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夏休みは避暑地で温泉
カズン、暑気あたり
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そして翌朝。
カズンはなぜか、布団から起き上がれなかった。
「まああ、あたくしの可愛いショコラちゃんったら。旅行ではしゃぎすぎてお熱出すなんて!」
「うう……それもあるかもですが、昨晩あの光の輪が出てから魔力が不安定で……」
以前のように突き刺すような片頭痛ではなかったが、頭蓋骨の中身を揺らされているようなグラグラする頭痛が朝から止まらなかった。
午後になるとだいぶ良くなっていたが、さすがに身体を激しく動かす訓練や、外出は認められなかった。
実際、自室の布団の中で横たわりながら、適当に持ってきていた本を眺めているのが精々だった。
「カズン様、調子を崩されたそうですが大丈夫ですか」
領地に戻っていたヨシュアが到着し、すぐカズンの元までやって来てくれた。
「うん……まだちょっと頭が痛い」
「ポーションもあまり効かなかったと伺いました」
何本か飲まされたが、多少気分が良くなる程度で、本来の効果はなかったといっていい。
(あの光の輪のこと、はっきり判明するまではヨシュアにも内緒にしてろって、お父様たちは言ってたけど)
ヨシュアは国内でも屈指の、魔力使いに習熟したリースト伯爵家の当主だ。
案外彼に相談したら詳しいことを知っていそうなものだが、まだ内緒ねと両親が言うなら従っておくべきなのだろう。
それからまた夕方まで部屋で休んでいた。
ヨシュアが起こしに来た頃には、寝汗をかいて寝巻きを着替えたくなった。
長湯しなければ大丈夫だろうとのことで、温泉で汗を流すことに。
「ああ、吹き出物と汗疹ってこれですか。まだちょっと残ってますね」
一緒に入浴して背中を流してくれながら、ヨシュアの指先が患部をそっとなぞる。
「ヨシュアは……何もなさそうだな」
振り返って見たヨシュアの白い裸体に、赤い発疹などの類いは見当たらない。
「我が家は魔石が沢山ありますから。家にいるときは氷の魔石で部屋を冷やしていたので、体調はすこぶる快調でした」
「いいなあ。僕の家にも欲しい」
「カズン様の場合、魔石にチャージする魔力量がネックですよねえ」
クーラーのような冷房用の魔導具もあるが、動力源はやはり魔石に込める魔力だ。
この言い方だと、カズンの魔力値では足りないのだろう。
魔導具は利用する本人の魔力を使うのが基本である。
「おや、入っていたのか」
身体や髪を洗った後で温泉に浸かっていると、ヴァシレウスが浴場に入ってきた。
先ほどまで庭で護衛たち相手に組み手をしてかいた汗を流しに来たようだ。
軽く全身の汗や汚れを流してから、カズンたちが浸かっていた湯に入ってくる。
石造りの温泉はざっと十人以上入れるほど大きかったが、それでも2メートル近い巨躯のヴァシレウスがざばっと入ってくると一気にカサが増した。
ふう、と適温の湯で身体が解れていく心地よさに溜め息をついている。
首筋から肩、胸元へと湯が流れていく肌は血色も良く、とても九十代後半とは思えないほど良い色つやだった。
男盛りはとっくに過ぎている年代のはずだが、見たところ全身の筋肉などにも衰えはない。
「そういえばお前たち、ユーグレンも入れて三人で仲良くやってるそうだな」
不意打ちのように訊かれて、二人揃って顔を見合わせた。
「うん。何かぼくの派閥があったみたいなんですけど、別に無くなっても困りませんよね?」
貴族間にあった王弟カズン派閥のことだ。
「ふうむ。お前がユーグレンを押し退けて国王になりたいなら、後援派閥は便利だぞ?」
「! 要らない! 王様とか僕には無理です、ユーグレンのほうが絶対に向いてます!」
「……そうか」
お湯に浸かりながら、ヴァシレウスが少しだけ残念そうな顔になったのに目敏くヨシュアが気づいた。
さらにそんなヨシュアに気づいたヴァシレウスが、こっそりヨシュアにウインクを投げて寄越した。『言うなよ?』ということのようだ。
「まあ、若いうちにいろいろ経験しておくのは良いことだ」
それで背中を流し合いっこしたりしながら、三人で温泉を堪能していたわけだ。
その後、軽い夕食を取った後でまた頭痛がぶり返してきたカズンは部屋に逆戻りだ。
「うう、目が回るうう……」
「困ったわねえ。明日にはもう帰るっていうのに」
鑑定スキルで簡単にステータスを確認しても、表示されているのは暑気中りと軽度の皮膚疾患だけなので、医者を呼び寄せるほどではなかった。
セシリアだけでなくヴァシレウスも少し難しい顔になって腕を組んでいる。
