裏・聖女投稿(「王弟カズンの冒険前夜」続編)

真義あさひ

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ユーグレン究極の選択

ユーグレン、ただ一つの〝欠け〟(終)

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  * * *



「う、うう……っ。ど、どちらを選んでも結局破局ではないですか!」
「ぷぅ(やーいやーい、ざまぁみろなのだー)」

 夢見から現実に戻ってくるなり、ユーグレンは男泣きに泣いた。
 そんなユーグレンを生意気ウパルパはぷぅぷぅ笑っている。

 カーナ姫が困ったようにピアディをたしなめる。

「ピアディ……おかしな設定はやめなさい。ユーグレン王太子が可哀想だろう?」
「ぷぅ(バレてしまったのだ)」

 反省するように短い両前足で頭を抱えていたが、チラッとユーグレンを見る青い目はまったく、これっぽっちも反省の色がない。

「!? で、では今までの夢見は別に確定した未来ではないのですね!? 良かった!」
「……そうだね。多分ね」

 言葉を濁したカーナ姫だが、それだけ聞ければ今は充分だった。

「ぷぅ(でももうわれ託宣したのだ。おまえの未来はおおざっぱにどちらかなのだ)」

 言うだけ言って、とんでもウパルパはよちよちとテーブルの上を移動し兄嫁カーナ姫の腕からよじよじとよじ登って、胸に抱かれてそのまま眠ってしまった。
 まだ幼いピアディには夜更かしはまだ無理だったようだ。

「なんだ、魔力切れではなくただ眠かっただけか」
「連続して三回も夢見を行えるだけすごいよ。この子は将来大物になるだろうね」

 神人二人が優しげに、ぷぅぷぅ寝息をたて始めたピアディの背中を指先で撫でている。

 その光景をぼんやりと見つめながら、ユーグレンは呟いた。

「何という、究極の選択……」

 愛を得るか、それともアケロニア王国の次期国王として国の繁栄を享受するか。
 ユーグレンにはどちらかしか選べない。

「わたし……私は……」



 その後、どうやって海上神殿から戻って来たのか、ユーグレンには記憶がない。
 気づくと古書店二階の自分の部屋にいて、机の前に座っていた。

 大剣の鍛錬とペン、それぞれでできた胼胝たこで分厚くなった手のひらを、ぎゅっと握り締めた。
 ペンだこのほうは国を出奔して以降、実務で書類仕事からも離れていたから以前より薄くなってきている。

「き、記録……夢見の体験を記録しておかねば」

 すぐに気を取り直して、手帳を取り出してペンを走らせた。
 ピアディの託宣も、夢見の中で見聞きしたり体験した出来事も、今後のユーグレンやアケロニア王国に深く関わる出来事だ。
 同じ出来事が起こるにせよ、起こらぬにせよ、国王に即位した後のユーグレンの行動指針の役に立つことは間違いない。



 一通り夢見の記録を書き終えた後で、ユーグレンはその日の夜のうちに故郷アケロニア王国の母親、女王に手紙を書いた。

 神人ピアディとのやりとりの詳細は伏せて、託宣を賜ったことと、その内容の半分だけを報告する形で。


『今帰国すれば私が即位しても国勢は平凡で終わるそうです。カーナ神国が落ち着くまでこの国と彼らに尽くせば、その報いとして私の在位期間中、国は繁栄するとのこと』


「……まあ、嘘は書いてない」

 さすがにこの手紙の内容なら、母女王ももう無理にすぐ帰国しろとうるさく言ってはこないだろう。

 封筒に入れ、真紅の封蝋にシーリングスタンプを押した。明日、トオンに頼んで配達の手配をしてもらおう。

 もう夕飯も階下の食堂で皆で済ませ、順番にシャワーも浴びた後だった。まだ眠るにはいつもより少し早い時刻だったが、ベッドに転がり目を瞑る。
 隣の部屋はカズンだが気配がない。ピアディを海上神殿に連れて行く前の時点でまだ食堂にいたから、今頃は厨房で明日の朝食の仕込みでもしているのだろう。

「愛が……欲しいな」



 ユーグレン・アケロニア。

 大国アケロニア王国の王太子の彼は、黒髪黒目に端正な顔立ちと恵まれた体格を持ち、『全方向に優秀な王太子』と呼ばれるほど万能な男だった。
 その評価はのちに国王に即位しても変わらなかった。

 ただしそんな彼にも、たったひとつだけ人生に〝欠け〟がある。

 求めた愛だけは、何をどう手を尽くしても生涯決して、望んだ形で手に入ることはなかったと後世に伝わる。

 ただし、それを裏付ける資料が現存しないことから、後の歴史家たちや劇作家、小説家たちの空想力を刺激する格好の題材となる。

 そうして喜劇から悲劇まで様々に語られる王として、賢人王ユーグレンの名は円環大陸の歴史に残った。








※ここまでで一区切り、ご覧いただきありがとうございました!
以降、聖女投稿の裏側で進行してる三人+αの話を時々更新して参ります。ちなみに彼らはこのままでは終わりません……

こっちの話もあちらにまとめて良さそうな気もしますが……一応BLなのでしばらく隔離でw
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