196 / 217
【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔
食堂で受けた嫌がらせ
しおりを挟む
グロリオーサ侯爵家の次男オネストが元夫人の不貞の子だとの噂は、入学初日から新入生たちの間を駆け巡ったようだ。
(どうせまた、親戚の子たちが吹聴したんだろう)
彼らはオネストのグロリオーサ侯爵家の分家出身の子息たちだ。
中等部までは地方にいたが、高等部では王都に出てきてこの王立学園に入学している。
(今までは親戚の集まりでしか顔を合わせなかったから楽だったけど。学園でもクラスが違うからって安心してたのに)
オネストは廊下を歩いていて突き刺さる視線や、コソコソとした小さな話し声に溜め息をついた。
元々、オネストのことはグロリオーサ侯爵家内でも腫れ物のような扱いだった。
何せ産まれたときから不貞の子との噂付き。
噂を父親のユーゴス宰相が放置していることから、オネストは幼い頃からずっと、一族の子息たちから差別やいじめを受け続けてきた。
(でも、それも学園を卒業するまでだ)
今はまだ未成年だから、侯爵令息の自分は家の保護下にいるしかない。
だがこのアケロニア王国では学園を卒業する十八歳になれば成人と認められる。
そうなったら自分の意思でグロリオーサ侯爵家から籍を抜いて実家を出て、父や兄とは縁を切るつもりでいる。
(そのためには就職活動に有利になるよう成績優秀でいないと)
王宮の官僚や職員になるつもりはなかった。
何せ父親が現役宰相なので、どの部署に配属されても上司になってしまう。
他の貴族家の家令など使用人も駄目だ。できたら貴族社会ではなく、各種ギルドや民間の商会への就職がいい。
そんな計画を立てていたオネストの目論見は、入学翌日から早くも暗雲が立ち込めた。
昼休みに食堂へ行くと、例の親戚の子息たち数名が既にいて、オネストを見つけるとニヤニヤと気持ちの悪い顔つきでこちらを見ている。
しかも何か厨房スタッフに向けて、オネストを示して何か指示を出しているようだ。
嫌な予感がする。
そしてその予感は的中した。
注文した定食は、なぜか湯気が立っていない。
この時点で声を上げて厨房に突き返せば良かったのだが、後悔先に立たず。
今朝もオネストは家で食事がなかったので空腹だった。学園での昼食代は学費に含まれているから、ほとんど小遣いが手に入らないオネストにはとても助かる場所だった。
そのせいで危機回避が疎かになってしまった。
「………………」
出てきた昼食はとても食べられるような代物ではなかった。
すべて冷めているし、腐った食材や汚されたパン、スープ。味のない豚肉。
(まさか、厨房のスタッフにこれを出すよう指示したのか? 仮にも誉れ高き宰相家のグロリオーサ侯爵家の係累が?)
ちら、と少し離れたテーブル席に固まっている親戚たちを見ると、やはりニヤニヤと笑ってオネストを見ていた。
無言のまま、次に厨房の方をみた。
ほとんどのスタッフは昼時で忙しく動いていたが、カウンター側に立ってトレーやナイフフォークなどを配膳する若い男性スタッフが、これまたニヤニヤとオネストを見ている。
なるほど、あの男が親戚たちとグルなわけだ。顔を覚えておこう、とオネストは思った。
(彼が親戚の子たちにぼくのことを何と聞かされて、こんな真似をするよう言われたかは想像がつく。でも、こんな愚かなこと、断って、やらない選択もできただろうに)
あの顔つきでは、むしろ嬉々としてやっていると見た。
腹は減っていた。
その上、朝食も食べていなかったが、こんな汚物を食べるぐらいなら死んだほうがマシだ。
親戚たちが食堂を出るのを待とうと思っていると、彼ら、四人の分家子息たちが自分たちの食事済みのトレーを持ってきて、オネストの食器の上に投げつけるように置いてきた。
ガチャ、ガチャと大きな音が立ったがもう昼休み終わりが近く食堂ないに利用者の姿は少なかった。皆、気になって一瞬だけこちらを見たがそれだけだ。
びちゃ、と皿に残っていたソースやスープがオネストの制服のジャケットに跳ねる。
「片付けありがとうございますゥ。ご本家様」
「「「いつもありがとうございまーす!」」」
(そう、〝いつも〟だね。君たちは親族の集まりでも、いつも僕に茶会などの後始末を押し付けていたっけ)
彼らが食堂から出て行ったことを確認してから、オネストは押し付けられた食器とトレーを慎重に重ねて、まとめて食堂の食器返却所へ返した。
返却所付近にいた食堂スタッフが、汁気がぐちゃぐちゃに飛んだ重ねられた食器やトレーを受け取る。
トレーの中の惨状に嫌な顔をされたが、特に文句は言われずに済んだ。下げ物などすぐ洗えば関係ないからだろう。
「入学翌日からこんなんじゃ……」
食堂を出て、汁で汚れたジャケットを洗えそうな水道場を探して呟いた。
「こんな目に遭うなら。ぼくなんて、産まなければよかったんだ」
