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1軒目 ―女神イーリスの店―
4杯目。芋焼酎。(1)
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シオルネーラの豪快で品のない笑い声が店中に響き渡る中、主任は意気消沈してしまったかつての宿敵のライバルのために、ウェイターに「ジンをダブル」で注文した。
それを待つ間、「人生って山あり谷あり、アリジゴクだよなぁ」とゾンビのように呟くヤスの背中をポンポン、と宥めてやる。自分も色々あったが、彼も彼で色々あったのだろう。
そうこうしていると、ようやく笑いを納めながら、顔面をその名残で痙攣させるシオルネーラがぐっと顔を向けてきた。
「そういえばぁ、ねぇ主任。あんたんとこのダンジョン、今改修工事どうなってんの?」
遠慮の欠片も思いやりの心も皆無の大魔女シオルネーラは、指先の丁寧にぬられた赤いネイルを気にしながら自分が頼んだ芋焼酎をちびりとやる。
「ああ。ヤスに破壊されたダンジョンな…」
「そうそう。あのダンジョン!全体が複雑怪奇な迷路みたいになってて、入ってすぐのランダムで出現する即死級のトラップの山、これでもかっ、っていうほど容赦ない数の魔物が生息してたあのダンジョン!ステータス異常の階層はもちろん、何が出て来るかわからない不気味な宝箱も随所に配置されてて、界隈では、魔王いい仕事するな、って褒めてたのよ。それにさ、低階層に存在するスライムたちが、山野に生息する通常個体と比べてすんごい強いのも良かったわよね。侮ることなかれ、冒険者たちよっていう圧の掛けっぷりが見事ないいダンジョンだったじゃない」
「そ。そうかなぁ」
主任はたこ足のような触手で後頭部、と思わしき場所をポリポリとかいた。うっすらと紫色のたこ大福がほんのりピンク色に染まる。
シオルネーラはうんうん、と何度も頷きながら「そこの毒と灼熱の沼地の階層、すっごくいい場所で、あたしの保養地にしたいと前々から思ってたんだよねー」と嘯く。
「そっか。お前、毒龍だもんな」
シオルネーラは魔王に匹敵するほどのポテンシャルを持つ、古代種の最強の毒龍の血を引く。ヤスが勇者として召喚された世界では、魔王城手前に存在する最後のダンジョンの裏ボス的存在で、度々棲息地にしていた猛毒と灼熱の火山からダンジョンに遊びに来てひとっ風呂を浴びていたという。
「そぉよぉ! いいダンジョンだったわよ。あれは! 仲間内でも評判だったんだから。食べ物も豊富にあるし、あたしだけじゃなくて、アンデッドたちにとっては楽園だったみたいよ?人間が増えるに従って彼らの居場所が奪われて、困ってたみたいだったし。各地に散らばってるスケルトンの長達が移住を決断して大陸を横断してるっていう話も聞いたわ。それに、失業者にとってもディグレマの最終ダンジョンは最高の働き場だったみたいよ。職に困ったらディグレマ最終ダンジョンへ!雇用先も食べ物もたんまり!ってのが謳い文句だってゴブリンクイーンのイレェナが言ってたもの」
「え?そ、そうなの??」
「もー。ちょっと昔のことなのに、もう忘れちゃったわけ~?いいダンジョンだったわよ、あれは。歴史に残る大偉業の一つ。これもう間違いなし。誰が、何と言おうと、間違いなし!この世の真実!」
乾杯!うぇーい!とグラスを片手に掲げて一気に飲み干したシオルネーラの喉で、唇から顎先へと零れた雫が伝ってなまめかしく光る。
うっとりと目を細めてシオルネーラは語りだした。
「あんたもしゃぁ、うぃっくっ。いい魔王だったわよ。そう、あんたは、いいダンジョンを作るぅーいい魔王!うぇい!ひっくっ。やってくる有象無象の冒険者どもを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、四天王の一人のミホトマなんてさ、ほんとぉに、あんたのこと心から尊敬してたんだ管ね?わかる?ねぇ、わかるぅ??」
完全に目が据わっている。
