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第一章 女子高生行方不明事件
第十二話
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明善が小学生二年生の、春頃だ。彼が通っていた小学校の近くに、紙芝居おじさんという人がいた。本当の名前はわからない。いつから現れたのかもわからない。彼は廃墟の工場で数日毎に紙芝居をし、見に来た子供達にお菓子を配っていた。日本人離れした顔立ちの中年で、いつも面白い話を聞かせてくれた。聞かせてくれる話は毎回異なり、剣と魔法を操る勇者や、洞窟を探検する冒険家、ドラゴンを操る老人等々。彼の話はいままで聞いたことない物語であり、子供達を大いに楽しませた。教師や保護者は「彼は怪しいからあまり近付くな」と口を酸っぱくしていたが、子供達は怖いもの見たさから何度も紙芝居おじさんを訪ねた。彼の語り口はとても上手く、まるで自分の目で実際に見たようなリアルさがあった。子供達の口コミが広まり、さらに子供が集まっていく。
明善が興味本位から友人達の誘いにのり、初めて紙芝居おじさんを訪ねた時だ。その時には子供の数が三十人近くまで増えていた。今か今かと子供達は期待しながらおじさんを待っている。
空の配色が青から橙色に比率が優勢になりつつある時、おじさんがようやく来た。
子供達の人数を見たおじさんは最初驚いたような表情を見せる。
「いや、今日は随分と多いね」
子供達は早く紙芝居を見せよう急かせる。「かみしばーい! かみしばーい!」と囃し立てる子供達をおじさんは苦笑いしながら宥める。
「わかった、わかったから。落ち着いて。ちょっと待ってくれないかい」
そう言うとおじさんは子供達に背を向ける。
「ああ。……子供が増えてね。……所定の人数……。今日にしよ……。こちらで……の時間をかけ過ぎだ。そうだ。今だ」
どうやら誰かに電話しているようだ。少しして電話を終えたようで、おじさんは子供達に振り向いた。おじさんはニコニコ笑っている。だが、明善にはおじさんの笑みに、何かぞっとするような不気味さを感じた。目の奥には暗い光が灯っており、どこか粘着質な笑いに見えたのだ。
「今日は紙芝居よりも面白いものを見せてあげよう」
「なに?」と子供達の疑問に、おじさんはさらに笑みを濃くする。
おじさんはポケットから何かを取り出した。それは水色の水晶のようなもの。中心で何かがほのかに光っている。
「みんな、この球を見てくれるかい? 真ん中を見てくれ」
子供達の視線が集まるのを確認したおじさんは、何か聞いたことのないような言葉を唱える。すると、水晶から強烈な光を放たれる。
明善の意識はそこで途切れた。
次に明善が目覚めた時、そこは見たことのない場所だった。部屋に金属製の扉が一つだけ。天井から豆電球のようなものが一つぶら下がっており、薄暗い。石造の床に明善は転がっており、手足は鉄枷で拘束されている。視線を巡らせると、他の子供達も同様に拘束されていた。
ここはいったいどこだろう。
明善がわけがわからず混乱していると、金属の鈍い音がし部屋に明かりが差す。扉の前に目を向けると、紙芝居おじさんと、他に数名の男がいた。
「おじさん、なにこれ! 部屋から出して!」
子供の一人がそう、おじさんに叫んだ。おじさんはその子に近づき、まるでその辺の石を見るような冷たい視線を向ける。
そして、勢いよく腹を蹴り上げた。
その子は地面を何度かバウンドし、明善の目の前に転がる。苦悶の声を漏らしながら嘔吐。吐瀉物特有の酸っぱい匂いが明善の鼻をついた。
「五月蝿い! ぐだぐだ騒ぐな!」
おじさんは底冷えるような冷たく大きい声で、そう怒鳴った。子供達は怒号に身を竦ませる。
「おい、あまり手荒に扱うな」
おじさんの肩に男の一人が手を置き、そう諭す。
「多少いいだろう。どうせ、こいつらはただの実験動物なんだから。それにこの場で逆らわないように言い聞かせないとな」
おじさんは男の手を払った後、再び子供達に顔を向ける。
「いいか。よく聞け、ガキども。お前達はもう帰れない。お前達の世界にはな。大人しく俺たちの言うことを聞けば、生かしておいてやる」
そう言っておじさん達は扉を閉め出ていった。
もう帰れない。その言葉を聞いた子供達は身を寄せ合い泣いた。明善もだ。泣いた。ひたすら泣いた。おじさん達を呪い、このような事態に巻き込まれた不運を呪い、誘った友人を呪い、泣きじゃくった。
だが、本当の地獄は次の日からだ。
明善達は牢屋のような部屋から連れ出されては、何かの薬を飲まされたり、よくわからない機器を体につけられた。
