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私は寄生虫
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私こと、イヴァリース伯爵令嬢アンナローズは、イルミナ王国の王宮内に与えられた部屋で目を覚ます。鏡に映るのは「鴉みたい」と言われる地味な黒い髪に黒い目。
いつものとおり自分で身支度を整えて、内ドアでつながる姉の部屋へ。何人寝られるのかわからないくらい大きなベッドの上で、シーツの塊がモゾモゾと動く。
「マリー、起きて」
「ん…アンナ…まだ眠いよぉ…」
「早く用意しないと。今日は生誕祭よ」
「そうだった。私たちのね」
シーツが細い白い脚で跳ね上げられて、銀髪にピンクレッドの瞳をもつ私の双子の姉…聖女マリーローズが姿を現す。
「行儀が悪いわよ…というか、私たちのではなくてあなたの生誕祭よ、マリー。聖女生誕祭だもの」
「私はちゃんと、誕生日パーティーはアンナと合同にしてって言ったんだよ?」
「無理に決まっているでしょう。あなたは聖女だけど、私はただの田舎令嬢だもの」
「リオネルにもそう言われちゃった。だけどドレスはお揃いにしてもらったんだよ!」
自分と私の立場の差を理解していないはずはないのに、マリーローズは無邪気に「アンナローズとお揃い」「いつでもアンナローズと一緒」を求める。そのたびに私は宮廷人から「妹が聖女様に我が儘を言っているのだろう」と睨まれて、気まずい思いをするのが常だった。「だからやめてほしい」と何度言っても、マリーローズはやめてくれない。
侍女たちが入ってきて、マリーローズには六人、私には一人がついてくれる。私の担当になったリリーは明らかに「ハズレくじを引いた」という顔をしている。私は何も悪いことはしていないはずなのに、ただ鏡の前に座っているだけで罪人のようだ。
ドアがノックされて、リオネル王太子殿下が入って来られる。金髪碧眼の、童話の主人公のように美しい王子様。手にはピンクと白の装飾で飾られた美しい箱がひとつ。
「マリーローズ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、リオネル!」
「王太子殿下と呼ばなきゃいけないわ」と何度言っても、マリーローズには通じない。王太子殿下も王太子殿下で、婚約者そっちのけで可憐で天真爛漫なマリーローズに首ったけだから、嬉しげに呼び捨てを許可してしまった。この勢いだと本当に婚約者との婚約を破棄して、マリーローズと結婚してしまいそうだ。
箱の中にはそれはそれは高価なのだろう、ピンクトルマリンとダイヤモンドがふんだんにあしらわれたイヤリング。
「素敵。でも、私のだけ?今日はアンナの誕生日でもあるのよ、リオネル」
「いや、それは…」
王太子殿下が「姉のおこぼれで生きている田舎の伯爵令嬢」なんかにプレゼントを渡すわけがない。影では私のことを「マリーローズの寄生虫」とまで呼んでいるのだから。
「マリー、私は王太子殿下からプレゼントをいただけるような身分ではないのよ」と言いかけた瞬間、マリーローズが口を開く。
「アンナにプレゼントがないなら、私だって受け取れないわ。リオネルまでアンナのことを寄生虫だなんて思ってないわよね?」とまで言われて、王太子殿下は侍従に指示して渋々私にもプレゼントを持ってきた。
どう見ても男物のブレスレット。かつて自分が受け取ったプレゼントを、横流ししてきたのだろう。「ありがとうございます」と言いながら、どうしてこんなものに感謝しなくちゃいけないのか考える。
私が寄生虫だからだよね。
寄生したくてしてるわけじゃない。聖女として認められて王宮に住むことになったマリーローズが、「アンナローズと一緒じゃなきゃ行かない」と大泣きしてハンガーストライキして駄々をこねたから、一緒に来ただけだ。自然豊かで穏やかで大好きな伯爵領を離れて。私は自分から何かを欲しがったことはない。何ひとつ我が儘など言ってないのに。
なのにマリーローズとお揃いのドレスも、王太子殿下がくれたブレスレットも、いつの間にか、何故か私が無理やりねだったかのようになってしまう。
