王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

文字の大きさ
115 / 172
夏休みは避暑地で温泉

ヨシュアとユーグレン、語り合う

しおりを挟む
 昼間はまったく平気だが、夜になるとカズンは両親がいないことに寂しそうな様子を見せる。

 それなりに昼間、身体を動かしたり、夜の入浴は温泉を熱めにして入らせてたりして体力を使わせれば、寂しいと自覚する間もなくすぐ入眠する。

 今日も示し合わせたように、ヨシュアとユーグレンはカズンと遊んだ。別荘の敷地内だけでなく、山や集落の商店街や施設なども色々まわってみたりなどして。
 その甲斐あって、夜、カズンは布団に入るなり爆睡だ。

「学園を卒業したら、国王の名代で国内各地に視察に出ることも増えるだろう。早めに親離れさせねばなるまい」
「ふふ。同じ王族で同い年のユーグレン殿下は、親離れはいつ頃されたのですか?」

 カズンが寝てしまっても、カズンの様子を見ながら体力をセーブしていたヨシュアとユーグレンはまだ眠るには少し物足りなかった。

 それで台所の冷蔵魔導庫から麦茶をそれぞれグラスで貰ってきてベランダ側の庭を眺められる座卓の前に座り、声を潜めながら、色々他愛ない話をしていた。

「私は結構早かったな。6歳頃までにはしていたと思う。きっかけも覚えているぞ」
「どんな?」
「母に、一番は誰かと聞いたら間髪入れずに父の名を出されてショックを受けたんだ。お前は二番目だと言われたっけ。父にも聞いたら、困ったように一番は母だと言われて、でも私は二番目に大事だからと宥められたんだ」
「そ、それは……まあ、何と言いますか……」

 あの剛毅な王太女らしい発言である。

「それで半泣きで離宮のカズンの元に駆け込んだのさ。『カズ君の一番は誰!?』と聞きに」
「へえ……」

 何やらヨシュアの声音が不穏である。

「それ、カズン様に自分が一番だと言わせに行ったんですか?」
「まあ、そう怒るなヨシュア。6歳の子供のすることだ。安易な期待を抱いて離宮に行ってみれば、何と言われたと思う?」
「さあ、どうだったのですか?」

 当時を思い出し、苦笑しながらユーグレンは明かすことにした。

「『一番はお父様とお母様だよ』だと。そうしたら後から部屋にやってきたヴァシレウス様とセシリア様が……」

 思わずといったようにユーグレンが思い出し笑いをした。

「まず、セシリア様が『あたくしもカズンと旦那様がいちばーん!』と言い、ヴァシレウス様も『カズンとセシリアが一番だな』と」
「同列一位ですか、それはそれは」

 さてそれで、ユーグレンはカズンの中で一番になれたのかどうか。

『ぼくの一番はねえ。お父様でしょ。お母様も。ばあやも一番。お兄ちゃまと……うん、ユーちゃんも一番!』

「つまり、自分の“好き”はすべて一番だという認識だったわけだ。それを聞いて、何かが吹っ切れたのさ」



 と、そのとき。

「んん……みそ、らーめん……」

 カズンの寝言だった。
 ヨシュアと揃って思わず吹き出してしまった。

「お前は本当に色気より食い気だな、カズンよ」

 ユーグレンがカズンの布団に近寄って覗き込むが、起きた気配はない。
 指先で鼻をつまんでやると、ぷふぁーと口から寝息をたててむずがったので、すぐ離してやった。カズンが起きる様子はやはりない。

「仕方ないんですよ、カズン様は魔力値が低いから。食べ物で魔力を回復するのが一番手っ取り早いですもの」
「そういえば、カズンが好む料理は美味いものが多いよな。ここに来てから初めて食べた焼きおにぎり、あれは私も気に入った」
「出来立ての新鮮で温かい料理は、魔力を増やしますしね。中でも焼きたてのパンや炊き立てのご飯などは格別です」

 アケロニア王国で、作り置きする料理が浸透しない理由がこれだ。

 魔力持ちの多い民族だから、生活習慣全体が魔力を維持し養う方向に調整されている。
 魔力は生命力の一種でもあるから、上は王族から下は庶民まで、新鮮で良質の食事を好む国民性である。

 そのためせいぜい、前日の夜の残り物を翌日の朝に温め直して食べるぐらいで、昼や夜まで持ち越すことは滅多にない。
 残り物はまだ食べられるうちに、近くに教会や貧民のための救済院があればそちらへ、なければスラムの特定の場所に施しに行くという文化が根付いている。



「カズン様、味噌味のラーメンスープの調理実験がしたいそうなんです。でも、この別荘への滞在もそろそろ切り上げたいですよね……」

 カズンの身体に出た吹き出物や汗疹の類も、もうほとんど薄い跡を残すのみになっている。
 ヨシュアもユーグレンも、王都や領地からこなさねばならない書類などが日々別荘まで届くようになってきている。

「そうだな。月が変わる前には私も戻りたい。君は?」
「オレはまだカズン様の護衛の任を解かれてないので、どこまでもカズン様と一緒です」
「私も君たちと一緒にいたいが……」

 多分、ユーグレンが強く望めば、母も父もこのまま避暑地に居続けても問題ないと思われる。
 後から仕事は増えるだろうが、今回も学生時代最後の夏休みだからと目こぼしされているのだ。

「ふふ。望みを叶えるためには、思惑通りになるようちゃんと計画するものですよ、殿下」

 優美な美貌に相変わらず騙されがちなユーグレンだったが、この頃にはさすがに、ヨシュアがなかなかの策略家であることに気づいている。
 彼がカズンの側にいることに、並々ならぬ情熱を注いでいることにも。

 だからこそ、必要と判断した敵対派閥の御輿だったユーグレンとも懇意になったほどで。

「それだ。なあ、ヨシュア。私たちはもう友人同士……なのだよな?」
「ええ、一応」

 なぜか『お前が邪魔だけどな』と副音声が聞こえた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

「なら、もう殿下の敬称は必要ない。名前だけで呼んでくれないか」
「……ユーグレン様、とお呼びしても?」
「ああ! 今後はずっとそう呼んでくれると嬉しい」

(言えたー! ようやく言えた! だってカズンはカズン様なのに、私だけ殿下呼びは距離があるようで悲しかったから!)

 内心浮かれるユーグレン。
 これでもっとヨシュアと親しくなれたらいいなと思う。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

処理中です...