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第1章 光と悪夢

第11話 光を求めて

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 午前6時、広間に残っている俺とアメリア、フレイ、ミアの4人は一息ついてから広間の掃除を始めた。大理石でできた床には俺が放った衝撃波や黒魔術師の攻撃の影響で粉々になった鉄板の破片、黒魔術師が消えたときに出現した大量の黒い灰があちらこちらに散らばっていた。俺は仲間に謝りながら箒を出現させて掃除を開始した。

「俺のせいで今日も広間を破壊してすまない。フレイがせっかく作ってくれた天井も数分で骨組みだけの状態にしてしまって申し訳ない」

「東条くん、気にしないで。東条くんは黒魔術師を倒して私たちを守ってくれたんだから謝らないでいいわ」

「アメリアの言う通りよ。東条くんは何回でも天井を吹き飛ばしていいわよ。天井が破壊されても私が直せばいいだけよ。だから天井の破壊のことは気にせず、集中して黒魔術師と戦ってね。これからも頼むね」

「東条、一緒に黒魔術師と戦った私にも責任がある。君だけが全責任を負う必要はない。私も君が破壊した鉄板の掃除に協力するから謝らないでくれ」

「みんな、俺だけがやる仕事なのに俺のために手伝ってくれてありがとう。」

「当たり前だわ。私は東条くんの仲間なんだから。簡単な仕事なら私たちに頼んでほしいわ」

「そうよ、たまには私を頼ってよ。東条くんに色々と救われたから、私の力でできる限り東条くんを助けるよ」

「私の運命を変えてくれた君の言う事なら可能な限り何でも協力する。1人で抱え込まないで私を使ってほしい」

「ありがとう、これからはみんなにも手伝ってもらうからよろしくな」

 その後、俺とミアは箒で鉄板の破片や黒い灰を広間から取り除き、治療で使用したベッドを片付けながら大理石の床を丁寧に磨いた。アメリアとフレイは衝撃波に耐えた骨組みを魔法で作成した鉄柱で補強しながら、骨組みの外側に強化ガラスを貼り付けた。強化ガラスを貼り付けるときは骨組みに登って1枚ずつ貼り付け、床の掃除が終了した俺とミアも骨組みに登って4人でドーム状の屋根を修復した。



 午後1時、ドーム状の屋根はガラス張りになり、大理石の床は新築のような綺麗に1枚ずつ丁寧に磨かれていた。俺たちは掃除が完了して個人部屋に戻ろうとしていた。

 しかし広間に響き渡るほどの大声でアーガスが俺たちに叫んだ。

「皆さん、大変です! 女王様がいらっしゃいました!」

「どういうことだ? 俺たちが何かやらかしたのか?」

「違います。女王様から皆様にご依頼があるようです」

「どのような依頼だ? 黒魔術師に関することか?」

「それに関しては女王様にお尋ねてください。女王様、こちらです」

 アーガスの案内で少女を抱いている女性が広間に入室した。アメリアは俺の耳元に小声で話した。

「この国の女王のオビリア様。女王様に会うときは必ず膝を付けて頭を下げるのがアルストレイア王国の規則よ」

 俺はアメリアやフレイ、ミアと同じく膝を付けて頭を下げた。するとオビリア様は小声で話した。

「私に遠慮しないで立ってください。普段どおりの皆様でいいですよ。私は皆様にお願いがあってここに参りました。アーガスさん、申し訳ございませんが私と魔道士の皆様だけでお話させて頂けますか?」

「もちろんです。私は失礼します」

 オビリア様はアーガスが退室したことを確認すると俺に近づいて目を合わせた。

「あなたが東条郁人様ですね。はじめまして、私はこの国を治めております、オビリアと申します。私の国にお越しいただきまして、ありがとうございます。本来ならわざわざ遠い国からお越し頂いた東条様のためにアルストレイア王国について詳しくご説明したほうが望ましいのですが、私の都合で今は時間がありません。次回の機会にご説明させて頂いてよろしいでしょうか」

「ありがとうございます、光栄でございます」

「申し訳ございません、では時間があるときにまた伺いますので、そのときはよろしくお願いします」

「はい」

「東条様、緊張しなくてもいいですよ。普段どおりに私に接しても構いませんよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 俺は美貌で礼儀正しいオビリア様に深くお辞儀した。

