32 / 34
32 告白
しおりを挟む
「痛…」
暗闇の中で目が覚めた。私は落下の衝撃で馬車から投げ出されたようだが、毛布に包まれていたおかげで衝撃が和らいだのだろう。頭がガンガンして全身が痛むが、何とか立ち上がることはできた。
暗闇のせいでよく見えないけれど、近くに馬車の残骸はないようだ。床に寝かされていた私だけ、相当飛ばされたらしい。歩き出そうとした瞬間に、脚に鋭い痛みを感じて、へたり込んだ。
どうしよう。今は春のはじめ。山の夜は冷えるから、こんな格好では下手したら凍死してしまう。とりあえず腰のリボンとトレーンを取り外し、上半身に巻く。今はこの薄くて優雅な生地が恨めしい。
アレンお兄様がいてくれたら。きっと、私を軽々抱き上げて、大きな胸と腕で包んで安心させてくれるのに。
会いたい。でももう会えないかもしれない。
涙が滲みそうになって何とかこらえたとき、ガサガサと草をかき分ける音がした。恐怖で体が固まる。あの男たち?それとも狼?熊?
本当に怖いとき、声は出ないんだと知る。
「デイジー?」
「お兄様…っ、アレンお兄様…!」
ランタンの灯りで照らされたアレンお兄様の顔が見えた。アレンお兄様が来てくれた…
お兄様は私を優しく抱きしめた。大きな身体にすっぽりと包まれ、温かさと安心感で力が抜ける。身体の痛みすら和らいだように感じる。
「よかった、本当によかった…壊れた馬車を見つけて、デイジーを失ったのかと…怖かった…」
「私も怖かったです。二度とアレンお兄様に会えないかもと思って…」
アレンお兄様はピタリと動きと止めた。
「私に?イーライでもカラバスでもなく、私に会いたかったのか?」
「ええ」
こらえていた涙が溢れてくる。いつも私を見守ってくれて、助けに来てくれる人。大きな安心できる手の持ち主。
「デイジー」
お兄様はぼさぼさになった私の髪をそっと撫でた。
「キスしたいんだが、いいか?」
笑いがこみ上げてきた。笑うと身体が痛むが、止められない。こんなときまで真面目に私の許可を得るんだから…そういうところが好きなのかもしれない。
私は返事の代わりに、アレンお兄様の顔を手で挟んで、キスをした。
軽くて、すぐに離れるキス。
「足りない」
アレンお兄様は私を抱きしめて深いキスを返してくれる。
「愛してる」
「私も愛してます、アレンお兄様」
アレンお兄様はもう一度私を抱きしめてくれた。
山道までお兄様に抱えられて戻り、二人で馬に揺られて、どうやって私を見つけたのか説明されながら帰る。
カラバスお兄様がホークボロー家の馬車の横で倒れているのを発見したこと。カラバスお兄様が息も絶え絶えに、ならず者が走り去った方角を教えてくれたこと。馬で馬車の轍を追いかけ、山道でスリップした跡を発見し、山に分け入ってついに私を見つけたこと…
「カラバスお兄様は、大丈夫なんですか?」
「怪我はひどかったが、命に別状はない」
「よかった…私、魔法使いなのに何もできなくて…」
俯くとボロボロのドレスが目に入って、なんだか笑えてしまう。
「どうした?」
「だってせっかくお兄様が"愛してる"って言ってくださったのに、私ったらひどい格好で。ドレスも髪もめちゃくちゃで…」
「それは私もだ」とお兄様も笑う。それもそうだ。木の枝や草をかき分けて山中を進んできたのだから、顔もタキシードも傷だらけで泥だらけなのだ。
アレンお兄様が後ろから私に身体を寄せて「私はどんな格好のデイジーでも愛してる」と耳元で囁く。耳の横に持ってこられたお兄様の顔を振り返りながら「私もです」と返すと、そっと唇と唇が重なった。
「不安だった。デイジーがイーライやカラバスを選ぶのではないかと…」とアレンお兄様が呟く。
「どうしてですか?」
「私は跡取りだし…イーライやカラバスと結婚したほうが自由な生活を送れる。そのほうがデイジーにとって幸せなのではないかと…」
それを聞いて私はまた笑い出してしまう。笑うと身体が痛い。アレンお兄様はいつも堂々として自信満々なのかと思っていたが、違うようだ。でもがっかりはしない。可愛いと思ってしまう。
「愛する人のそばにいること以上の幸せは、どこにもありません」
そう言ってまた私はアレンお兄様にキスをした。
暗闇の中で目が覚めた。私は落下の衝撃で馬車から投げ出されたようだが、毛布に包まれていたおかげで衝撃が和らいだのだろう。頭がガンガンして全身が痛むが、何とか立ち上がることはできた。
暗闇のせいでよく見えないけれど、近くに馬車の残骸はないようだ。床に寝かされていた私だけ、相当飛ばされたらしい。歩き出そうとした瞬間に、脚に鋭い痛みを感じて、へたり込んだ。
どうしよう。今は春のはじめ。山の夜は冷えるから、こんな格好では下手したら凍死してしまう。とりあえず腰のリボンとトレーンを取り外し、上半身に巻く。今はこの薄くて優雅な生地が恨めしい。
アレンお兄様がいてくれたら。きっと、私を軽々抱き上げて、大きな胸と腕で包んで安心させてくれるのに。
会いたい。でももう会えないかもしれない。
涙が滲みそうになって何とかこらえたとき、ガサガサと草をかき分ける音がした。恐怖で体が固まる。あの男たち?それとも狼?熊?