「カズン、もう少しだけこの地で養生していなさい。ヨシュア、世話を頼めるか?」
「問題ありません。喜んでお世話させていただきます」
何やら勝手に周囲が決めていってしまっている。
「お父様たち、僕を置いて行かないでください……」
この一週間ずっと一緒にいた両親と離れるのが寂しい。
昨晩は久し振りに一緒に寝たこともあり、父と母が恋しかった。
「あらあら、あたくしの可愛いショコラちゃんが甘えん坊さんになってるわあ。でもいい機会だから、ちゃあんとお肌しっかり治しなさいな。すべすべお肌に戻るまで帰ってきちゃダメよ?」
カズンの訴えもむなしく、残留決定となった。
「ここに残るなら、叔父もご一緒すれば良かったですね」
「ん? ルシウスも一緒だったのか?」
「ええ、何でも王都でやることがあるそうで、オレと別の馬車で途中まで。陛下やヴァシレウス様たちへの挨拶は王都でするそうです」
「あやつ、口煩いが居れば便利だからなあ」
ヨシュアの叔父は、これまでは前リースト伯爵の急死で混乱していた領地の統制を行なってくれていた人物だ。
そんな混乱も数ヶ月経ってひと段落ついて、一度王都で情報収集や社交などに動きたいと言って今回領地を出てきたのだ。
該当するスキルがステータスに表示されないにも関わらず、大抵のことをこなしてしまう人物で、面倒見が良いから、ここに来ていたら喜んでヨシュアごとカズンの世話を焼いてくれたことだろう。
「ルシウス君、相変わらずなのかしらねえ」
「うう……とりあえず顔を合わせたら、第一声は『夏休みの宿題やったか!?』でしょうね……そうか……今王都に戻らなくて良かったかもしれない……」
会えば会ったで嬉しい人物なのだが、如何せん話が長い。一度捕まると本人の気が済むまで解放されることはない。
彼にまつわる逸話は数多く、説教魔神のエピソードとしては、本人から『帰さないぞ』『今夜は寝かせない』などと言われてお色気展開を期待した者が、文字通り一晩中ご教示賜って一睡もできなかった、などというものがある。
被害者は多数。それでも多数の信奉者がいるあたり、リースト伯爵家の男子だなあという感想を貴族社会では持たれている。
「今ごろ王都に着いて知り合いを誘って飲みに出てるでしょうね。ふふ、オレたちが戻った頃にカズン様たちにも挨拶に来ると思いますよ」
「……あたまいたい。もうなにもかんがえられない」
カズンは考えるのを放棄して頭から布団に潜り込んだ。
ちなみに避暑地に来てから遊びと温泉が楽しすぎて、まだほとんど夏休みの宿題に手をつけていないカズンなのだった。
カズンはなぜか、布団から起き上がれなかった。
「まああ、あたくしの可愛いショコラちゃんったら。旅行ではしゃぎすぎてお熱出すなんて!」
「うう……それもあるかもですが、昨晩あの光の輪が出てから魔力が不安定で……」
以前のように突き刺すような片頭痛ではなかったが、頭蓋骨の中身を揺らされているようなグラグラする頭痛が朝から止まらなかった。
午後になるとだいぶ良くなっていたが、さすがに身体を激しく動かす訓練や、外出は認められなかった。
実際、自室の布団の中で横たわりながら、適当に持ってきていた本を眺めているのが精々だった。
「カズン様、調子を崩されたそうですが大丈夫ですか」
領地に戻っていたヨシュアが到着し、すぐカズンの元までやって来てくれた。
「うん……まだちょっと頭が痛い」
「ポーションもあまり効かなかったと伺いました」
何本か飲まされたが、多少気分が良くなる程度で、本来の効果はなかったといっていい。
(あの光の輪のこと、はっきり判明するまではヨシュアにも内緒にしてろって、お父様たちは言ってたけど)
ヨシュアは国内でも屈指の、魔力使いに習熟したリースト伯爵家の当主だ。
案外彼に相談したら詳しいことを知っていそうなものだが、まだ内緒ねと両親が言うなら従っておくべきなのだろう。
それからまた夕方まで部屋で休んでいた。
ヨシュアが起こしに来た頃には、寝汗をかいて寝巻きを着替えたくなった。
長湯しなければ大丈夫だろうとのことで、温泉で汗を流すことに。
「ああ、吹き出物と汗疹ってこれですか。まだちょっと残ってますね」
一緒に入浴して背中を流してくれながら、ヨシュアの指先が患部をそっとなぞる。
「ヨシュアは……何もなさそうだな」
振り返って見たヨシュアの白い裸体に、赤い発疹などの類いは見当たらない。
「我が家は魔石が沢山ありますから。家にいるときは氷の魔石で部屋を冷やしていたので、体調はすこぶる快調でした」
「いいなあ。僕の家にも欲しい」
「カズン様の場合、魔石にチャージする魔力量がネックですよねえ」
クーラーのような冷房用の魔導具もあるが、動力源はやはり魔石に込める魔力だ。
この言い方だと、カズンの魔力値では足りないのだろう。