頬を薔薇色に紅潮させ、人間に扮した外見だけなら飛び切り極上の美女が、主任の口周りにある短めの触手をグイッと引き寄せて、下から睨み上げた。紅の瞳の中に、金色の縦長の月が鋭く光っていた。
それを待つ間、「人生って山あり谷あり、アリジゴクだよなぁ」とゾンビのように呟くヤスの背中をポンポン、と宥めてやる。自分も色々あったが、彼も彼で色々あったのだろう。
そうこうしていると、ようやく笑いを納めながら、顔面をその名残で痙攣させるシオルネーラがぐっと顔を向けてきた。
「そういえばぁ、ねぇ主任。あんたんとこのダンジョン、今改修工事どうなってんの?」
遠慮の欠片も思いやりの心も皆無の大魔女シオルネーラは、指先の丁寧にぬられた赤いネイルを気にしながら自分が頼んだ芋焼酎をちびりとやる。
「ああ。ヤスに破壊されたダンジョンな…」
「そうそう。あのダンジョン!全体が複雑怪奇な迷路みたいになってて、入ってすぐのランダムで出現する即死級のトラップの山、これでもかっ、っていうほど容赦ない数の魔物が生息してたあのダンジョン!ステータス異常の階層はもちろん、何が出て来るかわからない不気味な宝箱も随所に配置されてて、界隈では、魔王いい仕事するな、って褒めてたのよ。それにさ、低階層に存在するスライムたちが、山野に生息する通常個体と比べてすんごい強いのも良かったわよね。侮ることなかれ、冒険者たちよっていう圧の掛けっぷりが見事ないいダンジョンだったじゃない」
「そ。そうかなぁ」
主任はたこ足のような触手で後頭部、と思わしき場所をポリポリとかいた。うっすらと紫色のたこ大福がほんのりピンク色に染まる。
シオルネーラはうんうん、と何度も頷きながら「そこの毒と灼熱の沼地の階層、すっごくいい場所で、あたしの保養地にしたいと前々から思ってたんだよねー」と嘯く。
「そっか。お前、毒龍だもんな」
シオルネーラは魔王に匹敵するほどのポテンシャルを持つ、古代種の最強の毒龍の血を引く。ヤスが勇者として召喚された世界では、魔王城手前に存在する最後のダンジョンの裏ボス的存在で、度々棲息地にしていた猛毒と灼熱の火山からダンジョンに遊びに来てひとっ風呂を浴びていたという。
「そぉよぉ! いいダンジョンだったわよ。あれは! 仲間内でも評判だったんだから。食べ物も豊富にあるし、あたしだけじゃなくて、アンデッドたちにとっては楽園だったみたいよ?人間が増えるに従って彼らの居場所が奪われて、困ってたみたいだったし。各地に散らばってるスケルトンの長達が移住を決断して大陸を横断してるっていう話も聞いたわ。それに、失業者にとってもディグレマの最終ダンジョンは最高の働き場だったみたいよ。職に困ったらディグレマ最終ダンジョンへ!雇用先も食べ物もたんまり!ってのが謳い文句だってゴブリンクイーンのイレェナが言ってたもの」
「え?そ、そうなの??」
「もー。ちょっと昔のことなのに、もう忘れちゃったわけ~?いいダンジョンだったわよ、あれは。歴史に残る大偉業の一つ。これもう間違いなし。誰が、何と言おうと、間違いなし!この世の真実!」
乾杯!うぇーい!とグラスを片手に掲げて一気に飲み干したシオルネーラの喉で、唇から顎先へと零れた雫が伝ってなまめかしく光る。
うっとりと目を細めてシオルネーラは語りだした。
「あんたもしゃぁ、うぃっくっ。いい魔王だったわよ。そう、あんたは、いいダンジョンを作るぅーいい魔王!うぇい!ひっくっ。やってくる有象無象の冒険者どもを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、四天王の一人のミホトマなんてさ、ほんとぉに、あんたのこと心から尊敬してたんだ管ね?わかる?ねぇ、わかるぅ??」
完全に目が据わっている。
頬を薔薇色に紅潮させ、人間に扮した外見だけなら飛び切り極上の美女が、主任の口周りにある短めの触手をグイッと引き寄せて、下から睨み上げた。紅の瞳の中に、金色の縦長の月が鋭く光っていた。
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