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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す
ゲンジ、若かりし頃の進路変更
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「坊主。俺が書いた異世界の報告書、そんなに分量は多くないよ? これ以上書けって言われても困っちゃうんだけどどうしよう?」
ゲンジがまとめた地球世界、日本の説明はノートに一冊分ぐらいの内容になった。
清書する際に補足を付け加えるとしても、二、三割増えるかどうかというところだろう。
「あとは兄さんに確認してもらって、補足や修正が必要なところをやっておしまいかな」
トントン、とゲンジが書いた紙の束をまとめながら、
「でもビックリしたなあ。この世界だと庶民でここまでレポート書ける人は多くないよ。元の世界じゃ相当、高度な教育受けてたでしょ」
その辺はヴァシレウス大王の末っ子男子も似た感じだったそうで、探るように訊かれてしまった。
「俺は……そうだね、この国で坊主の最終学歴にあたる学園高等部より、一段階上の教育機関を卒業してるんだ」
いわゆる大学で4年間学び、卒業している。
「えっ!? それだと上級教育じゃない? 何で料理人になったの?」
もしかして元の世界で料理人とはよほど社会的ランクの高い職業なのか?
「まあ雇われとはいえ、高級店のメインシェフを任されてたからね。それなりかな。……卒業した後で調理師学校に入り直したんだ」
「へえ~」
「俺の時代は学園闘争ってのがあってね。生徒も教員たちも荒れてて、官僚になる未来に希望が持てなくてさ」
ふんふん、と興味深そうにルシウスが頷きながら続きを促してきた。
「最終学年のとき、何か手に職が付く仕事がいいなって思って」
「それで料理人?」
「そう。当時、仲の良かった同級生の親父さんが良い店に連れてってくれてね。そこでたまたま、当時の大臣とお連れさんたちと店で一緒になったんだ」
いわゆる一見さんお断りの高級料亭だった。
「お互い違う座敷……まあ個室で食事してたんだけど、便所に立ったとき議員さんと少し話をしたんだ。自分は大学生で官僚を目指してたけど進路に迷ってる。今から何か手に職が付く仕事はないか調べてるんだって」
すると、その議員は「ここみたいな料亭の料理人も良いぞ」と教えてくれたのだという。
「ええ~? 上級教育受けてる学生にそのアドバイスって無責任じゃない?」
「そうとも言いきれないんだ。その後くれたアドバイスが本当に値千金でねえ」
まず、ジャンルは絶対、日本食がいい。
「ニホンショクって、オヤジさん専門のワショクだよね」
「うん。何でかっていうと、政治家や財界の人間も若いうちはバターだのクリームだのの洋食が好きでも、年取ってくると脂っ気のない素朴な飯しか食えなくなってくるからって。今どきは外人の中でもヘルシーな日本食がブームになってるって教えてくれて」
他には要人が利用する高級店を勧められた。
例えばランチなら客単価2万以上、ディナーなら5万以上の店に絞れと。
「そんなこと言われても、ただの学生の俺には伝手も何もないしさ。って思ってたらその場で店の女将、マダムのとこに連れてかれてさ。『このガキんちょ、料理人目指すらしいから世話してやってよ』って紹介してくれて、あとはずーっとその店でバイト三昧。修行も系列店で世話になってって感じ」
「なるほどねえ~」
ちなみにその議員は後に首相になった。国民にはなかなか人気のあった内閣だったように記憶している。
「現役時代はずっと雇われで、自分の店を持てなかったんだけどね。早めに引退して小さくても自分の店を持てたときは嬉しかったよねえ……」
国道沿いで埼玉に近い、店舗付きの中古住宅を買ってリフォームして。
元々、近所に飲食できる店が少ない地域だったことから、客は少なくても昼の弁当の注文数が多く、案外やっていけたものだった。
開店してしばらく経つと、大学の元同級生や、雇われ板長時代の客たちが噂を聞きつけて通ってくれるようになった。
運が良かったのは、その国道沿いにゴルフの練習場があったことだ。財界人となった元同級生がゴルフ仲間と練習場でひと汗流した後に必ず飲みに来てくれて、そこから常連さんの数が広がっていった。
「……帰りたい? ニホンに」
「そうだね。でももう、あれから20年近く経ってるんだ。孫も無事産まれてたら坊主ぐらいの歳なんだよね」
この世界でゲンジは加齢がゆっくりで、本当ならもう足腰も弱っておかしくない歳なのにまだまだ元気だった。
毎年、元の世界だったら孫は何歳と数えていたので、ココ村支部にいたとき同い年のルシウスを見て、ついつい会えないままの孫を重ねてしまったゲンジだった。
(俺の孫じゃ坊主ほど見た目が良くはないだろうけどさ。でもまあ、うん……)
再会できてからは孫や息子夫婦のことを思い出す暇もないくらい、いろいろあった。
とても楽しかったが、そろそろ次へ行かなければ。
--
ゲンジ君は現代恋愛の「アラサー女子、人情頼りでブラック上司から逃げきります!」に出てくる小料理屋の店主です。
あちらの世界から転移してきてしまったのだ……
(この作品は先日、第5回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞貰いました。人的ほっこり枠はゲンジ君~🥰)
ゲンジがまとめた地球世界、日本の説明はノートに一冊分ぐらいの内容になった。
清書する際に補足を付け加えるとしても、二、三割増えるかどうかというところだろう。
「あとは兄さんに確認してもらって、補足や修正が必要なところをやっておしまいかな」
トントン、とゲンジが書いた紙の束をまとめながら、
「でもビックリしたなあ。この世界だと庶民でここまでレポート書ける人は多くないよ。元の世界じゃ相当、高度な教育受けてたでしょ」
その辺はヴァシレウス大王の末っ子男子も似た感じだったそうで、探るように訊かれてしまった。
「俺は……そうだね、この国で坊主の最終学歴にあたる学園高等部より、一段階上の教育機関を卒業してるんだ」
いわゆる大学で4年間学び、卒業している。
「えっ!? それだと上級教育じゃない? 何で料理人になったの?」
もしかして元の世界で料理人とはよほど社会的ランクの高い職業なのか?