魔導具は利用する本人の魔力を使うのが基本である。
「おや、入っていたのか」
身体や髪を洗った後で温泉に浸かっていると、ヴァシレウスが浴場に入ってきた。
先ほどまで庭で護衛たち相手に組み手をしてかいた汗を流しに来たようだ。
軽く全身の汗や汚れを流してから、カズンたちが浸かっていた湯に入ってくる。
石造りの温泉はざっと十人以上入れるほど大きかったが、それでも2メートル近い巨躯のヴァシレウスがざばっと入ってくると一気にカサが増した。
ふう、と適温の湯で身体が解れていく心地よさに溜め息をついている。
首筋から肩、胸元へと湯が流れていく肌は血色も良く、とても九十代後半とは思えないほど良い色つやだった。
男盛りはとっくに過ぎている年代のはずだが、見たところ全身の筋肉などにも衰えはない。
「そういえばお前たち、ユーグレンも入れて三人で仲良くやってるそうだな」
不意打ちのように訊かれて、二人揃って顔を見合わせた。
「うん。何かぼくの派閥があったみたいなんですけど、別に無くなっても困りませんよね?」
貴族間にあった王弟カズン派閥のことだ。
「ふうむ。お前がユーグレンを押し退けて国王になりたいなら、後援派閥は便利だぞ?」
「! 要らない! 王様とか僕には無理です、ユーグレンのほうが絶対に向いてます!」
「……そうか」
お湯に浸かりながら、ヴァシレウスが少しだけ残念そうな顔になったのに目敏くヨシュアが気づいた。
さらにそんなヨシュアに気づいたヴァシレウスが、こっそりヨシュアにウインクを投げて寄越した。『言うなよ?』ということのようだ。
「まあ、若いうちにいろいろ経験しておくのは良いことだ」
それで背中を流し合いっこしたりしながら、三人で温泉を堪能していたわけだ。
その後、軽い夕食を取った後でまた頭痛がぶり返してきたカズンは部屋に逆戻りだ。
「うう、目が回るうう……」
「困ったわねえ。明日にはもう帰るっていうのに」
鑑定スキルで簡単にステータスを確認しても、表示されているのは暑気中りと軽度の皮膚疾患だけなので、医者を呼び寄せるほどではなかった。
セシリアだけでなくヴァシレウスも少し難しい顔になって腕を組んでいる。
「カズン、もう少しだけこの地で養生していなさい。ヨシュア、世話を頼めるか?」
「問題ありません。喜んでお世話させていただきます」
何やら勝手に周囲が決めていってしまっている。
「お父様たち、僕を置いて行かないでください……」
この一週間ずっと一緒にいた両親と離れるのが寂しい。
昨晩は久し振りに一緒に寝たこともあり、父と母が恋しかった。
「あらあら、あたくしの可愛いショコラちゃんが甘えん坊さんになってるわあ。でもいい機会だから、ちゃあんとお肌しっかり治しなさいな。すべすべお肌に戻るまで帰ってきちゃダメよ?」
カズンの訴えもむなしく、残留決定となった。
「ここに残るなら、叔父もご一緒すれば良かったですね」
「ん? ルシウスも一緒だったのか?」
「ええ、何でも王都でやることがあるそうで、オレと別の馬車で途中まで。陛下やヴァシレウス様たちへの挨拶は王都でするそうです」
「あやつ、口煩いが居れば便利だからなあ」
ヨシュアの叔父は、これまでは前リースト伯爵の急死で混乱していた領地の統制を行なってくれていた人物だ。
そんな混乱も数ヶ月経ってひと段落ついて、一度王都で情報収集や社交などに動きたいと言って今回領地を出てきたのだ。
該当するスキルがステータスに表示されないにも関わらず、大抵のことをこなしてしまう人物で、面倒見が良いから、ここに来ていたら喜んでヨシュアごとカズンの世話を焼いてくれたことだろう。
「ルシウス君、相変わらずなのかしらねえ」
「うう……とりあえず顔を合わせたら、第一声は『夏休みの宿題やったか!?』でしょうね……そうか……今王都に戻らなくて良かったかもしれない……」
会えば会ったで嬉しい人物なのだが、如何せん話が長い。一度捕まると本人の気が済むまで解放されることはない。
彼にまつわる逸話は数多く、説教魔神のエピソードとしては、本人から『帰さないぞ』『今夜は寝かせない』などと言われてお色気展開を期待した者が、文字通り一晩中ご教示賜って一睡もできなかった、などというものがある。
被害者は多数。それでも多数の信奉者がいるあたり、リースト伯爵家の男子だなあという感想を貴族社会では持たれている。
「今ごろ王都に着いて知り合いを誘って飲みに出てるでしょうね。ふふ、オレたちが戻った頃にカズン様たちにも挨拶に来ると思いますよ」
「……あたまいたい。もうなにもかんがえられない」
カズンは考えるのを放棄して頭から布団に潜り込んだ。
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