126 / 172
この国には魔王がいる〜リースト子爵ルシウス
side イマージ・ロット~ラーフ公爵夫人ゾエ
しおりを挟む
※あたおかにご注意ください
--
その後、夏休み前半中にある程度の生活費を稼いだイマージは、残りの夏休み期間中は宿題に取り掛かりたいからと言ってアルバイトを辞めた。
パーラーの支配人は学園の卒業生だ。後輩に当たるイマージの事情に理解を示し、途中での退職を快く認めてくれた。
それだけでなく、「少しは若者らしく遊びなさい」と小遣いまでくれたのだから、ありがたい。
イマージが故郷で親戚の老人から譲り受けた先祖伝来の品のひとつに、便利なものがあった。
同じ紋章の入った魔導具を持つ者を探索する、方位磁石に似た魔導具だ。
それを使ってイマージは逃走中だというラーフ公爵夫人を探すことにした。
ロットハーナの邪法を使っているというなら、何かしら紋章の入った魔導具を持っている可能性が高いだろうと考えたのだ。
馬車でまずはホーライル侯爵領まで。
路銀は心許なかったが幸い夏だ。装備さえ整えれば野宿もそう難しくない。
途中の街の冒険者ギルドで冒険者登録をして、簡単な依頼をこなして資金を確保しながら数日かけて目的地へと辿り着いた。
ホーライル侯爵領は港のある海に面した領地として知られているが、辺境伯としてのホーライル侯爵の治める地でもある。
海とは反対方向には山脈があり、山を越えれば隣国への道がある。
イマージは探索の魔導具を起動させた。
反応がある。間違いなくこの地にラーフ公爵夫人はいる。
突然前触れもなくやってきた灰色の髪にペールブルーの瞳の青年を、逃走中のやつれなどまるでないラーフ公爵夫人ゾエは微笑みながら出迎えた。
アルカイックスマイルを浮かべた淑女は、罪など知らぬというような典型的な貴種の見た目の貴婦人だった。
顔を合わせた瞬間、互いに血の繋がりがあることはすぐにわかった。
公爵夫人もイマージと同じ髪色と目の色なのだ。
即ち、灰色の髪とペールブルーの瞳を持っていた。
「お前がロットハーナの末裔ですか。証拠はあるのでしょうね」
「はい、奥様。先祖から受け継いだ魔導具がいくつか。こちらをどうぞ」
と一番わかりやすい、ロットハーナの紋章入りのブローチを献上した。
ブローチの宝玉部分は透明な魔法樹脂だ。魔力を通せば何らかの魔法が発動されるはずだが、起動に必要な魔力量が大きすぎて、イマージの一族の者は誰も術の発動も解術もできていなかったものだ。
公爵夫人の魔力でも不可能なようで、ブローチはイマージに返された。
「間違いないようですね」
それから執事が茶の準備をして、ゾエ夫人と話をした。
彼女はまず、フォーセット侯爵令嬢だった婚前の過去をイマージに語った。
元々は、現在王太女の伴侶となったクロレオは彼女の婚約者だったという。
今の夫、ラーフ公爵が本来の王太女の婚約者だったのだ。
王太女がクロレオに横恋慕して奪い、結果として互いの婚約者を交換した形になる。
少なくともゾエ夫人はそう思っている。
「あの頃から、わたくしは王家が大嫌い」
王家の血筋だと判明したトークス子爵令嬢イザベラと息子の婚約を王家から打診されたが、とんでもないことだった。
かつての償いのつもりなのだろうか。
しかも、イザベラはゾエからクロレオを奪った憎き王太女グレイシアとよく似た顔立ちだった。
「とことん、この子を潰してやろうって思ったの」
うっそりと笑うゾエ夫人は、それでも貴族的で美しかった。
どうやって人々を黄金に変えたのか、とイマージは訊ねた。
するとゾエ夫人は、実家に伝わる魔導具を使うと対象者の魔力を削ぎ無力化できることをイマージに教える。
