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夏休みは避暑地で温泉
ヨシュアとユーグレン、語り合う
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昼間はまったく平気だが、夜になるとカズンは両親がいないことに寂しそうな様子を見せる。
それなりに昼間、身体を動かしたり、夜の入浴は温泉を熱めにして入らせてたりして体力を使わせれば、寂しいと自覚する間もなくすぐ入眠する。
今日も示し合わせたように、ヨシュアとユーグレンはカズンと遊んだ。別荘の敷地内だけでなく、山や集落の商店街や施設なども色々まわってみたりなどして。
その甲斐あって、夜、カズンは布団に入るなり爆睡だ。
「学園を卒業したら、国王の名代で国内各地に視察に出ることも増えるだろう。早めに親離れさせねばなるまい」
「ふふ。同じ王族で同い年のユーグレン殿下は、親離れはいつ頃されたのですか?」
カズンが寝てしまっても、カズンの様子を見ながら体力をセーブしていたヨシュアとユーグレンはまだ眠るには少し物足りなかった。
それで台所の冷蔵魔導庫から麦茶をそれぞれグラスで貰ってきてベランダ側の庭を眺められる座卓の前に座り、声を潜めながら、色々他愛ない話をしていた。
「私は結構早かったな。6歳頃までにはしていたと思う。きっかけも覚えているぞ」
「どんな?」
「母に、一番は誰かと聞いたら間髪入れずに父の名を出されてショックを受けたんだ。お前は二番目だと言われたっけ。父にも聞いたら、困ったように一番は母だと言われて、でも私は二番目に大事だからと宥められたんだ」
「そ、それは……まあ、何と言いますか……」
あの剛毅な王太女らしい発言である。
「それで半泣きで離宮のカズンの元に駆け込んだのさ。『カズ君の一番は誰!?』と聞きに」
「へえ……」
何やらヨシュアの声音が不穏である。
「それ、カズン様に自分が一番だと言わせに行ったんですか?」
「まあ、そう怒るなヨシュア。6歳の子供のすることだ。安易な期待を抱いて離宮に行ってみれば、何と言われたと思う?」
「さあ、どうだったのですか?」
当時を思い出し、苦笑しながらユーグレンは明かすことにした。
「『一番はお父様とお母様だよ』だと。そうしたら後から部屋にやってきたヴァシレウス様とセシリア様が……」
思わずといったようにユーグレンが思い出し笑いをした。
「まず、セシリア様が『あたくしもカズンと旦那様がいちばーん!』と言い、ヴァシレウス様も『カズンとセシリアが一番だな』と」
「同列一位ですか、それはそれは」
さてそれで、ユーグレンはカズンの中で一番になれたのかどうか。
『ぼくの一番はねえ。お父様でしょ。お母様も。ばあやも一番。お兄ちゃまと……うん、ユーちゃんも一番!』
「つまり、自分の“好き”はすべて一番だという認識だったわけだ。それを聞いて、何かが吹っ切れたのさ」
と、そのとき。
「んん……みそ、らーめん……」
カズンの寝言だった。
ヨシュアと揃って思わず吹き出してしまった。
「お前は本当に色気より食い気だな、カズンよ」
ユーグレンがカズンの布団に近寄って覗き込むが、起きた気配はない。
指先で鼻をつまんでやると、ぷふぁーと口から寝息をたててむずがったので、すぐ離してやった。カズンが起きる様子はやはりない。
「仕方ないんですよ、カズン様は魔力値が低いから。食べ物で魔力を回復するのが一番手っ取り早いですもの」
「そういえば、カズンが好む料理は美味いものが多いよな。ここに来てから初めて食べた焼きおにぎり、あれは私も気に入った」
「出来立ての新鮮で温かい料理は、魔力を増やしますしね。中でも焼きたてのパンや炊き立てのご飯などは格別です」
アケロニア王国で、作り置きする料理が浸透しない理由がこれだ。
魔力持ちの多い民族だから、生活習慣全体が魔力を維持し養う方向に調整されている。
魔力は生命力の一種でもあるから、上は王族から下は庶民まで、新鮮で良質の食事を好む国民性である。