本当に怖いとき、声は出ないんだと知る。
「デイジー?」
「お兄様…っ、アレンお兄様…!」
ランタンの灯りで照らされたアレンお兄様の顔が見えた。アレンお兄様が来てくれた…
お兄様は私を優しく抱きしめた。大きな身体にすっぽりと包まれ、温かさと安心感で力が抜ける。身体の痛みすら和らいだように感じる。
「よかった、本当によかった…壊れた馬車を見つけて、デイジーを失ったのかと…怖かった…」
「私も怖かったです。二度とアレンお兄様に会えないかもと思って…」
アレンお兄様はピタリと動きと止めた。
「私に?イーライでもカラバスでもなく、私に会いたかったのか?」
「ええ」
こらえていた涙が溢れてくる。いつも私を見守ってくれて、助けに来てくれる人。大きな安心できる手の持ち主。
「デイジー」
お兄様はぼさぼさになった私の髪をそっと撫でた。
「キスしたいんだが、いいか?」
笑いがこみ上げてきた。笑うと身体が痛むが、止められない。こんなときまで真面目に私の許可を得るんだから…そういうところが好きなのかもしれない。
私は返事の代わりに、アレンお兄様の顔を手で挟んで、キスをした。
軽くて、すぐに離れるキス。
「足りない」
アレンお兄様は私を抱きしめて深いキスを返してくれる。
「愛してる」
「私も愛してます、アレンお兄様」
アレンお兄様はもう一度私を抱きしめてくれた。
山道までお兄様に抱えられて戻り、二人で馬に揺られて、どうやって私を見つけたのか説明されながら帰る。
カラバスお兄様がホークボロー家の馬車の横で倒れているのを発見したこと。カラバスお兄様が息も絶え絶えに、ならず者が走り去った方角を教えてくれたこと。馬で馬車の轍を追いかけ、山道でスリップした跡を発見し、山に分け入ってついに私を見つけたこと…
「カラバスお兄様は、大丈夫なんですか?」
「怪我はひどかったが、命に別状はない」
「よかった…私、魔法使いなのに何もできなくて…」
俯くとボロボロのドレスが目に入って、なんだか笑えてしまう。
「どうした?」
「だってせっかくお兄様が"愛してる"って言ってくださったのに、私ったらひどい格好で。ドレスも髪もめちゃくちゃで…」
「それは私もだ」とお兄様も笑う。それもそうだ。木の枝や草をかき分けて山中を進んできたのだから、顔もタキシードも傷だらけで泥だらけなのだ。
アレンお兄様が後ろから私に身体を寄せて「私はどんな格好のデイジーでも愛してる」と耳元で囁く。耳の横に持ってこられたお兄様の顔を振り返りながら「私もです」と返すと、そっと唇と唇が重なった。
「不安だった。デイジーがイーライやカラバスを選ぶのではないかと…」とアレンお兄様が呟く。
「どうしてですか?」
「私は跡取りだし…イーライやカラバスと結婚したほうが自由な生活を送れる。そのほうがデイジーにとって幸せなのではないかと…」
それを聞いて私はまた笑い出してしまう。笑うと身体が痛い。アレンお兄様はいつも堂々として自信満々なのかと思っていたが、違うようだ。でもがっかりはしない。可愛いと思ってしまう。
「愛する人のそばにいること以上の幸せは、どこにもありません」
そう言ってまた私はアレンお兄様にキスをした。
310
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる