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「真実の愛」の証明は、失敗したようです
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次期公爵夫人はサフィール・デュ・ヴォウを身につけている私。そして次期公爵は私のパートナーであるアレクシス様。なのに何を思ったのか、レオポルド様は嬉しそうに私に近づく。
「ツェツィーリア、僕のもとに戻ってきてくれるんだね」
意味がわからない。誰がどう見ても明らかな状況なのに、何を言っているのだろう。アレクシス様がすっと私の前に立つ。その背中が、まるで盾のように頼もしい。
「わかったんだ。僕がいくらローゼマリアを愛していても、彼女に公爵夫人は務まらない。ハーコート公爵夫人は君でなければ無理だ」
「…そうでございましょうね」
公爵夫人になるために費やしてきた時間が違うのだから、現時点で私以上に次期ハーコート公爵夫人にふさわしい人間はいない。
ただしハーコート公爵にふさわしい人物は、レオポルド様ではない。
「だから次期公爵夫人として僕のもとに戻ってきてくれ、ツェツィーリア」
「何言ってるの、レオポルド!」とローゼマリア様が金切り声を上げる。「何言ってるの」というご意見には完全に同意するが、建国祭の会場で聞くべき声ではない。冷たい視線がローゼマリア様に向けられ、陛下も少し眉をひそめられた。
私はすっとローゼマリア様を手で制した。
「落ち着いてくださいませ、ローゼマリア様。陛下の御前ですのよ」
私の言葉に、ローゼマリア様は顔を真っ赤にして口をつぐんだ。会場に「さすがツェツィーリア様」「ローゼマリア様とは違うわね」というざわめきが広がっていく。
陛下はゆっくりと立ち上がられた。
「ハーコート公爵家の継承者をめぐる話題は、王家としても無視できぬな。公爵、どうだ」
ハーコート公爵が、一歩前へ進み出た。その横顔には、長年筆頭公爵として国を支えてきた男の厳しさと、父としての失望が同居していた。
「長子であるレオポルドは、軽率な言動によって公爵家の信頼を損ないました。よって私は次男アレクシスを後継とし、ストラングウェイズ公爵令嬢ツェツィーリアをその婚約者といたします」
レオポルド様の顔が真っ青になる。彼の隣で、ローゼマリア様が「そんな!私が公爵夫人になるんじゃないの!?」と掠れた声を上げる。
「愚息レオポルドには、グレヴィル子爵位を継承させてたく」
「許可する」
グレヴィル子爵位。ハーコート公爵に付随する爵位の中で、もっとも格が低い爵位だ。領地は北方にあり、決して豊かとはいえない。生活は厳しいものになるだろうが、勘当されて一族から追い出されるよりはマシだ。
レオポルド様は身体を震わせている。
「レオポルド様、グレヴィル子爵夫人ならローゼマリア様でも大丈夫かと。それにローゼマリア様と一緒なら、どんなに辛くても真実の愛で乗り越えられますでしょう?真実の愛を証明するいいチャンスですわ」
レオポルド様はブルブルと首を振り、甘えるような声で「ツェツィーリア」と私の名を呼んだ。
「どうか、もう一度やり直してほしい。君がいなければ、僕は…僕は…グレヴィル子爵だなんて嫌だ!」
「私だって子爵夫人なんて嫌よ!何のために好きでもない頭空っぽのあなたと一緒にいたと思ってるの!」とレオポルド様の肩を揺するローゼマリア様。会場中がこの茶番を、陛下の機嫌を気にしつつも、固唾をのんで見守っていた。
「真実の愛」が聞いてあきれる。紅茶の中の砂糖菓子みたいに、あっという間に溶けてしまったのね。
「戻ってきてくれ!真実の愛は間違いだった!僕が悪かった!戻ってきてくれ、ツェツィーリア!!」
そう泣き崩れるレオポルド様。
私は抑えきれない笑みを湛えながら、首を横に振る。言ってあげたい言葉がある。
「無理ですわ。私、真実の愛を見つけましたので」
そしてずっとそばで私を守ってくれていたアレクシス様の頬に手をあてて、そっとキスをした。香ばしいジンジャークッキー。ずっとずっと食べてみたくて、おかしくなりそうだった。一口食べてみたら、もっと欲しくなる。