彼女が使っていたのは、イマージが持っているものと同じ隕鉄製の、こちらは短剣だった。
実家から連れてきた、愛人でもある忠実な執事に実験を繰り返させてデータを集めてきた。
結果わかったのは、伝承にある通りロットハーナの血筋の者なら人間を黄金に変える錬金術が使える。
ただし、既に血は薄くなっているため、魔導具が必要であると。
ロットハーナ伝来の魔導具は、まず武器で相手に攻撃しながら魔石部分に触れる。
その後、ロットハーナの血筋の者が自分の魔力を流すと、相手に虚無という属性の魔力を作用させて抵抗を削げる。
そのまま魔導具を相手に触れさせ魔力を流し続けると、黄金錬成の出来上がりだった。
短剣を突き刺された相手は黄金へと姿を変える。
その量は相手の魔力量が多ければ多いほど、大量の金となる。
「だからターゲットとなる人間は魔力があればあるほど良いのね。……ふふ。試しに、ダンジョンで普通の冒険者相手に魔導具を使わせてみたのだけど、砂金ほどの黄金にしかならなかったわ。これだから平民は駄目ね」
魔力量の多い貴族だと、そこそこの量になったそうだ。
ゾエ夫人は当初、婚家のラーフ公爵家を出奔した後、まず実家のフォーセット侯爵家へ一度戻っている。
だがゾエ以外の実家の両親や兄弟は誰一人、自分たちがロットハーナの末裔であることを知らなかった。
そのため、ゾエがロットハーナの邪法を使うことを当然のように非難してきた。
「だから、お父様もお母様も。お兄様たちもみぃんな、黄金に変えてしまったわ。ふふ、やり過ぎてしまったかしら」
黄金に変えた家族はそのままこの別荘まで持ち込んでいるという。
「本当なら、イザベラ。あの娘もジオライドと結婚させた後、程々のところで黄金に変えるつもりだったのよ? そうしたら行方不明扱いにして、また一年も経ったらジオライドに別の良い令嬢を当てがおうかなあって」
--
その後、夏休み前半中にある程度の生活費を稼いだイマージは、残りの夏休み期間中は宿題に取り掛かりたいからと言ってアルバイトを辞めた。
パーラーの支配人は学園の卒業生だ。後輩に当たるイマージの事情に理解を示し、途中での退職を快く認めてくれた。
それだけでなく、「少しは若者らしく遊びなさい」と小遣いまでくれたのだから、ありがたい。
イマージが故郷で親戚の老人から譲り受けた先祖伝来の品のひとつに、便利なものがあった。
同じ紋章の入った魔導具を持つ者を探索する、方位磁石に似た魔導具だ。
それを使ってイマージは逃走中だというラーフ公爵夫人を探すことにした。
ロットハーナの邪法を使っているというなら、何かしら紋章の入った魔導具を持っている可能性が高いだろうと考えたのだ。
馬車でまずはホーライル侯爵領まで。
路銀は心許なかったが幸い夏だ。装備さえ整えれば野宿もそう難しくない。
途中の街の冒険者ギルドで冒険者登録をして、簡単な依頼をこなして資金を確保しながら数日かけて目的地へと辿り着いた。
ホーライル侯爵領は港のある海に面した領地として知られているが、辺境伯としてのホーライル侯爵の治める地でもある。
海とは反対方向には山脈があり、山を越えれば隣国への道がある。
イマージは探索の魔導具を起動させた。
反応がある。間違いなくこの地にラーフ公爵夫人はいる。
突然前触れもなくやってきた灰色の髪にペールブルーの瞳の青年を、逃走中のやつれなどまるでないラーフ公爵夫人ゾエは微笑みながら出迎えた。
アルカイックスマイルを浮かべた淑女は、罪など知らぬというような典型的な貴種の見た目の貴婦人だった。
顔を合わせた瞬間、互いに血の繋がりがあることはすぐにわかった。
公爵夫人もイマージと同じ髪色と目の色なのだ。