そのためせいぜい、前日の夜の残り物を翌日の朝に温め直して食べるぐらいで、昼や夜まで持ち越すことは滅多にない。
残り物はまだ食べられるうちに、近くに教会や貧民のための救済院があればそちらへ、なければスラムの特定の場所に施しに行くという文化が根付いている。
「カズン様、味噌味のラーメンスープの調理実験がしたいそうなんです。でも、この別荘への滞在もそろそろ切り上げたいですよね……」
カズンの身体に出た吹き出物や汗疹の類も、もうほとんど薄い跡を残すのみになっている。
ヨシュアもユーグレンも、王都や領地からこなさねばならない書類などが日々別荘まで届くようになってきている。
「そうだな。月が変わる前には私も戻りたい。君は?」
「オレはまだカズン様の護衛の任を解かれてないので、どこまでもカズン様と一緒です」
「私も君たちと一緒にいたいが……」
多分、ユーグレンが強く望めば、母も父もこのまま避暑地に居続けても問題ないと思われる。
後から仕事は増えるだろうが、今回も学生時代最後の夏休みだからと目こぼしされているのだ。
「ふふ。望みを叶えるためには、思惑通りになるようちゃんと計画するものですよ、殿下」
優美な美貌に相変わらず騙されがちなユーグレンだったが、この頃にはさすがに、ヨシュアがなかなかの策略家であることに気づいている。
彼がカズンの側にいることに、並々ならぬ情熱を注いでいることにも。
だからこそ、必要と判断した敵対派閥の御輿だったユーグレンとも懇意になったほどで。
「それだ。なあ、ヨシュア。私たちはもう友人同士……なのだよな?」
「ええ、一応」
なぜか『お前が邪魔だけどな』と副音声が聞こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。
「なら、もう殿下の敬称は必要ない。名前だけで呼んでくれないか」
「……ユーグレン様、とお呼びしても?」
「ああ! 今後はずっとそう呼んでくれると嬉しい」
(言えたー! ようやく言えた! だってカズンはカズン様なのに、私だけ殿下呼びは距離があるようで悲しかったから!)
内心浮かれるユーグレン。
これでもっとヨシュアと親しくなれたらいいなと思う。
それなりに昼間、身体を動かしたり、夜の入浴は温泉を熱めにして入らせてたりして体力を使わせれば、寂しいと自覚する間もなくすぐ入眠する。
今日も示し合わせたように、ヨシュアとユーグレンはカズンと遊んだ。別荘の敷地内だけでなく、山や集落の商店街や施設なども色々まわってみたりなどして。
その甲斐あって、夜、カズンは布団に入るなり爆睡だ。
「学園を卒業したら、国王の名代で国内各地に視察に出ることも増えるだろう。早めに親離れさせねばなるまい」
「ふふ。同じ王族で同い年のユーグレン殿下は、親離れはいつ頃されたのですか?」
カズンが寝てしまっても、カズンの様子を見ながら体力をセーブしていたヨシュアとユーグレンはまだ眠るには少し物足りなかった。
それで台所の冷蔵魔導庫から麦茶をそれぞれグラスで貰ってきてベランダ側の庭を眺められる座卓の前に座り、声を潜めながら、色々他愛ない話をしていた。
「私は結構早かったな。6歳頃までにはしていたと思う。きっかけも覚えているぞ」
「どんな?」
「母に、一番は誰かと聞いたら間髪入れずに父の名を出されてショックを受けたんだ。お前は二番目だと言われたっけ。父にも聞いたら、困ったように一番は母だと言われて、でも私は二番目に大事だからと宥められたんだ」
「そ、それは……まあ、何と言いますか……」
あの剛毅な王太女らしい発言である。
「それで半泣きで離宮のカズンの元に駆け込んだのさ。『カズ君の一番は誰!?』と聞きに」
「へえ……」
何やらヨシュアの声音が不穏である。
「それ、カズン様に自分が一番だと言わせに行ったんですか?」
「まあ、そう怒るなヨシュア。6歳の子供のすることだ。安易な期待を抱いて離宮に行ってみれば、何と言われたと思う?」
「さあ、どうだったのですか?」
当時を思い出し、苦笑しながらユーグレンは明かすことにした。