おじさん曰く、明善達がこちらの世界に来た際に、神々からの加護を授かり、魔法が使えるとのこと。彼の言う通り、子供達はまるでファンタジー小説のような力が使えた。火を自在に操ったり、水を出したり。明善の場合は、遠くの景色が見えるというもの。おじさん達はその力をさらに強めようと、実験を繰り返しているのだ。子供達は日中過酷な実験を受け、夜遅くにようやく眠ることを許される。食事は一応は与えられてはいるが、硬いパンや冷たい味のしないスープばかり。最初は力を使って反抗しようとした子供もいたが、幼さからであろうか自分の力がうまく使えず、返り討ちにあった。
そして、ある日だ。薬物を無理やり飲まされ嘔吐している明善に対し、おじさんがこう冷たく言い放った。
「こいつはだめだ。他のガキと違い、力もあまり役に立たない。こちらの人間の魔法や技術で十分事足りる。実験の効果も出ていない。金の無駄だ。廃棄処分だ。明日始末しろ」
明善が興味本位から友人達の誘いにのり、初めて紙芝居おじさんを訪ねた時だ。その時には子供の数が三十人近くまで増えていた。今か今かと子供達は期待しながらおじさんを待っている。
空の配色が青から橙色に比率が優勢になりつつある時、おじさんがようやく来た。
子供達の人数を見たおじさんは最初驚いたような表情を見せる。
「いや、今日は随分と多いね」
子供達は早く紙芝居を見せよう急かせる。「かみしばーい! かみしばーい!」と囃し立てる子供達をおじさんは苦笑いしながら宥める。
「わかった、わかったから。落ち着いて。ちょっと待ってくれないかい」
そう言うとおじさんは子供達に背を向ける。
「ああ。……子供が増えてね。……所定の人数……。今日にしよ……。こちらで……の時間をかけ過ぎだ。そうだ。今だ」
どうやら誰かに電話しているようだ。少しして電話を終えたようで、おじさんは子供達に振り向いた。おじさんはニコニコ笑っている。だが、明善にはおじさんの笑みに、何かぞっとするような不気味さを感じた。目の奥には暗い光が灯っており、どこか粘着質な笑いに見えたのだ。
「今日は紙芝居よりも面白いものを見せてあげよう」
「なに?」と子供達の疑問に、おじさんはさらに笑みを濃くする。
おじさんはポケットから何かを取り出した。それは水色の水晶のようなもの。中心で何かがほのかに光っている。
「みんな、この球を見てくれるかい? 真ん中を見てくれ」
子供達の視線が集まるのを確認したおじさんは、何か聞いたことのないような言葉を唱える。すると、水晶から強烈な光を放たれる。
明善の意識はそこで途切れた。
次に明善が目覚めた時、そこは見たことのない場所だった。部屋に金属製の扉が一つだけ。天井から豆電球のようなものが一つぶら下がっており、薄暗い。石造の床に明善は転がっており、手足は鉄枷で拘束されている。視線を巡らせると、他の子供達も同様に拘束されていた。
ここはいったいどこだろう。
明善がわけがわからず混乱していると、金属の鈍い音がし部屋に明かりが差す。扉の前に目を向けると、紙芝居おじさんと、他に数名の男がいた。
「おじさん、なにこれ! 部屋から出して!」
子供の一人がそう、おじさんに叫んだ。おじさんはその子に近づき、まるでその辺の石を見るような冷たい視線を向ける。
そして、勢いよく腹を蹴り上げた。
その子は地面を何度かバウンドし、明善の目の前に転がる。苦悶の声を漏らしながら嘔吐。吐瀉物特有の酸っぱい匂いが明善の鼻をついた。
「五月蝿い! ぐだぐだ騒ぐな!」
おじさんは底冷えるような冷たく大きい声で、そう怒鳴った。子供達は怒号に身を竦ませる。
「おい、あまり手荒に扱うな」
おじさんの肩に男の一人が手を置き、そう諭す。
「多少いいだろう。どうせ、こいつらはただの実験動物なんだから。それにこの場で逆らわないように言い聞かせないとな」
おじさんは男の手を払った後、再び子供達に顔を向ける。
「いいか。よく聞け、ガキども。お前達はもう帰れない。お前達の世界にはな。大人しく俺たちの言うことを聞けば、生かしておいてやる」
そう言っておじさん達は扉を閉め出ていった。
もう帰れない。その言葉を聞いた子供達は身を寄せ合い泣いた。明善もだ。泣いた。ひたすら泣いた。おじさん達を呪い、このような事態に巻き込まれた不運を呪い、誘った友人を呪い、泣きじゃくった。
だが、本当の地獄は次の日からだ。
明善達は牢屋のような部屋から連れ出されては、何かの薬を飲まされたり、よくわからない機器を体につけられた。
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そして、ある日だ。薬物を無理やり飲まされ嘔吐している明善に対し、おじさんがこう冷たく言い放った。
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