 オビリア様は白色のロングヘアー、純白のドレス、身長170センチのスリムなCカップの体型、サファイアのような透き通った青色の瞳が特徴である。アメリアの情報だとオビリア様は30歳らしい。

 オビリア様は俺たちに向き合って依頼について話し始めた。

「私は皆様にお願いがあって伺いました。私の娘を悪夢から救ってください」

 アメリアは俺の耳元で補足説明してくれた。

「オビリア様が抱いている少女が娘のシエラ様。年齢は12歳。シエラ様はこの国の王位後継者よ」

 シエラ様は何も叫ばずに無表情で目を瞑っていた。シエラ様は髪型や瞳の色がオビリア様と同じであり、身長は150センチのAカップの体型が特徴である。

 オビリア様はシエラ様を大切に抱きながら話を続けた。

「私の娘は今日の深夜に黒魔術師によって襲われました。黒魔術師は城門を破壊し、護衛の兵士を全員倒してしまいました。そして私は国を守るために黒魔術師と話し合いをしようと近づきましたが、黒魔術師は私を押し倒して私の娘に悪夢の魔法を目の前で唱えました。黒魔術師は私に明日中に1000人以上の国民を城に集めろ、できなければ娘の悪夢を解除しないと脅されました」

「なんて酷い奴らなんだ! ……、申し訳ございません、無礼な発言をお許しください」

「東条様、敬語を使わないでください。私は気にしませんから大丈夫ですよ。かしこまらずに普段どおりに話して頂けると私も助かります。では話を続けます。黒魔術師の思惑としては1日で1000人以上の人間に対して悪夢の魔法を唱えるために人質として私の娘が狙われたと思います。もちろん国民には危害を絶対に与えないつもりですし、黒魔術師も私の娘を悪夢から救い出すことはしないでしょう。そのため、私は皆様に治療をお願いするために参りました」

「オビリア様、他の魔道士には依頼をしたのか?」

「魔導学校の教師や偉大な功績を残した魔道士に相談してみましたが、全てお断りされました。理由としては女王の娘の治療を阻止するために強力な黒魔術師が襲ってくる可能性が高く、魔法学会では黒魔術師に対抗する術や悪夢の治療方法が不明なため手伝うことができないとおっしゃっておりました」

 俺は魔法学会について疑問に思い、アメリアに小声で質問した。

「アメリア、俺たちは黒魔術師や悪夢の治療には光が有効だと知っている。だが魔法学会はなぜ奴らの弱点を知らないんだ?」

「理由は簡単だわ、魔法学会に所属している魔道士は真面目に魔法を勉強せず金儲けしかのことしか考えていないから。魔法学会に入会している魔法学校の教師や偉大な功績を残した魔道士は1度も黒魔術師と戦ったことがないから弱点を知らないのよ。危険な戦いは若手にやらせて、金になる話には飛びつくインチキ魔道士の集団だから無知なのよ。お偉いさんの魔道士たちには黒魔術師の治療よりも『黒魔術師に出会わない薬』や『悪夢を見ない薬』のほうが何万倍も売れて名誉を獲得できるから、残念だけど私たち以外には黒魔術師について深く知っている魔道士はいないわ」

「それが本当なら、俺たち以外の魔道士では黒魔術師に対抗できないのか?」

「そうね、不可能だわ。だから悪夢の治療を勉強するために私は戦うと決意したのよ」

「ならば俺たちが引き受けるしかない! 俺たちが悪夢に支配された世界を変えるんだ!」

「ええ、私も東条くんと同意見よ。では私からオビリア様に回答するわね」

 俺はアメリアに小さく頷くと同時に広間の扉が大きく開かれた。広間に大量の汗を流しながら走ってきたエミリーがノックをせずに入室してきた。エミリーは泣きそうな声で俺たちに懇願した。