顔も知らない母親に毒づいた。
オネストの学園生活はこうして暗く始まったのである。
(どうせまた、親戚の子たちが吹聴したんだろう)
彼らはオネストのグロリオーサ侯爵家の分家出身の子息たちだ。
中等部までは地方にいたが、高等部では王都に出てきてこの王立学園に入学している。
(今までは親戚の集まりでしか顔を合わせなかったから楽だったけど。学園でもクラスが違うからって安心してたのに)
オネストは廊下を歩いていて突き刺さる視線や、コソコソとした小さな話し声に溜め息をついた。
元々、オネストのことはグロリオーサ侯爵家内でも腫れ物のような扱いだった。
何せ産まれたときから不貞の子との噂付き。
噂を父親のユーゴス宰相が放置していることから、オネストは幼い頃からずっと、一族の子息たちから差別やいじめを受け続けてきた。
(でも、それも学園を卒業するまでだ)
今はまだ未成年だから、侯爵令息の自分は家の保護下にいるしかない。
だがこのアケロニア王国では学園を卒業する十八歳になれば成人と認められる。
そうなったら自分の意思でグロリオーサ侯爵家から籍を抜いて実家を出て、父や兄とは縁を切るつもりでいる。
(そのためには就職活動に有利になるよう成績優秀でいないと)
王宮の官僚や職員になるつもりはなかった。
何せ父親が現役宰相なので、どの部署に配属されても上司になってしまう。
他の貴族家の家令など使用人も駄目だ。できたら貴族社会ではなく、各種ギルドや民間の商会への就職がいい。
そんな計画を立てていたオネストの目論見は、入学翌日から早くも暗雲が立ち込めた。
昼休みに食堂へ行くと、例の親戚の子息たち数名が既にいて、オネストを見つけるとニヤニヤと気持ちの悪い顔つきでこちらを見ている。
しかも何か厨房スタッフに向けて、オネストを示して何か指示を出しているようだ。
嫌な予感がする。
そしてその予感は的中した。
注文した定食は、なぜか湯気が立っていない。
この時点で声を上げて厨房に突き返せば良かったのだが、後悔先に立たず。
今朝もオネストは家で食事がなかったので空腹だった。学園での昼食代は学費に含まれているから、ほとんど小遣いが手に入らないオネストにはとても助かる場所だった。
そのせいで危機回避が疎かになってしまった。
「………………」
出てきた昼食はとても食べられるような代物ではなかった。
すべて冷めているし、腐った食材や汚されたパン、スープ。味のない豚肉。
(まさか、厨房のスタッフにこれを出すよう指示したのか? 仮にも誉れ高き宰相家のグロリオーサ侯爵家の係累が?)
ちら、と少し離れたテーブル席に固まっている親戚たちを見ると、やはりニヤニヤと笑ってオネストを見ていた。
無言のまま、次に厨房の方をみた。
ほとんどのスタッフは昼時で忙しく動いていたが、カウンター側に立ってトレーやナイフフォークなどを配膳する若い男性スタッフが、これまたニヤニヤとオネストを見ている。
なるほど、あの男が親戚たちとグルなわけだ。顔を覚えておこう、とオネストは思った。
(彼が親戚の子たちにぼくのことを何と聞かされて、こんな真似をするよう言われたかは想像がつく。でも、こんな愚かなこと、断って、やらない選択もできただろうに)
あの顔つきでは、むしろ嬉々としてやっていると見た。
腹は減っていた。
その上、朝食も食べていなかったが、こんな汚物を食べるぐらいなら死んだほうがマシだ。
親戚たちが食堂を出るのを待とうと思っていると、彼ら、四人の分家子息たちが自分たちの食事済みのトレーを持ってきて、オネストの食器の上に投げつけるように置いてきた。
ガチャ、ガチャと大きな音が立ったがもう昼休み終わりが近く食堂ないに利用者の姿は少なかった。皆、気になって一瞬だけこちらを見たがそれだけだ。
びちゃ、と皿に残っていたソースやスープがオネストの制服のジャケットに跳ねる。
「片付けありがとうございますゥ。ご本家様」
「「「いつもありがとうございまーす!」」」
(そう、〝いつも〟だね。君たちは親族の集まりでも、いつも僕に茶会などの後始末を押し付けていたっけ)
彼らが食堂から出て行ったことを確認してから、オネストは押し付けられた食器とトレーを慎重に重ねて、まとめて食堂の食器返却所へ返した。
返却所付近にいた食堂スタッフが、汁気がぐちゃぐちゃに飛んだ重ねられた食器やトレーを受け取る。
トレーの中の惨状に嫌な顔をされたが、特に文句は言われずに済んだ。下げ物などすぐ洗えば関係ないからだろう。
「入学翌日からこんなんじゃ……」
食堂を出て、汁で汚れたジャケットを洗えそうな水道場を探して呟いた。
「こんな目に遭うなら。ぼくなんて、産まなければよかったんだ」
顔も知らない母親に毒づいた。
オネストの学園生活はこうして暗く始まったのである。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる