんだから何事かと思った。
 お互い自己紹介をした後、世間話もそこそこに話を聞けば、なるほど確かに二人にとっては深刻な悩みだった。

 ハンスの語った通り、奥さんの魔力回路は破綻していた。こんなに綺麗に途切れているものはそうそう見ない。
 生まれつきだったり、魔力関連の病でおかしくなった回路は、もっとめちゃくちゃになるもんなんだが……おそらく話に出てきた呪いによるものだろう。

 体が成長しない呪い。
 おそらく目に見える身体的な部分はもちろんだが、目に見えない部分も成長が阻害されたのだろう。
 話をしていると、奥さんは精神的な面の成長も緩やかな印象を受ける。心を守るため、でもあったんだろう。
 魔力回路や魔力量自体も、呪いにかかった時点で成長が途切れたのだろう。器である身体が成長しない以上、それらが成長を続けたら均衡が崩れて、生命維持に影響が出ることは想像に難くない。

 二人に視線を向ける。
 途切れ方が綺麗であり、身体も十分に成長している今の状況であれば、回復の見込みがある。
 そう伝えると、わかりやすく安堵の表情を浮かべた。全く同じ顔をするものだから面白い。

 それで治し方であるが、すぐに治るような方法はなかったりする。つまり、ゆっくり時間をかけてじっくり修復していくものなのだ。
 幸い途切れ方が綺麗なため、さほど時間はかからないはずだ。
 詳しい理論から入ろうとしたら、お前は話が長いから要点だけ教えろ、だと。全く、昔からせっかちなやつだ。

 要は魔力が正しい回路を通れるように導いてあげればいいのだ。
 まず、魔力の流れが正常な人物、つまりハンスと身体的な接触を続けていれば徐々に回復するだろう。更に言えば、接触面が広く、時間的に長いほど効率は良い。
 あとは奥さんが魔力の通った液体を摂取したり、ハンスに直接魔力を注いでもらうのも効果的かもしれないな。

 と説明したら、二人して顔を赤くして居心地悪そうにし始めた。ハンスはなんか考え込んでるし。なんだおまえら。初々しいにも程があるだろう。
 手を繋いだり、ハグしたり、夫婦なんだからそれぐらいどうってことないだろうと思ったのだが……後者は魔力回復薬のようなそのあたりに売ってるもので十分だぞ。ハンスがわざわざ作る必要はないんだぞ。わかってるか? わかってなさそうだな……。


 ---------------------


 すごい話を聞いてしまった、と二人は考えていた。

「魔力の流れが正常な人と、身体的な接触を続けていれば徐々に回復する」
「接触範囲が広く長いほど効率が良い」
「魔力の通った液体を摂取したり、魔力を直接注ぐ」

 医者が語ったことは理にかなっていて納得できるものだった。

 しかし伝える順番が悪かった。

 二人は結婚したばかりで若く、体力もあった。日常的に肌を重ねており、だいぶ脳内がピンク色に傾いていた。そこに先ほどの話がされたのである。
 つまり先ほどの医者の話は、二人の中ではこう解釈されていた。

「これまで通りかそれ以上に頻繁に、深く、さらに長い時間肌を重ねる」
「魔力を纏わせた子種を飲む、注ぐ」

 方向性がピンク色で卑猥なだけで間違えているわけではない。間違えてはいないが、医者の想定とはだいぶズレた位置に着地してしまっていた。

 顔を見合わせた二人は、顔を赤くしたままどちらともなく頷き、手を繋いで宿に戻るのだった。



 余談ではあるが、お互いがお互いに、魔力回路が回復するまでの間は避妊せずともシ放題ってこと……? と気付いてしまっていたのだが、そもそも元から避妊はしていないので、お互いに押し黙ったままだった。




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