「まあ雇われとはいえ、高級店のメインシェフを任されてたからね。それなりかな。……卒業した後で調理師学校に入り直したんだ」
「へえ~」
「俺の時代は学園闘争ってのがあってね。生徒も教員たちも荒れてて、官僚になる未来に希望が持てなくてさ」
ふんふん、と興味深そうにルシウスが頷きながら続きを促してきた。
「最終学年のとき、何か手に職が付く仕事がいいなって思って」
「それで料理人?」
「そう。当時、仲の良かった同級生の親父さんが良い店に連れてってくれてね。そこでたまたま、当時の大臣とお連れさんたちと店で一緒になったんだ」
いわゆる一見さんお断りの高級料亭だった。
「お互い違う座敷……まあ個室で食事してたんだけど、便所に立ったとき議員さんと少し話をしたんだ。自分は大学生で官僚を目指してたけど進路に迷ってる。今から何か手に職が付く仕事はないか調べてるんだって」
すると、その議員は「ここみたいな料亭の料理人も良いぞ」と教えてくれたのだという。
「ええ~? 上級教育受けてる学生にそのアドバイスって無責任じゃない?」
「そうとも言いきれないんだ。その後くれたアドバイスが本当に値千金でねえ」
まず、ジャンルは絶対、日本食がいい。
「ニホンショクって、オヤジさん専門のワショクだよね」
「うん。何でかっていうと、政治家や財界の人間も若いうちはバターだのクリームだのの洋食が好きでも、年取ってくると脂っ気のない素朴な飯しか食えなくなってくるからって。今どきは外人の中でもヘルシーな日本食がブームになってるって教えてくれて」
他には要人が利用する高級店を勧められた。
例えばランチなら客単価2万以上、ディナーなら5万以上の店に絞れと。
「そんなこと言われても、ただの学生の俺には伝手も何もないしさ。って思ってたらその場で店の女将、マダムのとこに連れてかれてさ。『このガキんちょ、料理人目指すらしいから世話してやってよ』って紹介してくれて、あとはずーっとその店でバイト三昧。修行も系列店で世話になってって感じ」
「なるほどねえ~」
ちなみにその議員は後に首相になった。国民にはなかなか人気のあった内閣だったように記憶している。
「現役時代はずっと雇われで、自分の店を持てなかったんだけどね。早めに引退して小さくても自分の店を持てたときは嬉しかったよねえ……」
国道沿いで埼玉に近い、店舗付きの中古住宅を買ってリフォームして。
元々、近所に飲食できる店が少ない地域だったことから、客は少なくても昼の弁当の注文数が多く、案外やっていけたものだった。
開店してしばらく経つと、大学の元同級生や、雇われ板長時代の客たちが噂を聞きつけて通ってくれるようになった。
運が良かったのは、その国道沿いにゴルフの練習場があったことだ。財界人となった元同級生がゴルフ仲間と練習場でひと汗流した後に必ず飲みに来てくれて、そこから常連さんの数が広がっていった。
「……帰りたい? ニホンに」
「そうだね。でももう、あれから20年近く経ってるんだ。孫も無事産まれてたら坊主ぐらいの歳なんだよね」
この世界でゲンジは加齢がゆっくりで、本当ならもう足腰も弱っておかしくない歳なのにまだまだ元気だった。
毎年、元の世界だったら孫は何歳と数えていたので、ココ村支部にいたとき同い年のルシウスを見て、ついつい会えないままの孫を重ねてしまったゲンジだった。
(俺の孫じゃ坊主ほど見た目が良くはないだろうけどさ。でもまあ、うん……)
再会できてからは孫や息子夫婦のことを思い出す暇もないくらい、いろいろあった。
とても楽しかったが、そろそろ次へ行かなければ。
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ゲンジ君は現代恋愛の「アラサー女子、人情頼りでブラック上司から逃げきります!」に出てくる小料理屋の店主です。
あちらの世界から転移してきてしまったのだ……
(この作品は先日、第5回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞貰いました。人的ほっこり枠はゲンジ君~🥰)
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