「愛してるわ、アレクシス」
「私のほうが、ずっと」
「それはどうかしら」
サフィール・デュ・ヴォウが、胸元で青く、永遠を誓うように輝いていた。
「ツェツィーリア、僕のもとに戻ってきてくれるんだね」
意味がわからない。誰がどう見ても明らかな状況なのに、何を言っているのだろう。アレクシス様がすっと私の前に立つ。その背中が、まるで盾のように頼もしい。
「わかったんだ。僕がいくらローゼマリアを愛していても、彼女に公爵夫人は務まらない。ハーコート公爵夫人は君でなければ無理だ」
「…そうでございましょうね」
公爵夫人になるために費やしてきた時間が違うのだから、現時点で私以上に次期ハーコート公爵夫人にふさわしい人間はいない。
ただしハーコート公爵にふさわしい人物は、レオポルド様ではない。
「だから次期公爵夫人として僕のもとに戻ってきてくれ、ツェツィーリア」
「何言ってるの、レオポルド!」とローゼマリア様が金切り声を上げる。「何言ってるの」というご意見には完全に同意するが、建国祭の会場で聞くべき声ではない。冷たい視線がローゼマリア様に向けられ、陛下も少し眉をひそめられた。
私はすっとローゼマリア様を手で制した。
「落ち着いてくださいませ、ローゼマリア様。陛下の御前ですのよ」
私の言葉に、ローゼマリア様は顔を真っ赤にして口をつぐんだ。会場に「さすがツェツィーリア様」「ローゼマリア様とは違うわね」というざわめきが広がっていく。
陛下はゆっくりと立ち上がられた。
「ハーコート公爵家の継承者をめぐる話題は、王家としても無視できぬな。公爵、どうだ」
ハーコート公爵が、一歩前へ進み出た。その横顔には、長年筆頭公爵として国を支えてきた男の厳しさと、父としての失望が同居していた。
「長子であるレオポルドは、軽率な言動によって公爵家の信頼を損ないました。よって私は次男アレクシスを後継とし、ストラングウェイズ公爵令嬢ツェツィーリアをその婚約者といたします」
レオポルド様の顔が真っ青になる。彼の隣で、ローゼマリア様が「そんな!私が公爵夫人になるんじゃないの!?」と掠れた声を上げる。
「愚息レオポルドには、グレヴィル子爵位を継承させてたく」
「許可する」
グレヴィル子爵位。ハーコート公爵に付随する爵位の中で、もっとも格が低い爵位だ。領地は北方にあり、決して豊かとはいえない。生活は厳しいものになるだろうが、勘当されて一族から追い出されるよりはマシだ。
レオポルド様は身体を震わせている。
「レオポルド様、グレヴィル子爵夫人ならローゼマリア様でも大丈夫かと。それにローゼマリア様と一緒なら、どんなに辛くても真実の愛で乗り越えられますでしょう?真実の愛を証明するいいチャンスですわ」
レオポルド様はブルブルと首を振り、甘えるような声で「ツェツィーリア」と私の名を呼んだ。
「どうか、もう一度やり直してほしい。君がいなければ、僕は…僕は…グレヴィル子爵だなんて嫌だ!」
「私だって子爵夫人なんて嫌よ!何のために好きでもない頭空っぽのあなたと一緒にいたと思ってるの!」とレオポルド様の肩を揺するローゼマリア様。会場中がこの茶番を、陛下の機嫌を気にしつつも、固唾をのんで見守っていた。
「真実の愛」が聞いてあきれる。紅茶の中の砂糖菓子みたいに、あっという間に溶けてしまったのね。
「戻ってきてくれ!真実の愛は間違いだった!僕が悪かった!戻ってきてくれ、ツェツィーリア!!」
そう泣き崩れるレオポルド様。
私は抑えきれない笑みを湛えながら、首を横に振る。言ってあげたい言葉がある。
「無理ですわ。私、真実の愛を見つけましたので」
そしてずっとそばで私を守ってくれていたアレクシス様の頬に手をあてて、そっとキスをした。香ばしいジンジャークッキー。ずっとずっと食べてみたくて、おかしくなりそうだった。一口食べてみたら、もっと欲しくなる。
「愛してるわ、アレクシス」
「私のほうが、ずっと」
「それはどうかしら」
サフィール・デュ・ヴォウが、胸元で青く、永遠を誓うように輝いていた。
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