しっぺ返しってご存じ?私はやられたらやり返すわよ

こじまき

文字の大きさ
3 / 10

3 恋人と踊るダンスはときめいて舌好調ですわ

しおりを挟む
アルトラ王国との懇親会。私はいつも通り、王太子ジョフロワのエスコートを受けて入場した。

とはいえ、手は形ばかりに添えられているだけで、ジョフロワの目は早くも会場内を泳いでいた。

(イボンヌを探してる)

普段ならジョフロワに「キョロキョロするのはみっともないから、やめてください」と指摘して嫌な顔をされるところだが、今日は…いや今日からはやめておこう。

会場の一角で、黒髪に紫の瞳を持つヴィルジールと目が合った。彼はすっと口角を上げて、わずかにうなずく。

色気と品格が漂う仕草に、自然と私の表情も和らいだ。

(素敵な人…ジョフロワよりずっと)

やがてジョフロワが「イボンヌを見つけた」と、私の手をそっけなく離し、足早にそちらへ向かう。

(まあ、想定内だけどね)

するとその瞬間、ヴィルジールがすっと近づき、私に手を差し伸べた。

「美しいエレオノーラ、踊っていただけますか?」
「ええ、喜んで」

私は手を取られ、彼に導かれるままダンスフロアの中央へと進んだ。

ヴィルジールのステップは優雅で力強く、私のステップは洗練されて軽やかだ。

自分たちの息がぴったりと合っているのを、どうしようもなく感じる。

ジョフロワ相手では本領を発揮できなかった私の身体が、完璧なパートナーを得て喜んでいるようだ。

(楽しい。ダンスを楽しいと思ったのは初めて)

会場中から私たちに視線が向けられるのを感じる。心地よい。

最高級の薄い布地で仕立てた紫のドレスの裾までが、見られていることを知って、喜んでいるかのようだ。

だって心をもっているかのように、まるで「見て!」と叫んでいるかのように、私の動きに合わせて美しく揺らめいて見せるのだから。

低くて甘い声で「ジャンプして」と耳元でささやかれ、私は軽く床を蹴った。

ヴィルジールが私の腰を支えて、私は鳥のように舞う。

「ふふっ。とても楽しいです」
「私もですよ」

ジョフロワとイボンヌが、こちらを凝視しているのが見える。イボンヌは明らかに不快そうで、ジョフロワは唇を噛み締めていた。

(見てないで、あなたたちもいつものように踊ればいいでしょ?)

踊り終えたあと、ヴィルジールは私の手の甲に軽く口づけて、「飲み物をとってきますね」と去っていった。

周囲ではすでに、私たちのダンスが「今日の主役」として話題になっている。

「エレオノーラ様、素晴らしいダンスでしたわ」
「王太子殿下と踊るときよりもさらに…」

「ありがとう」と私は少し上気した頬で微笑む。と、褒めてくれた令嬢たちの顔が曇った。私は振り返る。

ジョフロワとイボンヌだ。

「さっきは言わなかったが…今日はずいぶんと大胆なドレスだな」
「さっきはイボンヌ嬢を探すのに熱心で、私のことなど見ていなかったから、気づかなかったのでしょう。何か私のドレスに文句がおあり?」
「ああ、露出が多くて布が薄くて、どうしようもなく下品だ」

イボンヌはニヤッと笑い、私は肩をすくめる。

私のドレスは、薄い布を使い、背中が開き、デコルテを美しく見せるように仕立ててあるが、あくまで上品な範囲に留めてある。

「信頼する侍女に任せておりますし、最新流行ですのよ」
「なにが流行だ。イボンヌを見てみろ。肌をほとんど隠している」
「ドレスの好みや似合う・似合わないは人それぞれですわ。彼女のような少女趣味なドレスも可愛らしくて素敵ですが、私には似合いませんので」
「彼女のように可愛くしろと言っているのではない。しかし彼女のように慎み深くあるべきだろ」

(婚約者のある王太子にぴったりくっついてニヤニヤしてる女が慎み深いって…どう認知が歪んだらそう言えるんだろう)

今度はイボンヌはジョフロワの隣で、目をぱちぱちさせながら困ったような表情を浮かべて、必死に「無垢」を演じている。

(「王太子と婚約者が私のせいで喧嘩になって困っちゃう!でも私は可愛いんだから仕方ないよね?」って感じ?)

「婚約者のある王太子に近づく女性が慎み深いとは思えませんわね。イボンヌ嬢のドレスは、慎み深さの象徴と言うよりも、私にはむしろ防御に見えます。隙を見せたら手を出されるとわかっているから、守っているのでしょう」
「な…!」
「でも私の相手は、自制心のあるヴィルジール陛下ですもの。露出の多いドレスでも、安心して手を取っていただけるのです。下心でしか人と関われない男とは違うわ」

ジョフロワの顔がみるみる赤くなるのを見て、私は涼やかに微笑んだ。

私と同じように、嫌らしくない程度に女性らしさを強調するドレスを着ている貴婦人や令嬢たちが、私に賛同してコクコク頷き、応援してくれているのが見える。

「でも、そうですわね…これからジョフロワ殿下にエスコートいただくときは、肌を隠しましょうか。身を守るために」
「エレオノーラ…!」

ヴィルジールが急ぎ足で戻ってきて、私の隣に立つ。彼はそっと私に囁いた。

「あなたを守る騎士ナイトでいたかったのに、肝心なときにそばにいないなんて。恋人失格でしょうか?」
「いいえ、ヴィル。この程度の小物でしたら、自分で対処できますので」

ジョフロワは唇をわななかせる。

「どういう関係だ」
「主語がありませんが?」
「お前たち二人は、どういう関係だ!?」

私はゆっくりとほほ笑んだ。

「恋人ですわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】貴女にヒロインが務まるかしら?

芹澤紗凪
ファンタジー
※一幕完結済。またご要望などあれば再開するかもしれません 乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元・大女優の主人公。 同じく転生者である腹黒ヒロインの策略を知り、破滅を回避するため、そして女優のプライドを懸け、その完璧な演技力で『真のヒロイン』に成り変わる物語。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

逆転した王女姉妹の復讐

碧井 汐桜香
ファンタジー
悪い噂の流れる第四王女と、 明るく美しく、使用人にまで優しい第五王女。

処理中です...