靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき

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32 告白

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「痛…」

暗闇の中で目が覚めた。私は落下の衝撃で馬車から投げ出されたようだが、毛布に包まれていたおかげで衝撃が和らいだのだろう。頭がガンガンして全身が痛むが、何とか立ち上がることはできた。

暗闇のせいでよく見えないけれど、近くに馬車の残骸はないようだ。床に寝かされていた私だけ、相当飛ばされたらしい。歩き出そうとした瞬間に、脚に鋭い痛みを感じて、へたり込んだ。

どうしよう。今は春のはじめ。山の夜は冷えるから、こんな格好では下手したら凍死してしまう。とりあえず腰のリボンとトレーンを取り外し、上半身に巻く。今はこの薄くて優雅な生地が恨めしい。

アレンお兄様がいてくれたら。きっと、私を軽々抱き上げて、大きな胸と腕で包んで安心させてくれるのに。

会いたい。でももう会えないかもしれない。

涙が滲みそうになって何とかこらえたとき、ガサガサと草をかき分ける音がした。恐怖で体が固まる。あの男たち?それとも狼?熊?

本当に怖いとき、声は出ないんだと知る。

「デイジー?」
「お兄様…っ、アレンお兄様…!」

ランタンの灯りで照らされたアレンお兄様の顔が見えた。アレンお兄様が来てくれた…

お兄様は私を優しく抱きしめた。大きな身体にすっぽりと包まれ、温かさと安心感で力が抜ける。身体の痛みすら和らいだように感じる。

「よかった、本当によかった…壊れた馬車を見つけて、デイジーを失ったのかと…怖かった…」
「私も怖かったです。二度とアレンお兄様に会えないかもと思って…」

アレンお兄様はピタリと動きと止めた。

「私に?イーライでもカラバスでもなく、私に会いたかったのか?」
「ええ」

こらえていた涙が溢れてくる。いつも私を見守ってくれて、助けに来てくれる人。大きな安心できる手の持ち主。

「デイジー」

お兄様はぼさぼさになった私の髪をそっと撫でた。

「キスしたいんだが、いいか?」

笑いがこみ上げてきた。笑うと身体が痛むが、止められない。こんなときまで真面目に私の許可を得るんだから…そういうところが好きなのかもしれない。

私は返事の代わりに、アレンお兄様の顔を手で挟んで、キスをした。

軽くて、すぐに離れるキス。

「足りない」

アレンお兄様は私を抱きしめて深いキスを返してくれる。

「愛してる」
「私も愛してます、アレンお兄様」

アレンお兄様はもう一度私を抱きしめてくれた。

山道までお兄様に抱えられて戻り、二人で馬に揺られて、どうやって私を見つけたのか説明されながら帰る。

カラバスお兄様がホークボロー家の馬車の横で倒れているのを発見したこと。カラバスお兄様が息も絶え絶えに、ならず者が走り去った方角を教えてくれたこと。馬で馬車の轍を追いかけ、山道でスリップした跡を発見し、山に分け入ってついに私を見つけたこと…

「カラバスお兄様は、大丈夫なんですか?」
「怪我はひどかったが、命に別状はない」
「よかった…私、魔法使いなのに何もできなくて…」

俯くとボロボロのドレスが目に入って、なんだか笑えてしまう。

「どうした?」
「だってせっかくお兄様が"愛してる"って言ってくださったのに、私ったらひどい格好で。ドレスも髪もめちゃくちゃで…」

「それは私もだ」とお兄様も笑う。それもそうだ。木の枝や草をかき分けて山中を進んできたのだから、顔もタキシードも傷だらけで泥だらけなのだ。

アレンお兄様が後ろから私に身体を寄せて「私はどんな格好のデイジーでも愛してる」と耳元で囁く。耳の横に持ってこられたお兄様の顔を振り返りながら「私もです」と返すと、そっと唇と唇が重なった。

「不安だった。デイジーがイーライやカラバスを選ぶのではないかと…」とアレンお兄様が呟く。

「どうしてですか?」
「私は跡取りだし…イーライやカラバスと結婚したほうが自由な生活を送れる。そのほうがデイジーにとって幸せなのではないかと…」

それを聞いて私はまた笑い出してしまう。笑うと身体が痛い。アレンお兄様はいつも堂々として自信満々なのかと思っていたが、違うようだ。でもがっかりはしない。可愛いと思ってしまう。

「愛する人のそばにいること以上の幸せは、どこにもありません」

そう言ってまた私はアレンお兄様にキスをした。
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