「『一番はお父様とお母様だよ』だと。そうしたら後から部屋にやってきたヴァシレウス様とセシリア様が……」
思わずといったようにユーグレンが思い出し笑いをした。
「まず、セシリア様が『あたくしもカズンと旦那様がいちばーん!』と言い、ヴァシレウス様も『カズンとセシリアが一番だな』と」
「同列一位ですか、それはそれは」
さてそれで、ユーグレンはカズンの中で一番になれたのかどうか。
『ぼくの一番はねえ。お父様でしょ。お母様も。ばあやも一番。お兄ちゃまと……うん、ユーちゃんも一番!』
「つまり、自分の“好き”はすべて一番だという認識だったわけだ。それを聞いて、何かが吹っ切れたのさ」
と、そのとき。
「んん……みそ、らーめん……」
カズンの寝言だった。
ヨシュアと揃って思わず吹き出してしまった。
「お前は本当に色気より食い気だな、カズンよ」
ユーグレンがカズンの布団に近寄って覗き込むが、起きた気配はない。
指先で鼻をつまんでやると、ぷふぁーと口から寝息をたててむずがったので、すぐ離してやった。カズンが起きる様子はやはりない。
「仕方ないんですよ、カズン様は魔力値が低いから。食べ物で魔力を回復するのが一番手っ取り早いですもの」
「そういえば、カズンが好む料理は美味いものが多いよな。ここに来てから初めて食べた焼きおにぎり、あれは私も気に入った」
「出来立ての新鮮で温かい料理は、魔力を増やしますしね。中でも焼きたてのパンや炊き立てのご飯などは格別です」
アケロニア王国で、作り置きする料理が浸透しない理由がこれだ。
魔力持ちの多い民族だから、生活習慣全体が魔力を維持し養う方向に調整されている。
魔力は生命力の一種でもあるから、上は王族から下は庶民まで、新鮮で良質の食事を好む国民性である。
そのためせいぜい、前日の夜の残り物を翌日の朝に温め直して食べるぐらいで、昼や夜まで持ち越すことは滅多にない。
残り物はまだ食べられるうちに、近くに教会や貧民のための救済院があればそちらへ、なければスラムの特定の場所に施しに行くという文化が根付いている。
「カズン様、味噌味のラーメンスープの調理実験がしたいそうなんです。でも、この別荘への滞在もそろそろ切り上げたいですよね……」
カズンの身体に出た吹き出物や汗疹の類も、もうほとんど薄い跡を残すのみになっている。
ヨシュアもユーグレンも、王都や領地からこなさねばならない書類などが日々別荘まで届くようになってきている。
「そうだな。月が変わる前には私も戻りたい。君は?」
「オレはまだカズン様の護衛の任を解かれてないので、どこまでもカズン様と一緒です」
「私も君たちと一緒にいたいが……」
多分、ユーグレンが強く望めば、母も父もこのまま避暑地に居続けても問題ないと思われる。
後から仕事は増えるだろうが、今回も学生時代最後の夏休みだからと目こぼしされているのだ。
「ふふ。望みを叶えるためには、思惑通りになるようちゃんと計画するものですよ、殿下」
優美な美貌に相変わらず騙されがちなユーグレンだったが、この頃にはさすがに、ヨシュアがなかなかの策略家であることに気づいている。
彼がカズンの側にいることに、並々ならぬ情熱を注いでいることにも。
だからこそ、必要と判断した敵対派閥の御輿だったユーグレンとも懇意になったほどで。
「それだ。なあ、ヨシュア。私たちはもう友人同士……なのだよな?」
「ええ、一応」
なぜか『お前が邪魔だけどな』と副音声が聞こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。
「なら、もう殿下の敬称は必要ない。名前だけで呼んでくれないか」
「……ユーグレン様、とお呼びしても?」
「ああ! 今後はずっとそう呼んでくれると嬉しい」
(言えたー! ようやく言えた! だってカズンはカズン様なのに、私だけ殿下呼びは距離があるようで悲しかったから!)
内心浮かれるユーグレン。
これでもっとヨシュアと親しくなれたらいいなと思う。
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