即ち、灰色の髪とペールブルーの瞳を持っていた。
「お前がロットハーナの末裔ですか。証拠はあるのでしょうね」
「はい、奥様。先祖から受け継いだ魔導具がいくつか。こちらをどうぞ」
と一番わかりやすい、ロットハーナの紋章入りのブローチを献上した。
ブローチの宝玉部分は透明な魔法樹脂だ。魔力を通せば何らかの魔法が発動されるはずだが、起動に必要な魔力量が大きすぎて、イマージの一族の者は誰も術の発動も解術もできていなかったものだ。
公爵夫人の魔力でも不可能なようで、ブローチはイマージに返された。
「間違いないようですね」
それから執事が茶の準備をして、ゾエ夫人と話をした。
彼女はまず、フォーセット侯爵令嬢だった婚前の過去をイマージに語った。
元々は、現在王太女の伴侶となったクロレオは彼女の婚約者だったという。
今の夫、ラーフ公爵が本来の王太女の婚約者だったのだ。
王太女がクロレオに横恋慕して奪い、結果として互いの婚約者を交換した形になる。
少なくともゾエ夫人はそう思っている。
「あの頃から、わたくしは王家が大嫌い」
王家の血筋だと判明したトークス子爵令嬢イザベラと息子の婚約を王家から打診されたが、とんでもないことだった。
かつての償いのつもりなのだろうか。
しかも、イザベラはゾエからクロレオを奪った憎き王太女グレイシアとよく似た顔立ちだった。
「とことん、この子を潰してやろうって思ったの」
うっそりと笑うゾエ夫人は、それでも貴族的で美しかった。
どうやって人々を黄金に変えたのか、とイマージは訊ねた。
するとゾエ夫人は、実家に伝わる魔導具を使うと対象者の魔力を削ぎ無力化できることをイマージに教える。
彼女が使っていたのは、イマージが持っているものと同じ隕鉄製の、こちらは短剣だった。
実家から連れてきた、愛人でもある忠実な執事に実験を繰り返させてデータを集めてきた。
結果わかったのは、伝承にある通りロットハーナの血筋の者なら人間を黄金に変える錬金術が使える。
ただし、既に血は薄くなっているため、魔導具が必要であると。
ロットハーナ伝来の魔導具は、まず武器で相手に攻撃しながら魔石部分に触れる。
その後、ロットハーナの血筋の者が自分の魔力を流すと、相手に虚無という属性の魔力を作用させて抵抗を削げる。
そのまま魔導具を相手に触れさせ魔力を流し続けると、黄金錬成の出来上がりだった。
短剣を突き刺された相手は黄金へと姿を変える。
その量は相手の魔力量が多ければ多いほど、大量の金となる。
「だからターゲットとなる人間は魔力があればあるほど良いのね。……ふふ。試しに、ダンジョンで普通の冒険者相手に魔導具を使わせてみたのだけど、砂金ほどの黄金にしかならなかったわ。これだから平民は駄目ね」
魔力量の多い貴族だと、そこそこの量になったそうだ。
ゾエ夫人は当初、婚家のラーフ公爵家を出奔した後、まず実家のフォーセット侯爵家へ一度戻っている。
だがゾエ以外の実家の両親や兄弟は誰一人、自分たちがロットハーナの末裔であることを知らなかった。
そのため、ゾエがロットハーナの邪法を使うことを当然のように非難してきた。
「だから、お父様もお母様も。お兄様たちもみぃんな、黄金に変えてしまったわ。ふふ、やり過ぎてしまったかしら」
黄金に変えた家族はそのままこの別荘まで持ち込んでいるという。
「本当なら、イザベラ。あの娘もジオライドと結婚させた後、程々のところで黄金に変えるつもりだったのよ? そうしたら行方不明扱いにして、また一年も経ったらジオライドに別の良い令嬢を当てがおうかなあって」
9
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる