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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界

バッドエンドへの岐路~竜殺しのお試し

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 聖杯を持ったエスティアを庇うように男たちが先に洞窟を出た。
 黒い羽毛で全身覆われた竜は入口近くでエスティアたちを待ち受けるように低く唸っている。

「うえ、デカい。これ三階建ての建物より……下手すると五階建てくらいサイズあるぞ!? オレが昔倒したやつの倍以上大きいし……綿毛竜コットンドラゴンは魔法も使えるのにどうしよう!?」

 自称〝竜殺し〟の魔法剣士様のお言葉である。
 しかし何ひとつ安心できる要素がない。むしろ不安が倍増した。

 ところが、一定の距離を保ったまま黒竜は唸るばかりで近づいて来ない。

「エスティア。あんたの持ってる聖杯に反応してるみたいね」
「確かに。瘴気の影響も薄まってるみたい」

 聖杯からは白い光が放たれている。柔らかく、暖かくも涼しくも感じる魔力だった。
 聖杯から聖なる魔力が放たれたことで、黒竜を覆う瘴気も薄まってきている。

「これなら今のオレでも……!」
「あっ、ヨシュアさん!?」

 ヨシュアが飴玉状の魔力ポーションを口に放り込み、そのままグレーのローブを脱ぎ捨てて黒竜に向かって走り出した。
 速い! ローブの下は旅人とは思えない真っ白な軍服だった。ネイビーのラインとミスラル銀の装飾が残像のように見えるほど速かった。

 走りながら魔力で透明な魔法剣を次々創り出しては黒竜に切っ先を向けて飛ばしていく。

 最後に一振りの細身の剣を両手で握りしめて黒竜近くの大樹の幹を駆け上がったかと思えば、大きく跳躍した。

「竜を倒すのは二度目だ。〝竜殺し〟の称号持ちは伊達じゃないって証明しないとね」

 不敵に笑って魔法剣を大きく振り下ろした。

 そこからの光景はあっという間だった。
 ヨシュアの持つ魔法剣がするりとバターに差し込まれたナイフのように黒竜の脳天に吸い込まれていく。
 抵抗などないかのように、するっとだ。

 そのはずだった。

 だが、真っ黒に染まった羽竜の、もふっと密集した羽毛が魔法剣の勢いを削いでしまって、羽毛の下のドラゴンの肉体まで届かない。
 突き刺さっていたはずの数多の透明な魔法剣も、黒竜がブルっと身を震わせるなり地面に落ちていった。

綿毛竜コットンドラゴンがこんなに凶悪になるなんて。……よほど辛い目に遭ったんだね)

 斬りつけることを諦めたヨシュアが、黒竜の背後に飛び乗った。ちょうど翼の根元付近だ。
 羽竜は翼の付け根が弱点と言われている。

 そこで黒竜が雄叫びを上げた。背に着地していたヨシュアは猛烈な瘴気を浴び、感電するように動きが止まった。

「うぐ……きっつう。………………あれ?」

 ビリビリと青銀の髪や産毛まで逆立つ中、暴れる黒竜の鳴き声に混ざって聞こえてくる声なき声があった。

『ギャース!(おなかへった!)』

「え? 『お腹減った?』」

 しかも聞こえてくる声は子供っぽい幼い声だ。

「ヨシュア殿。まさか黒竜の意思がわかるのですか!?」

 ヒューレットが驚愕している。

「え、君たちにはこの〝声〟は聴こえてないの?」

 そのようだ。他のメンバーにも聞こえている様子はない。


 おなかへった

 くもつがない!

 うそつき!

 これだからにんげんは

 おいしいごはん!

 くだもの! くさ! くだもの! くさ! きのみも!


「……って言ってるけど」
「おい、そいつの瘴気を祓う方法を聞いてくれ!」

 テレンスが下から怒鳴ってきたので聞いてみたが、いまいち要領を得ない。

「うーん。意思の疎通が取れないなあ。瘴気のせいなんだろうけど。とりあえず、攻撃してみたら?」

 二属性魔力を込めた剣や短剣はここに来るまでにエスティアたちに渡してある。

「え、でも。ヨシュアさん」

 黒竜の背に乗った麗しの魔法剣士は、自分も瘴気を帯びて青銀の髪を逆立てていたが、どういうわけか落ち着いて見える。

 けれど、その薄水色の瞳はエスティアたちを見定めるような、試すような色をのせていた。
 少なくともエスティアにはそう見えた。

(この人の目、不思議だわ。虹彩の中に銀色の花が咲いてる。前世だったらアースアイって呼ばれる模様よね)

 プリズム王国でも稀にこのような瞳を持つ者はいる。
 大抵は特殊な魔法の術式を肉体に刻み込んでいる者たちだ。

(怖い。ここで選択を間違えたら、危険なルートに行ってしまいそう)

 なぜか、ものすごい強いプレッシャーの圧力を感じた。
 何が正しい選択になるだろうか?
 黒竜は瘴気をまとって暴れているが、『お腹が減った』と言っているらしい。
 ヨシュアは攻撃しろと言っているが、黒竜の背に彼がいるので下手な攻撃をすれば彼に当たってしまう。

 エスティアたちの持つ属性魔法もだ。
 今いる山頂部から黒竜を崖方面に誘導して落とすのは可能だろうが、羽竜は背中に翼があるので飛んで逃げてしまいかねない。

 一対の翼を切り落とすことができれば機動力は大きく削ぎ落とせる。
 セドリックの土の魔力で岩や土を動かして足止めし、カーティスやサンドローザ王女の火の魔力で生み出す猛火をエスティアとテレンス親子の風の魔力で増大させ、ヒューレットの水の魔力の幻影を使いつつ翻弄していく。
 そんな手順が浮かんだ。だが。



「待って。意思のある魔物なら傷つけてしまうのは可哀想。やはり基本に忠実に、聖杯を使いましょう」

 だからそれまで黒竜を抑えてほしいとヨシュアに頼むと、満足そうな顔で「任せて」と頷かれた。

 直後、それまでエスティアにかかっていたプレッシャーが消失した。

(えっ。私、息を詰めてた? 圧力が消えた。……圧力?)

 そのプレッシャーを与えていたのが黒竜ではなく背にいるヨシュアのほうだと悟って、エスティアはぞぞっと鳥肌が立つのを感じた。
 本人は麗しく笑っていたが、なぜだかその微笑みに背筋が冷えるような感覚を覚えた。

(私、正しい選択をしたみたい)

 間違えていたらバッドエンド一直線だった。そんな感覚があった。







※つまりこの男、お助けキャラではなく……
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