私はただ、疲れていた。姉が輝きを増すごとに、私は暗く深く沈んでいくようだった。私を沈めて呼吸を奪って、マリーローズは何がしたいのだろう。
いつものとおり自分で身支度を整えて、内ドアでつながる姉の部屋へ。何人寝られるのかわからないくらい大きなベッドの上で、シーツの塊がモゾモゾと動く。
「マリー、起きて」
「ん…アンナ…まだ眠いよぉ…」
「早く用意しないと。今日は生誕祭よ」
「そうだった。私たちのね」
シーツが細い白い脚で跳ね上げられて、銀髪にピンクレッドの瞳をもつ私の双子の姉…聖女マリーローズが姿を現す。
「行儀が悪いわよ…というか、私たちのではなくてあなたの生誕祭よ、マリー。聖女生誕祭だもの」
「私はちゃんと、誕生日パーティーはアンナと合同にしてって言ったんだよ?」
「無理に決まっているでしょう。あなたは聖女だけど、私はただの田舎令嬢だもの」
「リオネルにもそう言われちゃった。だけどドレスはお揃いにしてもらったんだよ!」
自分と私の立場の差を理解していないはずはないのに、マリーローズは無邪気に「アンナローズとお揃い」「いつでもアンナローズと一緒」を求める。そのたびに私は宮廷人から「妹が聖女様に我が儘を言っているのだろう」と睨まれて、気まずい思いをするのが常だった。「だからやめてほしい」と何度言っても、マリーローズはやめてくれない。
侍女たちが入ってきて、マリーローズには六人、私には一人がついてくれる。私の担当になったリリーは明らかに「ハズレくじを引いた」という顔をしている。私は何も悪いことはしていないはずなのに、ただ鏡の前に座っているだけで罪人のようだ。
ドアがノックされて、リオネル王太子殿下が入って来られる。金髪碧眼の、童話の主人公のように美しい王子様。手にはピンクと白の装飾で飾られた美しい箱がひとつ。
「マリーローズ、誕生日おめでとう」
「ありがとう、リオネル!」
「王太子殿下と呼ばなきゃいけないわ」と何度言っても、マリーローズには通じない。王太子殿下も王太子殿下で、婚約者そっちのけで可憐で天真爛漫なマリーローズに首ったけだから、嬉しげに呼び捨てを許可してしまった。この勢いだと本当に婚約者との婚約を破棄して、マリーローズと結婚してしまいそうだ。
箱の中にはそれはそれは高価なのだろう、ピンクトルマリンとダイヤモンドがふんだんにあしらわれたイヤリング。
「素敵。でも、私のだけ?今日はアンナの誕生日でもあるのよ、リオネル」
「いや、それは…」
王太子殿下が「姉のおこぼれで生きている田舎の伯爵令嬢」なんかにプレゼントを渡すわけがない。影では私のことを「マリーローズの寄生虫」とまで呼んでいるのだから。
「マリー、私は王太子殿下からプレゼントをいただけるような身分ではないのよ」と言いかけた瞬間、マリーローズが口を開く。
「アンナにプレゼントがないなら、私だって受け取れないわ。リオネルまでアンナのことを寄生虫だなんて思ってないわよね?」とまで言われて、王太子殿下は侍従に指示して渋々私にもプレゼントを持ってきた。
どう見ても男物のブレスレット。かつて自分が受け取ったプレゼントを、横流ししてきたのだろう。「ありがとうございます」と言いながら、どうしてこんなものに感謝しなくちゃいけないのか考える。
私が寄生虫だからだよね。
寄生したくてしてるわけじゃない。聖女として認められて王宮に住むことになったマリーローズが、「アンナローズと一緒じゃなきゃ行かない」と大泣きしてハンガーストライキして駄々をこねたから、一緒に来ただけだ。自然豊かで穏やかで大好きな伯爵領を離れて。私は自分から何かを欲しがったことはない。何ひとつ我が儘など言ってないのに。
なのにマリーローズとお揃いのドレスも、王太子殿下がくれたブレスレットも、いつの間にか、何故か私が無理やりねだったかのようになってしまう。
私はただ、疲れていた。姉が輝きを増すごとに、私は暗く深く沈んでいくようだった。私を沈めて呼吸を奪って、マリーローズは何がしたいのだろう。
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