「東条さん、アメリアさん、危険な依頼を引き受けないでください! 今度こそ確実に死にますよ!」

「エミリー、心配しすぎだ。俺たちは何度も治療を成功させた。今度も地獄のような戦いになるかもしれないが絶対にエミリーを守ってやるから戦わせてくれ」

「エミリー! オビリア様に無礼わよ! 退室しなさい!」

「アメリア様も気にしないでください。エミリー様も交えてお話しましょう」

 オビリア様に手招きされてエミリーも話に加わった。

「エミリー様のお気持ちもよく分かります。ですが私のわがままで申し訳ございませんが皆様のお力が必要なのです」

「エミリー、俺たちしかできない戦いだ。やらせてくれ。生きて帰ると約束するから」

「東条くんの言う通りよ、エミリーは心配しすぎだわ。私たちをもっと信じて、今の私たちは決して弱くないわ」

「そうよ、この国の命運を懸けた戦いを断るわけにはいかないよ。私はエミリーさんに反対されても東条くんやアメリアさんと一緒に戦うよ」

「私は私の人生を滅茶苦茶にした奴らを殺すために黒魔術師と戦っている。エミリー、私情で悪いけど私の邪魔をしないでくれ。」

 俺たちはエミリーに必死に説得した。この戦いを逃す訳にはいかない。するとエミリーは俺たちの熱意に根負けして、涙を流しながら俺たちを抱きしめた。

「皆さんの気持ちや覚悟は分かりました。ですが絶対に帰ってきてください。死なないでください」

「ああ、もちろんだ。エミリーは俺たちの無事を祈ってくれ」

「エミリー、これからオビリア様と作戦を立てるから退室してもらえない? 必ず勝てる作戦をこれから考えるから私たちを信用して」

「東条さん、アメリアさん、分かりました。ですが無茶はしないでくださいね」

 エミリーは気持ちが落ち着き、オビリア様に深くお辞儀をしてから広間を退室した。エミリーが退室したことを確認すると俺とアメリアが主導となって作戦を立て始めた。

「アメリア、明日は1人で治療をお願いできるか? 今回の敵はいつもよりも屈強な黒魔術師が襲ってくるに違いない。できればフレイも戦闘に加わってほしい」

「ええ、可能だわ。フレイ、戦闘は頼める?」

「大丈夫だよ、東条くんの足を引っ張らないように戦うよ」

「ミア、明日も戦闘は頼めるか? 魔力は十分足りているか?」

「心配しなくていい。全力で戦える準備はできている」

「ありがとう、明日はアメリアが治療に専念、俺たちが黒魔術師と戦う作戦にしよう。フレイとミアは俺の後方で戦ってくれないか? 最前線での接近戦は危険な予感がするから俺だけで対応する」

「じゃあ東条くんに甘えて遠距離戦で支援するよ。魔法攻撃と銃を使った攻撃だとどっちが有効かな?」

「俺の感触だと光を帯びた武器なら黒魔術師にどんな武器でも有効だ。フレイが戦いやすい攻撃で俺を支援してくれ」

「分かったよ、接近戦はよろしくね」

「ミアも遠距離戦で戦ってくれないか?」

「私も東条と同じ接近戦で戦う。私の予想だと君を確実に仕留めるために優秀な黒魔術師が訪れるはずだ。明日は東条1人で捌ける相手ではないと思う。それに君が倒れたらアメリアとフレイの命が危ない。私を心配してくれるのは有り難いけど、一緒に接近戦で戦ってくれないか?」

「ありがとう、一緒に接近戦で戦ってくれると非常に助かる。明日の作戦は以上だ。何か不明点はあるか?」

 俺が作戦会議を終わらせようとするとオビリア様が質問した。

「皆様の報酬についてご相談しておりません。皆様は何かお望みの報酬はございますか? 私のできる範囲で対応させて頂きますので何でもお望みの報酬を教えてください」

 俺たちは顔を見合わせたが今すぐ決まらなかった。

「オビリア様、治療が成功したあとで相談させて貰えないか? 今は欲しいものが思いつかない」

「ええ、分かりました。では明日の治療後に改めてご相談させてください。皆様、私のために本当にありがとうございます」

 オビリア様は深くお辞儀をして感謝した。一瞬だけ目を瞑っているシエラ様が俺たちの覚悟に感動して笑顔になった。

その後、俺たちは魔法でシエラ様のためのベッドを作成して優しく寝かせた。またオビリア様とシエラ様が広間にいることがアーガスとエミリー以外に知り渡らないように、アーガスとエミリーに俺たち以外を家に入れないでほしいと伝えた。

午後3時、エミリーから昼食やお菓子を広間に持ってきてもらい、俺たち4人は遅めの昼食を食べ始めた。エミリー特製の具沢山のシチューが俺たちの体と心を温めてくれた。

その後、俺たちはオビリア様と共に午後11時40分まで広間にベッドを敷いて寝始めた。
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